02. 2014年12月18日 07:16:58
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ナッツリターン〜国際的恥さらしに韓国中が怒り財閥オーナー一族の世襲が問題? 2014年12月17日(水) 趙 章恩 日本のメディアも大きく取り上げた大韓航空の「ナッツリターン」事件。韓国社会に衝撃を与えたこの事件は、検察が捜査に乗り出す事態に発展した。 ナッツリターン事件のあらましはこうだ。大韓航空のチョ・ヒョンア副社長(当時)が12月5日、ファーストクラスに乗った。大韓航空はファーストクラスの乗客にマカデミアナッツをサービスする。同副社長は、乗務員がナッツを皿に盛りつけず袋のまま自分に出したとして激怒。動き始めた飛行機をゲートに戻し乗務員を降ろした。その結果、ニューヨークのジョン・F・ケネディ空港発、韓国仁川空港行きのKE086便は、何の案内放送もないまま離陸が46分遅れ、到着は16分遅れた。ナッツを袋に入れたままサーブしたというだけの理由で、動き始めた飛行機をゲートに戻し、乗務員を降ろしたのは前代未聞の事件である。 チョ・ヒョンア氏は大韓航空オーナーの長女であるため、乗務員も機長も彼女の命令に逆らえなかったという。もし同氏がオーナー一族ではなく一般乗客だったら、機内で騒動を起こしたとしてすぐ警察に通報されていたに違いない。乗務員ではなく、彼女が飛行機から降ろされていただろう。 ロイター、CNN、BBCなど海外の主なメディアはこの事件を「Nut rage」、「Nut incident」という見出しを付けて大々的に報道した。「nut」には「ナッツ」という意味に加えて、「バカげた」という意味がある。 袋を開けないのはマニュアル通り この事件が表沙汰になったのは、大韓航空社員だけが利用できる掲示板アプリへの書き込みがきっかけだった。これがネットに流れ、韓国メディアが12月8日、一斉に報道した。 大韓航空側は「前副社長が指摘したにもかかわらず、乗務員がマニュアル通りにせず嘘をついた」「乗務員が飛行機から降りたのは機長の判断だ」と釈明する謝罪文を発表した。だが、韓国メディアは大韓航空側の主張とは全く違う内容の目撃談を報道した。 事件当日、オーナーの長女が乗るというので客室乗務員は全てベテランに代えられた。乗務員は、マカデミアナッツを食べるかどうか、袋に入ったまま乗客らに見せて回った。これはマニュアル通りの対応だ。乗客が「食べる」と答えたら皿に盛りつける。答えを聞いてから皿に盛りつけるのは、ナッツアレルギーがある人もいるからだ。それを知らずチョ・ヒョンア氏は袋に入ったままナッツを出したと怒り、機内で騒ぎを起こした。同氏は、「乗務員はマニュアル通りにした」と説明し乗務員をかばった事務長(パーサー)を飛行機から降ろした。 その後も、大韓航空側はこの事件をネットに書き込んだ社員を探すため、社員らのスマートフォンやSNS使用履歴を調査したと韓国メディアが報道。大韓航空の企業イメージはさらに悪くなった。ナッツリターン事件の裏にある大韓航空オーナー一族の横暴を報じるニュースが流れる度に、韓国中が驚き、怒りを感じた。 ところが大韓航空の社員らにとって、オーナー一族の横暴はいつものことなので、ナッツリターンがマスコミに報道されたことの方が驚きだという。 ある市民団体はチョ・ヒョンア氏が乗客の安全を無視して機内で騒ぎを起こし離陸を遅らせたとして、同氏を航空保安法違反と業務妨害の罪で告発した。これを受けて12月11日から、国土交通部(部は省)と検察による捜査が始まった。検察は航空保安法違反と業務妨害だけでなく、大韓航空側が今回の事件の証拠を組織的に隠滅した疑惑についても捜査している。 大韓航空が罪を問われることも 12月15日には、当日のファーストクラスに乗っていた他の乗客や降ろされた事務長が、チョ・ヒョンア氏が機内で乗務員に暴言を吐いたり、マニュアルを投げつけたり、肩を押したりしたとマスコミに明かした。 また、事務長はマスコミのインタビューに次のように答えた。 「会社の人が毎日来て、『暴言はなかった』と検察に話せ。『自ら飛行機を降りた』と話せと強要した」「(あり得ない要求だとしても)オーナーの娘には逆らえないので飛行機から降りるしかなかった」。 しかしチョ・ヒョンア氏は機内で暴言してはいないと否定している。 韓国の航空保安法は次のように定めている。 「機内で乗客が暴言、大声を出した場合、機長の業務を僞計(人を騙すこと)または威力で妨害した場合は500万ウォン以下の罰金を賦課する」 「僞計または威力で運行中の航空機の航路を変更し、正常運行を妨害した人は1年以上10年以下の懲役に処する」 航空会社が運航規程を守らず、責任と義務を果たさなかった場合は運航停止となるので、チョ・ヒョンア氏だけでなく大韓航空も処罰の対象になり得る。またこの事件は米国の空港で起きたので、機内で騒動を起こす人を厳しく処罰している米連邦航空局が規定違反で処罰する可能性もある。 国際的に恥をさらした会社に『大韓』の冠は許さない ナッツリターン事件は韓国社会に色々な問題を投げかけた。航空安全問題、企業のリスク管理問題、乗務員の感情労働問題、ノブレス・オブリージュ(富や権力、社会的地位を持つ人は一般の人よりも高い社会的責任を伴う)問題、そして、数パーセントの株しか保有していないにもかかわらず財閥オーナー一族が経営権を世襲する問題だ。 韓国だけでなく海外メディアの記事を見ても、動き出した飛行機をチョ・ヒョンア氏がゲートに戻し、気に入らない乗務員を降ろすことができたのは、大韓航空が財閥オーナー経営だからという分析記事が目立つ。 韓国の公正取引委員会は資産総額5兆ウォン(約5500億円)以上の財閥の総資産順位を毎年発表している。2014年4月時点の1位はサムスングループ、2位は現代自動車グループ、3位はSKグループだった。これに、LGグループ、ロッテグループ、現代重工業、GSグループが続く。大韓航空が所属するハンジングループは第8位に位置する。9位はハンファグループ、10位はドゥサングループである。 メディアは、財閥オーナー経営による弊害として、経営者と社員の上下関係が厳しすぎることを指摘している。韓国の法学者らは、「チョ・ヒョンア氏はオーナー一族として、大韓航空は私のもの、この飛行機は私のもの、社員は私の家来、と思っている。だから、自分のしたことがなぜ問題になるのか、何が悪いのか理解できないだろう」と分析した。 12月12日付の韓国経済新聞は、「財閥3世は子供の頃から財閥ファミリーとして自分達だけの世界で育てられるので、基本的な素養もなく、判断力も平均に満たない。そういう人に経営を任せると、組織と企業価値に深刻なダメージを与えることになる。経営者と社員は水平な契約関係であるはずなのに、財閥オーナーはそう考えていないことが多い」との記事を掲載。 さらに次のように分析した。「韓国の労働組合組織率は10%で、OECD加盟国の中でもっとも低い。これも、財閥オーナーが会社経営を自分勝手にできる理由の一つである。数%しか株を持っていないのに、オーナーが絶大な影響力を持ち、系列会社までも所有できる支配構造と、労働組合がないために、経営陣に対して社員が問題提起できないことが、韓国の労働市場の特徴である」。ナッツリターン事件をきっかけに、財閥の世襲経営に反対する動きが出ている。 韓国内では「国際的に恥をさらした会社に『大韓』という名称を許してはいけない」という声が大きくなっている。海外に住む韓国人らも「大韓航空にはもう乗らない」として不買運動を始めた。大韓航空をはじめとするハンジングループの株価は下落している。 人の振り見て我が振り直せ また、財閥の弊害と並んで問題になったのが、感情労働である。韓国ではサービス業を感情労働と呼ぶ。本人の感情と関係なく、いつも笑顔で対応しないといけないからだ。海外の航空会社が運営する航空機に乗ると、乗務員の年齢幅は広く、乗客の安全を優先するので無愛想な人もいる。だが、韓国の航空会社の乗務員はそうでない。韓国の乗務員は若い女性ばかりで、どんな状況でも笑顔を絶やさない。 人の振り見て我が振り直せ――乗務員をはじめとする感情労働をしている人に無理な要求をしたり、無礼にしたりしたことがないか、韓国人の誰もが反省しようという動きも始まった。 このコラムについて 日本と韓国の交差点 韓国人ジャーナリスト、研究者の趙章恩氏が、日本と韓国の文化・習慣の違い、日本人と韓国人の考え方・モノの見方の違い、を紹介する。同氏は東京大学に留学中。博士課程で「ITがビジネスや社会にどのような影響を及ぼすか」を研究している。 趙氏は中学・高校時代を日本で過ごした後、韓国で大学を卒業。再び日本に留学して研究を続けている。2つの国の共通性と差異を熟知する。このコラムでは、2つの国に住む人々がより良い関係を築いていくためのヒントを提供する。 中国に留学する韓国人学生の数が、日本に留学する学生の数を超えた。韓国の厳しい教育競争が背景にあることを、あなたはご存知だろうか? http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20141216/275222/?ST=print |