02. 2014年11月07日 05:52:08
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北朝鮮が開発する新型潜水艦の脅威 弾道ミサイル発射能力の獲得で状況は一変 2014年11月06日(Thu) 北村 淳 アメリカ政府や軍は、もともと拉致問題には(日本からの訪問者に対しては外交辞令で応じてはいるものの)ほとんど興味も関心もない。したがって、日本国民を拉致した当事国である北朝鮮が日本側を呼びつけるという(そして、それに日本政府もノコノコ応じるという)外交史上でもまれに見る侮蔑的外交姿勢に関しても全く興味を示してはいない。 この日朝協議と時を同じくして、どうやら北朝鮮が弾道ミサイル(SLBM)発射能力を持った新型潜水艦を完成させたらしいという情報が韓国政府筋によって確認された。この情報にはアメリカ海軍をはじめ軍事関係者たちは極めて高い関心を示している。 確認された北朝鮮の潜水艦情報 すでに今年の8月下旬に、この種の情報に関する報道では定評のある「ワシントン・フリー・ビーコン」が「北朝鮮が潜水艦発射型弾道ミサイルを開発しているらしい」という米軍諜報機関筋の情報を公表していた。 北朝鮮の潜水艦、それも弾道ミサイル発射型潜水艦の情報という最高機密に関するため、当然のことながらペンタゴンはこの種の情報を持っていることに関する明言は避けた。ただし、これまた当然ながら、海軍情報関係者を中心として北朝鮮の弾道ミサイル発射型潜水艦の開発に関する関心は高まった。 10月下旬になると、上記の情報を裏付けるように、北朝鮮新浦造船所に係留してあったこれまで未確認の潜水艦画像の分析結果から、北朝鮮海軍が新型潜水艦を手にしたことが、ジョンズホプキンス大学の北朝鮮情報分析ウェブサイト「38 NORTH」で公表された。 同サイトは引き続いて、新浦造船所隣接地に弾道ミサイル垂直発射管実験装置が、やはり画像解析の結果、確認できたと発表した。 (「38 NORTH」サイトの写真) ・新浦造船所周辺の航空写真 ・新型潜水艦の航空写真 ・SLBM発射テスト装置の航空写真 そして11月2日、韓国の聯合ニュースは、「北朝鮮が、ロシアから入手した旧ソ連製ゴルフ型潜水艦を改造して、潜水艦発射型弾道ミサイルを発射することができる新型潜水艦を完成させた」ことを韓国政府筋が明らかにしたと報道した。この報道内容はロシアでも確認され、米海軍関係者たちの間にも瞬く間に広まった。韓国、日本、そして極東を担当する米海軍は、新たな“頭痛の種”の誕生が迫っていることを危惧している。 旧ソ連製を改造した新型潜水艦 北朝鮮の新型潜水艦の原型と見られているゴルフ型潜水艦は、1958年から62年にかけてソ連で23隻が製造され、90年まで運用されていた。それは現時点では骨董品的な通常動力潜水艦である。93年に、すでに退役していた10隻のゴルフ型潜水艦が「解体処理のため」という名目で北朝鮮に輸出された。 その後、北朝鮮はこれらの旧式潜水艦を素材に、ロシアの潜水艦技術者などの援助を得ながら、潜水艦そのものの建造技術や潜水艦からミサイルを発射させるための垂直発射管技術などの習得に邁進してきたものと考えられる。ちなみに、韓国メディアは「韓国海軍は2027年までに垂直発射管を搭載する潜水艦を建造する予定であるが、北朝鮮に10年以上も先を越されてしまった」と伝えている。 「38 NORTH」の分析によると、北朝鮮の新型潜水艦の全長は67メートル、船幅は6.6メートルとされており、原型と言われているゴルフ型潜水艦(全長98.9メートル、船幅8.2メートル)に比べるとかなり小型化されている。ゴルフ型潜水艦は3基の垂直ミサイル発射管を装備してバリエーションによって3基から6基の弾道ミサイル(SLBM)を搭載していた。したがって、北朝鮮新型潜水艦のSLBM発射管数は最大でも3基であろうと推定されている。 北朝鮮技術陣は、SLBMに加えて魚雷発射管から発射可能な巡航ミサイル技術も習得しているものと、西側海軍情報筋では分析されている。 これらのミサイル発射技術が実戦に耐え得る程度に実用化されると、小型とはいえ北朝鮮新型ミサイル潜水艦は、韓国や日本にとっては新たな軍事的脅威となることは確実である。そして韓国政府筋は、北朝鮮がそのような能力を手にするのは1〜2年以内と考えている。 核弾頭も搭載、日本の大部分を射程圏内に ゴルフ型潜水艦が搭載していた弾道ミサイル(SLBM)であるR-21型SLBMは、液体燃料1段式ミサイルで800キロトンの核弾頭を搭載し、最大射程距離は1300〜1650キロメートル。CEP(平均誤差半径)は2.8キロメートルと極めて命中精度は悪かった。 ゴルフ型ミサイル潜水艦の情報などから推測して、北朝鮮の新型潜水艦に搭載されるであろう弾道ミサイルは、現在北朝鮮が保有しているノドン弾道ミサイルあるいはムスダン弾道ミサイルを潜水艦発射用SLBMに改造したものと考えられている。いずれのミサイルをベースに開発が進められようとも、ゴルフ型潜水艦に搭載されていたSLBMと少なくとも形状は似通ったものが搭載されるであろう。 したがって、北朝鮮新型潜水艦に搭載されるSLBMは、最大射程距離1000〜1400キロメートル程度で核弾頭が搭載されるものと思われる。ただし、日本攻撃用として非核弾頭搭載型SLBMも考えられなくはない。そして、中国海軍を見習って、新型潜水艦には長距離巡航ミサイルも搭載されるかもしれない。いずれにせよ、北朝鮮東海岸沿岸域を潜行中の新型潜水艦から発射されるSLBMは日本の大部分を射程圏内に収めることは間違いない。 北朝鮮沿岸域(ポイントの位置)を潜行中の新型潜水艦から射程圏1200キロメートル圏を示した 日本の北朝鮮外交がさらに劣位に
これまでも北朝鮮海軍は78隻の潜水艦を保有しており、数量的には世界一の潜水艦保有国ではあった。ただしそれは“数”だけであって、それらのうちの20隻は第2次世界大戦直後に製造されたソ連製老朽骨董潜水艦であり、残りの50隻以上の潜水艦も全長10メートルから40メートル以下の超小型潜水艦である。したがって、韓国沿岸域に接近して韓国艦船に対して魚雷攻撃を加えたり、特殊部隊を送り込んだりといった作戦には適しているものの、日本に接近しての作戦行動には全く不向きであった。 当然のことながら、旧式・低性能の北朝鮮潜水艦など、海上自衛隊やアメリカ海軍の敵にすらなり得ず、日本にとっての脅威レベルはゼロと言っても過言ではなかった。 ところが、北朝鮮海軍がSLBM搭載潜水艦を手にするとなると、状況は一変する。確かに、ゴルフ型潜水艦をベースに建造された新型潜水艦そのものは自衛隊にとっては取るに足りない脅威にしか過ぎないであろう。しかし、その潜水艦がSLBMを発射する能力を持っているとなると、SLBMの脅威によって日本は現在以上に外交的にも劣位に立たされることになる。 北朝鮮沿海域の警戒監視体制確立を そもそも核弾頭搭載SLBMを発射する能力をもった潜水艦は「戦略潜水艦」と呼ばれる。国連安保理常任理事国(アメリカ、ロシア、中国、イギリス、フランス)が保有しており、いずれも原子力潜水艦である。 戦略原子力潜水艦の基本運用構想は、自国本土が敵の核攻撃を受けても、海中を潜航し生き残った戦略原潜から敵に核SLBMを打ち込んで報復する、というものである。したがって、長期間海中を潜航することができる原子力が戦略潜水艦の推進動力として採用されているのだ。 北朝鮮の新型潜水艦のような、原子力ではない通常動力(ディーゼル機関と電気モーターのハイブリッド型)潜水艦は、長期間にわたって海中に潜航し続けるというわけにはいかない。そのため戦略潜水艦には不適とされている。 しかし、北朝鮮の運用目的が報復攻撃ではなく、SLBMによる先制攻撃、あるいは単にSLBM潜水艦を運用していることにより軍事的圧力を強化して外交力を高める、といったことならば、通常動力潜水艦にSLBMを組み合わせるという選択肢もある程度合理性が認められる。 逆の立場にある日本としては、現時点でも北朝鮮軍が保有している多数の対日攻撃用弾道ミサイルの脅威を受けている状況がさらに悪化することを意味する。すなわち、北朝鮮領内の地上移動式発射装置から発射される弾道ミサイルの脅威に加えて、北朝鮮沿岸海域を潜航する新型潜水艦からも日本に弾道ミサイルが飛来することになるからだ。 口先では「対話と圧力」と公言しているにもかかわらず、北朝鮮に対して何らの軍事的対抗策を講じていない現状では、「対話と圧力」は単なる空念仏に過ぎないと言わざるを得ない。これまでは北朝鮮沿海域をさほど警戒する必要がなかったが、今となっては同海域の警戒監視態勢の確立が、日本政府に突きつけられた喫緊の課題であると言えよう。 【関連記事です。あわせてお読みください】 ・「新たな危険水域に突入した北朝鮮の核武装」 ( 2014.10.29、古森 義久 ) ・「北朝鮮が濃縮ウラン型核実験を敢行か?」 ( 2014.04.25、黒井 文太郎 ) http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42133
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