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韓中首脳会談：中国の日本批判に韓国も賛同するよう要求
韓国にもパンダがやってくるが、国民感情は変わらず
2014年7月9日 趙 章恩 日経ビジネスオンライン
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20140708/268308/?n_cid=nbpnbo_top_updt&rt=nocnt
中国の習近平国家主席が7月3〜4日、韓国を訪問した。中国の国家主席が韓国を訪問したのはこれが4度目。ただし、北朝鮮より先に韓国を訪問したのは初めてのことである。ほかの国を訪問するついでに韓国を訪問したのではなく、韓国単独訪問というところも話題になった。
習近平国家主席が韓国を訪問する前、中国政府は友好の証しとしてジャイアントパンダ2頭を韓国に贈ると発表した。税関の手続きが終わるまで2年はかかるというので、パンダが韓国にやってくるのは2016年になりそうだ。
パンダが韓国にやってくることに関して面白い記事があった。朝鮮日報は7月4日、北朝鮮軍が射撃訓練の際にパンダの絵を描いた標的を使っていると報じた。北朝鮮側は、中国が韓国にパンダを贈るほど両国が仲良くなったことに怒っているというのだ。
中国は1994年に、韓国と中国の修交2周年を記念し、ジャイアントパンダ2頭を贈ったことがある。サムスングループが運営する動物園「エバーランド」で飼育していた。しかし1997年末の通貨危機の際、韓国政府は年間100万ドルのパンダ賃貸料を払い続けることができず、1998年2月に中国に返却した。実は2013年にも、韓国にパンダを贈るという提案が中国政府からあった。だが韓国政府は、高い賃借料と年間50億ウォン（約5億円）かかるという餌代や飼育場の管理が手に負えないとして断っていた。
中国からの2度目の提案に、韓国政府も今回は断れなかったようだ。韓国政府は2018年のピョンチャン冬季オリンピックに向けて、2016〜2018年に観光客誘致キャンペーンを大々的に行う予定。2016年にパンダが韓国にやってくれば観光名所になるのではないかと期待する面もある。
日本にも2011年4月、上野動物園にジャイアントパンダ「リーリー」と「シンシン」が来た。一般公開されると、3000人の行列ができるほど大きな騒ぎになった。韓国政府も同じことを期待しているようだ。中国は韓国に対して、友好の証しと言いながらも、パンダの賃借料をおまけしてはくれなかった。中国は日本に対しては「リーリー」と「シンシン」の賃貸料を通常より5万ドル安い年間95万ドルにした。
70%強が「中国の経済成長は韓国にとって威脅」
かわいいパンダを韓国でも見られるのはいいが、逆に重荷になってしまう可能性もある。韓国の世論調査では中国を友好の対象と考えない人が多い。ネットでは、韓国政府が中国と急接近していることに戸惑いを感じるという意見が増えていた。
主に外交と安全保障を研究するシンクタンクのアサン政策研究院が6月行った「韓中関係世論調査」によると、19歳以上の成人男女1000人のうち66.4%が「中国の軍事的膨脹は韓国にとって威脅」と答えた。また71.9%が「中国の経済成長は韓国にとって威脅（韓国経済を脅かす）」と答えた。
一方、日米韓の安全保障協力を支持した人は57%、韓中安全保障協力を支持した人は30%にとどまった。2012年の調査に比べて、中国の軍事的膨脹を危険視する人は減ったが（73%→66.4%）、中国の経済成長を威脅と思う人は2012年の52.7%から71.9%へと19ポイント高くなった。
「韓国が中国経済の影響を受けすぎるのではないか」「経済の面で縛られると結局、安全保障の面でも中国に縛られるのではないか」という心配はある。中国の好感度は10点満点の4.85点。だんだん高くなってはいるが、中国に対する韓国人の感情は良いとは言い難い。「中国産食品は信用できないから食べない」「朝鮮半島が危機状態に陥った時中国は韓国を助けない」と考えている人が多くいる。
経済関係は大きく拡大
習近平国家主席は、訪韓に際して色々リップサービスをした。朴槿恵大統領を老朋友（古い友達）と呼び、「韓国ドラマを観ている」とか、「キムチが好きだ」とか、「韓国企業が中国でビジネスしやすいよう制度を改善する」と口にした。韓国大統領官邸も、習近平国家主席の訪韓により、韓国と中国との交易がさらに拡大して韓国経済にプラスになるという点を強調した。
ところが、保守派の韓国メディアまでもが、習近平国家主席の訪韓は「外華内貧」「同床異夢」だとして冷めた反応を見せた。韓国側は中国が北朝鮮を援助しないことを望み、中国側は韓国が米国と日本から離れて中国側に付くことを望んでいる。これが、お互いの望み通りには進まなかったからだ。東亜日報と中央日報は7月5日付けの記事で、「韓中同盟より米国との同盟の方が大事だと再確認した」とまで表現した。
韓国メディアは習近平国家主席の訪問について次のように評価している。
「（韓国政府は）経済利益を得て外交を捨てた」（中国との交易は拡大するかもしれないが、一方で米・日本との関係はぎくしゃくする）
「（韓国政府は）米国との同盟の方を大事にしなくてはならない、中国に偏り過ぎてはいけない」
「（朴大統領は）中国にまんまとやられた」（韓国政府は中国と米国の間でバランスを取りたがっているが、習近平国家主席が「韓国は中国側にくっついた」と受け取れる発言を繰り返した。韓国メディアは習発言が米国に誤解され、韓米同盟による安全保障が弱体化する可能性があると見ている）
習近平国家主席と朴槿恵大統領の首脳会談は何も成果がなかったという内容の社説を掲載した新聞もあった。多くの韓国メディアが、朴槿恵大統領は中国側にひっぱられる形で、中国による日本を批判する発言に賛同したと批判的になっている。
複数の韓国メディアによると、韓国側は「日米韓の同盟があるので、日本についてあまり話したくない」と中国側に要請した。それでも中国側は、中国の日本批判に韓国も賛同するよう要求したという。
韓国政府が目指す等距離外交（米国、日本、中国と均等に距離を置くバランス外交）はどうなったのかと懸念する論調が多かった。中央日報系列のJTBC（ケーブルテレビ）ニュースは、中国の日本批判に韓国も賛同するよう中国側が圧力をかけたと報道した。
習近平国家主席は4日のソウル大講演会で「日本が400年前に韓国を侵略した時、中国民と韓国民は一緒に日本と戦った、20世紀初頭にも同じことがあった」と発言。韓国と中国の敵は日本だとも聞き取れる表現を何度も繰り返した。これに対して、韓国の大統領官邸が後から、朴大統領と習近平国家主席が非公式に日本について話し合ったと発表するとともに、朴大統領も習近平国家主席の話に同調しているという表現で日本を批判した。韓国メディアは大統領官邸が余計なことを言ったと批判的になった。日本について発言するなら、中国に同調するのではなく、韓国の立場で発言すべきだからだ。
韓国が期待したのは、韓国企業が中国でビジネスしやすいよう協力――工場の建設許可がなかなか下りないなどの事情がある――してくれることと、北朝鮮の核開発に対する習近平国家主席の厳しい姿勢だった。
韓国経済にとって中国は重要な存在になった。韓国の最大の貿易相手国は中国である。韓国貿易協会が発表したデータによると、1992年に韓国と中国が修交したばかりの頃は、中国向けの輸出は約25億ドル、中国からの輸入は37億ドルだった。これが2013年には、輸出が1458億6900万ドル、輸入が830億5300万ドルに拡大した。輸出入合わせて年間2289億ドルに上る。2013年の韓国の輸出に占める中国の割合は26.1%、輸入に占める割合は16.1%だった。
韓国観光公社によると、韓国にやって来る中国人は年間550万人、韓国から中国に行く人は年間400万人。約1000万人が行き交っている。韓国を訪問する外国人観光客の中で最もお金を使ってくれるのも中国人だ。
習近平国家主席は7月4日、「韓・中経済通商協力フォーラム」に出席した。韓中の経済人が集う場だ。サムスン電子、LG電子、現代自動車、アシアナなど韓国財閥企業の代表らと、習近平国家主席と一緒に訪韓した中国大手企業の代表ら合わせて500人が参加した。習近平国家主席は「韓国財閥企業が中国で工場を拡大できるよう制度を改善する」とか、「韓国がキムチを輸出しやすくなるよう手続きを簡素化する」といったことを約束した。
フォーラム会場では、サムスン電子とLG電子が「中国の夢を実現する同伴者」をテーマに展示場を設けた。サムスン電子のイ・ジェヨン副会長とLG電子のク・ボンム会長が自ら習近平国家主席に、スマートフォンや4Kテレビ、電気自動車用のバッテリー、ウェアラブル端末などを紹介した。中国政府が力を入れている再生可能エネルギー、電気自動車、省エネ、バイオ、新素材などの分野で、サムスン電子とLG電子が協力できることをアピールした。中国は官僚との関係がないとビジネスしにくい国だけに、現場にいた記者らは、「財閥会長らは習近平国家主席と一言でも交わそうと必死だった」とレポートした。
北の非核化ではなく半島の非核化
習近平国家主席は経済協力に関して「韓国と中国は戦略的同伴者」という表現をした。これに対しても、韓国メディアは批判的だ。「うわべだけで中身は何も新しいことがない」と論評する。
また、韓国メディアのほとんどが、北朝鮮の核開発問題についての中国の対応にはがっかりしたと評価した。習近平国家主席は「北朝鮮の核開発を阻止しよう」ではなく「朝鮮半島の非核化」に言及した。これについて、「韓国も何もできないようにしようという魂胆なのか」と批判的な報道が多かった。
中国の王毅外交部長は、習近平国家主席の訪韓を、「（韓国政府と）天時地利人和を集め平和発展協力を願った」と論評した。これは孟子の言葉を引用したもの。天が定めた時や地理的利点よりも人の和が大事であるという意味だ。何よりも人間関係が大事であり、韓国と中国は親密でお互いを信頼する関係になったと強調するための発言と見られる。
王毅外交部長は、習近平国家主席の訪韓は親戚の家を訪問するようなものだとも発言した。中国が韓国に向けて友好、和、同伴者という言葉を強調する度に、韓国メディアもネット上の世論も「パンダはかわいいけど中国は怖い」「裏に何かある」と懸念する向きが増えている。習近平国家主席のソウル大学講演のように、突然、日本を批判する発言をし、韓国を巻き込んだりするからだ。北朝鮮の核開発を阻止しようという姿勢も見られない。
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