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<船橋洋一インタビュー1>米中関係とアジア
中央日報日本語版
http://japanese.joins.com/article/907/185907.html?servcode=A00§code=A00
韓国は今、北東アジアの緊張の十字路に立っている。北側からは北朝鮮が言語暴力と物理的挑発を続け、中国とロシアは新しい次元の軍事・経済協力で米国に挑戦する体制を整えた。南側の海上では中国が日本・ベトナム・フィリピンなどと激しく領土紛争を起こし、地域の安定に衝撃を与えている。北東アジアのこうした安保環境の枠の外からは、韓半島(朝鮮半島)問題を解けない状況になってしまった。中央日報の金永熙(キム・ヨンヒ)論説委員が日本屈指の世界的な国際問題専門家、船橋洋一「日本再建イニシアティブ」理事長と2時間にわたり、北東アジアの平和の道をテーマに対談した。
金永熙=米国と中国はアジア・太平洋地域の未来秩序について相反する立場を見せている。米国は現在の秩序を維持しようとする一方、中国は現状を打破し、中国が参加する新しい秩序を作ろうとしている。私たちの目の前で実際に展開されるのは、両強大国の覇権競争のようだ。
船橋洋一=基本的にそうだ。覇権競争はすでに始まった。中国は2008年のリーマンショックと北京オリンピック(五輪)の頃から、米国と中国の従来の力の関係を変えることができると考え始めたようだ。米国海軍力の優位を根幹とする海洋の従来の秩序を乗り越えようという考えだろう。とはいえ、中国が米国優位の秩序を完全に破壊しようとするとは思わない。中国はまだ今の秩序を活用する価値があると判断している。
金=どういう意味か。
船橋=たとえば世界貿易機関(WTO)や国際通貨基金のブレトンウッズ(Bretton Woods)体制の観点で、まだ中国は先進国入りしたとは見なしにくいため、今の体制が中国にはむしろ有利だとみている。中国は米国の巨大な輸出市場という現実と米国の国債購入で、米国を牽制できると考えている。日米同盟も中国の立場では米国が日本を牽制する効果があるとみている。
金=中国は余裕満々に現状を変えようとしているのか。
船橋=中国は2008年頃から2010年までは「時間は味方」と過信していた。しかし2010年頃から南シナ海でASEAN(東南アジア諸国連合)国家と葛藤が生じた。1対1の対決方式で南シナ海を掌握しようとしていた中国の戦略に支障が生じた。フィリピンおよびベトナムとの関係が急速に冷え込み、2012年に米国防長官がベトナムを訪問し、オバマ大統領はフィリピンを訪問し、米軍がスービック湾の海軍基地を再び使用する権利を確保した。これは新しい勢力が急浮上する際に典型的に表れる周辺国の包囲(encirclement)戦略だ。中国が過剰行動で自ら包囲(Self−encirclement)される結果となった。
金=シカゴ大学のジョン・ミアシャイマー教授は、ドイツの浮上が欧州の従来の秩序を揺さぶり2度の世界大戦を起こした歴史の前例を挙げながら、中国の浮上が結局は米国と中国の衝突をもたらし、アジア・太平洋地域の平和を深刻に乱すと主張している。米中衝突の不可避論だ。
船橋=歴史に不可避なものはないと考える。米国と中国が過去のドイツと欧州の他の国家のようにやむをえず衝突すること、急浮上する国家が従来の覇権国と軍事的に衝突することはないとみる。中国人、特にその指導者は歴史を深く見る目を持っている。2006年頃、CCTVが11−12回の特集番組を放送したが、日本やドイツなど大国が周辺国を侵略して植民支配し、結局は崩壊するという内容だった。中国国営放送がこうした内容を報道したのは、大国になった中国はこうした失敗を犯してはならないという誓いだったとみる。トウ小平の平和的台頭論が最後の光を放った瞬間だったといえるだろうか。
金=米中のG2時代、日本の戦略的役割はどういうものか。
船橋=日本は現在、自らの役割について方向感覚を失っている。日本は1980−90年代までは隣国と一緒に地域の秩序を作った。97、98年の国際通貨基金(IMF)事態ではアジア通貨基金(Asia Monetary Fund)を提案した。米国と中国の反対で失敗に終わったが。しかし21世紀に入り日本が国連常任理事国入りを目指した時、アジアではアフガニスタン・ブータン・モルディブの3カ国の支持しか受けられなかった。惨敗だ。90年代末から21世紀にかけて日本の力が弱まった結果だ。安倍政権に入って歴史問題が膨らみ、日本の立場はさらに弱まり、共通のビジョンを作れずにいる。日本は自縄自縛の状況になっている。
金=東アジア首脳会議、アジア太平洋経済協力会議(APEC)、ASEAN地域安保フォーラム(ARF)、ASEAN、韓日中首脳会議のような東アジアの多者機構も、2つのスーパーパワーの覇権競争を仲裁、牽制する力がないように見える。結局、この地域の秩序はG2の力の論理で結果が生まれそうだ。
船橋=それほど悲観的には見ていない。中国は新しい対等な米中関係を明らかにした。ただ、米国は中国がまだG2の格に合うビジョンを持つ、責任ある利害当事者(stakeholder)ではないと考えている。2007年にティモシー・キーティング米太平洋軍司令官が中国を訪問した際、中国軍司令官が「あなたたちが東太平洋を占め、私たちが西太平洋を占めよう」と述べた。冗談ではなかった。中国は沖縄−台湾−フィリピン西側−ボルネオとつながる第1列島線の西側地域を中国の核心利害地域とみている。G2による太平洋圏の徹底した分断だ。
金=米国と中国が力の共有(power−sharing)という方式で米中対決を解決できると話す学者もいる。
船橋=米国は太平洋戦争で高価な教訓を得た。米国は大国の軍備と海外軍事駐留を制限した1921年当時のワシントン体制に基づき、フィリピンから軍隊を撤収した。そして太平洋戦争が発生し、米国はかろうじて太平洋地域を取り戻した。21年にフィリピンから撤収していなかったとすれば、太平洋戦争の様相は違っていたはずだ。米国は独占的地位をあきらめないだろう。
金=長期的に見れば、中国の国力は上昇し、相対的に米国の国力は落ち、いつかは今の均衡が崩れる日が来るのでは。
船橋=国際政治は算術的に判断するものではない。転機(crossover point)が国内総生産からくることはあるが、信頼や同盟、文明、価値のようなものをみると、中国は今の体制では米国を超えられない。むしろ米国に新しい同盟国が生じるだろう。今は友好国でないインド、長期的にはロシアも入ってくる可能性がある。こうした再均衡(rebalancing)は40−50年間、着実に進行される長期的なプロセスであり、ジョージ・ケナンの封じ込め政策に匹敵するほど戦略的な概念だと考える。
金=米国と中国が競争する隙間で韓国・インドネシア・ベトナムなど中堅国家(Middle power)の役割は何か。
船橋=韓国・ベトナム・インドネシアを共通のアイデンティティーがあるミドルパワーとして分類するのは難しい。各国の地理的戦略性、歴史の特異性が作用するからだ。韓国の場合、北朝鮮を吸収し、統一を実現すれば、大国になる可能性があるとみる。
金=米国は効果的な中国・北朝鮮牽制のためには韓日米3角安保協力が必須という立場だが、韓国は大きく2つの理由でこうした地政学的な要求を受け入れない。一つは、膨大な輸出市場としての中国への配慮と北朝鮮の好戦性牽制に中国が行使できる影響力であり、もう一つは安倍政権の歴史修正主義と軍国主義が濃厚な大国指向的な対外路線に対する不安感だ。韓日関係は慰安婦問題が足かせになり、米国の仲裁努力も限界を表した非常に苦しい状況だ。どこに解決のきっかけを見いだせるのだろうか。
船橋=米国は大きな役割をした。ウクライナとシリアの問題で米国は何もできなかったが、韓日問題は熱心にしている。米国の副大統領が日本と韓国を訪問し、裏で汗を流して仲裁している。それだけの政治資本を利用して努力しているということだ。私が特に韓国の政治指導者に強調したいのは、北朝鮮の軍事的脅威が高まるこの時期、日米同盟に基づく在日米軍の役割が重大だという事実だ。危機状況になれば、日本は韓半島に出ることはできないが、日米同盟の存在が韓国に大きな支えになるだろう。慰安婦問題は政治的リーダーシップで解決方法を見いださなければいけない。来年は韓日国交正常化50周年だ。今年中に安倍首相が政治的リーダーシップを発揮し、方法を用意しなければいけない。安倍首相は支持率も高く、保守勢力を背負っていて、選択の範囲が広い。
<船橋洋一インタビュー2>安倍晋三の未来像
http://japanese.joins.com/article/908/185908.html?servcode=A00§code=A00
金=安倍首相が構想する日本の未来はどういうものか。
船橋=安倍首相の歴史観と靖国参拝は非常に残念だ。しかし安倍首相は日本を1930−40年代の軍国主義、膨張主義、ファシスト国家に作ろうとしているのではない。安倍首相が戦後の日本をどう見ているのかが重要だが、安倍首相は最近まで脱戦後を叫んだ。成功事例である日本の戦後体制をなぜ脱離しようとするのか分からない。
金=靖国参拝問題は韓日、日中葛藤の次元を越え、国際社会で日本の道徳的地位を揺るがす行動ではないだろうか。
船橋=安倍首相の靖国参拝は、以前の小泉首相の参拝とは性格が違う。安倍首相は靖国を参拝することで、日本が戦後の世界秩序に寄与するか、それを否定するかという議論を触発する決定的なミスを犯した。中国の宣伝戦略に利用されている。安倍首相が靖国を参拝すると、中国の王毅外相は直ちにラブロフ露外相に電話をかけ、「今回の安倍首相の靖国参拝は、中国とロシアが戦後に共同で作った平和を否定するものだ」と話した。韓国戦争を見ても、ソ連・ロシアと中国が戦後世界の平和を作ってきたというのは話にならない。中国は米国の耳にはこうささやく。「あなたたちは1941年に真珠湾で日本の奇襲を受け、4年間太平洋で日本と戦争をしたが、中国は1937年7月から日本と日中戦争をした。我々が4年間も50万人の日本軍の足を中国に縛っておいたおかげで、米国が日本に勝利し、ポツダム体制も可能だった」。国際政治では歴史的な叙事(narrative)というものが非常に重要だが、日本の指導者はそれをあまり認識していない。
金=安倍政権ははいつか平和憲法を改め、再武装しようという意志が強いようだ。長期的に見て平和憲法に慣れた日本の国民がこうした改憲に賛成する日がくるだろうか。
船橋=そういうことない。集団的自衛権に関する憲法解釈一つを見ても、こういうことを推進することに対する不安感と抵抗、そして連立パートナーの公明党の創価学会側の反応などを見ると、国民も最後は賛成しないだろう。65歳以上の高齢者の声も計算しなければいけない。高齢者は戦後日本がこれほど成長したのは、平和憲法と日米同盟があったから可能だったと信じている。日本では65歳以上の高齢者に力がある。
金=アジア諸国が日本の再武装を警戒するのは、軍国主義の「前科」がある日本に対する不信感のためだ。戦後、西ドイツが北大西洋条約機構(NATO)と欧州共同体のような多者の枠に加入し、自らを拘束することで、フランスなど西欧国家を安心させた前例に照らし、北東アジアでも多者安保機構と経済協力体を通じて日本、そして中国を牽制する方法で、大国の野望により引き起こされる問題を解決することはできないだろうか。
船橋=欧州の和解プロセスで地域主義の役割は非常に大きかった。欧州共同体(EC)、欧州連合(EU)、共通貨幣ユーロ(Euro)、経済統合、そしてNATOがそれだ。アジアでは欧州のように地域主義の中で地域全体の問題を解決するのが不可能だった。それでもASEANは作られた。ASEANの中で、日本が歴史問題で和解する枠を用意することができた。6カ国協議はうまく進んでいないが、北東アジアも韓半島統一を念頭に置けば、多角度の枠づくりにもう一度挑戦しなければいけないと考える。日本はその中で近隣諸国と一緒に歴史問題を議論できればいいと思う。欧州では経済の相互依存が平和の実現に作用したが、アジアの場合には経済相互依存が急速に進行しながらも、それが歴史の和解や社会の融和力、親和力にはつながらなかった。中国を悪く言いたくはないが、中国は経済的相互依存が強まり、相手国の中国に対する依存度が高まるほど、相手を弱者と見る傾向がある。その場合、関与政策(engagement policy)は高い水準で持続できないというのが問題だ。
<船橋洋一インタビュー3>北東アジアの安全
http://japanese.joins.com/article/909/185909.html?servcode=A00§code=A00
金=北東アジアの平和と安定を実現するうえで、最も大きな障害物の一つが北朝鮮の核兵器開発だ。6カ国協議を中心に交渉をしたが、北朝鮮の非核化は実現せず、金正恩(キム・ジョンウン)の北朝鮮は韓国と米国を相手に挑発的な発言をしている。金正恩はなぜそう考えるのか。
船橋=金正恩は金正日(キム・ジョンイル)よりも大きな恐怖にとらわれているだろう。北朝鮮はさらに孤立している。中国との関係もそうだ。過去、金日成(キム・イルソン)と金正日は中国との関係をうまく活用してきた。1992年の韓中国交正常化で北朝鮮が裏切りを感じたが、よく耐えながら中国から得るものは得た。しかし金正恩が現在、中国を十分に活用しているかどうかは疑問だ。中国は金正恩の北朝鮮を不届きだと考えているだろうが、中国が自ら北朝鮮の体制を壊すことはないとみる。中国の影響力に限界があり、金正恩の代わりに誰かを前に出すこともできない。
金=「日本再建イニシアティブ」が昨年3月に発行した『日本最悪のシナリオ9つの死角』という本で、中国が尖閣諸島を武力で奪い、実効支配するのに成功したという仮想シナリオを提示した。尖閣で武力衝突が起きれば、米国が安保条約上の義務に基づき日本を支援することになり、日本の軍事力がまだ中国より優勢だという評価だが、そのようなシナリオに現実性があるのか。
船橋=そのシナリオでは、中国の武装勢力より漁民が入ってくる可能性を高くみている。グレーゾーン(Grey zone)だ。実際、軍と軍の正面衝突より、漁民や漁民を装った人たちが尖閣に上陸する可能性が大きく、その時に日本がきちんと統制権を行使できない姿を見せるというシナリオだ。10年、15年後を想定しているが、現実的に米軍が自衛隊とともに尖閣に上陸し、不法入国した中国漁民を退去させはしないだろう。日本が前面に立ち、自国の領土を守る姿を先に見せることを期待する。米国はそれをみて介入するかどうかを判断するだろう。
金=『日本最悪のシナリオ9つの死角』のうち、特に韓国人の注目を引く部分は、北朝鮮が崩壊して韓国が核兵器を持つ統一国家を樹立するというシナリオだ。金正恩の経済改革に反対する軍部がクーデターを起こし、金正恩を支持するミサイル部隊が弾道ミサイルを平壌(ピョンヤン)に発射する。北朝鮮はリーダーシップのない混乱に陥り、韓国軍が平壌を占領し、統一政府を樹立するということだが、興味深いのは金正恩が韓国大統領に慈江道の地下に隠した核兵器の所在を知らせ、核を持つ統一国家樹立を勧告する部分だ。シナリオでは米国と中国が韓国統一に反対する密約を結ぶ。ロシアだけが韓国統一を支持する。中国と米国が反対する中で、韓国が単独で北朝鮮に進入して核を保有する統一韓国を樹立する、そして韓米同盟を破棄して中立を宣言するという発想に現実性はあるのか。
船橋=そのような最悪のシナリオをなぜ作るかを考えてみなければいけない。恐怖というものが、いつ、どこから、どのように生じるかを自ら暴く練習だ。そうなるということよりも、いくつかの恐怖の状況が出てくれば、米国と中国・日本・韓国などが、それが互いにマイナスにならないようにするためにはどうするかを事前に表し、そのような状況を作らないための練習をする。統一韓国が核を持つのは日本には最悪のシナリオだ。統一韓国が核を保有すれば、東アジアに核開発のドミノ現象が起こり、この地域の戦略的環境が大きく変わるだろう。
金=統一韓国の核保有は、統一される時点の北東アジアの安保環境、特に米中覇権競争の成り行きに左右されるだろう。
船橋=韓国が核を持つ必要がない条件を作ることが、今からの課題だ。
金=具体的な代償(reward)がなければいけない。
船橋=代償がなければ、韓国は核を放棄しないだろう。私が見るに、代償は中国の同意の下、韓米同盟を維持することだ。中国が韓米同盟を認めるのはそれ自体で非常に効果が大きい。
◆船橋洋一…1944年北京生まれ。東京大卒業後、朝日新聞社に入社。北京・ワシントン特派員と米国総局長を務めた国際問題専門家。米国総局長時代は「第2の日本大使」と呼ばれるほど地位が高かった。2007年から定年退任した2010年まで朝日新聞の主筆。朝日新聞では30年間、主筆が空席だったため、船橋氏の主筆就任は大きな話題になった。現在も主筆は空席。退任後、シンクタンク「日本再建イニシアティブ」財団理事長を務める。
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