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日経新聞連載記事:
(1)人民元の国際化 世界中に決済拠点
中国の金融制度改革で、最近もっとも動きが目立つのが人民元の国際化だ。その役割を担うのは中国の国有銀行。6月に中国建設銀行にロンドンでの決済業務を認め、7月には交通銀行のソウル支店でも解禁するなど、世界中に元の決済拠点を広げ始めた。
これまで中国人民銀行(中央銀行)はオフショア市場での元の取引を香港に集中させてきた。例えば韓国の銀行が中国に元を送金する際も、いったん香港を経由する必要があった。今後はソウルなどから直接中国に送れるようになる。企業にとって送金手数料の軽減などの利点がある。
中国は2009年に上海市などで元建ての貿易決済を試行し、元の国際化に着手した。08年のリーマン・ショックの教訓を踏まえ、ドルに依存しない経済の仕組みをつくるのが目的だった。さらに11年には元建て貿易を中国全土で認めるなど決済通貨としての元の利便性を高め、ドル離れを促してきた。
中国では元の国際的な地位の向上に自信を持つ声が強まっている。中国人民大学国際通貨研究所のト永紅副所長らは元の国際化の水準を独自の方法で試算し、「2〜3年で日本円と英ポンドを追い抜く」と予想する。
ただ足元の元の実態は円と比べても、外貨との交換や送金で多くの規制に縛られている。新華社は最近の決済拠点の拡大を解説する記事のなかで「元が世界の三大通貨になるのは簡単ではない」(国家情報センター世界経済研究室の張茉楠副研究員)という慎重な見方を紹介している。
(編集委員 吉田忠則)
[日経新聞7月28日朝刊P.19]
(2)金利の自由化 新金融政策を左右
中国人民銀行(中央銀行)の周小川総裁は10日、米中戦略・経済対話の一環で北京で開かれた記者会見で「(金利の自由化は)2年以内に実現できる」と語った。3月にも同様のことを話した。
なぜ金利の自由化を急ぐのか。経済学に「国際金融のトリレンマ」という考え方がある。為替の固定相場と海外から独立した金融政策、自由な資本移動の3つを同時に実現できないことを指す。
中国は為替相場が自由に動かないように管理している。資本移動も厳しく制限している。だが昨年、輸出代金に見せかけて投機資金が流入して問題になったように、規制の網をくぐって資本が移動し始めている。
現状のような行政指導で銀行融資量を管理する金融政策は、国境を挟んで投機マネーが動くようになると効きにくい。そこで新たに金利を使った金融政策が課題になる。
中国ではすでに銀行間市場の金利や貸出金利は自由化されており、残る課題は預金金利の上限規制。肝心なのはそれも撤廃して金利が柔軟に動けるようにした後で、どんな手法を使って金融政策を実施するかだ。
この点について周氏は会見で「短期と中期の調節手段で金利を誘導する準備を進めている」として、新たな金融政策の手法を公表することを示唆した。SMBC日興証券の肖敏捷エコノミストは「経済の要の金融で、計画経済から市場経済への移行が本格化する」と話す。
国際金融のトリレンマの観点からは、金融政策の独立性を保つために、次は人民元相場の見直しが課題として浮上する。
(編集委員 吉田忠則)
[日経新聞7月29日朝刊P.25]
(3) 元の変動幅拡大 管理前提に弾力化
中国人民銀行(中央銀行)は3月、人民元の対ドルの変動幅を、同行が毎朝発表する基準値の上下1%から2%に広げた。相場の弾力性は高まったが、必ずしも欧米や日本のような自由な為替相場の実現に向けて進んでいるわけではない。
なぜ変動幅を広げたのか。人民銀行の報道官は「相場の上昇とも下落とも直接関係ない」とのコメントを発表し、相場の弾力化をきっかけに元高が進むという予想を否定した。金融専門家の趙慶明氏は新華社を通して「相場の変動リスクが大きくなることで、ホットマネー(投機資金)の流入の抑制につながる」と指摘した。
人民銀行は元相場について「市場の需給を基礎にして通貨バスケットを参考に調節する」と説明。通貨バスケット制は、複数の通貨との関係を総合的に示す実効為替レートを標的にして相場を管理することを目的にする。
狙いは、為替相場が貿易を大きく揺さぶるのを防ぐことにある。人民銀行が変動幅の拡大を発表した後、輸出入を担当する商務省の沈丹陽報道官は「実効レートに注目している」と強調した。
国際決済銀行の試算によると、元の実質実効為替レートは昨年から今年2月にかけて大幅に上がった後、緩やかに下がった。最近の動きは輸出を後押しする思惑を示唆している。
中国にとって為替相場はマクロ経済政策の一環。市場が注目する対ドル相場で投機資金をけん制し、実効レートをコントロールして経常収支の安定を目指す。管理相場と投機資金の綱引きがしばらくは続きそうだ。
(編集委員 吉田忠則)
[日経新聞7月30日朝刊P.29]
(4)資本取引の自由化 経済混乱恐れ慎重
中国が金融制度改革でもっとも慎重なのが、資本取引の規制緩和だ。金利の自由化前に資本の流出入を自由にすれば金融政策が効かなくなり、国内経済が混乱すると心配しているためだ。
海外から中国に投資する適格外国機関投資家(QFII)制度やその逆の仕組みなどはある。だが認めるのは、中国政府が決める枠の範囲内。ほかの規制緩和も手続きの簡素化ばかりで、資本が移動する量を管理する姿勢は崩していない。
資本取引の自由化を視野に入れるべきだとの見方が出たこともある。例えば中国人民銀行(中央銀行)は2012年に「資本勘定の開放を速める条件は基本的に成熟している」との文章を発表。10年かけて主な規制をなくす案を示した。
これに対し専門家から異論が出た。中国社会科学院の余永定氏は中国のメディアで「資本取引の規制は中国の金融を安定させるために重要な役割を果たしている」と強調。最近は自由化を急ぐべきではないとの意見が主流になっている。
では日本と比べて、中国はいまどの段階にいるのか。日本は1980年の外為法改正で、原則禁止から原則自由にカジを切った。84年には為替先物を輸出入契約の裏付けがあるものに限る「実需原則」などを撤廃し、自由な資本移動を本格的に認めた。
信金中央金庫の露口洋介上席審議役は「中国が実需原則の撤廃に進む気配は一切ない。日本の外為法改正のずっと前の段階」と指摘する。中国の金融改革のなかで、資本取引の自由化は最後の課題として残りそうだ。
(編集委員 吉田忠則)
[日経新聞7月31日朝刊P.26]
(5)上海貿易試験区 成長方式 転換試す
昨年9月、経済改革を実験する「中国(上海)自由貿易試験区」が発足した。外資も巻き込み、医療サービスや不動産、通信販売など幅広い分野で規制緩和が進んでおり、金融はその柱の一つだ。
中国人民銀行(中央銀行)は昨年12月に30項目からなる改革の基本方針を発表した。これに沿う形で、今年2月に国内外のグループ企業の間で余った人民元を柔軟に融通し合うことを解禁。5月には貿易決済や増資などの資金の移動を大幅に簡素化する「自由貿易口座」の開設を認めた。
すでに試験区での実験を経て、区域外で緩和された規制もある。例えば人民銀は6月下旬、試験区で3月から実施していた300万ドル未満の小口の外貨建て預金の金利自由化を、上海市の全域に広げると発表した。
一連の措置は厳しい規制が残る資本取引や為替相場の全面自由化につながるものではない。ただ、みずほ銀行(中国)の細川美穂子主任研究員は「ゆっくりだが、試験区から先に改革は進む」と指摘する。「上海市は中国の経済改革のモデル地域になっている」からだ。
中国は工業製品を輸出して外貨を稼ぐ成長方式から、サービス業を軸とする内需中心の経済への転換を求められている。その要が、自由な資金のやり取りを可能にする金融改革だ。人件費が上昇し、成長率が鈍化しつつある上海市に課題が集中している。
習近平国家主席は5月下旬に試験区を視察し、「試験区にタネをまき、心を込めて耕し、培った経験を押し広めなければならない」と語った。
(編集委員 吉田忠則)
[日経新聞8月1日朝刊P.29]
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