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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第77回 中国の内憂外患
http://wjn.jp/article/detail/9374413/
週刊実話 2014年6月5日 特大号
中華人民共和国の「局面」が、4月30日に、決定的に変わってしまった。
東トルキスタン(新疆ウイグル自治区)のウルムチにおいて、習近平国家主席が視察に訪れたタイミングで、主席を狙ったと思われる爆破テロが発生したのだ。新華社通信は死者3名、負傷者数十名と伝えているが、中国共産党が最近、ウイグル関連の言論統制を強めていることを考えると、実際の死傷者数は不明である。
ちなみに、東トルキスタンの中国式呼称「新疆ウイグル自治区」の「新疆」とは、「新たな領土」という意味になる。
元々、この地域に住んでいたウイグル人にとっては、新しい領土でも何でもない。というわけで、筆者は独立派のウイグル人が好んで使う「東トルキスタン」を、あえて用いている(ついでに書いておくと「ウイグル族」という呼び方も問題だ)。
さて、ウルムチでの爆破テロだが、よりにもよって、習近平国家主席が「テロに対しては、厳しく先手を打って対応する」と、テロ対策の強化を指示した直後のタイミングで実行に移された。
習主席本人は難を免れたものの、「習近平政権」に対するインパクトは、凄まじいものがある。何しろ、意外に思うかも知れないが、中国で国家主席を狙ったテロが発生したのは初めてのケースだ。
5月12日、中国のメディア『サーチナ』が、新浪財経の報道を引用し、中国不動産市場の「調整」の記事を配信した。
中原集団研究センターによると、5月1日から3日にかけての連休中に、中国54都市における新築住宅の売買件数が、何と前年比で47%減にまで落ち込み、過去4年で最低の水準に至ったとのことである。
中国の不動産投資(GDP上の民間住宅)はGDP全体の16%を占める。
しかも、債券を発行できない地方政府は、不動産の売却益(厳密には使用権の売却)をメーンの財源としてきた。中国の不動産バブル崩壊は、民間経済のみならず、地方財政をも直撃するのだ。
現時点で、少なくとも上海や天津など、沿海大都市の不動産価格の上昇が頭打ちになってしまったのは確実だ。
不動産価格の下落は、すでに首都の北京にも波及している。
先日、北京の大手デベロッパーが販売したマンション価格が、1平方メートル当たり2万2000元(約36万円)と、元々の予定価格より3000元(約5万円)値下げされて販売され、中国の不動産市場に衝撃を与えた。
もっとも、1平方メートル当たり36万円ということは、70平米だと2520万円になる。
いずれにしても、中国の国民所得から考えると「高すぎる」価格ではある。
中国経済の失速は、すでに実体経済の指標にも表れている。
HSBCが発表する恒例の製造購買担当者指数(PMI)の4月確報値は、48.1であった。PMIは中国経済の先行きを示す指標で、50を下回ると「経済失速」を意味するのだが、4月は速報値の48.3からさらに下方修正されてしまったのだ。
民族問題の悪化、経済失速に加え、環境問題の深刻化も継続している。
一部の都市では、人体に有害な微粒子PM2.5が、「測定不可能」な濃度になることも少なくない(測定器のメーターを振り切ってしまうのだ)。
中国は大気汚染対策として、自動車の排ガス規制を2013年7月に開始した。自動車の排ガスに含まれる一酸化炭素、炭化水素、窒素酸化物、粒子状物質の4種について、既定の数値以下に抑えることを義務付けたのだ。
法律が施行されたことで、基準を満たさない自動車は販売や登記が不可能になっているが、例により「偽の合格証」が出回っている。排ガス規制を満たさないディーゼル車が、「基準合格取得車」として堂々と販売されている有様だ。
現在の中国にとって、「環境問題の解決」と、「経済成長の持続」は明らかにトレードオフ(一方を追求すれば他方を犠牲にせざるを得ない状態)の関係になる。
中国共産党が自らの権威を維持するために、経済成長路線を継続しようとすると、必然的に国内の環境問題は悪化する。
環境破壊からは中国共産党幹部ですら逃れることができない。
自らを守るために、経済成長路線を放棄できない中国共産党は、日に日に悪化する環境に苦しめられる中国人民の怒りを、真正面から受け止めざるを得ないのだ。
さらに、中国は現在、東シナ海の尖閣諸島で日本と対立しつつ、同時に南シナ海でも東南アジア諸国との軋轢を強めている。
5月12日、南シナ海のパラセル諸島(西沙諸島)近海で中国とベトナムの艦船が衝突。互いに放水し合う映像がベトナム国営放送により流された。
アメリカのケリー国務長官は、
「我々が抱える新たな問題は、西沙諸島での中国の挑戦だ」
と、コメント。中国の挑発を「国際法に基づく秩序への挑戦」と非難した。ケリー国務長官が、中国を名指しして批判したのは、実は初めてである。
また、中国が南シナ海のスプラトリー諸島(南沙諸島)で実効支配している暗礁に、大量の砂を持ち込み、埋め立てにより陸地を拡張していることが発覚。すでに小規模な基地を設置し、フィリピン側が、
「暗礁を島にする異例の動きで、基地強化の一環」
と、警戒をあらわにしている。
フィリピンは5月6日、スプラトリー諸島のハーフムーン礁沖合で、海洋警察が中国漁船一隻を拿捕。フィリピン外務省が、
「中国漁船は多数の絶滅危惧種を積んでいた。フィリピン海洋警察は海洋法の順守や、主権の維持のために業務を執行した」
とする声明を発表したのだが、中国側は有効な対抗策を打てずにいる。
中国の海洋戦略は、明らかに手詰まりな状態に陥ろうとしているのだ。
民族紛争、バブル崩壊、環境破壊、そして外国との衝突。というよりも、環境問題や民族問題、経済問題が「どうにもならなくなった」結果、人民の目をそらすために南シナ海での軍事的圧力を強めているという考え方も、当然ながらあるわけだが、それすらも限界に達しようとしているのである。まさに、内憂外患だ。
いずれにせよ、史上初の「主席を狙ったテロ」が発生した中国は、2013年までとは「異なる局面」に入った可能性が濃厚である。
冗談ではなく、大げさでもなく、日本は「中国の混乱」に真剣に備える時期が来たのだ。
三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。
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