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ベトナム物流、寸断リスク
進出企業に警戒感 富士ゼロックス 部品調達切り替えも
中国と対立激化
ベトナムで中国との国境をまたぐ物流網が寸断するリスクが浮上している。南シナ海の石油掘削を巡る中越対立の先鋭化から1カ月たつが、緊張関係は続く。国境や港が閉鎖される事態も想定し、富士ゼロックスなどベトナム進出企業は新たな部品調達先を探り始めた。中越対立は政治問題にとどまらず、両国一体で事業を運営する企業活動にも影を落としている。
ベトナム北部ランソン省にある中国との国境貿易の玄関口、ヒューギー国境ゲート。5月末に訪れると、コンテナを積んだトラックが土煙をあげて行き来していた。その半数は中国ナンバー。同ゲートは1日に100〜150台の車両が往来するが、トラックの数は両国の対立が表面化した後も変わらない。
トラックが国境を越える際の通関検査が強化されるのではないかとの不安もあったが、「以前と変わった様子はない」(物流業者)。ただ、国境を越える旅行者は減り、出入国管理所の人影はまばらだ。国境前の市場で中国の雑貨を売る女性(42)は「中国からの入荷商品が減っている」と打ち明ける。観光や生活物資の流通には影響が出始めているようだ。
「最悪の場合、中国抜きのものづくりを考えなければいけない」。富士ゼロックスでベトナム事業を担当する藤原仁取締役専務執行役員はこう話す。同社は昨年11月、北部ハイフォン市に90億円を投じてプリンター工場を建設した。2015年には年産200万台になる一大拠点だが、ゴム製ローラーなど部品の30%は中国から陸路で輸入している。
こうした基幹部品を中国から調達できなくなれば、たちまち生産は止まってしまう。「トラブルが顕在化してからでは遅い」(藤原取締役)と複数のシナリオを練り始めた。中国製部品をタイなど東南アジアからの調達に切り替えることを含め、近く対策をまとめる。
デジタルカメラ部品などを製造する帝国通信工業はベトナム工場で組み立てた部品を、中国広東省深圳市のデジカメメーカーに車両や船舶で運んでいる。だが、中越間の国境や港が閉鎖された場合は「航空機で輸送するしかない」(ベトナム現地法人)と身構える。
ベトナムの日系物流会社には先月から部品などの調達先見直しの相談が急増したという。だがベトナム現地での入手は難しく、産業集積地のタイもクーデターなどによる混乱の不安がある。航空便での輸送はコストも高いことなどから、有効な解決策を探しあぐねているのが現状だ。
中国からベトナムに部品や素材を運ぶ物流網が太くなった背景には、部品や素材を供給できるメーカーがまだ育っていないベトナムの産業構造の脆弱さがある。中国の人件費上昇やストライキ、反日暴動など「中国リスク」を回避するため、日系企業などはベトナムへの生産移転を加速してきた。だが、その動きに部品や素材メーカーが追いついていない。
その結果、最終製品の組み立てはベトナムに移管しても、部品や素材の生産は中国に残り、そこからベトナムに供給する体制が築かれた。中国からベトナムへの輸出額は過去10年で9倍近く膨らんだが、多くが部品の供給とみられている。繊維・縫製業では糸や生地などの7割を中国に頼る。「中国リスクは回避しきれない」と中越分業に詳しい福井県立大学の池部亮准教授は指摘する。
企業が注視するのは中国当局の出方だ。中国にとってベトナムは巨大な貿易黒字を稼ぐお得意様。現時点で「輸出入停止などは想定しにくい」(日系大手メーカー)と楽観的な見方もある。
だが、中国政府はベトナムとの交流の一部停止を発表。既にベトナムで働いていた4千人以上の中国人労働者を帰国させた。さらなる経済制裁を加える可能性も否定できない。
中越の“物流危機”は企業に「チャイナプラスワン」のあり方を見直すように促している。
ハノイ=伊藤学、台北=山下和成、広州=桑原健、東京=富山篤
[日経新聞6月3日朝刊P.9]
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