01. 2014年5月21日 13:47:51
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実効支配を着々と進めるのは重要なポイントhttp://jbpress.ismedia.jp/articles/print/40734 JBpress>海外>アジア [アジア] ベトナムに3方面から圧力をかける中国 緊迫する南シナ海情勢と国内で鬱積する不満に難しい舵取りを迫られるベトナム政府 2014年05月21日(Wed) 細野 恭平 南シナ海の西沙諸島の周辺海域に中国海洋石油が石油掘削基地を設置する動きを始めたことで、中越間の関係が緊迫化している(「中国とベトナムに大規模な軍事衝突はあるのか?」参照)。 ベトナム国内では、各地で反中国の大規模なデモが発生した。報道を見る限り(19日時点)、最も過激だったのが、台湾プラスティックグループの建設現場がある北中部ハティン省のようだ。 14日朝に始まったデモは、夕方にはベトナム人約5000人の規模にまで拡大し、約1000人の中国人と対峙。深夜には終息したが、この日の暴動で4人の死者が出たとされる。また、南部では、13〜15日にかけてビンズオン省を中心に反中デモが激化。日系も含めて近隣の工場は操業停止に追い込まれた。南部全体での逮捕者は約1000人にも上った。 反中デモを受け中国人3000人以上が出国、ベトナム ベトナム・ハノイの中国大使館近くの通りで、反中デモの参加者(中央)に退去するよう求める女性警察官。©AFP/HOANG DINH Nam〔AFPBB News〕 一連の動きに対して中国政府は、ベトナム国内の中国企業で働いている中国人ら約3000人を帰国させたと発表。 中国人4人が死亡したとされるハティン省にはチャーター機を派遣し、負傷した中国人らを本国に送還した。また、ベトナム在住の中国人を帰国させるため、さらに艦船5隻を現地に派遣することを決めたと報道されている。 こうしたデモは一部地域で限定的に発生したものであり、かつ現在は沈静化している。ベトナム政府の取り締まりも厳格で、ベトナム全土に反中国の炎が広がっているような状況では決してない。 国内はいつもの通り南国的な平和な日常に戻りつつある。このまま沈静化することを願いたい。 中国による西沙諸島実効支配の歴史 反中デモは盛んに報道されているが、そもそも西沙諸島をめぐる中越の歴史的な紛争の経緯があまり伝えられていないようなので、事実関係を簡潔に整理しておく。 今回問題となっている西沙諸島は、フランスの植民地時代から開発された地域だ。フランスの撤退後、南ベトナムが西半分を、中国が東半分を各々実効支配した。その後、ベトナム戦争終了直前の1974年、弱体化した南ベトナムが実効支配していた西半分を中国軍がどさくさに紛れて攻撃して、西沙諸島全域を支配下に収めた。 その後も、中国は実効支配の手段を段階的に拡大させてきた。1991年には諸島内に軍用滑走路を建設。2012年には、三沙市という西沙・中沙・南沙諸島の3つの諸島をまとめて統治する市を新設した。 ベトナムの主張からすれば、明らかに中国によるベトナム領土の強奪。しかし、中国からすれば、1974年から40年にわたって実効支配している自国の固有の領土ということになる。 どちらに帰属するかという話は置いておくとしても、中国のこうした西沙諸島の実効支配の経緯は、同じく中国と領土紛争を抱える日本にとって、対中戦略を検討する上で、参考になると思われる。 反中デモに内包される若者の政府への不満 中国、南シナ海の石油掘削継続を明言 ベトナムと真っ向対立 訪米中の中国人民解放軍の房峰輝総参謀長は15日、ベトナムと領有権をめぐり対立している南シナ海での石油掘削の継続を明言した〔AFPBB News〕 ベトナムで反中デモは特に珍しいことではない。ただし、今回のようにデモ隊が暴徒化して、器物損壊や死傷者が出るということは極めて例外的だ。 ベトナムの歴史は、一言で言えば中国との戦いの歴史であり、確かに、中国に対する鬱積したベトナム国民の不満が爆発しているという事実はある。 ただし、看過できないのは、ベトナム国内での経済的な格差拡大による不満の高まりだ。今回の暴動の参加者は圧倒的に若者が多かったと、実際にデモを目撃した韓国人の友人が語っている。 ベトナムは平均年齢が20代後半で、若者が多い。しかし、実は若者の失業者というのも、統計に表れていないだけで、かなり多い。 弊社(DIベトナム)は、RMITというホーチミンの優秀な私立大学から毎年新卒を採用している。同大学の卒業生の話を聞くと、卒業時点できちんとした職に就いている人の比率は約5割、2割が無給のインターンで、3割は就職活動中という。 私立の一流大学で、この比率である。よりレベルの劣る大学の状況たるや推して知るべし。ある意味、日本よりも状況はひどい(日本は最近は就職率は好調らしいが)。 ここ数年、ベトナム経済は停滞している。賃金は上昇しても、労働生産性が上昇していない。いわゆる、典型的な中所得国の罠に陥りつつある状況だ。停滞する経済が、巨大な労働適齢期の人口を吸収し切れていない。 政府統計による失業率は低いが、これは、定職に就かない若者がバイクタクシー運転手や農業手伝い(と言っても、どちらもブラブラしているだけだが)として就業者に無理矢理カウントされているだけである。 一方で、外資系の会社に就職した若者は、弊社でもそうだが、就職して数年後にはベトナムの平均給与の数倍の給料を稼ぐようになる。こうした社会の不平等の歪が、今回の反中デモを通じて顕在化している。 ベトナム共産党がデモの取り締まりを強化したのは、反中国デモが、反政府デモに転じる可能性を危惧したという側面も大きいはずだ。 中国の対ベトナム「3面方向戦略」 デモの考察はここまでとして、対中関係をもう少し分析したい。 ベトナム研究の第一人者である早稲田大学政治経済学部の坪井善明教授によると、ベトナムの政府要人は、中国が3面方向からベトナムに圧力をかけてきていると認識しているという(以下の太字は、坪井先生の分析を引用させていただく)。 1つ目は、今回の南シナ海。 2つ目は、中越国境地域。ベトナムは中国の雲南省・広西省・チアン自治区とラオカイ省・ランソン省・クアンニン省の3つの省で国境を接している。陸路なので主要な3つの国際道路、それ以外に26の道路で国境通過ができるようになっている。 麻薬や武器の密輸、人身売買用にベトナム女性の誘拐等、入国管理を巡る問題だけでなく、山奥では国境ラインがいつの間にかベトナム側に入り込む形で数十メートル内側に新しく引かれたりするケースも起こっている。 3つ目は、カンボジアからの圧力である。カンボジアに巨額な政府開発援助資金や紡績業への直接投資等を集中させている。こうして政財界に中国の影響力を増大させ、ベトナムの影響力を削ぐ政策をここ20年間くらい継続して取ってきている。 その結果、2012年のカンボジアがASEAN議長国であった時のASEAN首脳会議では、ASEANが一致団結して中国に対して南シナ海での国際法を無視するような進出を非難する決議案は議長国のイニシアティブで拒否されるという結果を生じさせた。 これほどまで、カンボジアは中国寄りになっている。カンボジアの態度の変化を悪しざまに言うベトナム人の悪口では、「カンボジアは中国にカネで買われた」ということになる。 筆者も中国のカンボジアへの積極的肩入れには、強く思い当たる節がある。これまで前職の国際協力銀行時代以来、何十という途上国の政府を訪問してきたが、カンボジアの役所の建物が群を抜いて、分不相応に立派だった。 その建物の中で働く友人のカンボジア政府高官から聞いた話では、建物の建設費は約50億円だが、それを中国政府がただで造ってくれたという。 おしとやかな日本外交にはできない、したたかな中国外交である。 ベトナムは3方面からの圧力にどう対応するのか? 前回も書いたとおり、ベトナムは中国に真正面から戦いを挑んだら負けるということを、共産党幹部から民草に至るまで、卑屈なまでに自覚している。繰り返しになるが、全面的な軍事衝突はベトナム政府のオプションにはないだろう。 一方で、今回は国家の主権にかかわる問題だけに、国内の政治的安定という意味で、ベトナム共産党も中国への容易な妥協は世論が許さない。 短期的には、ベトナム共産党はASEANや日米の支援を訴えつつ、中国側に石油掘削基地を撤去させ、西沙諸島は2国間で係争中であるという事実を認めさせるという方針を取る可能性が高い(中国は、日本の尖閣諸島に対する見解と同様に、西沙諸島に領土問題はないという立場を取っている)。 一方、今回の事件は、より中長期の大きな政治力学の中でとらえれば、ベトナム共産党が中国との関係を断ち、米国との結びつきを強化する歴史的な転換点になる可能性が高いと、政府高官に近い立場の複数のベトナム人の友人が語っている。これについては、次稿でもう少し詳しく述べたい。 |