03. 2014年12月12日 07:35:59
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韓国社会揺るがす「チラシ」爆弾 噂が大増殖、政財界にも深刻な影響 2014年12月12日(Fri) 玉置 直司 日本政府、産経前ソウル支局長の在宅起訴に「憂慮」伝える 韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領〔AFPBB News〕 「チラシに出てくるような話が国全体を揺るがすようなことは、本当に韓国にとって恥ずかしいことだ」 2014年12月7日、与党首脳との昼食会で朴槿恵(パク・クネ)大統領は強い口調でこう語った。日本語が語源である「チラシ」で韓国は大騒ぎだ。 大統領が公式の場で口にした「チラシ」とは一体、何のことか。韓国の政界、産業界、メディア業界は、この「チラシ」の話題で持ちきりなのだ。 日本語が語源の「チラシ」は自称「特ダネ情報誌」 韓国には日本語が語源である単語があちこちにあるが、これもその1つだ。日本では最近は、新聞の折り込み広告などについて使うが、韓国では、主に証券、金融市場などで出回っている情報を集めた自称「特ダネ情報誌」のことを「チラシ」と呼ぶ。 その実態はなかなか分からないが、ある大手新聞社の幹部はこう説明する。 「最近はデジタル化されている場合が多いが、何年か前まではA4用紙サイズで60ページほどの分量があった。政界だけでなく、企業情報、スポーツ界、芸能界の話題など、何でも載っていた。『ここだけの話』が売り物だ。私がチェックしていたのは、週刊で購読料は月30万ウォン(1円=9ウォン)から50万ウォンだった」 つまり、有料の情報誌だ。 別の新聞社幹部は、何年か前にある「チラシ」の編集会議に出たことがあるという。 「発行人は金融マン出身者で、私が出たのは『ネタ集め会議』。企業の渉外、広報、企画担当者、証券市場の関係者などが集まってお互いの情報を交換する。発行人がここで出た情報を、独自に確認して、情報誌を作成していた」 こうした「チラシ」が韓国には数多くあるという。 もともとは、証券市場で出回っていたため、企業ニュースが多かった。 「チラシ」の信憑性に対しては、「当たっているのは30%から40%くらい」という程度の評価が多い。 大企業の広報マンは「企業関連の情報は、誤報が多い」と言い切る。それでも、「チラシ」を参考にする。政治、社会など内容が豊富だからだ。 「チラシ」には怪しげな内容が多い。まったくの虚偽で、株価操作や名誉毀損として摘発を受ける例も少なくない。 それでも「チラシ」が消えないのは、「他人の知らない情報」を欲しがるニーズがあり、また、「ある意図を持ってある情報を流布させたい」供給者がいるからだ。 意図的に虚偽情報を流す場合もあるだろうし、「愉快犯」のように本当の情報を流す場合もある。 内容は玉石混淆、SNSの普及で爆発的に拡散 大手企業の企画担当者はこう話す。 「上司は常に『新しい情報』を求める。『チラシ』はだから、格好のネタ元だ。『チラシに載っています』と言って報告する例も多い」 ときに「特ダネ」もある。 大手紙デスクは言う。「11月末に発表になったサムスングループの防衛、化学関連4社の一括売却の話に近い情報が『チラシ』に載ったことがある。ただ、ハンファグループの生命保険会社との事業交換ということだった。正確ではなかったが、サムスングループが事業をハンファに譲渡するという意味では正しかった」 「毎日経済新聞」(12月6日付)によると、サムスングループは2014年5月に「李健熙(イ・ゴンヒ)会長死亡説」というデマを「チラシ」に流され、大変な迷惑を被ったこともあるという。 「チラシ」が、ごく限られた狭い世界で流通している間は、それでも大きな社会問題になることは多くなかった。 問題は、ネット、特にSNS(交流サイト)の急速な普及で、「チラシ」の情報があっという間に爆発的に拡散してしまうことだ。 大企業の広報担当者話す。 「『チラシ』に間違った情報が載っても以前は見ている人も『業界の人』だけだった。問い合わせがあった場合、『間違いだ』と説明すればそれで終わった。今は、SNSを通してあっという間に何万人、さらに場合によっては、一気に数百万人に拡散する。そうなるともう手を付けられない事態になる」 「『チラシ』も一応は、確認作業はしている場合が多い。これが、そのままSNSで拡散するのならまだしも、拡散する過程で誰かが勝手に書き換えて、まったく事実と異なる話が瞬時に広まってしまうことも多い」 話を冒頭の大統領発言に戻そう。 いったい、何が起きたのか。 11月末、ある韓国紙が「青瓦台(大統領府)の機密文書が大量に流出した」と報じて、韓国の政界やメディアが大騒ぎになった。 青瓦台(大統領府)の機密文書が大量流出? 大手メディアも連日の報道 この「機密文書」は、大統領の側近だったA氏の「動向報告」というもので、A氏が、青瓦台の秘書官と定期的に会い、今も政権に影響力を持ち、意思決定に介入しているとの内容だった。 問題の本質は、「機密文書」が流出したのかどうか。流出したのだとすれば、どうしてそんなことが起きたのか。また、その内容が事実かどうかだ。 事件はすでに検察当局が捜査している。渦中のA氏は12月10日、検察の事情聴取に応じた。入り口で記者に囲まれたA氏は「火遊びをしていたのが誰なのか、すべてを明らかにする」と強い口調で語った。捜査結果が出れば、いずれ真相も明らかになるはずだ。 ただ、この報道を機にさまざまな情報が飛び交った。連日、大手紙が1面トップから何ページにもわたって、関連報道を続けた。 「A氏は何者か」「A氏と親しい青瓦台秘書官3人が政権を牛耳っている」「A氏と3人の秘書官は、大統領の弟と対立している」 メディアが大騒ぎする間に、さまざまな人物がインタビューに登場し、「政権内部での権力争い」について語り、騒動をさらに増幅させた。 何が真実で何が間違いなのか。とにかく、連日洪水のように関連記事が出た。 「A氏と主要秘書官が定期的に秘密会合を開いている」 「大統領の弟が尾行された」 ドラマか映画か。こんなおどろおどろしい話が「政権内部の暗闘」として報じられる。 騒ぎがこれほど大きくなった理由 どうしてこんな大騒ぎになったのか。韓国は大統領は大きな権限を持っている。だから、政界、官界、産業界にとっては、「誰が大統領の側近で、人事や政策決定に影響力を持っているのか」は、大きな関心事だ。これまでの政権では、大統領の兄や息子、同郷や出身校の先輩が「実力者」として実際、大きな力を持っていたという。 朴槿恵大統領は、「権力型不祥事」が起きることを強く警戒し、家族、親戚などを近付けない。「群れない」ことでも有名で、「側近実力者」が見当たらない。だから、よけいにいろいろな憶測が飛び交う。「誰が実力者なのか?」は、「情報通」とされる人たちにとって、最も知りたい点だ。そこにA氏の名前が出てきたのだ。 それも、「政権内部の暗闘」という味付けで出てきたんだから、一般読者の好奇心を刺激した。 もちろん、大手紙はそれなりに取材をしたり、インタビューを載せる。ただ、そもそももともとの「機密文書」のネタ元、さらに「秘密会合」や「大統領の弟の尾行説」は「チラシ」に載っていた内容が多い。 多くの読者が、SNSなどを通して「チラシ」が発端になった情報を見ているから、無視もできない。報道競争が過熱して、大手メディアにも「チラシ発の未確認」情報が乱舞した。 その大半が、完全な誤りか、「噂話」にすぎないことが徐々に明らかになってきた。にもかかわらず、騒ぎがどんどん大きくなったのだ。 大統領が、「チラシに出るような話が国を揺るがすようなこと・・・」が起きてしまったのだ。 朴槿恵大統領は、A氏について「何年も前に自分のもとを離れた人」とし、弟についても「歴代政権で起きた家族や親戚関連の不祥事をたくさん見てきており、弟夫婦は青瓦台に近付くことができないようにした」と述べ、A氏が政権に影響力があるとか、A氏と弟の暗闘説を一蹴した。 「機密文書流出」に端を発した今回の騒動は、青瓦台が大手紙記者を告訴、これを野党が批判するなど、政界での争いにまで発展し、まだ完全に収拾する兆しは見えない。それでも、検察捜査が進めば、真相も明らかになり、沈静化するはずだ。 だが、問題は、「チラシ騒動」の本質にある。 デマ拡散の規模とスピード、「沸点」の低さという韓国ネット社会の問題 「チラシ」の情報が、SNSを通してどんどん拡散する。その間、「チラシ」情報にさらに何らかの情報がプラスされて急速に拡散する。内容によっては、爆発的に広まる。 今回の一件だけでなく、韓国では、芸能人の恋愛結婚の虚偽情報、誤った企業ニュースが一気に拡散することが実に多い。 筆者も、「企業ニュース」として、どう見ても「デマ」である情報をスマホで見せられたことが何度もある。 福島原発問題についての「デマ」も何度も見せられた。 こうした「デマ」が、拡散、増幅すると、時には、バッシングに発展してしまう。 こうした「デマ」の拡散規模とスピード、さらに「沸点」の低さが、韓国の深刻なネット社会の問題だ。 「チラシ」の情報を、半分は疑いながらも、「本当ではないか」と思っているのが、ごく一部の国民に限られていないことも驚かされる。 筆者に福島原発問題の「デマ」を何度も見せてくれた人物は、前職の政府高官だ。 12月初め、筆者は、企業経営者、高位官僚、病院長と夕食を一緒した際、聞いてみた。 「『チラシ』を見ていますか?」 さすがに、購読料を支払っている人はいなかったが、全員が何らかの形で、頻繁に接しているという。 高位官僚は、「知人が転送してくれるので、1日何度か見る。SNSを通して送られてくる『チラシ』がネタ元の情報まで数えれば、1日に何十本も来る。最近は、SNSで拡散する情報も『チラシ』というので、何がなんだか分からない状態だ」と言う。 ある大手紙は、今の状況を「チラシ共和国」とまで書いた。 どうしてこんなに威力を持つのか。 「『カカオ』や『LINE』の爆発的普及で、韓国ではSNSが他国以上に頻繁に使われている」 「ニュースが何でもネットで無料で見られる。大手紙のサイトの記事も、『噂話』も、スマホで出てくる情報はみんな同じように読んでしまう」 経済紙社説の批評 今回の一連の報道に経済紙は比較的距離を置いていた。 「韓国経済新聞」は12月8日付の社説で「政治中毒に陥り、チラシに興奮する軽薄な社会」と題した社説を掲載した。 「青瓦台秘書室に対する(外部の)秘密ラインの介入や機密文書流出疑惑事件をめぐる騒ぎはさらに激しくなっている。闇雲な疑惑が洪水のようにあふれている。一方的な主張も横行している。重要な国政課題はそっちのけだ。浮薄な韓国政治のありようを露呈してしまった。メディアも噂社会、ゴシップ政治をあおっている。低次元の政治に中毒になり、チラシに狂奔するメディアという批判まで出ている始末だ」 「チラシ」情報が韓国を徘徊している。 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42426 |