02. 2014年4月16日 09:34:16
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JBpress>日本再生>国際激流と日本 [国際激流と日本] 幻に終わりそうな米国の「アジアへの旋回」戦略 中身は迷走し、予算は不足 2014年04月16日(Wed) 古森 義久 米国のオバマ大統領の来日が迫ってきた。東京での日米首脳会談では、改めて米国の対アジア政策が論じられるだろう。その米国の対アジア政策での焦点は、オバマ政権の「アジアへの旋回(Pivot)」戦略である。「アジアへの再均衡(Rebalance)」とも表現される。 だがその実行はまずできないのではないか、という率直な意見が米国防総省の担当高官から表明され、ワシントンの政策形成者たちの間で論議や懐疑が再び燃え上がっている。 「アジアへの旋回」は、米国がイラクやアフガニスタンに投入してきた軍事力が両国からの撤退で余裕ができた分、アジア・太平洋に回すという軍事主体の新戦略だった。オバマ政権はその第1期の2011年末頃から概要を打ち出し始めた。当初は国防総省の「空・海戦闘」戦略という一連の軍事強化政策が土台となった。 だがその後、この政策が変容を遂げていく。現在では「アジアへの旋回」の中身は極めて曖昧になってしまったと言える。 当初の戦略は中国が“仮想敵”だった 当初の「空・海戦闘」戦略は、「海洋戦略」「空軍力」「海軍力」「サイバー攻撃力」「宇宙開発」という5分野に及んでいた。具体的な内容としては以下のような目標が挙げられた。 ・中国の新型の対艦ミサイル破壊のための空海軍共同作戦 ・米軍用の人工衛星の機動性の向上 ・中国の「接近阻止」部隊への空海両軍共同のサイバー攻撃 ・有人無人の新鋭長距離爆撃機の開発 ・潜水艦とステルス機の合同作戦 ・海空軍と海兵隊合同の中国領内の拠点攻撃 ・空軍による米海軍基地や艦艇の防御の強化 こうした目標を見ると、いかにも米軍が中国軍を相手に戦争を始めるかのようにも思える。だが実態はこうした目標を可能にする措置を取り始める、ということだった。 さらに奇妙なことに、これだけ明確にこの新戦略の対象が中国であることが示されていたのに、オバマ政権全体としては公式に「決して中国を対象や標的としているわけではない」という言明を繰り返すようになった。中国を刺激したくないという外交配慮だった。 中国が自陣営に入っているかのような表現も しかも上記のような軍事戦略は実際には履行されないまま、オバマ政権内部では「アジアへの旋回」自体がその軍事要素を薄め、目的を広げ、薄めていくような動きが目立つようになった。 オバマ大統領が再選を果たした直後の2012年11月中旬、同大統領の国家安全保障担当のトム・ドニロン補佐官がワシントンでの政策発表の場で、「アジアへの旋回」について改めて以下のように説明した。 ・アジアへの旋回も再均衡も、いかなる国をも封じこめる意図を有していない。 ・同盟諸国との絆の強化(日本との安全保障上の役割、任務、能力の向上、韓国との安保協力の増強、オーストラリアとの合同演習の拡大、フィリピンとの海洋安全保障の協力の強化など) ・インドとの安保協力の促進(米国とインドとの戦略対話の拡大など) ・アジア・太平洋の地域機構との関与の深化(G20やASEAN〈東南アジア諸国連合〉との連携、中国やインドネシアを含む東アジア首脳会議への関与など) ・中国との安定した建設的な関係の追求(北朝鮮、イラン、シリアなどの課題は中国との関わりなしには解決できない。対中関係は協力と競合だが、中国が国際的、あるいは国家としての責任を果たすかどうかがカギとなる) ・アジア・太平洋の地域の経済枠組み(貿易や投資の拡大、特にTPP〈環太平洋経済連携協定〉の推進など) 以上だけを読むと、当初の「空・海戦闘」からの大幅な後退に見える。当初は中国の軍事脅威を明白な対象としていたのに、ここでは中国が自陣営に入っているかのような表現もあったからだ。 だからオバマ政権の「アジアへの旋回」は、目的や内容が分かっているようで、よく分からないのである。それでもなおその政策の中核がアジア・太平洋地域での米国の軍事能力を高めるという具体的な措置であることは変わらない。ただその軍事力増強をどのように進めるかが見えてこないのだ。 マクファーランド次官補がもらした本音 そうした状況の中、この3月にワシントンで、オバマ政権の国防総省のカトリーナ・マクファーランド次官補(調達担当)が「率直に言って、『アジアへの旋回』は実現が難しく、その計画全体がいま見直されている」と発言したのである。安全保障関連の公開の会議での発言だった。現職の国防次官補、しかも兵器類の調達担当の高官が述べた言葉はなんといっても重い。 マクファーランド次官補は、「国防予算を削減しなければならないため、『アジアへの旋回』の純軍事部分の実行は困難すぎるという意味だ」とも説明した。この発言は、それでなくとも広がっていたオバマ政権のアジア重視政策の軍事的側面の実効性に対する懐疑を一気に広めたのだった。 同次官補の言葉を文字通りに受け取れば、オバマ政権がこれまでさんざん宣伝してきた「アジアへの旋回」そのものが幻に終わってしまう可能性があるということだ。 国防総省当局はこのマクファーランド発言にあわてて、本人に「補足説明」をさせることになった。マクファーランド次官補は「先の発言は2015年度の国防予算についてだけの話しであり、『アジアへの旋回』の中長期の展望についてではなかった」と苦しい弁明をする結果となった。だがどう見ても、いまのオバマ政権の国防予算の大幅な削減が、軍事面でのアジア重視策の実行を極めて難しくしているという現実をますます浮かび上がらせることになった。 この発言をめぐる騒ぎで再び浮かんだのは、「アジアへの旋回」という政策が果たして具体的に何を意味するのか、という基本的な疑問だったとも言える。オバマ大統領は今回のアジア諸国歴訪で、日本のみならず韓国、マレーシア、フィリピンなどの諸国の首脳にも、より具体的な説明を求められることは確実だろう。 |