04. 2014年6月11日 11:58:34
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>自殺率が世界平均の2.3倍病気も桁違いに多い 多分、精神疾患も1億人では済まないだろうな http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20140610/266567/?ST=print 精神疾患1億人、心病む中国 本当の患者は病棟の中か外か
2014年6月11日(水) 福島 香織 中国の精神科病院の内部を記録したドキュメンタリー映画監督・王兵の新作「収容病棟」がまもなく日本でも公開されるようだ。私は先月、配給元から試写用DVDをいただいて観た。4時間近い長編で、BGMもなければ、ナレーションもない、クライマックスもない、いつもながらの王兵節なので、これを劇場で見るのは、よほど忍耐が必要かもしれない。 しかし、それでも、見て損はない、と言えるのは、中国の「精神科病院」は、中国社会の縮図であり、病棟内の患者の姿をありのままに撮影したこの作品は、中国社会の抱える矛盾、問題を鏡のように映し出しているからだ。閉ざされた病棟に暮らす人々は、いわゆる「心の病」の患者だけではない。中国当局の言うところの「社会不適合者、秩序乱す者」が収容される場所でもある。一人っ子政策を違反した者、政府に陳情行為を繰り返した者、宗教にはまった者。今回のコラムは、今の中国で社会問題となっている精神疾患の実態について、考えてみたい。 13人に1人が心の病、2分に1人が自殺 中国には精神疾患者が1億人以上いるとわれている。13人に1人が心の病という計算になる。何をもって精神疾患というかはあいまいながら、これは中国衛生部疾病コントロールセンターの推計だ。このうち重篤な精神疾患は1600万人をこえるという。また鬱病の生涯有病率は人口の4%で約5500万人。日本の生涯有病率は6.5%前後だから、もちろん日本の方が高い。 自殺者は多い。自殺大国と言われている日本よりも、比率は若干高いだろう。推計には諸説あるが、毎年9月11日の世界自殺予防デーなどで繰り返し報道されているのは、「2分ごとに1人自殺、8人が自殺未遂、1人自殺するごとに平均6人の家族・友人を直接的間接的に被害に巻き込んでいる」。2011年6月8日付のフィナンシャルタイムス中国語版に工人日報の編集者で人気コラムニストの石述思氏が寄稿した記事では「毎年自殺を試みるものは200万人(うち165万人が未遂で)年間35万人が自殺している」という数字が出ている。この数字について、中国の掲示板では「こんなに少ないわけがない!」という反応が多かった。 近年は小学生自殺、官僚自殺、富豪自殺、ウイグル族や貧困層の自殺性暴力事件(貧困テロ)、フォックスコンなどに見られた従業員の連鎖自殺と…自殺がらみの社会ニュースが目立っているから、そう思うのも無理はない。国内ではほとんど報道されることはないが、チベット族の焼身自殺事件も海外ニュースに関心のあるネットユーザーなら知っているだろう。 中国の自殺の特徴は、都市より農村部での自殺、男性より女性の自殺が多く、6割近くが農薬か殺鼠剤による服毒自殺だという。背景には農村の貧困、女性蔑視の風土などがあるとされている。このフレーズは2005年ころからメディアで繰り返されている。 自殺者は農村の女性から小中学生、官僚、富豪へ 近年の傾向としては、若年化が目立ち、15歳から34歳までの年齢の死亡原因の第一位は自殺。特に小中学生の自殺事件が社会問題として注目されている。2013年上半期にメディア上で報道された小中学生の自殺事件は79件(中国教育発展報告2014年)。これは教育部がゆゆしき事態として、予防対策を急いでいる。小中学生の自殺は男子の方が多いそうで、背景には受験競争や重過ぎる親の期待などがあるのでは、と専門家らは分析している。実数的には自殺者全体の3分の1が55歳以上である。 近年のもう一つの傾向は官僚と金持ちの自殺が目立っていることだ。私が北京駐在だった2008年以前は、自殺問題は農村、貧困層の問題であり、虐げられた人たちの問題だった。ところが2013年から14年6月まで官僚の自殺・不審死(殺人か自殺か事故か不明)は55人に上る。 一番喫緊の官僚自殺は、山東省?坊市の陳白峰副市長(55)で6月初旬、自宅付近で首をつっている状態で遺体が発見された。自殺原因は不明だ。官僚自殺の場合、自殺を装った他殺のケースもありうる。官僚自殺の急増は習近平政権発足後、特に目立っており、習政権の汚職撲滅キャンペーンで、地方の汚職官僚が追い詰められた結果、自殺したり、汚職の証拠を握るキーマンを口封じに殺害したりすることが増えているのではないか、と推測されている。 富豪の自殺は2008〜11年ごろから表面化しだし、先に紹介した石述思氏のコラムはまさに、富豪自殺急増の背景がテーマだった。万昌科技の高慶昌董事長の飛び降り自殺はじめ、仏山利達玩具の張樹鴻副董事長、黄河集団の喬金嶺董事長、珠光集団浙江鋼結構造有限公司の盧立強董事長…。長者番付に載るような億万長者たち9人が前後して自殺し、社会現象としてとらえられた。リーマンショック、ユーロショックと続いて、かつて羽ぶりの良かった大企業も巨額の負債を抱え、その背後には汚職なども絡んでいた。この傾向は現在も続く。 精神衛生問題が昨今注目を浴びるようになったのは、自殺が増えたからだけではない。精神疾患者がらみの犯罪・暴力事件が目立つようになり、治安維持の観点から報道されるようになった。 2013年10月、陝西省西安市の32歳のアルバイト社員が6歳になる自分の娘をいきなり刺し殺した事件は、社員が精神疾患であったと司法で判断された。同12月には広東省深?市で、21歳の精神疾患者が薬の服用を停止して20日目に、6歳の甥っ子を包丁で殺害。甥っ子に「役に立たない人間」と言われたと聞いて恨みに思っていたという。 容疑者は減刑狙い偽装、警察は冤罪で成績向上 ただし、中国にとっての治安維持というのは、中国共産党にとっての治安維持、というべきもので、実際、本当に容疑者は精神疾患者と言っていいのか、と首をかしげるものも多々ある。中国では精神疾患者は減刑対象であり、まず死刑にならない。なので容疑者が精神疾患を装うことがあるそうだ。 もう一つは、容疑者がなかなか逮捕できない事件などで、警察が自分たちのメンツ・政治成績のために強引に周辺にいる精神疾患者を容疑者に仕立てあげ、逮捕してしまう、あるいは冤罪の容疑者を精神病患者にしたててしまうケースも耳にする。河南省開封市尉氏県の公安局が事件解決率を上げるために全く無関係の精神疾患者を容疑者として逮捕していたことが発覚した2009年の4・16事件などが広く知られる例だが、発覚しない事件はもっと多いとささやかれている。 また最近、特に問題視されているのは当局や周辺の人々に都合の悪い人間を精神疾患者として精神科病院に収容する「被精神病(精神疾患者にさせられた)」事件である。 その典型例が呉春霞事件。河南省の農婦・呉春霞さんは、愛人ができた夫から一方的に暴力を振るわれ子供を奪われ離婚させられた。この件について、2004年、北京の全国婦女連合会に助けを求めに陳情に行った。ところが夫の実家が地元警官と昵懇だったことから、彼女は「治安を乱す対象」として拘留され、労働教養所に送られ、その後「精神疾患者」として132日間、精神科病院に収容された。その後の2008年、呉春霞さんは夫の虐待を告発して訴訟を起こすが、夫家の差し金で法廷から私服警察に拉致され、またもや精神科病院に強制収容される。それでもあきらめずに2009年の退院後、河南省の精神科病院と地元公安局を相手取り賠償金を求める民事訴訟をおこし、今年5月20日、全面勝訴した。 「被精神病」事件頻発、閉ざされた世界は至る所に これは中国メディアでも大きく報道され、「被精神病」は一つの社会現象用語となった。類似の事件は一つや二つではないのだ。昨年5月に中国で初めて精神衛生法が施行され、病院側の違法な診断、治療行為に対する罰則を設けるようになったが、今年から「労働教養制度」が廃止になったことを受け、精神科病院がそれに代わる収容施設になるのではという懸念も強まっている。 さて、王兵監督の作品に戻る。内容については、実際に見てもらうのが一番だ。ストーリーはあるようでない。雲南省の片田舎にある精神科病院の中の様子を、そこで入院生活を送っている人々の様子を3カ月にわたって撮影している。そこは200人が収容されている。10年も20年も入院している人もいる。収容される必要のないような人も、家族の都合で収容されていたりする。原題が「瘋愛」とあるように、閉ざされた世界で、愛を求める心病む人々の姿をありのまま映し出されており、そこに政治的問題意識はない。 だけれども、記者の目でみれば、この閉ざされた世界の映像に、いくつもの既視感を覚える。河南のエイズが蔓延する農村で。寄宿制の進学校で。深?の電子部品工場で。ホームレス孤児の収容所で。障害児の厚生施設で。北京の社区と呼ばれる街角で。中国プロバイダーを通したインターネット世界でも。そして、ふと思うのだ。中国自体が、精神科病院のように閉ざされて、独特の秩序に支配されている社会なのだ。 そもそも1958年から続く中国の独特の農村戸籍制度は農民を農村に閉じ込める枷の役割をはたしている。パスポートをとって外国に行くことは中国においては誰もができることではない。もっとも自由なインターネットの世界ですらグレートファイヤーウォールで閉ざされている。どこに居ていても収容され、教育され、監視されている感覚がある。その閉ざされた世界には外界と違う独特の秩序があり、そこに暮らすうちに、多くはその独特の秩序に順応する。そして、少数の「秩序」に違和感をもち、抵抗し、乱すものは異常だとされ、さらに狭い世界に閉じ込められる。 病んでいるのは1億人か、12億人か 私自身の経験で思い出すのは、2005年、北京の精神科病院に友人を見舞ったときのことである。北京大学付属病院6病棟、通称北大六院。中国でトップクラスの精神科臨床医療施設である。王監督の映画の舞台となった雲南の片田舎の病院と違って、白く明るく清潔な高級医療施設で、入院患者には金持ちや党の幹部もいる。病棟に入るとき、手荷物だけでなく、衣類の金具やベルトまですべて預けなければならなかった。患者に自殺願望者が多いので、自殺の道具になりそうなものは全部預けねばならないというルールだった。友人は比較的元気な様子で、「隣の個室にいるのは中国銀行の元頭取の奥さんだって。あっちは、汚職の発覚に怯えている元官僚夫人…」と院内ゴシップを話してくれた。 友人の家族によれば、友人は発作的に暴力をふるって手に負えないから入院させたというが、友人は私に「看護師から虐待されている」と、抑えつけられたときに体にできた青アザを見せて訴えていた。涙を浮かべて「出たい」と言っていた。その話を聞いていると、彼女が普通でないのか、病院のルールが異常なのか、わからなくなってきた。その空間に長くいると、最初は異様な感覚を覚えた患者たちの行動も普通に見えてくる。あるいは私の方がおかしいのかもしれない。最初は暴れて抵抗していた患者も大人しく環境に順応していく。閉ざされた世界で異様なルールのもとに収容されていると、異様なことも普通のことになっていくのだろう。まるで、中国社会そのもののようだ、とその時思った。 国際社会との間にいまだうっすらと竹のカーテンが引かれ、その価値観や情報の交流に制限があり特殊な秩序に支配されている中国で、1億人以上が心の病という。だが、その1億人は本当に病んでいるのだろうか。残りの12億人が、中国社会全体がひょっとすると病んでいるのかもしれない。 このコラムについて 中国新聞趣聞〜チャイナ・ゴシップス 新聞とは新しい話、ニュース。趣聞とは、中国語で興味深い話、噂話といった意味。 中国において公式の新聞メディアが流す情報は「新聞」だが、中国の公式メディアとは宣伝機関であり、その第一の目的は党の宣伝だ。当局の都合の良いように編集されたり、美化されていたりしていることもある。そこで人々は口コミ情報、つまり知人から聞いた興味深い「趣聞」も重視する。 特に北京のように古く歴史ある政治の街においては、その知人がしばしば中南海に出入りできるほどの人物であったり、軍関係者であったり、ということもあるので、根も葉もない話ばかりではない。時に公式メディアの流す新聞よりも早く正確であることも。特に昨今はインターネットのおかげでこの趣聞の伝播力はばかにできなくなった。新聞趣聞の両面から中国の事象を読み解いてゆくニュースコラム。 |