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「米中2大国時代」を目論む習近平が発信した日米への明確なメッセージ
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/39821
2014年07月14日(月) 近藤 大介 北京のランダム・ウォーカー 現代ビジネス
1ヵ月間に及んだワールドカップの熱戦が、ついにドイツ対アルゼンチンの決勝で幕を閉じた。中国の友人は、こんな「中国の最新ニュース」を送ってくれた。
○準決勝で、開催国ブラジルは、ドイツに7-1と歴史的大敗を喫した。これは、試合のとき、訪中していたドイツのメルケル首相に対し、試合直前に首脳会談を行った偉大なる習近平主席が、パワーを与えたからである。この事実を知ったアルゼンチンのフェルナンデス大統領は、緊急訪中を要請したが、習近平主席は「気づくのが遅い」と断った。
○15日からブラジルで行われるBRICS(新興5ヵ国)首脳会議に参加する習近平主席に対し、ブラジルのルセフ大統領が「決勝戦をいっしょに見よう」と招待したが、習近平主席は断った。「4年後のロシアの決勝戦のチケットをすでに予約しているから」というのがその理由。偉大なる習近平主席は、4年後に中国が決勝に進出することを、すでに見越しているのだ。
こうした「ニュース」は、いわゆるアネクドート(政治小咄)と言われるものだ。アネクドートがいちばん流行ったのは、社会主義体制下の旧ソ連である。いまの中国は、それに近い「モノ言えば唇寒し」の状態になりつつある。いまや、こうしたアネクドートが飛び交う微信(ウエイシン=中国版LINE)に対しても、中国当局は規制を始めた。LINEにいたっては、7月1日から不通にしてしまった。
■「歴史は最良の教科書であり、最良の覚醒剤である」
先週、習近平主席は、日本とアメリカに対して、明確なメッセージを伝えた。
まず日本に対しては、7月7日に北京の南西郊外・盧溝橋にある中国人民抗日戦争記念館で挙行された「全民族抗戦爆発77周年式典」である。習近平主席をはじめとする1000人以上が、この日に日中戦争が起こった地に結集し、中国中央テレビが緊急特番として中国全土に生中継したのだ。
午前9時58分、中国共産党序列4位の兪正声・全国政協主席が、式典の開始を宣言すると、全員で国歌斉唱。続いて、習近平主席と、抗日戦争に参加した新四軍(中国共産党武装勢力)の老戦士・焦潤坤、国民党の老戦士・林上元、それに二人の少年が、垂れ幕を引き上げた。すると、全長4m、幅3.2mの巨大な彫像が姿を見せた。この日に合わせて彫造された「独立自由彫像」で、中国人民の闘争の犠牲を恐れない精神を表現しているという。「中国人民抗日戦争全面爆発記念地 1937.7.7」という文字が彫られている。
続いて、習近平主席が記念演説を行った。
〈 1937年7月7日、日本の侵略者は、武力で中国全土を併呑しようという邪悪な野心を持って砲声を炸裂させ、中国および世界が震撼する盧溝橋事件を起こした。盧溝橋一帯は1時間にわたって硝煙が蔓延し、中国軍民は日本軍国主義の侵略に対して、頑強な抵抗を行った。ここ盧溝橋が発火点となり、北京と天津が危急の時を迎え、河北に広がり、全中国に広がり、中華民族は最も危険な時を迎えた。
この民族の危機に際し、中国共産党は民族の大義を保持しながら、民族存亡の危機を救うという歴史的任務を負って、国共合作をもとに民族統一戦線を張って日本の匪賊どもを中国から駆逐した。日本の侵略者たちの野蛮な侵略に対して、全国各民族、各クラス、各党派、各社会団体、各界愛国人士、香港・マカオ・台湾の同胞と海外の華僑たちは一心団結し、民族の生死を決する偉大な闘争に身を投じたのだった。各界の民衆万衆は一体となり、日本という敵の侵略に対抗していく一曲の勇ましい英雄凱歌を打ち鳴らしたのだ。
こうした偉大なる闘争の中で、中華の子女たちは、民族独立の自由を求めて熱血を注いだ。母は息子を、妻は夫を戦場に送り出した。北京の密雲県に住むケ玉芬の母親は、夫と5人の息子を前線に送り、すべて殉死した。
同胞たちよ、同志たちよ、朋友たちよ! 偉大なる中華人民の抗日戦争は、中国人民の近代以降の自主独立を勝ち取った1ページであり、中華民族の歴史が発展し花開く1章である。
偉大なる中国人民の抗日戦争は、中華民族を過去にないほど覚醒させ、団結させた。まさに毛沢東同志が指摘したように、「戦争史上の奇観であり、中華民族の壮挙であり、驚天動地の偉業である」。
偉大なる中国人民の抗日戦争は、世界の反ファシズム闘争の東方の戦場を切り開いた。そして民族滅亡の危機を救い、民族独立と人民解放を実現し、世界平和の偉大な事業を奪取し、世界史に多大なる貢献をした。歴史は最良の教科書であり、最良の覚醒剤である。
誰もが遺憾に思うのは、中国人民の抗日戦争と世界の反ファシズム戦争の勝利70周年に近い今日、いまだに少数の人間(筆者注:安倍首相を指すものと推定される)は、歴史の事実を無視し、戦争中に犠牲となった数千万人の無辜の生命を無視し、歴史の潮流に逆行し、侵略の歴史を否定するどころか美化し、国際的信頼を破壊し、地域の緊張を作り出し、中国人民だけでなく世界中の平和を愛好する人民たちの激しい譴責を受けている。侵略の歴史を否定し、歪曲し、美化するいかなる者に対しても、中国人民と各国人民は絶対に相手にしないのだ!
同胞たちよ、同志たちよ、朋友たちよ! 中国人民の抗日戦争の歴史が証明しているのは、中華民族は頑強な生命力と非凡な創造力を有する民族だということだ。われわれは団結すれば克服できない困難などないのだ。
全党全国の各民族の人民たちは、偉大なる抗戦の精神をもって、一心団結の精神を不断に向上させる。そして中華民族の偉大なる復興という中国の夢に向かって、引き続き奮闘前進し、中国の特色ある社会主義の不断の発展を成し遂げると、われわれの先輩と英雄烈士に申し伝えるのだ! 〉
演説の要旨だけを訳しても、この長さである。演説文を読み上げる間、習近平主席は、まるで自分の演説に酔いしれるような表情を見せていた。その様子をテレビで見た私は、この演説文は習近平主席が本当に言いたいことなのだと再認識した次第である。
冷静に歴史を分析すれば、日本軍に対抗していたのは共産党軍ではなくて国民党軍であり、日本軍に勝利したのは共産党軍ではなくてアメリカ軍である。それが習近平主席の手にかかれば、壮大な感動の絵巻物のように、偉大なる中国共産党が悪の日本軍を駆逐する物語になってしまうのだ。
■習近平による反日歴史キャンペーンの4つの側面
このように今夏、中国では2年ぶりに反日の嵐が吹き荒れている。習近平主席は、なぜここまで強烈な反日攻勢をかけるのか。
考えてみるに、習近平主席の反日歴史キャンペーンには、主に4つの側面があるように思える。
[1]思想的側面
7月7日の演説にも表れているように、習近平理論の中核をなすのは、下記のような歴史観である。
・1840年のアヘン戦争で米英にたたかれるまで、中国は世界一偉大な国だった
・1894年の日清戦争で日本にたたかれて、亡国の道を歩んだ
・1931年の満州事変と1937年の日中戦争で、日本にさらに追い打ちをかけられた
・共産党軍が1945年に日本軍を駆逐し、1949年に毛沢東率いる共産党軍が政権を取って、中国の夢が始まった
・いまこそ中国の夢に近づいており、世界一偉大な国を目指そう
そのため、習近平理論によれば、この歴史の流れを逆に進めば、1840年以前の
偉大なる中国に戻れるというものだ。
それには、まずは「直前の仇敵」である日本を克服することが先決であると考えている。日本を克服した後は、アメリカに勝って「世界一の偉大な国へ」というわけだ。
[2]経済的側面
昨今の中国経済の沈滞により、一般庶民も企業も、相当な苦境に喘いでいる。こうした国内景気の悪化は、容易に政府批判に結びつくため、その矛先を日本に向けさせようとしている。
[3]権力闘争的側面
現在の習近平主席は、まさに毛沢東的権力闘争を共産党内で仕掛けている。
一昨年秋からこの5月までは、主に江沢民の「上海閥」の残党に対してだったが、6月以降は、胡錦濤・李克強の「団派」に対しても、仕掛け始めた。さらに6月30日には、徐才厚・前中央軍事委副主席の党籍を剥奪し、最高人民検察院に身柄を移して賄賂授受の犯罪捜査を行うと発表した。これは人民解放軍にも、正面から権力闘争を挑んだ格好だ。
まさに全方位での権力闘争で、習近平主席は、まるで四方に火を放って回っているようなものだ。この火事場状態を乗り切るには、外部に「明確な敵」をこしらえる必要がある。特に、軍のど真ん中に権力闘争を挑んだということは、どこか周辺国と一戦交えることを念頭に置いているのではなかろうか。
[4]忠誠合戦的側面
胡錦濤時代までは、中国の政官軍で出世するには、賄賂がすべてとは言わないが、大きなウエイトを占めていたのは確かだ。たとえば軍において賄賂ピラミッドを差配していたのが、徐才厚だったと思われる。
習近平主席が、この賄賂ピラミッドを崩壊させたので、政官軍の出世メカニズムが変調をきたしている。そこで政官軍では、「とりあえず習近平主席が好みそうなことをしよう」というムードが広がっている。その例が、人民解放軍なら自衛隊空軍機へのスレスレ飛行の威嚇だったり、北朝鮮国境付近での軍事演習だったりする。官製マスコミなら反日報道というわけだ。
この盧溝橋事件の習近平演説に対しては、菅義偉官房長官が、「日本は平和国家の道を歩んでいる」として、抗議の発言をした。
いずれにしても、いま私が最も注目しているのは、7月末のARFで、王毅外相が岸田外相と会談するかどうかだ。会談すれば、一連の反日キャンペーンは主に「内向きの内政用だった」と捉えられるし、会談しなければ、習近平主席は安倍政権に対して「本気」で対決するつもりだと考えてよいのではなかろうか。
■「新たな大国関係」という「米中2大国時代」
さて、次に習近平主席がアメリカに対して出したメッセージについて述べよう。
7月9日、10日に、北京の釣魚台国賓館の芳香苑で、第6回米中戦略経済対話と、第5回米中人文交流高位交渉が行われた。開幕式で習近平主席は、「中米の新型の大国関係を努力して築こう」と題したスピーチを行った。以下はその要旨だ。
〈 7月の北京は、柳葉が青緑に映え、アカシアの花が香り、美しい季節だ。思えばこの釣魚台国賓館は、中米関係の検証者だ。キッシンジャーの極秘訪中、ニクソンの歴史的訪中、中米国交正常化交渉もここで行われた。1979年の中米国交正常化は、当時、世界を揺るがす大事件であり、世界の国際秩序を一変させたばかりか、中米両国に新時代をもたらした。
35年来、中米関係は迫り来る風雨を経験したが、全体的には前向きに進んできた。両国は90数個の政府間対話の枠組みを作り、貿易額は200倍以上になり、昨年は5,200億ドルを超えた。双方の投資残高は1,000億ドルを超えている。両国は41組の友好省・州と202組の姉妹都市関係を結び、往来は毎年400万人を超える。中米関係の発展は、両国のみならず、アジアと世界の平和と安定、繁栄に貢献している。
いまや中米両国で世界経済の3分の1、世界人口の4分の1、貿易量の5分の1を占める。中米の提携は両国と世界に福をもたらし、対立は両国と世界に災いをもたらす。われわれは互いに、高みに登って遠くを臨み、提携を強め、堅持し、対立を避けねばならない。
約1000年前に、宋代の文学者の蘇轼は、「時が来たら失わず、機会を踏み出したら失うな」と説いた。まさにわれわれがいま、時勢を吟味し、行く手を転換し、思惟を創造し、不断に両国関係の新局面を打開していかねばならない。
昨夏、私とオバマ大統領は、カリフォルニア州ノアンナバーグ農園で、歴史的な会談を行った。そしてそこで、中米の新たな大国関係を構築していくという重要な共通認識に達した。このことは(昨年9月の)サンクトペテルブルクと(今年3月の)ハーグでも再確認した。
中米の新たな大国関係は、空前絶後の事業である。今後の一定期間を展望し、次の点を主張したい。
第一に、相互の信頼を増進し、方向性を把握することだ。中国は「二つの百年」(屈辱の百年から栄光の百年へ)の目標を掲げ、中華民族の偉大なる復興という中国の夢の実現に向けて、現在、努力中だ。それにはいつの時代にもまして、外部の穏やかな環境が必要だ。中国人民は平和を愛し、和をもって尊しとなし、おのれの欲せざるところを人に施すことなかれと主張する。周辺外交の基本理念は、親・誠・恵・容(寛容)だ。
天が高ければどんな鳥も飛べ、海が広ければどんな魚も躍る。広大な太平洋は、中米という2大国が共有できるスペースは十分にある。われわれはいまこそ、新たな大国関係を軌道に乗せるべきだ。
第二は、互いの尊重と、交わって互いの相違点を止揚することだ。中米両国の歴史と文化伝統、社会制度、意識形態は異なっており、経済発展のレベルも同じではない。そのため一部に考えが合わなかったり摩擦が生じたりする。それだからこそ両国は、新たな大国関係を構築するという目標をただしく把握すべきなのだ。
第三は、平等と互恵、提携の深化だ。いわゆる「聡明な者は聴いても声を出さず、見ても形にしない」ということだ。両国の投資協定は早く妥結すべきだ。両軍の交流も、もっと深めて、中米の軍事関係の構築を促進すべきだ。一切のテロに共同で打撃を加えるべきだ。
第四に、民衆に着目し、友誼を深めることだ。「鉄杵を磨いて針を作る」ように、努力して新たな大国関係を築き、中米の美しい明日を創ろうではないか。 〉
習主席は再三強調しているように、「新たな大国関係」という「米中2大国時代」の到来を定着させたい。
「アメリカは中国の平和的で安定した台頭を歓迎する」
これに対して、アメリカのケリー国務長官は何と答えたか。こちらは、米国務省のホームページに発言の全文が掲載されている。その中からピックアップしてみよう。
〈 この米中国交正常化35周年の時を祝いたい。まさに米中関係は、1972年にニクソン大統領と毛沢東主席が握手をした時から始まった。今日はここにジャック・ルー財務長官、ジャネット・イエレンFRB議長、ペニー・プリッカー商務長官、エミー・モニスエネルギー省長官、マイク・フロマン通商代表を帯同した。ほとんどのことがワシントンでなく北京で決裁できる態勢だ。
先ほどもそうだが、私はもう何度も、習近平主席が「新たな大国関係」と発言するのを聞いてきた。私が習主席に言いたいのは、「新たな大国関係」は口先だけでなく、行動が伴ってこそだということだ。だからこそ、こうした対話が必要なのだ。
私の祖父は上海で生まれ、父は中国ビジネスを行ってきた。そのため、私もかなり早い時期から中国と関わってきており、1994年には上院議員として訪中している。
過去の歴史を振り返ると、勃興してきた国と、地位が確立された国とは、戦略的ライバル関係にある。だがここにいるアメリカ代表は誰もがそう信じているが、いまの米中はそうした対立を避けていける。競合は構わないが、対立は望ましくないのだ。
私は強調するが、アメリカは中国を封じ込める気は毛頭ない。アメリカは中国の平和的で安定した台頭を歓迎する。アジア地域の発展と安定に貢献する中国、世界の諸問題に責任を果たす中国を歓迎する。
これからの2日間で、世界の諸懸案について両国で話し合う。それは朝鮮半島の非核化をどう実現するか、イラン、シリア、スーダンといった問題である。 〉
ケリー国務長官は、イスラエルとパレスチナの戦闘が頭から離れず、気もそぞろだったのかもしれない。ややイラついていたのは事実だ。「新たな大国関係なんて言うくせに、行動がまるで伴ってないではないか」と言いたかったのだろう。
経済的には年内に投資協定を締結すべく交渉を加速化させることなどが決まったが、戦略的にはむしろ両国の溝が明らかになった印象を受けた。
ひとつ気になるのは、北朝鮮の非核化に対してだけは、米中双方で足並みが揃っていることだ。これは、もし北朝鮮が4度目の核実験を強行すれば、米中が共同で金正恩政権を駆逐するところまで来ているのかもしれない。
総論的に言えば、東アジアは刻一刻と不安定化している。
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