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中国の軍改革 習近平の本気度は?
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20140402-00010001-wedge-cn
WEDGE 4月2日(水)12時33分配信
■習近平自ら「党中央と中央軍事委に従え」
中国の国防費の増加が止まらない。3月13日、中国全国人民代表大会が閉幕した。今年の全人代に合わせて公表された2014年の中国国防予算は、前年実績比12.2%増の8082億3000万元(約13兆4400億円)で、4年連続の2桁の伸びとなった。中国国防費の急速な伸びは、周辺諸国が中国の軍事的意図に対して警戒感を有する理由の一つとなっている。
さらに、人民解放軍の改革を進める意志が明確にされた。全人代閉幕後の15日に開かれた第一回「中央軍事委国防・軍隊改革深化指導小組」である。トップである組長は習近平国家主席だ。習主席は講話の中で、「思想・行動を党中央と中央軍事委の決定や指示に統一させ、強軍目標を掲げて改革を推進せよ」と強調した。主席自ら「党中央と中央軍事委に従え」と強調しなければならなかったのは、実際にはそうではないことを示唆している。
そして、今回の全人代では、空軍が元気だったと聞く。会議後の記者のぶら下がり取材に対して積極的に答え、威勢の良い発言を繰り返したのだ。海軍も勢いがあったが、空軍の勢いはそれ以上だった。これは、これまで見られなかった光景だ。
2桁の国防費増加を見せ、習近平主席への集権化を加速して改革を進め、海空軍が自らの主張を積極的に公にする。こうした動きは、一見、中国が対外的な軍事力行使を近い将来に企図しているかのようだ。実際のところ、中国人民解放軍に何が起こっているというのだろうか。習近平主席は、人民解放軍をどうしたいと思っているのか。米軍の4年ごとの戦略見直しであるQDR2014でも、中国軍が近代化を進める意図について懸念を示している。
■改革推進の担い手は政府から党へ
閉幕したばかりの中国全人代は、予算を含む指導部の政策を承認するのが主たる仕事である。この場で新たな国家戦略や方針が示される訳ではないが、中国指導部が、どのような政策を用いて国家戦略を具現化するのかを見る良い機会ではある。
一方で、国家戦略を決めるのは5年に一度開催される党大会である。中国が進むべき方向を決めるのは政府の役割ではないのだ。2013年11月に開かれた中国共産党全国代表大会(18期三中全会)は、「改革」を強調するものだった。閉幕当日の11月12日には、「改革の全面的深化における若干の重大な問題に関する党中央の決定」を採択し、同日夕刻に発表された公報(コミュニケ)では「全面深化改革領導小組」と「国家安全委員会」の設置が明らかにされた。二つの新組織のトップは、習近平主席である。
これまでも、改革を進める組織として「国家発展改革委員会」が、中国の政府である国務院に存在していた。しかし、三中全会で新たに改革推進の組織を設立したということは、改革推進の担い手を、政府から党に移したことを意味する。
■制度よりも意識の改革
今回の全人代でも習近平主席の存在が目立った。政権発足当時の多くの予想と異なり、現在の李国強首相の影は非常に薄い。習近平主席が自らへの集権化を進めることに対して、中国国内でも、毛沢東時代への回帰を想起して、警戒感を示す見方もある。しかし、一方で、これこそが中国の改革の進め方だという意見もある。では、習近平主席が進めようとする改革とはどのようなものなのだろうか。
習近平政権が「改革」を強調しているにもかかわらず、今回の全人代でも、具体的な組織改革や制度改革は見られなかった。中国は、現段階で、大きく制度を変える意図はないのだ。現在、中国が強調している「改革」は、制度の変更によるものではなく、人々の意識改革に近いもののように見える。
習近平体制になってから、中国の公務員は非常に忙しくなったという。これまで、中国の公務員は仕事をしないことで有名であったから、真面目に仕事をするようになったということかも知れない。彼らの多くは、自ら真面目に働こうと思った訳ではないだろう。強制されているのだ。これこそ、習近平主席が進める「改革」だと言える。これに対して、これまでも真剣に仕事に取り組んできた政府職員等は喝采を送っている。
「反腐敗」を展開し、贅沢な食事の禁止等を含む政府機関の無駄遣い排除を進めるのは、「改革」の一部であると言える。その他にも、これまでご褒美的な意味もあった幹部の海外出張も、日数が制限される等の規制が加えられている。また、彼らに対する集団教育も復活した。
こうした意識改革を進めるために、これまでの制度の上に新たな組織を設置したのだと言える。
■腐敗はびこる軍も改革を 戦える軍隊に
人民解放軍改革の主たる目的も、腐敗撲滅であるという。中国では、軍の腐敗は有名な話だ。中国メディアは、中国人民解放軍総後勤部の谷俊山元副部長(中将)が汚職容疑で失脚して2年経った2014年1月14日、同氏の実家で行われた家宅捜索の様子を報じている。同氏の汚職は、元中央軍事委員会副主席の徐才厚の失脚にもつながっているとされる巨額汚職事件だ。
後勤部は、基地や軍人の住居の建設並びに装備品の調達等にも関わるため、汚職がはびこりやすい。中国でも、不動産はお金になるのだ。総後勤部の汚職に代表される軍の腐敗は、国防予算の非効率的使用につながっている。例えば、人民解放軍では、2000年代初めから、下士官用宿舎の不足が取り沙汰されている。それが、2013年になっても、まだ、問題として報道されているのだ。
宿舎不足の原因は、後勤部による土地売買に係る不正だけではない。出来上がった宿舎を将校が不正利用していることを問題視する「下士官用宿舎は下士官に」という見出しの報道もある。いくら予算をつぎ込んでも、予算を執行する側に腐敗があれば、目的を達成できないということだ。
また、常識的に考えても、汚職によって蓄財に精を出す将校が率いる軍隊が、まともに戦えるとは思えない。また、どこの軍隊でも、兵隊は自分たちの指揮官のことをよく見ているものだ。ここに、習近平主席の危機感がある。昨年発表された「中国国防白書」の中で、これまでの「軍隊建設」から「戦争準備」へと力点を移したのは、「綱紀粛正によって戦える軍隊にしろ」という意味を含むのだ。このために、軍の上に新設されたのが、先に述べた「中央軍事委国防・軍隊改革深化指導小組」である。公務員に対する成果と同様、軍人も外食をしなくなった。「危なくてできない」という。
こうした「意識改革」は、下部の抵抗を抑える指導者の強権によって初めて実行できるというわけだ。
■政治将校制度が及ぼす非効率性と悪影響
しかし、軍運用の効率化は、意識改革だけに止まらない。もう一つ検討されているのが、政治将校制度だ。共産党の軍である中国人民解放軍にとって、末端部隊まで配置された党組織と政治将校は、党中央の意図を末端まで行き届かせる神経のようなものである。これまでの中国指導者は、軍の武力を恐れるが故に、末端まで自らの意志に従うよう監視していたとも言える。
しかし、政治将校制度は人的にも装備的にも時間的にも壮大な無駄遣いだ。さらに、不必要に意思決定に時間を要し、時に指揮系統を混乱させる。政治将校制度が及ぼす非効率性と悪影響は、中国指導者にもよく理解されている。
習近平主席は、末端部隊に限り、政治将校制度を廃止する方向で検討しているというのだ。
末端部隊とは言え、政治将校をなくすためには、相当の自信と覚悟が必要だろう。このためにも、習近平主席は、自らに権力を集中させる必要があるのだろう。
習近平体制が進めようとするのは一種の賢人政治である。また、自らが清廉でなければならない。ハーバード大学留学中の娘を呼び戻したのは、米国に人質を出さないという意味の他に、他の高級幹部に対する手本を示す意味もあったろう。
それでも、国内に不満は残る。全人代で空軍が元気だったのは、最近数年間、空軍の不満の原因であった予算配分に、何らかの考慮がなされたからかもしれない。中国指導部は、綱紀粛正を進める先に制度改革も見据えるが、各軍や各利益団体の不満を考慮しつつ進める「改革」の道のりははるかに遠い。
小原凡司
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