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北朝鮮、「拉致被害者再調査」の”茶番”
日本のメディアの報道から抜け落ちていること
東洋経済オンライン 高橋 浩祐 :ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー東京特派員
http://toyokeizai.net/articles/-/38928
スウェーデンでの3日間に及ぶ日朝外務省局長級協議を踏まえ、北朝鮮が日本人拉致被害者についての再調査を実施することを表明した。日本もこの再調査の進展次第で、北朝鮮に対する独自の経済制裁の一部緩和を実施することを表明した。
今回の日朝合意は、2008年6、8月の日朝実務者協議の合意に沿ったものだ。6年前の振り出しに戻ったとみていい。北朝鮮は同年6月の日朝実務者協議で、人的往来を認めることや人道目的での北朝鮮船舶の入港禁止解除の検討などを条件に再調査に同意していた。同年8月の協議では再調査委員会を設置して秋の間に調査を終えることでも合意した。しかし、同年9月に当時の福田康夫首相が退陣表明すると、委員会の設置を先送りした。
この6年前の日朝協議同様、今回、合意に至った背景としては、北朝鮮が「拉致問題は解決済み」との従来スタンスを変えて柔軟姿勢を見せたことが大きい。
では、なぜ今回、北朝鮮が柔軟姿勢を見せて拉致被害者の再調査の同意に至ったのか。なぜ日本との交渉に前向きになったのか。
「血の盟友」中国が韓国に接近
その理由には、北朝鮮とともに朝鮮戦争で一緒に戦い、「血の盟友」と言われ続けてきた中国が昨年以来、韓国に急激に接近していることが挙げられる。
中国の王毅外相は今週初めに、韓国を訪問し、朴槿恵大統領や尹炳世外相と会談、中韓関係について「これまでで最良」との認識を示した。王毅外相は、年内に予定されている習近平・中国国家主席の初の訪韓日程についても調整したと報じられている。日本との歴史問題をめぐって、中韓が共闘を強めていることは読者もよくご存じだろう。
こうした中韓の親密ぶりが北朝鮮に強いプレッシャーを与えていることは間違いない。北朝鮮にしてみれば、その対抗策として、譲歩覚悟で日本に接近している。特に韓国に対し、頭ごなしで日本と交渉することは、イライラや出し抜け感を募らせる北の有効手段となっている。
では、中国はなぜ、韓国に接近しているのか。その理由としては、中国が経済的に韓国との相互依存を深め、かりに将来、韓国主導で朝鮮半島が統一されても、統一朝鮮が反中にはならないとの判断に傾いていることがあるとみられる。
また、米中がお互いの利益を尊重する協調主義的な「新型大国間関係」を強め、中国は米国に対しての自信を強めている。今や太平洋の東半分と西半分の「棲み分け」を米国に提案するくらいだ。そんな中、自信あふれる昨今の中国にとっては、米韓に対する緩衝地帯(バッファーゾーン)としての北朝鮮の戦略的価値が低下しているとみられる。
本来は調査など必要ない
北朝鮮は今回、日本側に対し、拉致被害者の再調査の実施を約束したが、本来、北朝鮮が拉致被害者を捜したり、生存を確認したりするのに調査など必要ない。なぜなら、北朝鮮は既に日本人拉致被害者の居所なり状況を把握しているはずだからだ。
北朝鮮は日本と違い、移動の自由が制限されている。また、拉致被害者は、日本人を含めた外国人との結婚が強制されていると言われている。北朝鮮のような閉鎖的で流動性の少ない社会の中で、日本人がいれば容易に気付かれてしまうものだ。
実は安倍首相も10年前の2004年の自民党幹事長時代、当時の日本政府が提案した安否不明者10人についての日朝合同の調査委員会構想について問われ、次のように答えている。
「誰が考えても茶番で、直ちに取り下げるべきだ。拉致をしたのは彼らで、行方を知っている。知らないふりをして一緒に調査するというのは、時間延ばし以外の何物でもない。拉致問題は金総書記がすべてを話せば一秒で解決する話だ」(2004年5月22日付の日本経済新聞記事)
「包括的かつ全面的な調査」で新たに拉致被害者の生存を見つけたことにしなければ、これまで北朝鮮が「解決済み」としてきた嘘がバレてしまうことになる。北のメンツが立たなくなる。このため、「再調査」とはあくまで拉致問題解決のために日朝が編み出した政治手法、あるいは北への政治的な配慮であって、本来は茶番劇だ。
いずれにせよ、今後、「特別の権限(全ての機関を対象とした調査を行うことのできる権限)が付与された特別調査委員会」が数カ月以内に拉致被害の生存者を「発見」するだろう。そして、日朝の合意文書にあるように、そうした生存者は安全に帰国させるとみられる。
問題は北朝鮮がいったい何人の生存者を見つけたと言ってくるかだ。数人と数十人とでは、日本国内の世論の受け止め方に大変な差が出てくることが明らかだ。その世論の状況次第で、日本政府の次の一手となる政策も違ってくるだろう。2002年10月に拉致被害者5人が帰国した際、日朝の両国を待ち受けていたのは、予想に反し、拉致問題の全面解決を求める被害者家族と世論の強い反発だった。少ない人数では同じことが起こりかねない。
次なる生存者も北朝鮮の工作活動と無関係か
もともと日本人拉致は、故金正日総書記が1970年後半と1980年代前半、対南工作向けに日本人に化けたスパイを養成するため、工作機関に指示したものだ。金正日はその頃、まだ30代で父親・金日成に次の指導者として認めてもらうため、対南工作を通じて自らの実績作りに励んでいた。
拉致被害者の一人、田口八重子さんは、ソウルオリンピックが翌年に迫った87年の大韓航空機爆破事件の犯人で北朝鮮の元工作員、金賢姫の日本人化教育係。横田めぐみさんもその金賢姫の同僚の女性工作員の金淑姫の教育係だったとされる。北朝鮮はビルマ(当時)の首都ラングーンでの韓国大統領暗殺未遂(1983年)や大韓航空機爆破を「でっち上げ」などと言い続け、犯行を認めていない。このため、過去の嘘や矛盾がばれることから、今回も対南工作活動とは無縁の日本人生存者を意図的に差し出すとみられる。北朝鮮がどのように動くか、注視していく必要がある。
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