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産経前ソウル支局長の初公判、朴大統領は「公開リンチ」いつまで続けるつもりか(動画あり)
http://bylines.news.yahoo.co.jp/kimuramasato/20141130-00041093/
2014年11月30日 9時18分 木村 正人 | 在英国際ジャーナリスト
韓国の朴槿恵大統領に関するコラムをめぐり、名誉毀損で在宅起訴された産経新聞の加藤達也前ソウル支局長の初公判が27日、ソウル中央地裁で開かれた。加藤前支局長が問われた情報通信網法の名誉毀損の最高刑は懲役7年と重い。
「この裁判が、現代的法治国家である韓国において、法と証拠に基づいて厳正に進行されることを期待し、誠実に裁判に臨みたいと思います」。加藤前支局長はこう意見陳述した。
筆者の主宰するつぶやいたろうジャーナリズム塾4期生の笹山大志くんも初公判を傍聴した。法廷内で「韓国国民に謝れ」「加藤を拘束せよ」と口々に叫んだ保守系団体メンバーは、裁判所を出ようとする前支局長の車を取り囲み、約9分間も生卵を投げつけるなどの嫌がらせを続けた。
裁判所がこうした非道な振る舞いを放置したところにもこの裁判の本質がうかがえる。朴大統領に対する名誉毀損で海外の特派員を訴追した裁判で、被告人の安全も満足に守らない韓国は民主国家と言えるのか。大統領公認の「公開リンチ」と批判されても仕方あるまい。
韓国では「表現の自由」が保障されていないばかりか、公正な裁判を受ける権利も守られないことを満天下にさらしたも同然だ。産経新聞によると、米政府も韓国政府に「言論・表現の自由」、権力を監視する「新聞の自由」を守る観点から強い懸念を伝えたという。
韓国は一刻も早く加藤前支局長の公訴を取り下げ、出国禁止措置を速やかに解除すべきだ。裁判所内で「生卵の洗礼」まで受けた大志くんのソウルからのレポート。動画は大志くんが撮影した。(動画がうまく視聴できな場合はリンクの方でご覧になって下さい)
産経元ソウル支局長初公判後 生卵投げつけ 保守団体の過激な抗議行動
https://www.youtube.com/watch?v=uZuW94rL81s#t=10
■言葉の壁と誤訳が歪み広げる日韓関係
【笹山大志=ソウル】「カト!カトタチュヤ!カトタチュヤ、サグァラ(謝罪しろ)」
裁判長が入廷し、法廷内の全員が礼をして着席したその時、「加藤達也 即刻拘束」と書かれた紙を広げた5人ほどの男たちが筆者の後ろから産経新聞の加藤前ソウル支局長に罵声を浴びせた。
驚いたのか、被告人席の加藤氏も立ち上がり、こちらを振り返った。男たちは、一度は退出させられたものの、その後再び入廷が認められ、今度は静かに紙を掲げながら抗議を続けた。日本では公正な裁判を受ける権利を侵害するこうした行為は認められていない。
閉廷後、裁判所前で加藤氏の記者会見を待っていた筆者は後方で待機していた保守系団体の男たちが走り出したのに気がつき、その後を追った。赤ジャンパーを羽織った男が加藤氏を乗せた黒塗りBMWの前に立ちはだかり、その周辺を他の男たちが取り囲んだ。
「加藤!出てこい。謝罪しろ。シー◯◯◯◯キヤ」
生卵を投げつけたり、車のボンネットに身を投げ出したりする卑劣な行為は9分ほど続いた。最後は唾まで吐き捨てた。
産経新聞ウェブサイトに掲載されたコラムが朴槿恵大統領の名誉を毀損したとして在宅起訴された加藤氏の初公判。被告人・弁護側は「コラムには大統領個人を誹謗する意図はまったくない」「日本の読者向けに書かれたもので公益性がある」と起訴内容を否定、無罪を主張した。
終始、口を真一文字に結び、険しい表情で裁判に臨んだ加藤氏。公判の最後に「韓国の政治や経済、社会の様子を日本の読者に伝えることが使命、役割という考えのもと、外国特派員として忠実に任務を果たしてまいりました」「韓国には多くの友人もおり、韓国という国、そして国民に対し、深い愛情を持ってきました」と用意していた意見陳述書を読み上げた。
■何度読み直しても名誉毀損の理由がわからない
ところで、加藤氏が書いた問題のコラム。筆者(笹山)も何度か読み直したが、いまいちどこの部分が朴大統領の名誉を毀損しているのかわからない。どうやら、問題は日韓の言語の違いに隠されているらしい。留学当初、「糞野郎」を日本語の感覚で、韓国語の「シー◯◯」を使うと韓国人の友人にひどく怒られた。
どうやら、「シー◯◯」は日本語訳的には「糞野郎」だが、意味は日本語では表現できないほどひどいと教えられた。放送禁止用語にも指定されており、冗談でも使えば喧嘩になる。
外国語を勉強中に、言葉の訳をめぐる誤解に悩まされた経験がある人は少なくないだろう。誤訳や意味の取り違えは通訳者や翻訳者といった語学のプロ中のプロが携わる場面でも、過去にさまざまな外交上の軋轢を引き起こしてきた。戦争になった例もある。
米国のオバマ大統領が来日した今年4月。日米共同記者会見でオバマ大統領が尖閣諸島問題について「事態をエスカレートさせるのは『重大な誤りだ(profound mistake)』と安倍晋三首相に伝えた部分について、多くの日本メディアが『正しくない』と誤訳していた」と琉球新報が指摘した。
1945年、連合国側から突きつけられたポツダム宣言に対して、当時の鈴木貫太郎首相が記者会見で「ノーコメント」と答えたことが、「ignore(無視)」と訳され、海外には「拒否」したと伝えられた話は有名だ。
そんな言語の壁が朴大統領の名誉毀損事件にも関係しているのではないか。
■日韓言語の類似性ゆえの違い
韓国語は日本語と似ていると言われている。その理由の一つに韓国語には日本の漢字で表現できる言葉が多いことがある。例えば「会社に電車で通勤します」を韓国語で表現しても「会社」「電車」「通勤」の語順は変わらない。しかも、一つ一つの漢字に韓国語が当てはまる場合がある。
ただ、問題なのは意味が完全には一致しないということだ。日本語の「最高」と表記される言葉は、口語表現では「すごい」という程度の意味で使われることがあるが、韓国語では書き言葉でも「すごい」や「とても優れた」の意味合いに近い。他にも「歪曲」「遺憾」は韓国語では日本語ほど硬い意味にならない。
かつて朝鮮日報日本語版で記事の翻訳に携わっていた言論心理学者の吉方べき氏(41)に尋ねてみた。吉方さんいわく。
「日本語と韓国語では、表面的な類似性により、その意味するところの違いを軽視してしまう傾向が強い」「また、逐語訳でも訳文に違和感がないため、つい機械的に翻訳してしまいがちだ」
■「行方不明」「下品」の意味
産経新聞電子版はソウル支局発で、朝鮮日報のコラムを引用した産経新聞のコラムは日韓言語の類似性と意味の違いが大きな摩擦の原因になったと次のように指摘している。
「韓国検察が産経新聞前ソウル支局長に対する一連の事情聴取で重点を置いたのは、前支局長がコラムで使った『行方不明』『下品』といった漢字語についてだった」
加藤前支局長がコラムの中で使用した「行方不明」「不穏」「下品」「混迷」という単語について、辞書を用いながら吉方氏に解説してもらった。
【行方不明】
加藤氏のコラムの見出し「朴槿恵大統領が旅客船沈没当日、行方不明に…誰と会っていた?」
吉方氏の解説「行方不明という表現については韓国語の語感で考えた場合はもちろん、日本語としても適切ではない。行方不明は通常『その人物の存在が確認できなくなった』ことを指す。この場合は朴大統領の所在が明らかにされなかっただけで、大統領を探しても見つからない状況があったという指摘ではない。朝鮮日報の記事に書かれた内容を表現する上で行方不明という単語を見出しに採用したことは、心証形成に大きく影響したのではないか」
【混迷】
加藤氏のコラム「こうした中、旅客船沈没事故発生当日の4月16日、朴大統領が日中、7時間にわたって所在不明となっていたとする『ファクト』が飛び出し、政権の混迷ぶりが際立つ事態となっている」
吉方氏の解説「まず韓国語では現状、『混迷』の意味が吸収される形で『昏迷』に見出し語が統合されてきている。その上で、この韓国語の単語は文脈によって『情勢などがはっきりせず先行きが不透明で不安定な状態』『身振りや行動が愚か、未熟で道理に合わない様子』『意識がもうろうとした状態』といった意味を持つ。そのため今回の文脈でも、この表現を『政権運営そのものの見通しが立たないほど不安定』という強い含意と共に解釈される可能性がある」
【不穏】
加藤氏のコラム「具体的には何のことだか全く分からないのだが、それでも、韓国の権力中枢とその周辺で、なにやら不穏な動きがあることが伝わってくる書きぶりだ」
吉方氏の解説「一つ目の意味は『穏当でない』。もう一つの意味が『思想や態度が統治権力や体制に合わない。対立する。そういう性質を持っている』。注目すべきは二つ目の意味の方で、かつて喧伝された『不穏書籍』という表現からも分かるように、韓国語では北朝鮮や親北勢力に協力して革命を起こそうとする動きや、広く体制に反逆する姿勢を指す。今回の記事では、政府についての文脈に登場しており、後者の意味にとられやすい。朴大統領のレームダック化が進んでいるという記事の主旨と相まって、まるで政権が倒される可能性でもあるかのような、相当に強い表現だと検察側に受け止められた可能性はある」
【下品】
加藤氏のコラム「ウワサの真偽の追及は現在途上だが、コラムは、朴政権をめぐって『下品な』ウワサが取り沙汰された背景を分析している」
吉方氏の解説「韓国語では『質が低い、品質が低い』『下等な等級』という意味しかなく、日本語における『品格や品性が劣ること。卑しいこと』という意味は含まれない。同じ漢語に訳しても誤訳になるし、意訳する場合にはどの程度のニュアンスの表現を採用するかで悩ましい。この部分も解釈に大きなズレをもたらした可能性は十分ある」
吉方氏の総括「以上のように、一見、同じ漢語でも日本語で使われる意味より穏健で弱い意味合いを持つ韓国語もあれば、反対に強く、刺激的な意味を持つ韓国語もある」
加藤氏のコラムを韓国語に全訳し、名誉毀損で告発されたインターネット媒体を確認すると、加藤氏のコラムを全訳する際、問題の単語に加藤氏のコラムに対応する漢字語をそのまま当てたり、韓国語の語感で解釈して訳したりしていることがわかった。
日本語のニュースを韓国語に翻訳するサイトがある以上、日韓言語の類似性が生み出す誤解が加藤氏を取り調べた検察官の心証形成に大きな影響を与えた可能性は否定できない。
今回の記事に関しては、引用元の朝鮮日報の記事内容が産経新聞電子版に日本語に訳されて紹介され、その加藤氏のコラムがさらに韓国語に訳されて紹介されたために、翻訳による意味のズレが「往復」で増幅された面もある。
■アジア女性基金をめぐる誤訳
旧日本軍「慰安婦」問題に関する河野談話を受け、村山富市政権下の1995年に設立されたアジア女性基金。法的責任を認めない日本政府の姿勢に韓国社会が大きく反発したが、この事業をめぐっても日韓の言語摩擦が波紋を起こしている。
今年8月の朝日新聞慰安婦検証報道によれば、韓国メディアが同基金から支払われた「償い金」を「慰労金」と訳したことも償い事業に対する韓国社会の理解を妨げた。
また、大沼保昭・明治大学法学部特任教授は自著で、橋本龍太郎首相によるお詫びの手紙が「謝罪の手紙ではない」との非難を浴びた経緯を説明している。
この手紙では、日本語の「お詫び」に対する韓国語を「謝罪」よりも意味が軽い「謝過(サグァ)」と訳した。日本政府は後に「謝罪(サジェ)」に変更したが、当初の「軽く扱ったとの印象」は払拭されなかった。
前出の吉方氏によれば、日本語の「お詫び」が使われる場面では、韓国語の訳語が実際に「謝過(サグァ)」に当たるような場合は多い。例えば、「お詫びのしるし」「お詫びと訂正」で使われる「お詫び」は韓国語で「謝罪(サジェ)」ではなく、「謝過(サグァ)」の意味に近い。一方で、訳語を「謝罪(サジェ)」にすべき場合もまた、確実に存在するという。
先の内閣総理大臣名の手紙にある「お詫び」と、「お詫びと訂正」のお詫びは字面上同じであっても、文脈によって持つ意味は大きく変わる。だからこそ、相手の受け止め方を考えた言葉を選択することが求められる。
■日韓国交正常化50年に備えて
現在の日韓関係は両国首脳やその周辺のひと言で破綻しかねないリスクをはらんでいる。来年は日本にとっては終戦70周年、韓国にとっては植民地解放70周年に当たると同時に、日韓国交正常化50周年を迎える大きな、大きな節目の年だ。
日韓両国から相手国に対する踏み込んだ発言や談話発表の機会が増えるだろう。吉方氏は「語彙の共通性は、相手の言語を学ぶ際に利点もあるが、政治的な文脈など、敏感な問題では足かせともなる」と同じ漢字圏に属するがゆえのジレンマを指摘した上で、こう話す。
「今表現しようとしている意味がきちんと相手側に伝わるかどうかを基準に、適切な訳語を選択することが大切です」
日韓両国は言葉のツブテを投げつけ合うのではなく、互いに歩み寄る必要がある。言語の誤解を増幅させるのではなく、歴史や感情のミゾを埋める努力が不可欠ということだ。
笹山大志(ささやま・たいし)1994年生まれ。立命館大学政策科学部所属。北朝鮮問題や日韓ナショナリズムに関心がある。現在、韓国延世大学語学堂に語学留学中。日韓学生フォーラムに参加、日韓市民へのインタビューを学生ウェブメディア「Digital Free Press」で連載し、若者の視点で日韓関係を探っている。
(おわり)
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