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※ 日経新聞の連載記事
きしむ中国の銀行
(1) 増え始めた不良債権 成長の減速が響く
中国の銀行経営がきしんでいる。経済成長が鈍り、不良債権が増えている。問題の多い「影の銀行」の影響も懸念される。金融システムの動揺は回避できるのか。
中国は改革開放の一環で、国有四大商業銀行を設立。現在、銀行は100を超えるが、四大銀が融資の半分を占める。
四大銀は1990年代に、国の政策に沿った国有企業向け融資が焦げ付き、政府が資本注入。その後、株式会社化して上場、2007年に中国工商銀行が銀行の株式時価総額で世界一となった。
09年に中国の銀行は国の景気対策にあわせ融資を3割増やし、経済の2桁成長を支えた。ここへきて成長率は7%台に鈍り、2桁成長を見込んだ企業の業績は悪化。「信用膨張の後の金融危機が起きてもおかしくない」との指摘がくすぶる。
焦点の不良債権比率(上場銀行)は13年に公表ベースで0.98%と前年比0.06ポイント上がった。欧米では実質的には、健全性の目安である5%を超えるとの見方が多い。そのため市場評価が揺らぎ、工商銀の株式時価総額も13年、米ウェルズ・ファーゴに抜かれた。
ただ財務体力は以前より強い。四大銀の中核自己資本比率は欧米大手に見劣りしない。株式会社化されても国が過半株式を保有、いざとなれば国の支援を期待できるとみられる。
国際通貨基金(IMF)のデビッド・リプトン筆頭副専務理事は「信用を一段と拡張させるとリスクが高まる。企業破綻を容認し、信用規律を保つような金融改革が必要だ」と中国に銀行などの改革を促している。
(編集委員 太田康夫)
[日経新聞6月23日朝刊P.17]
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(2) 不動産価格の下落懸念 担保価値押し下げ
中国で不動産価格の下落懸念が強まっている。今年に入って住宅価格の上昇が鈍化。取引が細り、北京などでも新築マンションを大幅値下げして売る動きがみられる。
不動産価格は銀行経営を左右する。「融資のうち直接的な不動産向けは2割程度」(中国銀行業監督管理委員会)だが、地方政府が資金調達のため設けた融資平台と呼ばれる投資会社向けなど、担保も考慮した実質的な不動産関連は融資全体の半分に当たる。地方の銀行は不動産依存が高い。
とりわけ懸念されているのは、不動産開発業者と融資平台向け融資だ。銀行などの新規融資抑制で、資金繰りが悪化している。杭州などでは在庫の投げ売りが不動産価格を押し下げ、担保価値をさらに下げる悪循環が起きかねないとの見方もある。銀行からみると融資資産の劣化につながる。
問題は今後の下落度合い。中国の不動産はバブル化しており大幅調整が起きるとの予測もある。欧米では下落幅が3割を超えてくると、金融システムが大きく揺らいだ。
米ピーターソン国際経済研究所のニコラス・ボルスト氏は「不動産は担保として貸し出しや投資に大きな役割を果たしており、その大幅調整は経済を傷つけ金融システムにも影響する」と警鐘を鳴らす。
一方で中国は今後も高速鉄道や地下鉄などインフラ整備を進める見通しで、周辺の不動産価格が押し上げられる余地もある。英HSBCのエコノミスト、朱日平氏は「不動産の不透明さは課題だが、状況は1990年代ほどではなく、対応力も増している」と指摘する。
(編集委員 太田康夫)
[日経新聞6月24日朝刊P.29]
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(3) 「影の銀行」も重荷に 問われる販売責任
中国の銀行で懸念されるのは、甘いリスク管理など問題が多いとされる「影の銀行」の影響だ。
一つはリスクの高い資産に投資する理財商品。銀行が管理するものと、信託会社が組成し銀行が販売するものがある。合計規模は10兆元で、預金の1割程度に当たる。
信託組成の理財商品では債務不履行の増加が見込まれる。販売時のリスク説明が不十分だとして銀行が売り手責任を問われ、債務不履行回避のためのつなぎ融資や、購入者への実質肩代わりを求められる可能性がある。
もう一つは社債だ。中国の社債市場はすでに日本を抜いてアジア最大の規模。社債市場は主に銀行間市場として発展してきた経緯があり、今でも発行額の半分程度を銀行が保有している。
その社債で今年、債務不履行が起きた。銀行は社債の信用リスクは極めて低いと評価してきたが、そうした評価は見直しを迫られる。
大手銀行は国際的な銀行規制の制約を受け、信用拡大に限界がある。このため政府は2010年以降、社債や理財商品など「影の銀行」の拡大を容認してきた。
ただ、影の銀行商品についても銀行が投資したり、暗黙の保証をつけたりして、実質的にリスクをとっている。不動産価格の下落などで資産劣化が進む影の銀行の悪影響が及びかねない状況だ。
世界銀行は6日の中国経済報告で「規制の緩い影の銀行を含む、包括的な金融改革が必要だ。中国にはそれを着実に進める余力があるが、予期しない混乱も否定できない」と指摘している。
(編集委員 太田康夫)
[日経新聞6月25日朝刊P.29]
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(4) 動き出す国有企業改革 債権放棄の懸念も
中国は昨秋の3中全会で、国有企業改革に乗り出すことを決めた。信用拡大による景気刺激が限界に近づき、生産性向上が欠かせないためだ。
背景にあるのは企業の財務体質の悪化だ。リーマン危機を受けた2009年の大規模経済対策以降、国有企業は銀行などから18兆元を超える資金を借り入れ、大規模な設備投資をした。
しかし、世界的な景気停滞で需要は盛り上がらず、設備稼働率は鉄鋼、太陽光発電、造船などで70%以下にとどまる。政府も「一部業種では生産能力の過剰が浮き彫りになっている」と認める。過剰債務、過剰設備の状況で、銀行からみると不振企業向け融資が増えている格好だ。
政府の国有企業改革は民営化推進や、鉄鋼などでの再編統合などが柱だ。市場の力を利用して競争力を取り戻し、過剰設備などを徐々に解消することを狙っている。
ただ世界経済が減速するなか、過剰設備の解消は難しい。「企業は国有であっても縮小や破綻が必要」(アメリカン・エンタープライズ研究所のデレク・シザーズ氏)だが、簡単ではない。
1990年代に日本で企業が過剰債務、過剰設備に苦しんだときには邦銀が債権放棄を求められており、中国でも改革の過程で銀行が損失負担を迫られる可能性がある。
米ゴールドマン・サックスのエコノミスト、アンドリュー・ティルトン氏は「構造改革が生産性の伸びを押し上げる可能性がある一方、信用の伸び鈍化と余剰能力削減が急速に進む恐れがある」と指摘する。
(編集委員 太田康夫)
[日経新聞6月26日朝刊P.30]
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(5)進む金利自由化 利ざや縮小は必至
中国の銀行の収益力は高い。中国工商銀行の2013年の純利益は2630億人民元(約4兆3000億円)で、三菱UFJフィナンシャル・グループの4倍強。四大商業銀行の自己資本利益率は20%前後。欧米有力銀行が金融危機前に出していた水準に匹敵する。
高い利益を支えるのは13年で2.6%近くある厚い利ざやだ。規制金利の影響が大きく、規模が大きければ利益が増えた日本の1980年代に近い状況といえる。
この構造が続くわけではない。中国は13年5月に短期金利の上昇を容認した。政府は20年に向けて調達金利の自由化を進める方針で、早晩、競争原理が働くことになる。
また中国では昨年解禁したオンライン・マネーマーケットファンドが急拡大している。米国で80年代に起きたように銀行預金と競合し、利ざや圧迫要因になりかねない。銀行関係者の間では、利ざやが2%を切るのは時間の問題との声が多い。
独フランクフルト・スクール・オブ・ファイナンス・アンド・マネジメントのホルスト・レチェル教授は「金利自由化に加え労働コストが上がるなかで、中国の銀行が競争力を保ち続けられるか疑問だ」と指摘する。利益が圧迫される状況で、不良債権が増大していけば、銀行経営は苦しくなる。90年代の邦銀が置かれた状況に似ている面もある。
中国はまだバブルが崩壊したわけではないが、史上まれにみる信用膨張局面は終わった。金融システムの動揺を避けられるのか、中国の金融当局の手腕が問われる。
(編集委員 太田康夫)
=この項おわり
[日経新聞6月27日朝刊P.29]
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