02. 2014年6月11日 12:04:27
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いずれにせよ、挑発に乗り、すぐに感情的にならず、冷静に相手の状況を分析し、現実的に考えることだなhttp://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20140609/266565/?ST=print 「中国がそこにある」という現実を受け入れなければならない マレーシア・マハティール元首相インタビュー 2014年6月11日(水) 池田 信太朗 「アジア旋回」を宣言した米国と、国内総生産(GDP)世界一を視界に捉え、経済的影響力を増している中国との“綱引き”により、アジア諸国が「開国」を迫られようとしている。地域経済のダイナミズムに自らを組み込むために、もしくは大国の横暴を「自由の輪」で封じるために。いずれにしても、アジアの多くの国が自らを閉ざしていられない時代を迎える。 守るべき国内市場と産業が大きければ大きいほど「開国」のリスクは高まる。失うものの小さいアジアの新興諸国にとって、GDP世界上位3カ国である米・中・日が参加する何らかの自由貿易の枠組みに参加することには大きなメリットがある。小国であればあるほど有利に見える。 だが、その理屈は、現実を前には机上の空論とのそしりをまぬかれないだろう。失う可能性のあるものを単純に量で比べれば、確かに大国の方が大きい。しかし、失うものの価値は国によって異なる。小さなものでも、自国発展のためにはかけがえのないものかもしれない。金銭換算できない文化や誇りかもしれない。 だが、今やそれでもなお開国するしかない、というのが、米中が加速させ、アジアが直面する「グローバリズム」というものの現実なのではないか。 本誌特集「アジアの苦悩 米中激突の最前線」では、その現実に直面している国の1つ、マレーシアのマハティール元首相へのインタビューを掲載した。ここでは、その紙幅の制約で本誌に掲載できなかった問答も含めて、そのインタビューを掲載する。 (聞き手は日経ビジネス 香港支局 池田 信太朗) FTAは自国経済を守る自由を制約するものだ マハティール・ビン・モハマド(Mahathir bin Mohamad)氏 1925年生まれ。81年から2003年までマレーシア首相を務め、日本などの経済成長に学ぼうという「ルックイースト政策」を進めた(撮影:的野弘路) ナジブ・ラザク首相はTPPに参加する意向を示し、マレーシアとしては交渉に参加しています。ですが、マハティール元首相としてはTPPに参加するのは「反対」とお考えと聞きました。なぜでしょうか。
マハティール:国家を開放するということには同意します。我々は1960年代から外国資本を積極的に受け入れてきました。ですが同時に、国家は自国の経済を守らねばなりません。FTA(自由貿易協定)とは自国を守るという自由を制限するものです。 また、協定の中に含まれる条件には、我々にとって不利になるものがあると考えています。例えば、(協定に違反したとして)企業は莫大な賠償金を求めて相手国政府を訴えることができます。我々にとって、好意的な協定とは言えないと思います。 まず前者のお答えから。「自国を守る」とは、具体的にどのような行動を指しますか。 マハティール:マレーシアは異なる3種の人種が融合して生活しています。中華系は経済的に豊かですが、インド系、マレー系はまだ貧しい。我々は、貧しい者が豊かになり、富を分配するという経済改革の過程にいます。ですが、諸外国に対して国家を開くとき、人種によって優遇するような政策は取れなくなります。 また、マレーシアの産業は小規模です。我々は、彼らを守る必要があります。もし我々が国家をオープンにすれば、大規模な産業を持つほかのTPP参加国との競争に勝つことはできないでしょう。 首相就任中に、公務員などの採用や課税、会社設立時の手続きなどでマレー系などを優遇する「ブミプトラ政策」をされました。現状、その格差是正はどの程度まで進捗しているのでしょうか。 マハティール:格差は多くの分野で残っています。具体的にいつ解決するかは言えませんが、積極的な是正措置により状況は少しずつ改善しています。 もう1つ、TPPが定めようとしている貿易の条件に不利なものが含まれている、という点についても、具体的に教えてください。 マハティール:一部の条文には、我々が自国を守れないような内容が入っています。しかも、そもそも不利か有利かを吟味するのも難しい。TPPは29章あり、すべて法律家によって書かれています。オリジナルの草案を我々が書いたわけではありませんから、自国の経済がTPPによってどのような圧力を受けることになるのかをしっかりと確認しなければなりませんが、すべてを理解するのは非常に難しいというのが現実です。 TPPは中国への対抗策 TPPの一部の条文が「マレーシアにとって不利である」というご発言には「米国に対して有利である」という意味が含められていると考えていいですか。 マハティール:そもそもTPPのパートナー国は、経済的に等しい立場ではありません。(たとえ各国が等しく市場を開放したとしても)強い経済を持つ国によって製造された強い製品に対して、我々(弱い国)の市場を開放することになるのです。しかも、豊かな国の市場にアクセスできるようになっても、マレーシアには非常に小さな生産力しかありません。得られるものが小さい。 加えてTPPは、米国によって草案が作成されています。何かを提案しようとする場合、提案する側が有利に立つような内容になるのは当然です。 米国がTPPを推進するのは、アジアにおける中国の影響力拡大への対抗策だと考える向きもあるようです。これについてどう思いますか。 マハティール:TPPには中国が含まれていません。それはつまり、「中国に対抗する」という意味です。 周辺国がTPPに参加して、マレーシアだけが参加しない場合、域内経済のダイナミズムから取り残されてしまうという懸念はありませんか。 マハティール:TPPに含まれていない中国はマレーシアにとって、大きな貿易パートナーです。この政治的な意図があるとしか思えないTPPによって、よき貿易パートナーでありよき友人でもある中国を敵に回したくはありません。 仮に中国がTPPに参加するとしたらお考えは変わりますか。 マハティール:中国がTPPに参加すれば、参加の必要性がより高まることになると思います。南米諸国やロシアなども含まれれば、さらに参加の必要性は高まるでしょう。政治でなく、貿易なのですから、そこには(地域の)すべての国が含まれなければなりません。 中国には脅威外交に屈した屈辱の歴史がある 東アジアにおける中国の経済的、軍事的な影響力があまりにも増大することを懸念する向きもあります。 マハティール:中国が成長することを恐れていますが、中国との貿易が増すというメリットもあります。中国は巨大な市場ですから、我々マレーシアにもメリットがあります。 台頭する中国とどのように向き合っていけばよいのでしょうか。 マハティール:我々は「対立」を好みません。「競争」は好みます。我々は「中国はそこにいる」という事実を受け入れなければなりません。中国はどこに向かって成長していくのか。そして、中国とともにどうやって生きていくのか。中国の台頭とともに、私たちは中国と生きていかなくてはならなくなったのです。 以前、中国は貧しい国でした。だから脅威だった。けれども今は豊かになりました。豊かになった中国は、自由な取引を受け入れ、市場を開いています。脅威ではなく友人として接することができます。 中国が巨大な軍事力を築いていると見る人もいるかもしれませんが、豊かになれば当然のことです。同じくGDPの1%を軍事費に回したとしても、貧しい時の1%と豊かになった後の1%ではまるで規模が違うのですから。 米国と中国は今後、深刻な対立には向かうことになるとお考えですか。 マハティール:中国は成長しています。世界首位の経済大国になるでしょう。米国は、世界のトップにいることを諦めたいとは思わないはずです。ですが米国が中国を威嚇することがよいこととは思えません。この地域に必要なのは平和です。通商関係です。軍艦はいらないのです。かつて西洋の国々が軍艦を送りつけ、同意を強要するような「ガン・ボート外交」を展開し、中国がそれに屈したという歴史があります。今また同様のことをしているように見えます。 戦争が起こることはないかもしれません。ですが、米国から中国への圧力はこの地域に緊張を生みだします。それはビジネス環境としてよいものではありません。 ですが、中国は、日本とは尖閣諸島の、そして、フィリピン、マレーシアも南シナ海の島嶼の領有権をめぐって争っており、その中で強硬な手段をとっているように思いますが、それについてはどのようにお考えでしょうか。 マハティール:中国は、これらの島が中国のものであると主張しています。そして、我々は、我々のものであると主張しています。この争いが戦争となれば、勝利を収めたとしても莫大なコストがかかります。交渉するしかありません。これはマレーシアの経験でもあります。インドネシア、シンガポール、タイなどと領有権をめぐる問題が起きた場合、マレーシアはすべて交渉をすることで問題を解決してきました。これが文明人のふるまいです。 それでは交渉は粘り強く続けるとして、中国の強硬手段にはどのように対処すべきなのでしょうか。 マハティール:中国に軍艦を送れば送るほど、中国はより攻撃的になります。中国も戦争をしたいとは思っていないはずです。平和に暮らし、貿易をし、豊かになりたいと考える人が大半です。そうした人たちと話し合う方法を探すべきです。 過去を忘れなさい、先を見ることが繁栄をもたらす 今、アジアで最も信用に足るとお考えになる国はどこですか。中国でしょうか。 マハティール:我々は、すべての国と友人です。中国、あるいは、日本とも対立したくありません。ドイツとフランスが過去を忘れて友人となれたのに、なぜ、中国と日本はできないでしょうか。過去を忘れなさい。過去には、何度も戦争が起き、多くの残虐行為がありました。しかし、忘れなければならない。連合軍はドイツのドレスデンなどの都市を壊滅的に破壊しました。しかし、今日、ドイツはEU(欧州連合)のメンバーではありませんか。これによって、欧州には戦争はなくなりました。しかし、ここ東のアジアでは、未だに60年以上の前のことで言い合いを続けている。その戦争が、今日の我々の行動にまだ影響を及ぼしているのです。過去を見るのではなく、将来を見なければなりません。もちろん過去の記憶は、二度と過ちを繰り返すことのないように覚えておかなければならない。しかし、平和に暮らすためには先を見なければならない。それが繁栄をもたらすのです。 ウクライナ情勢については、どのようにご覧になっていますか。 マハティール:西洋国家は「民主主義」を標榜しています。しかし民主主義とはいったい何でしょうか。多数決の勝者を受け入れられない場合、民主主義ではありません。ウクライナも、エジプトもそうですが、選挙によって政府が生まれたのちに、それに満足できない人々がデモを組み、政府を打倒しようとする。これは民主主義ではありません。本来は次の選挙まで待ち、競い、勝てばよいのです。しかし、米国は、国民によって選ばれた政府を打倒しようとする非民主主義なプロセスを支持している。選挙で選ばれた政府を打倒する人々をサポートすることは、民主主義ではありません。民主主義を支持すると言いながら、選挙で選ばれた政府が嫌いだから政府をデモで倒そうとしている人々をサポートする。これは偽善でしかありません。 安倍政権をどう見ていますか。 マハティール:安倍晋三首相は、日本経済に対して(アベノミクスによって)非常に良い仕事をしました。しかし、中国を挑発する必要はありません。中国や韓国の怒りを分かっていながら、わざわざ靖国神社に参拝する必要はないでしょう。お互い挑発し合うべきでありません。 最後に、日本社会、もしくは日本人に対してメッセージがあればお伺いしたいと思います。 マハティール:日本は戦争を経験し、破壊から立ち直りました。日本は常に平和を求めなければなりません。日本が戦争を禁止しているのは、一番素晴らしいことです。戦争を禁じる条項を持つ国は世界中で日本だけです。しかし今、その条項を書き直そうとしたり、取り除こうとしている。我々は、緊張関係を作らない様に努力すべきです。 日本には高い技術力があります。他に負けない優位性を持っている。しかし、中国、韓国などとの競争に直面している今、日本は、それらを生かして、強い経済を取り戻すためのルールや条件作りが出来ていないと思います。日本が得意とするハイテクを通して、地位を奪い返すべきです。他と戦うために、技術をどう活用してくのかを考えてほしいと思っています。 このコラムについて アジアの苦悩 米中激突の最前線 購買力平価ベースの試算によれば、米中のGDP(国内総生産)は年内に逆転する。巨大化する中国経済は、アジアへの影響力をますます増していくだろう。中国・習近平政権は、アジアの安全保障を担う意思を示して米国に挑みつつある。対して、オバマ政権は「アジア旋回」を宣言し、同盟国を歴訪してTPP交渉を進め対抗する。互いを必要としながらも牽制し合う米中二国がパワーゲームを演じる時、その舞台となるアジアに何が起きるのか。その最前線に迫る。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/40916 JBpress>日本再生>国際激流と日本 [国際激流と日本] 中国の首脳陣が憂慮する6つの難題 米国防省が中国の「弱み」を指摘 2014年06月11日(Wed) 古森 義久 中国の最高指導者たちは自国の軍事力の拡大に懸命のようだが、その一方、国威の発揚にとって陰りや障害となり得る要因にも深刻な懸念を向けている。それらの気がかりとなる要因とは何なのか。米国の国防総省が6月5日にリポートを発表し、興味深い指摘を行っている。その内容を紹介しよう。
米国防総省が発表した「中国の軍事力と安全保障の展開に関する報告、2014年版」は、2001年からその作成と議会への送付が法律で義務づけられた年次報告書である。当初は「中国の軍事力報告」と名づけられていたが、オバマ政権になって現在のタイトルへと変えられた。オバマ政権のソフトな対中姿勢を反映したタイトル修正だった。 http://www.defense.gov/pubs/2014_DoD_China_Report.pdf 今回の報告も、中国が継続して推進する陸海空軍、そしてサイバー空間や宇宙での大規模な軍事能力増強について、具体的な兵器や作戦にまで触れて詳述していた。同報告は、中国の当面の戦略目標を「激烈な地域的有事に際して戦闘を実行し、短期に勝利するための軍事能力を高める」ことだと規定する。 その具体例として、まず「台湾海峡での衝突に備え、米軍を抑止し、撃破することも含めて」十分な戦闘能力を保持することを挙げる。さらに「人民解放軍は台湾有事以外にも南シナ海や東シナ海での有事への準備に重点をおくようになった」と述べる。同報告が東シナ海と南シナ海の有事をこれほど重点的に記したのは初めてである点に、日本側は留意すべきだろう。 中国に立ちふさがる6つの難題 さて、同報告でさらに注目したいのは、米国側が見た中国首脳陣の長期的な戦略である。 同報告は次のように記す。習近平政権の中国共産党首脳陣は、現状を、自国が経済発展、領土保全、国内安定などを強化する戦略的な機会と捉え、そのための主要手段として軍事力を強化している。しかし、現在は好ましく見える安全保障環境も、いくつかの要因によって自国の戦略的な発展が阻害される恐れがあることを懸念している、というのだ。 同報告が挙げるそれらの要因とは以下の6点である。 【経済成長の鈍化】 中国の首脳陣は、自国経済の堅固な発展の継続こそが社会の安定、そして対外戦略の基盤だと見ており、経済の破綻や停滞は、対外的なパワーの拡大にも重大な支障となると懸念している。経済成長を阻害する可能性がある要因としては、第1に投資と輸出への過度の依存状態から抜け出せないことが挙げられる。第2には世界の貿易パターンの変化、第3に国内資源の制約、第4に賃金の値上がりと労働力不足、第5にはエネルギーなど海外の資源が入手しづらくなることなどである。 【ナショナリズムの危険性】 中国共産党や人民解放軍の指導層は、共産党の統治の正当性を支え、国内の党への批判を抑えるために、ナショナリズムを一貫して利用してきた。諸外国との対話を拒むうえでも、ナショナリズムをその理由にして、利用してきた。ところがナショナリズムは首脳陣にとって諸刃の剣となりうる。対外戦略上、柔軟な政策を取りたくても、国内のナショナリズムの高まりで、逆にその制約を受けてしまう危険があるのだ。 【東シナ海、南シナ海をめぐる緊張】 東シナ海をめぐる日本との緊張関係、南シナ海をめぐる複数の東南アジア国家との緊張関係は、中国の周辺の地域や海域での安定を崩すことになる。中国と対立する各国は、米国のアジアでの軍事プレゼンスの増大を求める。さらには、それら各国が独自に軍事力を強める可能性や、米国との軍事協力を強める可能性もある。こうした可能性が現実になれば、いずれも中国に対抗する軍事能力の増強につながり、中国の軍事力を相対的に弱めることとなる。 【蔓延する汚職】 中国共産党は、党内の腐敗をなくし、国民の要求に対して責任ある対応を取ることを国民から求められている。同時に党内の透明性や責任の履行も求められる。共産党がこれらの要求に応じない場合、一党支配の正当性が脅かされることになる。いま中国全土で、一般国民の共産党に対する不信や不満を抑えるために、国家レベルの汚職追放の運動が展開されている。だが、党がどこまでその運動を許容するかはまだ未知数である。その結果次第で共産党への不信がさらに広まる可能性がある。 【環境問題への対応】 中国経済の高度成長によって、国民は環境面で多大な犠牲を強いられている。首脳陣は国内の環境汚染の悪化にますます懸念を抱いている。環境悪化は経済発展や公衆衛生、社会の安定、中国の対外イメージなどを損ない、最終的には政権の正当性をも脅かすことになる。中国の国家経済全体の成長を抑えつけることにもつながり、大きな政治的危険をはらんでいる。環境問題が政治に及ぼす影響に、首脳陣は最近特に悩まされているようだ。 【高齢化と少子化】 中国は、いま高齢化と少子化という人口動態上の二重の脅威に直面している。少子化の結果、出生率は1.0 以下へと低下した。国民の平均寿命が延びると、中国政府は社会政策、健康政策への資源配分を増やさなければならなくなる。同時に出生率の低下によって、若く安価な労働力が減少する。これまでの30年は、安価な労働力が中国経済を高度成長させるカギとなってきた。人口の高齢化と少子化は、経済を停滞させ、中国共産党の正当性を脅かす。 今回の米国防総省の報告は、中国の軍事能力そのものを調査し、公表することが主な目的だが、中国共産党の指導層は自国の戦略的発展を阻害する要因として上記のような諸点を心配していると解説している。これらは、いわば現代の中国の弱みだとも言えよう。日本側としても中国をウォッチする上で心に留めておくべき指摘である。
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