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インド経済:飛躍のチャンス
2015年02月23日(Mon) The Economist
(英エコノミスト誌 2015年2月21日号)
インドは今、世界で最もダイナミックな経済大国になる、またとないチャンスを手にしている。
インド首相、自分の名前入ったスーツ着用 ネット上では失笑
インドの経済改革を掲げ、政権を握ったナレンドラ・モディ首相〔AFPBB News〕
新興国はかつて世界経済の希望の光だったが、いまや暗闇の源となることの方が多い。
中国経済は減速している。ブラジルはスタグフレーションにはまりこんでいる。ロシア経済は、欧米の制裁と原油価格の急落に襲われ、景気後退に陥っている。南アフリカは非効率と腐敗に悩まされている。
失望だらけの新興国の中で、1つだけ抜きんでている大国がある。インドである。
うまく飛び立つことさえできれば、インドは世界屈指の経済大国になるだろう。だが、そのためには、非生産的な政策の遺産を振り払わなければならない。その務めは、アルン・ジェートリー財務相の肩にかかっている。ジェートリー財務相は2月28日に来年度予算案を提出する。昨年の総選挙により、官僚主義の打破と成長のてこ入れを負託された政権にとって、初めてとなる本格的な予算案だ。
インドでは1991年7月に歴史的な予算が組まれ、インド経済を貿易、外国資本、競争に対して開放した。今のインドに必要なのは、それに匹敵する大きな何かだ。
エンジンを準備せよ
インドには計り知れない望みがある。国民は起業家精神にあふれ、12億5000万人に上る総人口のおよそ半分は25歳未満だ。現在は貧しい国であるため、追い上げ成長の余地は大きい。2013年の国民1人当たり国内総生産(GDP、購買力平価ベース)は、中国が1万1900ドル、ブラジルが1万5000ドルだったのに対し、インドは5500ドルだった。
インド経済は、州ごとに徴収される地方税により分断されているが、全国的な物品サービス税に対する超党派の支持が得られれば、本物の共通市場を生み出せるはずだ。インドには潜在力がある。これまで常に問題となってきたのは、その潜在的な力を解き放てるかどうかだった。
楽観主義者たちが注目しているのは、2014年第4四半期のGDP成長率が前年同期比7.5%を記録し、中国をも上回った点だ。だが、多くの者が胡散臭いと考えるたった1つの数字だけでは、全く興奮する理由にはならない。それよりもはるかに重要なのは、インド経済の基盤が日増しに安定しつつあるように見えることだ。
長年10%を超えていたインフレ率は、半分に低下している。経常収支の赤字は縮小し、ルピーは安定している。株式市場は好況だ。そして、コモディティー(商品)価格の下落は、石油の8割を輸入に頼るインドにとっては神の恵みだ。国際通貨基金(IMF)が世界経済見通しを何度か下方修正した際にも、インドは概ね引き下げを逃れた。
将来への希望の本当の根拠となっているのは、改革がさらに進むという見通しだ。昨年5月、ナレンドラ・モディ氏率いるインド人民党(BJP)は、経済運営の改善を公約に掲げて選挙に大勝した。
モディ政権は最初の数カ月を費やして、緩慢だった行政手続きの迅速化をはじめ、有益な基礎づくりに取り組んだ。だが、「改革主義政権」の資格を得るための真の試金石となるのは、ジェートリー財務相の提出する予算案だ。
簡単にできそうなのは、財政面や金融面の規律により、インドの幸運を確固たるものにすることだろう。また、インドの公共部門の銀行は資本を必要としているが、国はその資金を工面できないため、ジェートリー財務相は潜在的な株主を説得し、銀行の経営が政治家とは一定の距離を置いたものになることを納得させなければならない。
インドが繁栄を望むなら、大胆な改革と、それに見合う政治的な勇気が必要だ。国民を貧しい農場からより賃金の高い生産的な仕事へ移行させる開発戦略は、これまでに十分に効果が実証されている。中国の台頭は、輸出主導の製造業の上に築かれた。それを模範とする余地は限られている。サプライチェーン貿易の成長は減速しており、技術の進歩の結果、製造業は多くの労働者を必要としなくなりつつある。
それでも、インドは現在よりもうまくやれるはずだ。インドには世界に通用するITサービス業があるが、まだあまりにも技術集約的かつ小規模であるため、今後10年で労働市場に入ってくる、必ずしも十分な教育を受けていない9000万ないし1億1500万人の若者を吸収するのは不可能だ。
インドの最大の希望は、混合型のアプローチにある。製造業とサービス分野の両面で、グローバル市場への参加を拡大するのだ。それを実現するために、ジェートリー財務相は3つの生産要素に力を注がなければならない。すなわち、土地、電力、労働力だ。
滑走路に控えるジャンボ機
いずれも政治的にデリケートな要素だが、特に厄介なのが土地の買い上げだ。中国なら、国が土地を収用し、農民を放り出すだけで済む。だがインドは、それとは極端に逆の方向に向かった。
ムンバイに第2の国際空港を建設するという長年の計画は、膠着状態に陥っている。事態を悪化させたのが、前政権の末期に通過した新土地収用法だ。この法律では、土地所有者への手厚い補償や、大型プロジェクトの際の社会的影響調査が義務づけられているほか、最低でも70%の土地所有者の同意がなければ土地を購入できないとされている。
モディ首相はこれまで、必要不可欠な投資については行政権を行使して同意に関する条項を排してきた。だが、それは一時的な解決策だ。モディ首相は、土地収用問題の恒久的な解決を図らなければならない。そのための政治闘争を勝ち抜くには、一等地が取り巻きの手に渡るのではなく、雇用を創出するプロジェクトに使われるのだと示す必要がある。
電力、というよりはその不足も、インドの飛躍を阻んでいる。ある調査によれば、全製造業者の半数は、毎週5時間にわたる停電に悩まされているという。効率の悪さはエネルギー網全体にはびこり、国営独占の石炭会社コール・インディアから送電業者にまで広がっている。
サンエジソンとインドのアダニ、太陽光パネル工場で提携
インド西部アーメダバードで、石炭をトラックに積み込む準備をする作業員〔AFPBB News〕
2月半ば、電力会社、鉄鋼会社、セメント会社での利用を対象とする初の石炭採掘権の入札が始まったのは、一歩前進だ。送電に競争を導入するためには、さらなる取り組みが必要だろう。
政治家に怯える規制当局は、電気料金を供給コストよりも低く抑えこんでいる。だが、電力供給が安定すると分かっていれば、国民は値上げを受け入れ、政治家のことは放っておくだろう。
悪夢のような労働法にもメスを
改革の機が熟している3つ目の大きな分野が、インドの州や国が定める数々の不可解な労働法だ。
この法令を順守するのはまるで悪夢だ。そうした労働法の多くは、制定が1940年代にさかのぼる。なかには、工場に置く痰つぼの種類や数を定めるものもある。別の労働法は、労働者が100人を超える企業に対し、規模縮小や閉鎖の際に政府による許可を義務づけている。
インド企業の多くは、そうした労働法の対象となるのを避けるために、規模を小さくとどめている。大企業は、臨時労働者を利用して法を回避している。インドの労働者のうち、法的に雇用が保障されているのは15%に満たない。
ジェートリー財務相は、もっと単純な新しい労働契約のあり方を確立し、労働者に基本的な保護を与えながら、企業がより低コストで従業員を解雇できるようにすれば、特権を制限するという政治的な難問を避けられるはずだ。
新労働法の適用範囲を新たに雇用される労働者に限定すれば、手厚い保護を手にしているごく一部の既存の労働者も、その特権を維持できるだろう。
過去のインドでは、逆境が根本的な変革を促してきた。冒頭に紹介した1991年の予算は、国際収支危機への対応として組まれたものだった。危険なのは、インフレ率が低下し、エネルギー価格の下落で経済が好況を呈しているのをよいことに、インドの指導者たちが、成功を維持していくために必要な厳しい改革から逃げてしまうことだ。それは大きな過ちだ。
モディ首相とジェートリー財務相は、インドを加速して離陸させるまたとないチャンスを手にしている。それを無駄にしてはならない。
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英エコノミスト誌の記事は、JBプレスがライセンス契約 に基づき翻訳したものです。
英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42983
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