01. 2014年7月24日 01:50:12
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>日本の『失われた20年』と同じ失敗を繰り返さないために、公式化された政策モデルから脱却し、即効性のある経済政策を断行アベノミクスのことか http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20140722/268969/?ST=print 中国が仕掛けた「中立化の罠」にはまる韓国 中韓首脳会談を木村幹教授と読む(3) 2014年7月24日(木) 鈴置 高史
(前回から読む) 二股外交により米中間で動きがとれなくなった韓国。行方には「中立化」が待っているように見える。木村幹・神戸大学大学院教授と先読みした(司会は坂巻正伸・日経ビジネス副編集長)。 レッドラインを越えた
木村幹(きむら・かん) 神戸大学大学院・国際協力研究科教授、法学博士(京都大学)。1966年大阪府生まれ、京都大学大学院法学研究科博士前期課程修了。専攻は比較政治学、朝鮮半島地域研究。政治的指導者の人物像や時代状況から韓国という国と韓国人を読み解いて見せる。受賞作は『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(ミネルヴァ書房、第13回アジア・太平洋賞特別賞受賞)と『韓国における「権威主義的」体制の成立』(同、第25回サントリー学芸賞受賞)。一般向け書籍に『朝鮮半島をどう見るか』(集英社新書)、『韓国現代史』(中公新書)がある。ホームページはこちら。最近の注目論文は「日韓関係修復が難しい本当の理由」(Nippn.com 2013年12月20日)。(写真:鈴木愛子、以下同) 前々回と前回は、朴槿恵(パク・クンヘ)大統領が一気に中国側に傾いた。恐ろしくなった韓国の親米保守派は「中国に呑み込まれる」と悲鳴を上げた。しかし朴槿恵大統領は耳を貸しそうにない――という話でした。 鈴置:木村先生の例え話を使えば、中韓首脳会談を機に韓国はルビコン河に飛び込みました。習近平主席と一緒になって、朴槿恵大統領が日本の集団的自衛権の行使容認を強く批判したからです。 これにより、米国が示していた「レッドライン」を韓国は越えたと見なされました。ただ、韓国は米国との同盟を打ち切るわけではない。まだ、北朝鮮の脅威は米国に抑えてもらう必要があるからです。 韓国は米国にも足場を残し、二股を続けるつもりでしょう。しかし二股というか、二枚舌外交は大変な困難を伴います。 例えば、集団的自衛権の問題で怒らせてしまった米国に対し、外交当局は人を送って弁解することにした、と韓国メディアは報じています。 二枚舌の苦労 米国と日本がコントロールするアジア開発銀行(ADB)に対抗して中国が作ろうとしているアジアインフラ投資銀行(AIIB)。これに関しても、米国は韓国に警告しましたね。 鈴置:韓国はこの創設に参加しようとして、米国から止められました(「ルビコン河で溺れる韓国」参照)。中国に対し内々に参加を表明していたようで、韓国は板挟みになりました。 韓国では奇妙な「解決策」が語られています。AIIBの本部を韓国に誘致すればいい。これでAIIBの「中国色」が薄まり、米国の怒りも収まって韓国も参加できる。ついでに韓国も国際機関の本部を持って来られる――というのです。 中央日報が7月15日に「中国にAIIB本部誘致を要請……韓国の妙手」(日本語版)という記事で報じました。 米国は本部誘致により、韓国がAIIBに参加することを許すでしょうか。 鈴置:その可能性は極めて低いと思います。今や米国は韓国を「中国の使い走り」と見なしています。 こんなアイデアを持ち込まれたら「今度は中国と一緒になって猿芝居か」と、米国はますます怒り出すと思います。韓国人は自分たちが周囲からどう見られているか、まだ分かっていないようです。 いずれにせよ韓国は、大きな声を出した国の言うことを聞き、翌日、反対側から怒られたら謝るという、その場しのぎの外交に陥りました。 「米中星取表」を見れば分かるように、米中の対立案件は山のようにあります。これら全てで二枚舌を使わねばならないのです。 米中星取表〜「米中対立案件」で韓国はどちらの要求を呑んだか (○は要求を呑ませた国、―はまだ勝負がつかない案件。△は現時点での優勢を示す。2014年7月23日現在) 案件 米国 中国 状況 米国主導の MDへの参加 ● ○ 中国の威嚇に屈し参加せず。代わりに「韓国型MD」を採用へ 日米韓3国の 軍事情報交換 ▼ △ 4月の米韓首脳会談でいったん合意。しかし中国の脅しで実現に動けず 在韓米軍への THAAD配備 ― ― 韓国国防相は一度は賛成したが、中国の反対で後退 米韓合同軍事演習 の中断 ○ ● 中国が公式の場で中断を要求したが、予定通り実施 CICAへの 正式参加(注1) ● ○ 正式会員として上海会議に参加。朴大統領は習主席に「成功をお祝い」 CICAでの 反米宣言支持 ○ ● 5月の上海会議では賛同せず。米国の圧力の結果か AIIBへの加盟 (注2) △ ▼ 米国の反対で7月の中韓首脳会談では表明見送り。ただし、継続協議に 日本の集団的自衛権 の行使容認 ● ○ 7月の会談で朴大統領は習近平主席と「各国が憂慮」で意見が一致 (注1)中国はCICA(アジア信頼醸成措置会議)を「米国をアジアから締め出す」組織として活用。 (注2)中国はAIIB(アジアインフラ投資銀行)を、米国と日本が力を持つADB(アジア開発銀行)への対抗馬として育てる計画。 待望の第3弾 好評発売中! 増刷出来! Amazon「朝鮮半島」カテゴリ1位獲得/ 楽天ブックス政治部門1位獲得 『「踏み絵」迫る米国 「逆切れ」する韓国』 「従中」へ動く韓国。それに苛立つ米国は 4月、オバマ訪韓で「踏み絵」を迫った。 その先に見える、新たなアジアの構図とは? 『中国に立ち向かう日本、つき従う韓国』 『中国という蟻地獄に落ちた韓国』の著者が 待望のシリーズ第3弾、4月22日発行。 全国書店にて好評発売中! 自衛隊が韓国周辺で掃海? まさに米中双方から手を引っ張られ、ルビコン河の真ん中で動けなくなって溺れかけている韓国という図――という図式ですね。 木村:集団的自衛権の行使容認の問題でも、韓国は具体的な困難に直面しています。日本の憲法解釈の変更を受け今後、韓国の防衛計画を定める際に米国は日本の戦力も当てにする可能性が高い。 韓国軍の「戦時作戦統制権」が米韓合同司令部にある限り、韓国はあらゆる軍事計画を米国と一緒に作らないといけない。 しかし韓国は自らの世論と中国の反対により、日本の戦力を当てにした計画に応じることはできない。結果として米韓両国は戦争が起こるまでもなく、作戦計画策定の段階で対立してしまうのです。 韓国の困難とは、米中どちらを支持するかという抽象的な問題にとどまらないのです。日本の集団的自衛権を巡る問題は極めて具体的なものであり「今、直ちに」直面する問題でもあります。 自衛隊が韓国防衛に関わるということですか? 鈴置:日本の戦闘部隊が韓国の陸上で活動する計画が検討されることはないでしょう。ただ「朝鮮半島周辺海域での機雷の除去は海上自衛隊に担当させよう」と米軍は言い出すかもしれません。 韓国海軍には掃海部隊は事実上ありません。米海軍も太平洋での掃海は日本の海上自衛隊に任せてきました。朝鮮戦争当時に米国の占領下にあった日本は、海上保安庁の掃海部隊を朝鮮半島近海に送って機雷除去を実行し、犠牲者を出しています。 米韓同盟の希薄化 韓国はどうするのでしょうか。 木村:近い将来、米国から作戦統制権を返してもらえば、むしろ米韓の余計な対立を引き起こさないから得策だ、との計算が韓国の中で生まれてもおかしくないと思います。 そもそも韓国軍の戦時の作戦統制権問題は、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権当時の韓国が持ち出し、米国から韓国に戻す約束になったのです。 朴槿恵政権は2015年12月に返還する予定を、延期するよう米国に求めています。しかし、永遠に「米国が作戦統制権を持ち続ける」わけにもいかないでしょう。 鈴置:作戦統制権の返還は在韓米軍の削減や、撤収につながると考えられています。 木村:その通りです。結局、日本の集団的自衛権の行使容認は、韓国の作戦統制権の返還問題に影響し、今度はそれが朝鮮半島からの米軍削減を加速することになると思います。 鈴置:在韓米軍が軍事的にも、精神的にも韓国を守っています。その削減とは米韓同盟を希薄化することを意味しますね。 中国とは不可侵条約 木村:確かに、韓国にとって北朝鮮や中国からの脅威が拡大します。韓国人の主観としては、日本からの脅威も高まります。 その際、韓国の人々は以下のように考えるかもしれません。北朝鮮からの脅威に対しては、アメリカから核の傘だけ提供してもらい、後は韓国だけで何とかする。日本の脅威はアメリカに抑えてもらおう――。 残るは中国ですが、これに関しては両国関係を深めていくことで、実質的な「不可侵条約」締結状態にしてしまえばいい――。 鈴置:何らかの理由で北の核兵器がなくなったら直ちに、その方向に動くでしょうね。北朝鮮の通常戦力の抑制に関しては、米国頼みから中国頼みへとシフトすると思います。 一方、米韓同盟の希薄化。すでに韓国では「米韓同盟を対北朝鮮用に限定しよう」――つまり、中国を仮想敵から外そう、という意見が出ています。 そうすれば米中有事の際にも、在韓米軍が中国を攻撃できなくなって韓国は戦争に巻き込まれなくなるし、平時の今も中国から睨まれない――との理屈です。 米国がこれを受け入れるかは甚だ疑問ですが、韓国はそこまで奇策を考えるに至っています。米中等距離外交は正念場です。 韓貨排斥運動 木村:朴槿恵政権は米中両国に対する「二股外交」を積極的に進めてきました。多少の対立があっても、米中両国は最終的には協調していくだろうという期待があったからです。 しかし、この期待は南シナ海における状況の変化――ベトナムやフィリピン、さらにはそれらの国を応援する米国と、中国との対立激化により裏切られました。韓国にとっては、想像以上に中国が強硬になったことが、何よりも計算外だったでしょう。 では韓国がこの状況下で、米中両国のどちらかの陣営に「行ってしまえるか」と言えば、話はそれほど簡単ではない。なぜなら韓国は、米中両国に様々な部分で依存しているからです。 経済的には中国市場への依存度が極めて大きい。ここで米国陣営に戻り中国と敵対するようになると、日本に対して見られたような大規模な韓国製品への排斥運動が展開され、大きな経済的打撃を受けることになるかもしれない。 中立を積極的にアピール 鈴置:中国ならやりかねませんね。排斥運動ではなく、もっと陰湿な輸入規制をやりそうですが。 木村:韓国は、かといって中国陣営に行ってしまえば、依然として軍事的に強大な米国と自ら対峙することになってしまう。もちろん、韓国にそんな力があるはずがない。エネルギー輸入のためのシーレーンを確保するためにも米国の存在は極めて重要です。 だとすると「二股」を維持するには「米中双方から少しずつ距離を置いていく」のが得策だ、ということになります。先ほどの「米国との同盟の希薄化」は、その1つです。つまり、米中どちらにもつかない中立的な立場を積極的にアピールする方法があるのです。 鈴置:AIIBの本部を韓国に誘致してしまえばいい、という言説の背景にも「韓国が仲介役となって――中立的な立場を打ち出すことにより、米中間の争いを解決する」という発想が伺えます。 中立化で生き残ったフィンランド ルビコン河で溺れそうになったら、河の中洲にはい上がって堂々と住めばいい――みたいな話ですね。 木村:実際のルビコン河は小さな川だそうです。だから、住めるほど大きな中洲はないかもしれませんが(笑)。 冷戦期にフィンランドはソ連との間で「友好協力相互援助条約」を結びつつ、自由主義的な経済体制を維持しました。 「友好協力相互援助条約」とは? 鈴置:第3国の軍隊がフィンランドを通過してソ連を攻撃しようとした場合、フィンランドは軍事的に抵抗する義務を負う。この際、フィンランドが必要と判断するならソ連の助けを借り得る――が骨子です。 第3国とは米国を中心とした西側を意識したものです。ですから冷戦期にはフィンランドをソ連の仲間と見なす人もいました。ソ連に対し「体を張った中立」を約束したに過ぎないのですけど。 実際、東欧諸国と異なって、フィンランドはソ連の衛星国にはなりませんでした。政治体制も西側と同じ議会制民主主義であり、市場経済システムを維持しました。ノキアだって、そこから生まれたのです。 中国とも同盟を結べ 木村:韓国も、米国とは強度を落とした最低限の同盟関係を維持しつつ、中国との経済関係を取り結ぶ「裏返しのフィンランド」を目指す可能性が、今すぐではありませんが、あると思います。私が韓国政府のアドバイザーだったらそれを考えるでしょうね。 中国からすれば、在韓米軍が大幅に削減され希薄化したとしても米韓同盟が残るのは嬉しくはないはずです。それを韓国に許し続けるのでしょうか。あるいは「中国と同盟を結べ」と言わないのでしょうか。 鈴置:中国の学者はすでに「我が国と同盟を結べ」と言い始めています。例えば、清華大学国際問題研究所の閻学通所長。この人は2013年から、韓国に中韓同盟を呼びかけてきました(「『同盟を結べ』と韓国に踏み絵を迫る中国」参照)。 中国の役人も韓国の役人に「昔の冊封体制に戻れ」と言い出しました。要は「中韓同盟を結べ」ということです(「ついに『属国に戻れ』と韓国に命じた中国」参照)。 昔も両属していた 韓国人が、長い間、頼りにしてきた米国との同盟を打ち切るでしょうか。 鈴置:中国も、そこは知恵を絞っています。2014年4月、ソウルでのシンポジウムに参加した閻学通所長は「中韓同盟を結ぶ際、韓国が米韓同盟をやめる必要はない」との“新提案”を打ち出しました。 朝鮮日報「韓国は中国と同盟を、中国は必ず米国を追い越せる」(4月27日、日本語版)から一部を引用します。 • 韓米同盟と韓中同盟は両立困難だが、歴史的に高麗や朝鮮も、二大国と同盟を結ぶ「両端外交」を行ったことがある。米中の利益が衝突する時、韓国は中立を取ることができる。 中国大陸の王朝交代期に、朝鮮半島の王朝は新旧双方の属国となることで、どちらが覇権を握っても生き残れる工夫をしました。例えば、朝鮮朝(李氏朝鮮)は「明清交代期」には双方に朝貢していました(「『沈む米国、昇る中国』に右往左往の韓国」参照)。 閻学通所長は、いずれ中国が覇権を握るのだけれども、これまで米国の勢力圏に属していた経緯に鑑み「米中交代期」には両属を許す、と度量を見せたつもりでしょう。 日本からも守ってやる 鈴置:なお、閻学通所長は中国との同盟の利点に関して、以下のように強調しています。 • 韓中同盟の樹立が、韓半島(朝鮮半島)で戦争を予防し、日本の安全保障上の脅威を減らすのに役立つ。 日本及び北朝鮮の脅威を中国が防いでやる。北朝鮮だけから守ってくれる米韓同盟よりもずっといいだろう、というセールストークです。 もし韓国が「そうですね」と言ったら、その瞬間「だったら米韓同盟は要らないよね」と押し込む罠でもありましょうが。「米中両属も可」と言いつつ、衣の下から鎧を見せています。 韓国人はこんな提案に応じますか? 鈴置:応じたくはなくても、脅され続ければ言うことを聞くかもしれません。この記事によると、シンポジウムに参加した韓国の識者はいずれも「時期尚早」と答えるにとどまりました。中韓同盟を根本から否定する意見は出なかったようです。 閻学通所長もそれに自信を得たのでしょう、以下のように語りました。 • 昨年、私の本が出た時は(中韓同盟構想は)「話にならない」という批判を受けたが、今では多くの韓国人が「十分に議論できる問題」と考え始めた。 すでに韓国の中からも「非同盟中立で冷戦期を生き残ったフィンランドを研究しよう」という声が上がっています(「『フィンランドになりたい』と言い出した韓国」参照)。 この記事の主張は「中国とも米国とも同盟関係は結ばない」ことが念頭にあるようですが……。韓国がどの国と同盟を結ぶか、あるいは結ばないかはともかく、実質的な「中立化」に向かう可能性が膨らんでいることに注目すべきと思います。 「仕掛け」がうまい中国 木村:あれは興味深い記事でした。これから韓国メディアに「フィンランドをモデルにしよう」との意見が、より頻繁に載るようになるかもしれません。 鈴置:ええ、「フィンランド・モデル」に関する記事が、その後も登場しました。中央日報(6月26日、日本語版)の「中国が何を望むのか韓国は長い時間かけて悩むべき……それが地政学的運命」です。 オックスフォード大学の学長へのインタビュー記事です。「強大国の狭間にいる韓国はどうすべきか」との質問に対しマーガレット・マクミラン学長は「冷戦期間中のフィンランドを見なさい。国境を接したソ連と良好な関係を維持しようと努めながらも、政治経済・社会的には西欧の一部だった」と答えています。 中国政府は念入りに「中立化」のシナリオを描いていると思われます。まず、閻学通所長のような学者を韓国に送り、世論工作する。 その後、政府がAIIBやアジア信頼醸成措置会議(CICA)など、韓国を取り込む「仕掛け」を作って制度的に囲い込む……。 さすがに中国は、千年数百年間も朝鮮半島の王朝と付き合ってきただけあります。 韓国を戦勝国と認定 木村:中国は心情面でも上手に韓国に働き掛けます。韓国の将来を読む際、この要素は見落とせません。 7月の中韓首脳会談でも習近平主席は朴槿恵大統領に、2015年の「戦勝70周年行事」に韓国を招待したい、と提案しました。ここに込められているのは「中国は韓国を戦勝国だと認めているよ」というメッセージです。 サンフランシスコ講和条約に至る過程において、韓国は自らも「戦勝国の一員」であることを主張したものの認められませんでした。 それはこの国のナショナリズムの深い傷になっています。中国はこれを見越した上で「自分たちは韓国と同じ歴史認識を持っていますよ」とアピールしているわけです。 この問題は西安における「光復軍」記念碑建設問題ともリンクしています。日中戦争当時、韓国の民族主義者たちは重慶に「大韓民国臨時政府」の本拠を置いていました。「光復軍」とはその軍事組織です。 心理的な弱み突く 米国や英国はこの「政府」を承認せず「光復軍」に対しても自分たちに協力する、非公式武装組織の1つとして以上の地位を与えませんでした。 このような中で当時、「大韓民国臨時政府」を承認し、積極的に利用したのが、中国――といっても当時は「中華民国」ですが――でした。 現在の中華人民共和国政府はこの中華民国時代の歴史を用いて再び、中国は常に韓国の側にあったのだ、というアピールを行っているのです。歴史認識問題に敏感な韓国の人々に対する、実に巧みな宣伝方法だと思います。 ちなみに韓国メディアによると「戦勝70周年行事」への招待提案は、事前の外交的すり合わせなしに突如、習近平主席から持ちかけられたそうです。 朴槿恵大統領個人にも強い印象を与えたことでしょう。この辺りも、中国は本当に韓国の心理的な弱みをよく理解して、外交を展開していると思います。 立ち向かわない韓国人 鈴置:ようやく「冊封体制」的な視点で中韓関係を見始めた、米国のアジアハンズとは、ケタが違いますね。 中立化の方向に韓国が向かっていることはよく分かりました。では、どれほどの速度でそれは進むのでしょうか。2年前に木村先生と鈴置さんが日経ビジネスオンラインで、韓国の中国傾斜を予想した時、それを信じる人はほとんどいませんでした(「韓国は『米中対立の狭間をうまく泳ぎ切れる』と考えている」参照)。 木村:韓国に与えられた米中の間での「隙間」は急速に狭まっています。中国政府は、自らに友好的な朴槿恵政権の執権期間中に韓国との様々な問題を解決したいと考えている、と伝えられます。今回もまた展開は、我々の予想より速いのかもしれません。 鈴置:同感です。理由は韓国社会に「中国に立ち向かう覚悟」が感じられないからです。 ソ連と単独で戦ったフィンランド 保守系の新聞は一斉に「中国傾斜に悲鳴を上げる社説」を載せましたが(「ルビコン河で溺れる韓国」参照)? 鈴置:その後も各紙のシニア記者らが、急速な中国傾斜を批判するコラムを相次いで書きました。しかし保守系3紙の社説もそれらも「悲鳴を上げている」だけなのです。 中国は巨大な引力を持ちます。「殴られても立ち向かう覚悟」があって、ようやく中国に吸い取られないで生き残れるものです。ことに韓国は隣国で、歴史的にも長い間、属国だったのです。 フィンランドは大国、ソ連と2度に渡り単独で戦いました。スターリンもフィンランド人の勇気を恐れたからこそ「吸い取らなかった」と言われています。 ベトナムの漁船は中国の交船に体当たりされて沈められました。フィリピンのバナナは中国に輸出できなくなっています。しかし、苛められ脅されながらも、両国は「中国に立ち向かって」います。 韓国人のように「中華帝国の中で一番いい子になろう」と願い「あわよくば、対立する米中の間で漁夫の利を得よう」などと考えていると、少し脅されただけで中国に向け、走ってしまうでしょう。 「米中星取表」をもう一度、ご覧ください。米国に守ってもらっている今の段階で、韓国はすでにこれだけ中国の要求を受け入れているのです。韓国の「中立化」がどのようなものになるか、容易に想像できるではありませんか。 米中星取表〜「米中対立案件」で韓国はどちらの要求を呑んだか (○は要求を呑ませた国、―はまだ勝負がつかない案件。△は現時点での優勢を示す。2014年7月23日現在) 案件 米国 中国 状況 米国主導の MDへの参加 ● ○ 中国の威嚇に屈し参加せず。代わりに「韓国型MD」を採用へ 日米韓3国の 軍事情報交換 ▼ △ 4月の米韓首脳会談でいったん合意。しかし中国の脅しで実現に動けず 在韓米軍への THAAD配備 ― ― 韓国国防相は一度は賛成したが、中国の反対で後退 米韓合同軍事演習 の中断 ○ ● 中国が公式の場で中断を要求したが、予定通り実施 CICAへの 正式参加(注1) ● ○ 正式会員として上海会議に参加。朴大統領は習主席に「成功をお祝い」 CICAでの 反米宣言支持 ○ ● 5月の上海会議では賛同せず。米国の圧力の結果か AIIBへの加盟 (注2) △ ▼ 米国の反対で7月の中韓首脳会談では表明見送り。ただし、継続協議に 日本の集団的自衛権 の行使容認 ● ○ 7月の会談で朴大統領は習近平主席と「各国が憂慮」で意見が一致 (注1)中国はCICA(アジア信頼醸成措置会議)を「米国をアジアから締め出す」組織として活用。 (注2)中国はAIIB(アジアインフラ投資銀行)を、米国と日本が力を持つADB(アジア開発銀行)への対抗馬として育てる計画。 早読み 深読み 朝鮮半島 朝鮮半島情勢を軸に、アジアのこれからを読み解いていくコラム。著者は日本経済新聞の編集委員。朝鮮半島の将来を予測したシナリオ的小説『朝鮮半島201Z年』を刊行している。その中で登場人物に「しかし今、韓国研究は面白いでしょう。中国が軸となってモノゴトが動くようになったので、皆、中国をカバーしたがる。だけど、日本の風上にある韓国を観察することで“中国台風”の進路や強さ、被害をいち早く予想できる」と語らせている。
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