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高層マンションが崩壊した平壌市内の建設現場近くで、遺族や地域住民らに謝罪する北朝鮮の工事担当幹部=5月17日(共同)
【桜井紀雄の劇的半島、熱烈大陸】韓国・北朝鮮で“手抜き・ずさん施工”が続発するワケ
http://www.zakzak.co.jp/society/foreign/news/20140609/frn1406090856001-n1.htm
2014.06.09 夕刊フジ
北朝鮮は5月、平壌の23階建てマンションが崩壊、多数の死傷者が出て担当幹部らの謝罪を公表する異例の対応に出た。韓国でも傾いたビルが崩れ、復元されたソウルの南大門(ナンデムン)が手抜き工事のために再工事が必要だと判明。沈没した旅客船セウォル号でずさんな改修・管理の実態が次々表面化した後だけに批判がわき起こった。「速度」ばかりを優先したことが南北に共通した“手抜き”の背景にあるようだが、原因はそれだけだろうか。
■「胸痛め夜明かした」はずが、笑顔でサッカー観戦
「施工をいいかげんに行い、監督・統制を正しく行わなかった幹部らの無責任な行為で重大な事故が起き、人命被害が出た」
北朝鮮国営の朝鮮中央通信は5月18日、平壌市平川(ピョンチャン)区域のマンションで起きた崩壊事故についてこう報道した。北朝鮮の大規模事故で、ずさん工事を認めたこの種の公表は異例中の異例だ。
事故が起きたのは同月13日夕。韓国メディアの報道も合わせると、現場は平壌駅から徒歩15分という一等地で、完成前だったが、警察に当たる人民保安部など政府機関や朝鮮労働党の中堅幹部ら92世帯が既に入居。事故に巻き込まれ、子供や主婦、施工中の作業員ら400〜500人が死亡したとみられている。
3万ドル(約300万円)で分譲も行われ、外貨稼ぎに携わる富裕層も入居していたとされる。
朝鮮中央通信は「事故の責任は党の人民愛の政治をしっかりと擁護できなかった自身にある。この罪は何をもっても補償できず、許されることでもない」と平壌市民に陳謝する崔富日(チェ・ブイル)人民保安部長ら複数の担当幹部らの謝罪の言葉を伝えている。崔氏は金正恩(キム・ジョンウン)第1書記のバスケットボールのコーチも務めたとされる側近だ。
「事故の報告を受け、あまりにも胸を痛めて夜を明かし、党と国家、軍の責任幹部らを、万事を差し置いて現場に出向かせ、被害を一日も早く解消するよう具体的指示を与えた」と金第1書記自身の対応も伝えられた。
金第1書記本人は事故現場には現れず、事故翌日には、笑顔でサッカー試合の観戦に興じる姿が報じられている。
■「速度」固執の正恩氏、事故後も早期完工にはっぱ
北朝鮮が事故と幹部の謝罪という異例の公開に踏み切ったのはなぜか。
グローバルスタンダードを意識し、父までの代の北朝鮮とは違うぞと、金第1書記なりの「公正性や透明性」を示そうとする一種の“正恩スタイル”といえるのではないか。
2012年4月の第1書記就任直後には、事実上の長距離弾道ミサイル発射の失敗を認め、公表した。昨年9月にも、サッカー大会で優勝チームに不正があったとして処分を発表している。
そして、何よりも首都、平壌での高層マンション建設は、金第1書記“肝いり”の事業だったことが大きいだろう。北朝鮮は金日成(イルソン)主席誕生100年の12年4月に合わせ、マンションを次々着工。その後も金第1書記が幹部らの忠誠心を引き留めようと、兵士や学生の労働力や地方を犠牲にし、「速度戦」のかけ声の下、幹部用マンション完工を急がせてきた。
特に昨年、もう一つの肝いり事業の馬息嶺(マシンリョン)スキー場建設を「10年かかる工事を1年でやり遂げた」と宣伝し始めて以降、事業を急ピッチで成し遂げる「馬息嶺速度」というスローガンが用意され、金第1書記がさまざまな建設現場に足を運び、「速度」「速度」とあおっては早期完工を競わせてきた。
マンション崩壊事故では、セメントや鉄筋といった資材不足も指摘されているが、速さへの執着こそが手抜き・ずさん施工につながったことは明らかだ。つまり、崩壊事故の原因をつくった張本人は、金第1書記自身ということになる。
噂の広がりを防ぎきれない平壌中心部での大事故に対して、厳しい姿勢を示さなければ、市民の不満の矛先が金第1書記本人に向きかねなかったわけだ。
それにもかかわらず、金第1書記は事故公表2日後には、別の高層マンション建築現場を視察し、相も変わらず、「馬息嶺速度」をたたえながら、新たなマンション建設の早期完成にはっぱをかけた。「成果は僕のもの。事故は部下のせい」といわんばかりだ。
■蹴っても落ちない救命いかだ
北朝鮮がマンション崩壊を公表した5月18日、韓国中部の忠清南道(チュンチョンナムド)牙山(アサン)市で、建設中の7階建てビルが倒壊した。
ビルは20度以上傾いたため、撤去作業が行われていた。田んぼなどがあった地盤の弱い場所に建てられたもので、地盤沈下が原因とされる。そもそも、基礎工事で打ち込む鉄柱を10本少なくするなど、手抜き工事があったことが警察の調査で判明した。
高校生ら約300人の死者・行方不明者を出した4月のセウォル号沈没に続き、5月初めには、ソウルの地下鉄追突事故があった後だけに、韓国メディアは「あちこちにセウォル号」などと、希薄な安全意識に警鐘を鳴らした。
セウォル号事故では、ノーチェックだった過積載に加え、日本から中古船を購入した後に無理な客室の増築をしてバランスを失わせるなど、まさに、ずさんな改修・管理の“総合デパート”の様相を呈している。
北朝鮮の「速度戦」とはレベルが違うものの、韓国メディアは、事故の背景には「パルリ、パルリ(速く、速く)!」と速さと効率性ばかりを優先してきた社会の問題があると盛んに分析していた。
それだけだろうか。セウォル号事故で、記者が気になって仕方なかったものがある。本来、高校生らを救っていたはずの救命いかだについてだ。
セウォル号には、海に落とせば、中からいかだが飛び出し、水没しても自動的にいかだが浮き上がるカプセル状の救命いかだが42個設置されていた。しかし、沈没でまともに機能した救命いかだは一つとしてなかった。
救助に駆け付けた海洋警察官がカプセルを足で蹴っている映像が報じられたが、海洋警察官は、器具がさび付き、外せなかったと韓国メディアに証言した。
しかも船体と同じ塗料がべったりと塗りたくられ、のりのように塗装が固まって張り付いていたとの乗客の証言もあった。
整備会社が全く検査していなかったことも明らかになった。船を日本から購入後、船体を塗り直した際にカプセルの可動部分まで、何の考えもなしに同じ塗料を塗り重ね、そもそもセウォル号として航行した直後から救命いかだが役に立たなかった可能性がある。
■南大門再生を手がけた「職人」の驚きの技
このべったり固まった塗料を記者は韓国で度々目にしている。例えば、ソウルの高級住宅地のマンションの一つでは、廊下にあるガスなどの整備用の小窓の取っ手が廊下と同じ色のペンキがべったり塗られ、固まって動かなくなっていた。
室内には豪華な調度品が並び、日本の一般のマンションに比べ、見た目がきらびやかなだけに余計に目についた。
韓国の知人に指摘すると、「日本人は細かいことを気にしすぎだ」と一蹴された。だが、塗料べったりが命に関わっていたなら、話は別だ。
塗料でいえば、08年に放火で全焼し、昨年、復元されたソウルの南大門(崇礼門)について、韓国の監査院が5月に再工事の必要性を指摘した。
原因は、認められていない化学塗料などを用いた手抜き工事によって塗装に亀裂が生じるなど、次々問題が明らかになったためだ。この問題では文化財庁長官が既に更迭されている。
韓国の国宝第1号に指定されたソウルの“顔”といえる最重要建築物にもかかわらず、伝統的な技法に未熟な「職人」が異なる技法で施工し、煩わしいからと、現在の規格の瓦を使って外観を台無しにしていた。
しかも、この職人は安い資材を使って浮かせた3億ウォン(約3千万円)を着服していたとして、監査院が警察に捜査を要請した。
国宝第1号の復元ともなれば、それこそ職人冥利に尽き、全身全霊を傾けようとするものではないか。これは日本の常識ではあっても、どうやら韓国の“常識”ではないようだ。
■「運転技師さま」のプロ意識
韓国では、最も敬われるのは教授や研究者、一部、政治家や記者といった「文人」たちだ。儒教の伝統からくる。職業の別にかかわらず、「職人」に一定の敬意が払われる日本との最も大きな文化的差異といっていい。
精密機器で世界を席巻するサムスンのように、韓国では、一部の企業エリートたちが高いプロ意識を持って仕事に打ち込んでいるのも事実だ。だが、末端の現場の「職人」たちの扱いは毛ほどに軽く、それに比例して職業意識が希薄な現場担当者が少なくないのが実情だ。
特に韓国経済は大企業に依存し過ぎ、中小企業が育たない構造的問題が以前から指摘され続けてきた。
町工場のおっちゃんたちが国を支えているという自負を持つこともまれなら、大阪府東大阪市の中小企業の有志たちのように、自分たちが誇りに思う技術で「人工衛星の一つでも宇宙に打ち上げてやろう」と発奮することも望みにくい。
老舗の料理店が育ちにくいこともよくいわれる。海外まで行って修行する有名料理人は存在する。半面、行列ができる人気料理店でも、稼いだカネで子供を有名大学にやってエリートにしようと考え、子供に跡を継がせることもなく、平気で店をたたんでしまう。
セウォル号事故後には、バスやタクシー運転手の安全意識にも目が向けられるようになった。だが、乗客を見捨てて逃げたセウォル号の船長らに憤ることはあっても、あくまで人ごとで、ソウルの街をびゅんびゅん暴走するバスやタクシーは一向に減りそうにない。
一昔前、運転手に敬意が払われず、賃金などの待遇が改善されないとして、運転手を「運転技師さま」と呼ぼうという動きがあった。呼称が変わっても、乗客の命を預かっているという最低限の安全意識が根付かない限り、本末転倒だと思うが。
日本では、運転手は運転手、医者は医者、大工は大工、ペンキ屋はペンキ屋…と、呼称にかかわらず、心ある現場のプロたちは黙々と、与えられた仕事に最善を尽くすものではないか。
■「職人」意識が死を招く社会
再び戻って北朝鮮。この社会は、プロ意識を維持するには過酷過ぎるようだ。
マンション崩壊事故では、セメントや鉄筋などの資材を抜き取る行為の横行が事故を招いたとも指摘される。ヤミ市場で転売していたとみられる。
北朝鮮では、「苦難の行軍」と呼ばれ、200万人が餓死したともいわれる1990年代の大飢饉(ききん)以降、経済が破綻し、自分の職場の工場などから資材を持ち出し、ヤミ市で売り飛ばすことが蔓延(まんえん)。製造機械や資材が一切合切持ち去られ、がらんどうになった工場の存在も伝えられた。
逆にヤミ市場の転売に走らず、職業意識を堅持して真面目に職場を守っていた人物が餓死してしまう事態は当たり前といえた。職業意識を持ち続けることが死を招くことになりかねなかった。職業倫理から賄賂を使わない住民が生き続けるのも難しい社会だ。
「職人」に対する扱いの低さは、南北ともに伝統文化からくるものだろうが、北朝鮮では、プロがプロとして誇りを持って生きることが許されない厳しい現実がある。
ひるがえって韓国。記者がソウル出張でよく利用するホテルの客室がある日、きれいに改装されていた。気分をよくしながら、ノートパソコンを開いて仕事を始めようとしたら、あるべきものがない。コンセントの差し込み口が一つもなかったのだ。
フロントに問い合わせると、ものの5分で差し込み口が新設され、その「速度戦」に舌を巻きもしたが。この種のずさん施工は「あちこち」に転がっている。
セウォル号事故を受け、朴槿恵(パク・クネ)大統領は海洋警察など事故に関係したあらゆる機構の刷新を掲げている。だが、上層部の官僚たちの首をすげ替えても、現場の意識が変わらなければ、何の解決にもならない。
途方もない遠回りに見えても、「“現場”にプロ意識を」と国民一人ひとりに呼びかけ、職業に対する考え方の転換を促していく方向に社会が向かわないものだろうか。
歴史問題をめぐる“文人”くさい「空論」を振りかざすことなく、現場意識の改善について助力を求めるなら、喜んで協力を申し出る日本の「職人」たちは少なくないと思えるのだが。(外信部記者)
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