04. 2014年10月16日 07:35:55
: jXbiWWJBCA
「早読み 深読み 朝鮮半島」 北朝鮮にどんどん似てきた韓国「言論弾圧国家」を読者と考える 2014年10月16日(木) 鈴置 高史 「日本は人権侵害国家だ」と世界中を訴えて回る韓国。だが、今度は自分が「言論弾圧国家」と見なされてしまった。 空白の7時間 産経新聞の加藤達也・前ソウル支局長が韓国の検察から「大統領に対する名誉棄損」で起訴されました。 鈴置:肩書は前支局長ですが帰任の辞令が出たばかりで、まだソウルに滞在中です。出国禁止処分にあっていますから、在宅起訴とはいえ抑留状態です。 8月3日にネット版で書いた「朴槿恵大統領が旅客船沈没当日、行方不明に…誰と会っていた?」が情報通信網法の名誉棄損に当たるとされました。 4月16日に旅客船「セウォル」号が沈没し、死者・行方不明者は300人を超えました。事故発生当初の7時間ほどの間、大統領がどこにいたのか、どう報告を受け、どう指示したかが韓国では政治問題化しました。正確に言えば、それらを青瓦台(大統領府)がなかなか明かさなかったことも問題になったのです。 朝鮮日報のシニア記者が書いたコラム「大統領をめぐるうわさ」(7月18日、韓国語版)は、この7時間の間に大統領がある男性と会っていたという噂を紹介しました(注1)。 (注1)この記事は有料会員だけが読める。 産経の記事はそれをほぼ引用する形で書かれたのです。しかし、朝鮮日報は起訴されませんでした。 待望の第4弾 最新刊好評発売中! 早くもAmazon「朝鮮半島」カテゴリ1位獲得! 『日本と韓国は「米中代理戦争」を闘う』 「米陣営に残れ」 4月のオバマ訪韓で踏み絵を迫った米国。 しかし韓国の中国傾斜は止まらず、 7月の習近平訪韓でその勢いは増した。 流動化するアジア勢力図をどう読むか、 日本はいかに進むべきか−−。 『中国に立ち向かう日本、つき従う韓国』 『中国という蟻地獄に落ちた韓国』 『「踏み絵」迫る米国 「逆切れ」する韓国』 に続く待望のシリーズ第4弾、9月16日発行。 好評発売中! 待っていたかのように紙を読んだ米報道官 韓国には起訴に批判的な声もあると聞きました。“原典”の朝鮮日報はおとがめなしだったからですか。 鈴置:それが理由ではありません。韓国では法律の恣意的な適用はさほど問題になりません。それをおかしいと考える人は少ないのです(「『米国の上着』と『中国の下着』をまとう韓国人」参照)。 起訴に対する批判が高まったのは、米国が韓国批判に動いたからです。韓国での米国の威光は衰えたとはいえ、まだ相当なものです。 米国務省は起訴後、直ちに韓国の言論弾圧に対する「懸念」を表明しました。WSJなど米メディアも韓国を厳しく批判しました。米国務省のサイトによると10月8日、記者からの質問にサキ報道官は以下のように答えています。 ソウルの検察当局が本日(10月8日)、産経新聞支局長を起訴したという報道を我々は承知している。起訴手続き後のソウルの検察の捜査を注視してきた。それ以上の細かな情報は持っていない。 ご存じのように、我々は言論と表現の自由を幅広く支持している。これまでもそうだったが、最近発行した国務省の年次報告書も含めて、我々は韓国の法律への懸念を明確にしてきた。 国務省の画像サイトで会見の中の、韓国の言論の自由侵害に関する部分(会見開始後56分過ぎから)を見ると、米国の確固とした姿勢がよく分かります。 記者が質問すると、サキ報道官は用意してあったと思われる紙を直ちに読んだのです。質問を待っていたように見えました。 恥さらしの「産経起訴」 年次報告書とは? 鈴置:2014年2月発表の2013年版の国別の人権報告書のことです。「韓国」の項の7、8ページには韓国の法律に対する以下の懸念が記されています。 政治的指導者を批判したと当局から見なされた人々が処罰されることもあり得る。 名誉棄損を大まかに定義することにより罪を負わせる法律が、取材活動を抑圧する可能性がある。 米国からすれば、韓国の言論の自由に関し抱いていた様々の懸念が今回の起訴で現実になったのです。米国の批判を受け、韓国の左派系紙ハンギョレは「国辱もの」と朴槿恵政権を非難しました。 10月11日付の社説「国の恥の『産経記者の起訴』は大統領が収拾せよ」の要旨は以下です(ネット版は10月10日夜に配信)。日本語版でも読めます。 イメージは30年前に逆戻り (韓国に対し)国内外の非難と反発が強まる。民主主義の核心的な価値である言論と表現の自由を締め上げたのだから、非難は当然だ。 日本政府は遺憾と強い憂慮を表明した。米国も「表現の自由に関する広い範囲の支持」と「韓国の関連法に対する懸念」を確認し、事態を注視すると明かした。韓国政府と接触したとも示唆した。 日本はもちろん海外の主なメディアも韓国の言論の自由に強い疑問を呈している。(朴正煕大統領が憲法改定により独裁体制を強化した1972年から79年までの)維新時代や軍事政権時代の、韓国を見る視線がまさにこうだった。朴槿恵政権の時代錯誤的な言論統制の試みが、韓国の国家イメージを30―40年前の水準におとしめた。 産経の記事が十分な事実確認を経ていない不誠実なものだったのは明らかだ。しかし記事が問題にした大統領の「消えた7時間」は公的な業務遂行についての問題提議でもある。 (この記者に関して言えば)職業倫理への非難はともかくも、刑事処罰の対象になるほどの根拠はないだろう。だが、検察は大統領の言葉が下されるや否や、捜査に着手し起訴も強行した。 だから政治的な起訴と批判されるのだ。その結果が現在の国際的な恥辱だ。朴大統領はそろそろ事態を収拾すべきだ。 大統領への無分別な忠誠 政界は? 鈴置:野党第1党の新政治民主連合の印在謹(イン・ジェグン)議員が10日、国会で「国際的な大恥をかき、取り返しがつかない」と政府を批判しました。 その理由に挙げたのはやはり「米国」でした。同議員は「日本政府だけではなく米国務省の報道官まで韓国の言論統制を批判している。検察の(大統領に対する)無分別な忠誠がこうした事態を起こした」と述べました。一方、与党セヌリ党は「起訴は当然のこと」との立場です。 保守系紙は社説で論じましたか? 鈴置:保守系の大手3紙のうち、10月15日までに「産経起訴」を論じたのは中央日報だけです。11日付の「産経前ソウル支局長起訴に対する我々の視点」(日本語版)がそれです。 「産経は誠意ある謝罪をすべきだ」との主張です。ただ「韓国政府は国際慣行上、名誉棄損による海外メディアの起訴は不適切だった、との内外の指摘に耳を傾けるべきだ」とも指摘しました。政府にも反省を求めたわけです。 「米国の懸念」が効いたと思われます。なぜなら中央日報は前日までは産経叩きに全力をあげていたからです。典型的な記事が「度の過ぎた嫌韓・反韓報道で信頼を失う産経」(10月10日、韓国語版)です。 3人がかりで書いた大型の記事で「産経は韓国に害をなすメディアであり、起訴は当然である」と強調するものでした。 不愉快なら起訴できる やはり米国効果ですね。ところで「起訴が当然」とはどういうロジックだったのですか? 鈴置:この記事では前文で「産経が度の過ぎる嫌韓・反韓報道を主導している点も(起訴に)影響した」と書いたうえ、本文で前支局長や産経の“罪状”を数え挙げました。検察が指摘したという産経の主な「反韓報道」は以下です。 @ 月刊正論9月号で慰安婦に関連「韓国は性搾取大国である」と書いた。 A 1995年3月13日付社説で「日本の朝鮮半島統治は当時、国際社会が認めた日韓併合条約に依るものであり、不法占拠ではない」と植民地統治を正当化した。 B 2月には、朴大統領の外交を「告げ口外交」とけなす記事を「韓国の民族的習性」との見出しで載せた。 要は、自分と異なる意見を主張する、韓国人にとって不愉快なことを書くメディアだったことが「産経起訴」の一因だった、ということです。 憲法の上に“国民情緒法” 「不愉快な相手なら、別件で起訴できる」のですか、韓国では。 鈴置:できるのです、韓国では。だから記事の前文でも「産経の反韓姿勢が(起訴に)影響を及ぼした」と書き、本文にも以下のくだりがあるのです。 検察は産経の前支局長が韓国と関連し、論議を呼ぶ記事を何本も書いていることにも注目した。 韓国人は「不愉快な奴だから、無理やり法律を適用してもやっつけるのが当然」と考えます。法曹界も含めです。韓国の知識人が「我が国には憲法よりも上に『国民情緒法』なるものがある」としばしば苦笑するのもそのためです。 この記事はましな方です。最後にちょろっとですが「産経に対し倫理的な批判はし得るが、法的に対応したのはやり過ぎの側面もある」との識者のコメントを付け加えているからです。 先ほど引用した、翌11日付の「産経前ソウル支局長起訴に対する我々の視点」(日本語版)の社説では、こうした批判も付けずに、堂々と以下のように書いています。 法治国家ではない証拠を自ら発信 今回の事態は産経が自ら招いた。前支局長の記事は独身の朴大統領が妻帯者と男女関係があるかのように誹謗した性格が濃厚だ。市中に飛び交う疑惑を確認せず無責任に送り出したという非難から自由になれない。産経は訂正報道はもちろん、謝罪表明さえ真摯にしなかった。さらに前支局長と産経は、普段から度が過ぎる嫌韓報道で批判を受けていた人物と報道機関だった。 「普段から批判を受けていたこともあって起訴された」……なんて書いたら、世界から法治国家とは見なされなくなると、論説委員は考えなかったのでしょうか。 鈴置:考えもしなかったのでしょう。韓国では当然の話ですから。それにこの論説をそのまま英文にして世界に発信しています。「Dealing with defamation」(10月11日、英語版)がそれです。 米国務省の人権担当者がこの記事を読んだら、韓国が法治国家ではないことの明確な証拠として、この記事を保存しておくに違いありません。2014年版の人権報告書にこの事件を盛り込むためにも。 韓国の異様さを訴える韓国人 結局、韓国は普通の国ではないのですね。 鈴置:日本や米国、欧州を普通の国とするなら、韓国は普通の国とは言えません。「普通の国」の水準から言って法治国家でもないし、そうなろうともしていません。 その韓国で、自分の国の異様さを必死で訴えている人もいます。趙甲済(チョ・カプチェ)ドットコムで、ヴァンダービルドなるペンネームを使って健筆を揮う人です。 ヴァンダービルド氏が「産経起訴」をどう書くかな、と待っていたら10月10日夜に「北朝鮮の『我々独自のやり方』に似てきた韓国の『反日』」(韓国語)を載せました。 日本や欧米どころか、韓国を北朝鮮と並べたのです。長い記事ですが、血を吐く思いで書いた文章と思えるので、なるべく省略せずに翻訳します。以下です。 米韓同盟も危うくする小児病的反日 ケネス・ペーという米国人は北朝鮮で、浮浪児を撮影したというだけで15年の労働教化刑を宣告され服役中だ。常識からはかけ離れているが、これが北朝鮮のよく言う「我々独自のやり方」である。 それほどではないにしろ、韓国の「反日」も世界の常識からかけ離れた挙句、北朝鮮の「独自のやり方」に似てきた。 ロッテホテルの(自衛隊行事の前日の)取り消し、盗品(日本から盗んだ仏像)の未返還、大使館前の違法な造形物(慰安婦像)、韓日間の国際協定を覆しての国内の判決(戦時徴用への補償要求など)である。 病的な水準に達した反日にも満足できなくなった韓国人は、政府に対しもっと日本に強硬に出ろと不満と怒りを噴出させるに至った。 韓国人が現在見せる過度の反日は、不幸だった歴史のためではなく、韓国人特有のうっぷん晴らしだ。御しやすい日本を小突きまわしているだけなのだと、日本も世界も気がついてきた。 国際的な常識を無視した韓国の過度の反日に対して、国際社会も疲労感を覚え始めた。産経の前支局長起訴に米国や国連が憂慮するのも、そのシグナルだろう。 過度の反日による外交、安全保障面での不利益を生む可能性をもう、排除できない。しかし、これに対し警告をすべき韓国のメディアは、警告どころか反日を増幅することに熱心だ。 小児病的反日は対外的なイメージばかりでなく、果ては韓米同盟も危うくするだろう。怪物に成長した反日に、知らぬふりをしたり迎合する限り、韓国に未来はない。 韓国の反日に嫌気したから米国が「産経起訴」を憂慮した――わけではないと、私は思います。ただ、米国も韓国の反日に険しい目を向けているのは事実です。韓国が「離米従中」の隠れ蓑に「反日」を使っていることを見抜きましたからね。 「韓国攻撃の材料を得た日本」 しかし、冷静な韓国人もいるものですね。 鈴置:こんな人はごく少数です。韓国でこうした意見を語れば国賊扱いされます。「反日」というおもちゃを捨てよ、と主張しているわけですから。「おもちゃ」なしでは生きていけない多くの韓国人は、烈火のごとく怒り出すわけです。 例えば、日本の見方や立場を紹介したヴァンダービルド氏の記事に対して読者は「お前は日本人か」といった罵倒を書き込みます。「本当のこと」は仮名でないと書けないのでしょう。 さて、朴槿恵政権は反日カードを切り続けるのでしょうか。 鈴置:この政権が姿勢を変える可能性は低いと思います。確かにヴァンダービルド氏が警告するように、反日の副作用が発生し始めました。 興味深いことに、親米保守の同氏とは思想傾向が全く異なる左派のハンギョレの社説、先ほど紹介した「国の恥の『産経記者の起訴』は大統領が収拾せよ」(日本語版)にも、似たくだりがあります。以下です。 (「産経起訴」による)外交的損失も少なくない。今回のことで日本は韓国を攻撃するいい材料を得た。慰安婦問題など韓日関係の課題は片隅に押しやられることになった。 米国や国際社会の支持を得るという点でも、日本が優位に立つ可能性が高まった。韓日関係が冷え切っている責任を、日本は韓国のせいにするだろう。政府がこのような結果を念頭に置いていたのか、問わざるを得ない。 「人質」に使える産経前支局長 韓国は世界で「慰安婦」を宣伝し、日本の地位を落とす半面、自らのそれを引き上げる戦略に出ていました。「慰安婦は強制連行されたのだ。これは人権問題だ、女性の権利の問題だ」と言い張れば、今のご時世、昔の話とは言っても誰しも聞かざるを得ないからです。 しかし「日本を貶めることに成功した」と韓国人同士でハイタッチをしていたら、今度は自分が「言論弾圧国家」の烙印を押されてしまったのです。 いずれも一部とはいえ、左派も保守派も軌道修正を要求しているのです。朴槿恵政権も「産経」では柔軟策に転じるのでは……。 鈴置:常識的に考えればそうです。でも、朴槿恵政権は政策を選ぶ際、より強硬な方を選ぶことが多い。少しでも妥協したり、譲歩すれば負け、と見なすように思われます。韓国人がそもそも、そうですしね。 朴正煕政権は「維新時代」に反政府運動を弾圧し、新聞を検閲しました。米国はやめるよう繰り返し説得しました。しかし、朴正煕大統領は米国に強く反発、米韓関係は極度に悪化しました。 朴正煕のデジャヴ だから、ハンギョレが「維新時代」を持ち出して批判するのですね。 鈴置:その通りです。娘の朴槿恵大統領は父親である朴正煕大統領を常に意識して国政に当たっています。一方、国民は娘の中に常に父親の影を見ています。「デジャヴ」なのです。 それに「出国禁止処分にしてある産経の前支局長を人質にして、慰安婦などで日本に譲歩を迫ることができる」との発想も政権内には出てくるはずです。 韓国の検察は10月14日には、産経前支局長の出国禁止処分を3カ月延長しました。この処分は8月7日から始まっています。10月1日付で東京本社勤務の辞令が出ていますが、帰国できない状態が続いています。 2010年の尖閣諸島中国漁船衝突事件の際、中国は日本の建設会社、フジタの職員を逮捕し、中国漁船の船長の釈放に圧力をかけました。韓国はこの事件をよく見ていて、これ以降、中国船長を釈放した日本に対し強気になりました。 朴槿恵大統領の対日政策の最大目標は「慰安婦で日本をひざまずかせること」です。そのためには何でもやるでしょう。 最近、韓国紙が「日本のヘイトスピーチ」を紙面でしばしば取り上げるようになりました。朴槿恵大統領も7月25日に東京都の舛添要一知事に会った際、日本のヘイトスピーチを抑制するよう求め、同意させています。「慰安婦」に次ぐ新たな対日攻撃カード作りも狙いの1つと思われます。 「産経起訴」で韓国政府は思いもよらなかった国際的な非難に直面しました。この苦境を打開するためにも、従来の「慰安婦」に加え「ヘイト」、「人質」など新たな武器を繰り出す可能性があります。「攻撃は最大の防御なり」とばかりに。 このコラムについて 早読み 深読み 朝鮮半島 朝鮮半島情勢を軸に、アジアのこれからを読み解いていくコラム。著者は日本経済新聞の編集委員。朝鮮半島の将来を予測したシナリオ的小説『朝鮮半島201Z年』を刊行している。その中で登場人物に「しかし今、韓国研究は面白いでしょう。中国が軸となってモノゴトが動くようになったので、皆、中国をカバーしたがる。だけど、日本の風上にある韓国を観察することで“中国台風”の進路や強さ、被害をいち早く予想できる」と語らせている。 http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20141014/272539/?ST=print |