01. 2014年9月23日 10:17:25
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ビル・ゲイツ氏の資産を増やし続ける男 By BANUPREETA DAS AND CRAIG KARMIN 原文(英語) 2014 年 9 月 22 日 17:32 JST 「ピンク色かプラチナ色を着用すること」 今年2月、ビル・ゲイツ夫妻がシアトル近郊の自宅で開いた夕食会の招待状にはこう書かれていた。夕食会のために設置されたスポットライトがダイニングルームをピンク色に染めていた。 ビル・ゲイツ氏の資産を増やし続ける男 スライドショーを見る ゲイツ氏(58)は主賓のマイケル・ラーソン氏(54)に乾杯を捧げるためにグラスを掲げた。近くに座っていたラーソン氏はピンク色のボタンダウンのシャツを着ていた。ラーソン氏はピンク色が好きなのだ。招待客によると、ゲイツ氏はラーソン氏に全幅の信頼を置いていると語ったという。 「(20年間の)マイケルの功績によって、メリンダと私は世界の健康と教育を改善するというビジョンを自由に追求できる」――ゲイツ氏は約40人の招待客を前にこう語った。世界一の富豪ゲイツ氏はラーソン氏のおかげで安心して眠ることができるのだという。 ラーソン氏は1994年から主にカスケード・インベストメントという企業を通じてゲイツ氏の巨大な投資資産を運用している。ラーソン氏が金を稼ぎ、ゲイツ氏がそれを寄付するという格好だ。 ゲイツ氏の資産やラーソン氏の投資戦術について多くを知る人はほとんどいない。マサチューセッツ州ケンブリッジにあるチャールズホテルから「バッファロー・ビル」の愛称で知られる西部開拓時代のガンマン、ウィリアム・F・コディーがかつて所有していたワイオミング州の広さ490エーカーの牧場に至るまで、不動産投資は多くの場合、本人の名前で行われておらず、なかなかゲイツ氏にたどり着けないようになっている。 カスケードの本社はシアトル郊外のカークランドのビルに入居している。看板は出ていない。ラーソン氏と働いたことがある人物によると、ラーソン氏はあまりに一生懸命にゲイツ氏を守ろうとしていたため、ゲートキーパー(門番)ならぬ「ゲイツキーパー」というあだ名が付けられていたという。関係者によると、カスケードの社員は大抵、退職する際に会社について話すことを禁じる秘密保持契約に署名する。 マイケル・ラーソン氏はカスケード・インベストメントという企業を通じてゲイツ氏の巨大な投資資産を運用している Getty Images ゲイツ氏が債券ファンドのマネージャーだったラーソン氏を採用し、投資資産の売り買いを全面的に任せてから、ゲイツ氏の純資産は50億ドルから約820億ドルに膨らんだ。ラーソン氏はゲイツ氏の個人資産のほとんどを保有するカスケードの他に、ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団が保有する410億ドルの基金も管理している。
カスケードは投資実績を公開していないが、同社に詳しい人々によると、年間ベースで着実に利益を上げることがほとんどだという。ラーソン氏が比較的保守的な投資戦術をとっているおかげで、金融危機が起きた2008年もカスケードの損失はダウ工業株30種平均の年間下落率(27%)を下回った。 1995以降、ラーソン氏がゲイツ財団とその前身に当たる2つの財団の資産運用で年率11%の利益を確保した。S&P500種株価指数を1ポイント以上超える成績だ。 ゲイツ氏も1975年の起業後に受け取ったマイクロソフト株全てを保有していれば、今頃、同じくらいの成績を挙げているだろう。マイクロソフトが1986年に上場したとき、ゲイツ氏は同社の株式の45%を保有していた。当時、ゲイツ氏が保有していた株は今では配当を除き、約1500億ドルの価値がある。マイクロソフトの株価はここ5年で約3倍になった。 しかし、1994年以降、ゲイツ氏は保有するマイクロソフト株のうち400億ドル分近くを売却し、投資の分散化を図った。ゲイツ財団も300億ドルを慈善活動に寄付した。 ラーソン氏とゲイツ氏は2人の関係についてコメントを差し控えたが、関係者によると、2人の間に培われた絆はゲイツ氏の慈善活動にとって非常に重要だという。ラーソン氏がゲイツ氏の資産運用で利益を上げ、ゲイツ氏がマイクロソフト株を売却したおかげで、ゲイツ氏とその家族は財団への寄付を増やすことができた。 それはつまり、発展途上国で病気と闘い、教育を改善するという財団の使命にさらに多額の資金が投入される可能性があるということになる。ゲイツ夫妻は資産の95%を世界最大の慈善組織であるゲイツ財団に寄付する予定だ。財団の基金にはゲイツ氏が280億ドルを寄付したほか、投資会社バークシャー・ハザウェイのウォーレン・バフェット氏が120億ドルを寄付している。 資産運用会社レッグ・メイソン傘下のウエスタン・アセット・マネジメントの最高経営責任者(CEO)だったスティーブ・ウォルシュ氏はゲイツ氏がどれほどの労力を割いてラーソン氏のための夕食会を準備したかを目の当たりにして感動したという。招待状に「プラチナ色を着用」とあったのはプラチナに20周年を記念する意味があるからだ。 ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)はカスケードをよく知る20人以上にインタビューを行い、当局への提出書類や不動産の記録を調査してゲイツ氏の投資の現状に迫った。カスケードの投資活動が公表されたことはこれまでほとんどない。 ワイオミング州の牧場は金融危機以降、不動産価格が急反発した局面でカスケードが購入した。カスケードはカリフォルニア、イリノイ、アイオワ、ルイジアナ各州などに少なくとも広さ10万エーカー(マンハッタンの7倍に相当)の農地を保有している。 カスケードはカナディアン・ナショナル・レールウェイやオートネーション、リパブリック・サービシズなど240億ドルを超える株式も保有している。保有資産にはバリュー重視で買った資産を長期保有するというラーソン氏の投資哲学が反映されている。カナディアン・ナショナルの株価は過去5年で207%も上昇した。 ゲイツ氏の資産の多くは株式の形で保有される一方、関係者によると、ラーソン氏は規模は小さいながら、「オルタナティブ資産」といわれるプライベートエクイティ(未公開株投資会社)などの野心的な資産にも投資している。債券市場には以前は多額の投資を行っていたが、最近では減らしている。 カスケードも投資に失敗したことがある。07年、カスケードは複数の投資家と共にプラネットアウトの株式13%を取得した。プラネットアウトは雑誌「アウト」の発行元で、同性愛者を対象にしたクルーズ船の運航も行っていた。同社の株価は間もなく下落、会社は資産の一部を売却し、09年に別の企業に買収された。 意外にもゲイツ氏はテクノロジー分野の資産をほとんど保有していない。6月30日現在、ゲイツ氏のマイクロソフト株の持ち株比率は3.6%で、18日の終値で計算すると、保有株の価値は約139億ドルに上る。 ゲイツ氏はカスケードとは別に、自身でテクノロジーやバイオテクノロジーの分野に投資を行っている。1989年にはデジタル画像会社コービスを創業した。原子炉開発のテラパワーや代用肉製造のビヨンドミートなどに投資している。 ゲイツ氏がラーソン氏の採用を決めたのはWSJが1993年に、当時、ゲイツ氏の資金を管理していた人物が過去に銀行詐欺で有罪判決を受けていたと報じた後のことだ。WSJはゲイツ氏がこの人物と親しい友人関係にあり、有罪判決についても知っていたと指摘した。しかし、これが騒ぎになると、ゲイツ氏は新たな人材を探し始めた。 広範囲に及ぶ審査が行われ、人材スカウト会社がラーソン氏をゲイツ氏に引き合わせた。ラーソン氏は企業の合併・買収を行う企業で働いたり、現在はカナダの保険会社グレートウエスト・ライフコの子会社となったパトナム・インベストメンツの債券ファンドの運用を担当したりした後で独立した。 2人はすぐに意気投合した。ゲイツ氏をよく知る複数の人物によると、ゲイツ氏は、自信にあふれているにもかかわらず控えめというラーソン氏の人柄に好印象を持ったという。 エレベーション・パートナーズの共同創業者のロジャー・マクナミー氏によると、ラーソン氏はゲイツ氏に採用されると、人目につかないようにすることにした。前任者が悪い意味で注目されたため、ラーソン氏はビル・ゲイツの資産運用という仕事に取り組むには目立たないことが一番と考えたのだという。 ラーソン氏は投資について新たなアイデアを募る意味もあって、約25人の外部の資産運用担当者に常に100億ドル以上の資産の運用を任せている。関係者によると、外部の担当者もゲイツ氏の保有資産の規模や中身についての非公表の情報は知らされていないという。 昨年、リッツカールトン・サンフランシスコが1億6100万ドルで買収されたときのメディア向けの発表文から分かったのは、カスケードが共同出資者だったということだけだった。マサチューセッツ州のチャールズホテルの広報担当者はゲイツ氏が共同オーナーであるかどうかは分からないと述べた。 ラーソン氏は既婚で3人の子どもがいる。好みの服装はリーバイスのジーンズと濃いピンク色のシャツだ。元社員や現在の社員によると、ラーソン氏はぶっきらぼうで支配的なところがあるという。年に1度開かれるカスケードの年末パーティーでは、座席表を決めることさえあった。 カスケードの社員は倹約家であることがよしとされる。ゲイツ氏はカスケードを通じて高級ホテルチェーンを運営するフォーシーズンズ・ホールディングの株の半数近くを保有しているのに、カスケードの幹部はフォーシーズンズの仕事で出張するときもそれより安いホテルに滞在する。 ラーソン氏はゴルフ好きとして知られているが、バックスウィングを練習する以上に人脈作りを楽しむタイプだという。彼を知る人々によると、ラーソン氏は個人的な関係を非常に重視していて、個人的な関係を育むことにうんざりするほどの情熱を傾けるという。 カスケードの社員は現在約100人で、ラーソン氏は自分と同じクレアモント・マッキーナ大学の最近の卒業生を好んで採用する。社員はフェイスブックやツイッター、リンクトインなどのソーシャルメディアを使用したり、仕事の関係者ではない外部の人間に会社のアカウントから電子メールを送ったりしないように指示されている。 関係者によると、ラーソン氏は09年、フロリダ州ジュピターアイランにある数百万ドル規模の邸宅を購入するために交渉役として25歳の社員を送り込んだ。巨額の金融詐欺事件「マドフ事件」でだまされた人々から安値で住宅を買えると踏んだからだ。 不動産の記録によると、この社員は500万ドルで邸宅1軒を購入した。08年には1200万ドルで売られていた物件だ。 購入した物件は4つの寝室があるヨーロッパの別荘風の家で、広さは約1万2000平方フィート。専用の桟橋がついている。不動産情報サイトのジローによると、現在の価値は約640万ドルだそうだが、別荘は今、約530万ドルで売りに出されている。カスケードは小幅でも利益が出れば、喜んで売却する、ということだ。 関連記事 【寄稿】私のお気に入りのビジネス書―ビル・ゲイツ氏 【寄稿】世界の貧困に関する3つの誤解―ビル&メリンダ・ゲイツ夫妻 マイクロソフト・オフィスは本当に今後も必要か マイクロソフトに取って代わるには=グーグルのシン氏 http://jp.wsj.com/news/articles/SB11758925124099914582604580169462098327960?mod=trending_now_1 |