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韓国が怯えるサムソン・ショック
大西宏 2014年07月11日 logos
http://blogos.com/article/90259/
「飛んでいた飛行機のエンジンを止め、滑降飛行しているようだ。乗客はエンジンが止まったことも知らずに―」
そんな韓国の財界関係者の言葉を冒頭に紹介したコラムが韓国の朝鮮日報にありました。
【コラム】韓国経済が失速した理由 | 朝鮮日報
韓国経済を成長させる原動力となっていた常勝サムスンの4〜6月期の連結決算(速報値)は、9年ぶりに売上高が前年同期を下回るという異変が起こりました。さらに韓国経済のツートップのもう一方の現代自動車も、ウォン高の影響もあって、かつての成長の勢いが期待できなくなってきています。
サムスンと現代自動車の売上高合計は、単純比較することはできないとしても、韓国のGDPのおよそ35%程度を占め、両グループの営業利益をあわせると、韓国上場企業全体の30%を超えており、文字通り韓国経済を牽引し、支えてきた双発エンジンです。
現代自動車は、一昨年の燃費性能の水増し問題が発覚後にも、昨年、主力車種「ソナタ」の新型車でも誤表示があり信頼を損ねたことが、米国市場でボディーブローのように効いてきています。またウォン高の影響で、輸出分の利益が減るだけでなく、韓国内で輸入車が急激に伸びてきていることも成長の足かせとなってきています。
しかしそれよりも深刻なのがサムスンです。サムスンの危うさはこれまで幾度か書いてきましたが、やはり来るべき節目が訪れてきたように感じます。8日にサムスンが発表した4〜6月期の連結決算(速報値)は、売上高が前年同期比9.5%減、営業利益も24.5%減でした。サムスンの成長エンジンでもあり収益エンジンともなっていたスマートフォン事業の成長にブレーキがかかったからです。サムスンの売上高と営業利益の推移のグラフを見れば、それが如実にあらわれています。
「スマホの巨人」サムスンに誤算 部品調達滞る :日本経済新聞
しかも、サムスンの営業利益のなんと7割近くがスマートフォン関連です。スマートフォン依存度が極めて高いのですが、スマートフォン市場そのものの成長鈍化がはじまってきています。
しかも、需要の中心が途上国向けの中低価格機種に移ってきていることも利益を押し下げる要因になってきているのでしょう。
さらに今後は、中国企業の追い上げの影響もでてくるものと思います。スマートフォンの売上が減速すれば、半導体などの部品事業も自社のスマートフォン向けの出荷が減少し、その影響を受けます。そして液晶テレビや液晶パネル事業も、サムスン対中国企業の激しい競合がはじまってきています。
サムスンもポスト・スマートフォンを模索しています。そうでなければ成長は維持できません。スマートウォッチにもっとも熱心なのもそれが原因でしょう。
しかし残念ながら、ウェアラブル端末は新しい市場をひらく可能性を秘めてはいますが、少なくともその主導権を握るのは、ハードではなく、通信でつながった先のサービスでしょう。
スマートフォンのセカンド・スクリーンとしてのウェアラブル端末にとどまっていては、ポスト・スマートフォンを担うには荷が重すぎます。
M&Aによって、車載用電池分野や医療分野などへ進出しようというチャレンジも積極的ですが、どうもM&Aで合併した結果がうまくいっていないようです。そのあたりは、ホンダからサムスンに移籍し、サムスンSDI常務でもあった佐藤名古屋大学客員教授の日経ビジネスのコラムに詳しく書かれています。
サブタイトルの「Win-Winになるには敬意と配慮が必要だ」は、サムスンのM&Aがうまくいかない理由を端的に示しているようです。それは朴槿恵大統領の日本の国民への敬意と配慮に著しく欠けた告げ口外交にも通じるように感じます。
M&Aの光と影、サムスンの事例から学ぶ:日経ビジネスオンライン
サムスンは、日本企業のノウハウを吸収し、日本企業をキャッチアップすることに成功し、さらにアップルに対してもキャッチアップをしかけて成功してきました。
しかしキャッチアップであるかぎり、また新たな競争相手からのキャッチアップの脅威を受けます。それが「ものづくり」の世界の宿命です。キャッチアップの戦略からは、自ら新しい価値を創造し市場を生み出す、またライバルの脅威から自らを守る障壁ともなる問題解決のしくみやビジネスモデルは生まれてきません。
では、韓国にサムスンや現代自動車にとってかわる、新たな韓国経済の成長を担う企業が存在するかと言えば、それも見当たりません。韓国は10大財閥の売上が、韓国のGDPの7割以上に匹敵しており、財閥への依存度が高いのですが、ウォン高の煽りもあって業績が悪化してきている財閥がむしろ増加してきているようです。しかも中国とは違って、バイドゥやアリババ、またシャオミというような伸び盛りの新興企業が少ないというのも現実です。
金融当局が財務改善を約束させた「危ない財閥」は、昨年時点では、前出の東部とSTX、大韓航空などを傘下に抱える韓進(ハンジン)、アシアナ航空で知られる錦湖(クムホ)アシアナ、城東(ソンドン)造船の5グループだったが、今年に入って現代商船などを抱える現代(ヒュンダイ)、現代産業開発、韓進重工業、漢拏(ハンラ)、大成(テソン)、大宇建設、東国(トングク)製鋼、STX造船海洋、SPPが加わり、一気に14グループに増えた。
韓国「危ない財閥」は昨年から3倍増 14もの大手財閥が軒並み業績悪化 -- ZAKZAK
企業の世代交代がうまくいっていないのは日本も同じですが、日本の場合は安倍内閣がが岩盤規制を壊す動きにでています。韓国は、朴槿恵大統領が掲げたアベノミクスにも通じる「規制緩和経済」と「創造経済」の政策推進が待ったなしなのでしょうが、セウォル号事故などの余波もあり、経済を優先した政策を取りづらいというジレンマを抱えてしまい、政策が霞んでしまいました。
サムスンこけたら韓国も没落? 経済システムの改革急務
サムスンも現代自動車も、一挙に経営が悪化するというほど脆弱ではないとは思いますが、これまでの成長性を示すことは難しくなってきています。韓国は、下手をすると、ウォン高の影響もあって、日本の「失われた20年」と同じように、経済停滞に向かうリスクを抱えてしまいました。そうであればあるほど、目先を稼げる中国市場への依存が進んでいくのではないでしょうか。
時代は新しい価値を生み出すこと、これまで実現できなかったニーズを充たす創造的解決を求めてきています。それは日本にしても、韓国にしても同じだと思います。そんな時代は、創造を求めチャレンジする人の層の厚みが国力ともなってきます。そして、創造やチャレンジに拍手し、応援する風土がそういった人材、またビジネスを育てるのではないでしょうか。
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