02. 2014年5月30日 10:00:03
: nJF6kGWndY
問われるITグローバル企業 宋 文洲ご存じの方も多いと思いますが、中国政府がスノーデン事件以来、徐々に 米国のIT企業の製品を警戒し始めました。そして近日、とうとう政府部門と 国営企業においてサーバーを米国におくソフトウェアの使用を禁止しました。 2、3年前、私が日本版Googleを開くと携帯電話番号を聞かれました。 入力しないと「使えなくなる可能性がある」と脅かされました。すぐ他の検索 エンジンに変えたい気分でしたが、日本にはもう実質グーグルしかありません。 また、以前このメルマガでも触れましたが、アップルストアでは無料なのに クレジットカード番号の入力を求めることにも怒りを覚えます。案の定、 うちの子供が予想外のお金を使ってしまいました。誘惑に負けたのか、 ただのミスなのかはわかりませんが、同様な被害を受けたのは我が家だけでは ないと思います。 私は中国政府による一部米国IT企業への規制には賛成です。一部の米国IT企業は 言論の自由を守る闘士のような姿勢をみせて中国政府の要望を跳ね返して 撤退しましたが、その後、米国政府による顧客データへのアクセスを許した と認めました。この「特別サービス」は決して他の国の政府に与えないでしょう。 しかし、私が一部米国IT企業への規制を支持する理由は言論や政治と関係は ありません。元プログラマーとして、そしてIT企業の元経営者として反対です。 企業は顧客の所在国の政治枠組みから完全に離脱して運営することは できません。本社が東京にあるのに、日本政府の法律や日本政府の指導に 反することはできません。米国の国益は中国やロシアのようなライバル国 だけではなく、日本や英国のような同盟国とも矛盾する場合がよくあります。 立法も規制も異なる国民と消費者の好みと利益を代表しているのに、 米国の国益に合せて一つにしてサービス提供することはコストは安いが、 顧客中心ではありません。 中国人が米国のクラウドソフトウェアに不満を覚えても自国政府を通じて 変えることができません。異なるシステムを選択したくても、数年先に 進んだ米国IT企業によって市場が寡占されたので我慢するしかありません。 米国のIT企業に一定の規制をかけないと自国の産業育成ができないだけではなく、 その国の消費者に合った、まったく新しいサービスも生まれなくなります。 中国ではそんな米国のIT企業を規制したおかげで面白いサービスがたくさん 誕生しています。最近NYで上場した京東(JingDong)はその典型です。 サイトを開いて好きな商品を注文すればだいたいその日のうちに玄関まで 持ってきてくれます。カード番号など聞きません。中国の消費者はそもそも 大事な情報をネットに入れないのです。どの企業が信用に値するかを 考えるのも面倒です。「商品を確認してから支払う」という買い物の基本に 従えばよいだけです。 京東の配送員達が商品を渡すと同時に現金でもクレジットカードでも支払 できます。ITを分からない老人も、私の妻のような中国に慣れていない 日本人でも安心して買い物できます。先日も京東のホームページから シャープの空気清浄機をクリックしましたが、その日のうちに我が家の 空気が変わりました。 京東は創業して10年目ですが、売上が18兆円になりました。これは中国市場に 「グローバル・スタンダード」を教える米国企業には決してできない業績です。 ちなみに中国政府はアマゾンなどの外国電子取引商にいっさい規制を かけていません。 P.S. サーバーを中国に置かない米国IT企業への規制は日本のソフトウェアにとって チャンスだと思うのは私だけでしょうか。 (終わり) 今回の論長論短へのご意見はこちらへ↓ http://krs.bz/softbrain/c?c=3782&m=43118&v=e39497bd ※いただいたご意見は自動的にコメントに掲載されます。 名前も掲載されますので、問題がある場合はペンネームをご入力ください。 また、次回以降の宋メールでご意見を掲載させていただく可能性がありますので ご了承お願い致します。 宋のTwitterはこちら↓ http://krs.bz/softbrain/c?c=3783&m=43118&v=461f07b3 今までの論長論短はこちら↓ http://krs.bz/softbrain/c?c=3784&m=43118&v=884ffb1b ■ 2.斎藤淳子さんエッセー コンピューターで中国は変わるか? ライター 斎藤淳子 「空気」や虚構に縛られない自由な個性や臨機応変さは中国の魅力でも あるのだが、お役所の窓口の人だけはもう少し「きっちり」やってもらいたい といつも思う。 中国経験者なら誰もが知るように、中国での役所の手続きは忍耐力と運 なくしてはほとんど遂行不可能だ。まず必要書類が何なのかを聞き出すのに 一苦労する。ようやく第一難関を突破し、言われた書類を揃えて今度こそと 手続きに赴くのだが気を抜くのはまだ早い。担当者の知識量や気分によって 必要書類や受理条件は変わってしまうのだから。中国での手続きは最後まで サスペンスなのだ。 15年近く前の話だが、運転免許証書き換えの申請だけなのに係員の顔色を うかがいながら祈る思いで手続きをしたのを覚えている。悪態をつく北京市 交通局の担当者を前にとにかく忍の字でやり通した。 しかしあれから10年以上の月日が流れ中国もデジタル行政の新時代を迎えている。 例えば、北京では小中学校の学籍登録や入学枠の割り振りは全てコンピューターで 行い、人の恣意性を排除する方向でシステム化が進んでいる。 今私が注目しているのは、知人の小学校でやったという自宅のコンピューター 経由で実施する学校教師の評価だ。これなら、前回のエッセーに書いたケースの ように強権的な先生がアンケートを集めながら書き込みをチェックして生徒に 圧力をかける事もないだろう。この手の市民参加型の行政評価はコンピューターや スマホの普及で庶民が手にした全く新しいツールだ。 他にも、北京の中国人パスポート申請手続きの手際の良さは東京都庁の旅券申請 窓口と同レベルに達している。15年前の北京交通局の対応とは隔世の感がある。 また、市内の改築された総合病院に行ったが競馬場のように混沌とした従来の 中国の病院とは全く違って快適だった。日本のように全てがコンピューター 管理になっていて、電光掲示板に患者番号や氏名や診察室などが公表されるため 患者の割り込みもなく、検査結果の受け取りも早く非常に効率的に診察が済んだ。 また、医師仲介業者のネットには患者による医師の評価がたくさん公開されて いるし、ネットでの病院予約も始まっている。 自動化された病院は素晴らしかったと知己の中国人の友人に話すと彼は、 「中国は人がかかわるとすぐぐちゃぐちゃになるから、最も自動化が必要と される国です」という。深く頷いた。 北京の街中には無料で使えるWi-Fiが張り巡らされていて、東京よりネットインフラは 整っている。人間を形作るのは環境だとすれば、デジタル行政による社会サービスの 規範化と庶民の情報発信や共有が可能になれば中国はきっと変わる。 私は最近そう信じることにしている。 (終わり) |