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『ニューズウィーク日本版』2014−11・4
P.32〜33
「自国で起きた大虐殺は封印
歴史問題:盧政権時代の調査で朝鮮戦争前後に起きた大量処刑が明らかになったが、保守派は事実を黙殺
この1年ほど、歴史問題をめぐって日本と韓国の問で常になく緊張が高まり、いまだに収拾の見通しがついていない。韓国政府は日本が過去の残虐行為を清算していないとして批判を繰り返すばかりだ。一方で、韓国自身も厄介な歴史問題を抱えている。
朝鮮戦争の前夜と最中に韓国軍や警察、民兵組織が何十万人もの民間人と政治犯を処刑した。経国の過去の政権は真相を究明し、被害者の名誉を回復するために一定の努力をしてきた。だが、この問題では過去の過ちから学ぼうとするリベラル派と事実を封印しようとする保守派が激しくせめぎ合っている。多くの韓国人は虐殺があったことすら知らず、虐殺などなかったと言い張る人々もいる。
各地で虐殺が起きたのは、韓国が日本の支配から解放され、朝鮮戦争が勃発した時期だ。この時期、朝鮮半島は共産主義陣営と自由主義陣営がしのぎを削る冷戦の最前線だった。主義思想と無関係な多くの民間人を含め、共産主義陣営の手先と見なされた人々が韓国軍と反共武装集団に大量処刑された。
48年に起きた済州島の四・三事件では、共産主義者の蜂起を鎮圧するために軍隊が出動し、罪のない島民が大量に処刑された。同じ年の麓水・順天事件では、済州島の蜂起鎮圧に出動する治安部隊の一部が反乱を起こし、反乱軍掃討の巻き添えになって多数の市民が命を落とした。最大の虐殺は50年の保導連盟事件だ。左派を再教育するために設置された組織「国民保導連盟」の加盟者や民間人ら10万〜20万人が朝鮮戦争の開戦後に大量処刑された。
こうした虐殺の犠牲者の遺族は「アカ」のレッテルを貼られることを恐れて、長い間口を閉ざしてきた。05年に当時の大統領で左派の盧武鉉が事実を明らかにするため保守派の激しい反対を押し切って真実和解委員会を設置。調査の結果、違法な処刑が行われた事実が公式に認められた。
つぶされた調査委員会
これに対し、一部の保守派は委員会の活動は左派の勢力拡大を狙った政治的な動きだと猛反発した。委員を務めた政治学者の金東椿(キム・ドンチエン)は、著書の中で保守派とメディアが委員会の調査活動を絶えず妨害したと明かしている。委員会設置当初に定められた活動期限の10年を迎えても調査はまだ完了していなかったが、李明博(イ・ミョンバク)大統領は委員会の解散を命じた。
「解散後はほとんど進展がない」と、朝鮮戦争に関する著書があるシカゴ大学のブルース・カミングス教授(歴史学)は言う。「李前大統領と朴槿恵(パク・クネ)大統領、彼らの支持者たちは虐殺など起こらず、調査も行われなかったような顔をしている」
委員会の報告にもかかわらず、韓国の公式の歴史はおおむね虐殺の事実を封印したままだ。学校の歴史授業で取り上げることはまずなく、多くの韓国人は虐殺について聞いたことすらない。
筆者はこの夏、ソウルの戦争記念館を訪れたが、朝鮮戦争関連の展示を注意深く見て回っても、虐殺についての説明は一切見掛けなかった。済州島や麗水での民間人の大量処刑も、共産主義の蜂起を鎮圧しただけだと説明されている。朴大統領から首相に指名されて辞退した文昌克(ムン・チャン)も済州島の島民が無差別に殺されたことを無視し、蜂起の鋲庄だと強弁していた。
虐殺の記憶はさまざまな形でゆがめられ、否定されてきた。
ニューヨーク・タイムズの崔相薫(チェ・サンフン)ソウル特派員は、朝鮮戦争中に米軍が避難民を大量虐殺した老斥里事件に関する報道が高く評価され、00年にビュリツァー賞を受貧した。虐殺の歴史が韓国でどう扱われてきたか、長年ウオッチしてきた崔にソウルで話を開いた。
「真実和解委員会つぶしは、保守派の意向だろう。近頃では保守派はリップサービスをするだけだ。保守の活動家も新聞も、済州島などの虐殺の歴史を歪曲しようとしてきた」
盧政権が真実究明と和解を推進した時期ですら、委員会の調査結果はほとんど注目を集めなかったと、桂は言う。
「(虐殺が)国民的議論になったことはない。有力紙はほぼ軒並み右寄りということもあって、主流のメディアは委員会の活動をほとんど取り上げなかった」
日本には清算を迫るが
崔によれば、高齢者の中には朝鮮戦争当時の暴虐を生々しく覚えている人たちもいる。だが若い世代にはそうした話は伝わっていない。「歴史教科書は思想的にデリケートな問題を扱わない。リベラルと見なされている教科書ですら虐殺を深く掘り下げていない」
日韓の歴史問題と同様、韓国内の歴史問題でも教科書の記述が論争の焦点になっている。金東椿は筆者の取材にメールで応え、いま学校で使われている歴史教科書は、真実和解委員会の調査結果にまったく触れていないと述べた。李前大統領は虐殺への言及を削る方向で教科書を改訂させたと、金は訴える。
今の韓国の状況を見ると、これからも事実が明らかにされることは期待できない。韓国政府としては、日本に過去の清算を迫るほうが都合がいい。日本たたきでは国民が団結するが、虐殺の事実に向き合おうとすれば右派と左派の亀裂が浮き彫りになる。政府が真実究明と和解を捷喝しても、政治的に得られるものはほとんどない。
過去の暴虐について直接的な記憶を持つ高齢者は次々にこの世を去る。若い世代も映画や本で虐殺について知ることができるが、関心は持つ若者は少ない。
自国に対する日本の過去の残虐行為は、「過去の問題」では済まされないと主張する韓国。だが、自国で起きた虐殺は過去の問題にすぎないらしい。
ベンジャミン・カツツェフ・シルバースタイン」
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