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軍がクーデターで全権を掌握したタイ。政治や経済は波乱の芽を抱えたままだ。1991年に起きたクーデターを駐タイ大使として見つめた政治評論家の岡崎久彦氏と現地の事情に詳しいタナチャート証券のピンパカ・ニッチャガルーン調査部長に聞いた。
――クーデターの歴史をどうみるか。
「かつての軍事クーデターでは開発独裁によって経済が上向いた。豊かになると、人々は自由を求めて民主主義を実現した。社会の秩序が乱れると軍が統治する繰り返しで、一種の二大政党制ともいえた」
「様相を変えたのは2006年のクーデターからだ。タクシン元首相が地方の貧困層という票田を掘り起こし、ある種の階級闘争に発展してしまった。タイは階級社会で、貧しい人は自分の身分に甘んじてきたが、タクシン氏のばらまき政策で状況が変わった」
――プミポン国王の存在はどう影響するか。
「国王の意向は分からない。だが、国王の健康問題は一つのカギだ。次期国王になる皇太子はタクシン派から資金を得ているとされる。今回のクーデターは高齢の国王が亡くなる前に、憲法を変え、安心できる政治システムを構築しようという既得権益層の焦りともとれる。皇太子が権力を握れば、改革ができなくなるからだ」
「私見だが、国王に近い枢密院の軍幹部OBがプラユット陸軍司令官と、国王が健在のうちに保守的な憲法をつくるために図ったのかもしれない。改憲の目的は上院に(首相任命などの)拒否権を与えるなどして、上院の力を大きくすることだと思う」
――軍政下の政治はどう展開するのか。
「選挙はしばらくないだろう。プラユット氏が中心の政治がかなりの間、続くのではないか。日本にはチャンスだ。タクシン派はどうやら親中派らしい。日本が従来の方針通りにタイを支える姿勢を示せば、良好な関係を維持していける」
(聞き手は高橋里奈)
公共投資の再開がカギ タナチャート証券調査部長 ピンパカ・ニッチャガルーン氏
――クーデターがタイ経済に与える影響は。
「減速してきたタイ経済はさらに悪化しそうだ。タイ政府は2014年の実質国内総生産(GDP)成長率を1.5〜2.5%と予想しているが、より低い1.2%を見込んでいる。15年は3.5%に回復するとみているが、それでも東南アジア新興国の成長率としては非常に低い水準だ」
「個人消費の悪化が主因となる。もともと(自動車ローンなどで)家計の債務がGDP比で8割近くに積み上がり、問題となっていた。重い返済負担がのしかかるところに、インラック前政権が実施した『ばらまき政策』の反動が一段と大きくなれば、個人消費に二重の悪影響となる。実権を握る軍が、滞っていた公共投資を再開させることで経済をどれだけ下支えできるかがカギだ」
――どのような分野が影響を受けるか。
「小売りや外食、交通など消費産業への影響が大きい。旅行者が減り、観光業への打撃も大きい。株式市場は海外投資家が売り越し、比較的冷静な国内投資家が買い支える構図だ」
――海外企業の投資意欲が冷え込むのでは。
「当面は投資判断の先送りが続くだろう。クーデター後にタイ企業に関心がある日本の投資家と意見を交わしたが、企業活動の停滞をかなり心配していた」
「一方で冷静になる必要がある。タイ国内でクーデターを歓迎する声があるのも確か。クーデターになじみがない日本人にとっては理解しにくいかもしれない。政治機能がマヒして政策や予算執行が滞っていたことを考えれば、事態が改善した一面もあり、そこを見極めなければいけない」
(聞き手は鳳山太成)
[日経新聞6月1日朝刊P.]
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