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北朝鮮で新たな粛清開始――拉致再調査やはり不可能に
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20141022-00010000-nipponcom-pol
nippon.com 10月22日(水)13時57分配信
北朝鮮関連の複数の報道によると、10月初旬から、逃走・潜伏中の幹部が10名以上、政権によって処刑された可能性が高い。今、北朝鮮では新たな政争が行われており、日朝協議、さらに言えば拉致問題の交渉の窓口である北朝鮮の国家安全保衛部がその当事者になっているという。金正恩政権になってから、李英浩・総参謀長の失脚、No.2で中国とのパイプ役であった張成沢・国防委員会副委員長の粛清に続き大がかりな政争は3回目となる。
月にnippon.comで日朝協議の現在の展開を正確に予測した(「恋愛ゲームの『当て馬』となった日朝協議」)、関西大学教授で北朝鮮政治・経済研究者の李英和氏によると、9月から10月にかけての動きをみると、国家安全保衛部の敗北は確定的となっているという。今回の処刑は、まだ国家安全保衛部の幹部が対象ではないが、一連の政争の流れに沿って、事態が動いているものとみていいようだ。
国家安全保衛部は、拉致問題そのものの当事者で現在被害者を管理しているとみられている。そのため安倍政権は協議再開当初から「かつてない強力な布陣」と、再調査に期待をかけていたが、彼らの今回の失権で、拉致問題の進展は、ほぼ絶望的となった。9月末からの日朝高官協議では、日本側が拉致再調査の窓口や担当者となっている国家安全保衛部の幹部たちの安否の確認に動いているという。それに対し北朝鮮側は、「平壌へ来い」としか答えていないという。
李英和氏の記事のは以下の通り。
■延期の理由
−−年初から着手され、5月末には安倍晋三首相が制裁の一部解除を発表するなど、急速に進展しているかに見えた日朝協議は、早くもというか予想通りというか、9月下旬に挫折した。制裁解除の条件となっていた、拉致問題再調査の第1次報告について、北朝鮮が難航を理由に延期を申し出たからである。これに対し「いつもの北朝鮮の焦らし、小出し戦術だ」「さらなる制裁緩和を引き出そうとしている」という観測が日本国内のメディアでは強いが、これは全く外れている。拉致再調査は事実上、潰れたとみていい。
日本は拉致問題で進展がない限り、政治的に北朝鮮との修交は困難であるが、今回の日朝協議再開に対し、安倍首相をはじめ日本政府はかなりの自信を示していた。その理由のひとつに、拉致そのものに関与し、拉致被害者の管理・監督を行っているとみられる北朝鮮の秘密警察、国家安全保衛部そのものが交渉の直接の窓口になっていたことが挙げられる。その国家安全保衛部が、現在、北朝鮮国内の権力抗争の中で敗者となろうとしているのである。
抗争の相手は、共に最高権力者である金正恩・朝鮮労働党第一書記の直轄組織で、軍、党の人事権を持ち、各組織の業務と思想を監督する朝鮮労働党組織指導部である。もっと具体的に言えば、金元弘・国家安全保衛部長と組織指導部の出身でこれを権力母体とする黄炳瑞・朝鮮人民軍総政治局長との戦いである。−−
■もはや拉致被害者ではなく「国家安全保衛部」の安否が焦点
−−直接のきっかけとなったのは、今年(2014年)6月に北京で起きた平壌音楽舞踏大学教授の失踪事件と、同月、ウラジオストクで起きた朝鮮大聖銀行首席代表の400万ドル持ち逃げ事件である。
北朝鮮の在外公館には、内部監督のため国家安全保衛部の要員がくまなく配置されている。当然、これらの不祥事は国家安全保衛部の責任となる。このことを理由に、7月から組織指導部が国家安全保衛部の業務検閲を始めている。そこで矢面に立たされているのが徐大河副部長と姜成男局長であるが、徐副部長は国防委員会の「日本人問題全般」の特別調査委員会委員長、姜局長は同委員会の拉致被害者分科会の代表である。
現在、業務検閲から思想検閲にまで進んでいる。つまり、金正恩・第一書記への忠誠心を問われる事態に発展している。ここまで来ると単なる規律問題ではない。国家安全保衛部が抑えている対外利権を「金正恩・第一書記の手に戻す」という名目のもとに組織指導部が切り崩しにかかっていることが、この抗争の背景にある。日朝交渉の先にある日本との利権もその対象である。それゆえ、組織指導部の最終標的は、金・国家安全保衛部長とみていい。
この抗争は、現在、組織指導部が優勢である。黄・軍総政治局長は、9月に北朝鮮の中核組織である国防委員会の副委員長就任が決まり、10月4日には、韓国・仁川で行われていたアジア大会の閉会式に合わせ、急きょ訪韓し、韓国首脳と会談、南北対話再開について言及した。いうまでもなく、金正恩・第一書記の側近として北朝鮮No.2の地位を確立したとみられる。つまり、この抗争の背後には金正恩・第一書記の意思が垣間見られるのである。
もはや、拉致再調査の窓口であり、実行者であり、日本政府から「かつてない強力な布陣」と評された、国家安全保衛部の金部長、徐副部長、姜局長は、生命すら危ぶまれる状態となっている。−−
■張成沢粛清の意味するところ
−−金正日時代の北朝鮮の内部抗争は、基本的に後継問題が背景にあった。しかし、金正恩・第一書記が後継者になってからの抗争は、全く異なる構造を持っている。いうまでもなく、金正恩・第一書記の権力掌握がその目標ではあるが、具体的には対外利権などの資金源の奪い合いとなっている。国内が経済破綻して久しいが、それでも体制が維持されているのは、軍、党などの権力層に金品の配分が行われているからと考えてよい。当然、アングラビジネスや、日本などからの送金を含む対外利権は、権力の所在そのものを左右することになる。経済制裁が厳しくなってからは、特にアングラビジネスによる秘密資金への依存度が高くなっている。
金正恩・第一書記が権力の座に就いた時、対外利権を掌握していたのは伯父(父、金正日氏の妹婿)で後見人筆頭の張成沢・国防委員会副委員長だった。張氏は、特に中国との太いパイプを持っており、中国から見れば、政治面でもビジネス面でも窓口になっていた。当然、張氏は北朝鮮内で圧倒的な権力を保持することになる。それゆえ、金正恩・第一書記とその周辺によって標的とされ、2013年12月、粛清される。
このとき金正恩・第一書記を動かし張氏粛清の中心となったのが国家安全保衛部であった。そして張氏亡き後、利権を独占し資金力をつけ、権力を強めて行った。張氏に対抗するとみられていた、崔龍海・前軍総政治局長まで抑え込んでいったのである。−−
■カネづるとしての日本
−−しかし、自らとのパイプを潰された中国との関係は全く冷え込んでしまい、北朝鮮自体は新たな資金源を探さなければならなくなった。その対象が日本だった。張成沢粛清の直後、2014年の年初から国家安全保衛部が窓口となり、日朝協議再開に向けた水面下の交渉が始まった。
関係改善がなされ、経済制裁が解除されるとなると、日本との間の諸々の利権獲得は国家安全保衛部の手柄ということになる。そこで黄・軍総政治局長が「国家安全保衛部が日朝利権を独占しようとしている」と金正恩・第一書記に注進したといわれている。いずれにしても国家安全保衛部の独走に対する警戒感が、北朝鮮指導部内に高まっていたのである。−−
nippon.com yahoo別館、構成=nippon.com編集部
李 英和 LEE Young-hwa
関西大学経済学部教授(北朝鮮社会経済論専攻)。1954年大阪府生まれ、在日朝鮮人三世。関西大学大学院博士課程修了(経済学専攻)。関西大学経済学部助教授を経て現職。1991年4月〜12月、北朝鮮の朝鮮社会科学院に留学。93年にNGO「救え!北朝鮮の民衆/緊急行動ネットワーク」(RENK)を結成、現在、同代表を務める。著書に『暴走国家・北朝鮮の狙い』(PHP研究所、2009年)など多数。
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