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悠久の中華思想を振りまきベトナムとも一触即発に
岐路に立つ中国、強硬路線の行き着く先を考える
真壁昭夫 [信州大学教授] ダイアモンドオンライン
http://diamond.jp/articles/-/53224
ベトナムやフィリピンとも領土紛争
「中華思想」を振り回す中国の懐事情
現在、中国はわが国やベトナム、フィリピンなどとの間で領有権に関して紛争の火種を抱えている。今のところ同国の対外姿勢は驚くほど強硬で、他国との交渉余地や協調の姿勢を全く見せていない。
そうした強硬なスタンスの背景には、習近平主席が主張する伝統的な中華思想があるのだろう。多くの異民族を抱える中国にとって、国を1つの方向に誘導するためには、漢民族による中華思想という伝統的な意識が必要になることは理解できる。
同国の驚異的な経済発展は、そうした理念や強硬なスタンスを下支えする要因の1つになっている。また近年、世界の覇権国である米国の実力が低下していることも、中国にとって好都合のはずだ。
ただ、中国が強硬な姿勢を取り続けると、近隣諸国との関係が悪化することは避けられない。ベトナムでは、反中デモによって多くの死傷者が出ている。強硬一辺倒のスタンスは、長い目で見れば中国の国益に叶うとは考えにくい。今野強硬姿勢を変えなければ、中国は国際社会で孤立を深めることになりかねない。
現在、中国経済は人口構成の歪みや国内の不動産バブル、さらには過剰な生産能力など深刻な問題を抱えている。すでに成長率は明らかに鈍化しており、そうした状況下で中国政府は深刻な経済問題の解決を模索しなければならない。それは容易なことではない。
本来、中国は時間をかけて西欧諸国のような、民主主義を基盤とした普通の先進国に変身することが望ましい。しかし、それが可能か否かは不透明な部分が多い。中国がここまで大きくなると、世界の政治・経済の情勢にとって重大なリスク要因になることが懸念される。
中国は気が遠くなるような広大な国土を持ち、約9割の人口を占める漢族のほか、ウイグル族やモンゴル族、チベット族など、政府が認定しているだけで55もの少数民族を抱える複雑な国だ。
地方によって話す言葉が異なり、人々の生活習慣や宗教なども違っている。国民の経済状況においても、我々日本人の頭では想像することが難しいほどの格差が存在する。中国人の友人によると、「上海や北京といった大都市部と地方の農村部の光景を比べると、同じ国だとは思えない」という。
それでも、国民の間に大きな軋轢が顕在化しなかった背景には、ケ小平時代の改革開放政策以降、中国が高い経済成長を達成したことで、人々の不満が蓄積する速度が緩やかだったことがあるだろう。それに加えて、インターネットなど情報通信の手段が限られていたため、経済的な格差などが人々の目に触れる機会が少なかったことが考えられる。
都市部と地方では驚くほどの格差が
民衆の爆発はもう止められない?
ところがIT機器の発達によって、多くの中国人が実際に起きていることを自分の目で、リアルタイムで見ることができるようになった。そうなると、経済的な格差が一目瞭然となる。多くの人々から不満が噴出することは当然だ。
経済に関しても、足もとでは成長率が鈍化して人々が享受できるメリットが減少している。また、少子高齢化による人口構成の歪みや、深刻な不動産バブル、過大な借入金や生産設備などの問題が顕在化しつつある。それらの問題はかなり深刻化しており、どこかで一挙に爆発する懸念がある。
共産党政権はそうした問題に対処するため、思い切った改革の実施を掲げているものの、様々な既得権益層を押し切って改革を実行できるかは定かではない。そもそも、共産党一党独裁体制下の中国では民主化が遅れており、そうした政治体制の改革に手を付けることも必要になるはずだ。
中国経済の1つの転機は、1978年12月にケ小平によって導入された改革開放政策だった。改革開放政策とは、簡単に言うと、市場経済の仕組みを取り入れ経済の効率を高めると同時に、海外資本の導入などを通して経済を外に向かって開放することだった。
その後、国内の都市部と農村部の経済格差の拡大などの問題が顕在化したこともあり、1990年代に入って一時、社会主義的な経済体制に回帰する局面はあったものの、基本的に経済発展のプロセスが進展した。特に2008年の北京オリンピックや2010年の上海万博を経て、中国経済は一段と成長を加速することになった。
「真の実力」は楽観視できない
中国経済の成長率鈍化は不可避
ただ、成長を謳歌してきた中国経済には顕著な特徴があった。それは、成長のエンジン役が輸出と投資であることだ。安価な労働力を使って製品をつくり、それを欧米諸国に輸出して収益を上げるのが基本的な構造であり、そうした経済活動を支えていたのが多額の設備投資だった。リーマンショックによって輸出が落ち込んだ際には、政府が4兆元(約60兆円)に上る景気対策を打って経済を下支えした。
今後、中国経済が直面する最大の問題の1つは人口構成の歪みである。1970年代、中国政府は一人っ子政策を打ち出し、人為的に少子高齢化をつくり出してきた。それによって、働き手(生産年齢人口)の割合はこれから低下していく見通しだ。
そうなると賃金水準は上昇して、安価な労働力という優位性は消える。おそらく2020年代前半以降、その傾向は顕著になるだろう。今後、中国が技術力を鍛えて、付加価値の高い分野で優位性を発揮しない限り、中国経済がジリ貧状態になることは避けられない。
今のところ、欧米企業は13億人の巨大市場を持つ中国に注目せざるを得ないが、中長期的に経済が低迷するようだと、その市場としての重要性は低下することになる。経済低迷を防ぐために、中国企業に新しい技術や新製品の開発などができるか否か、その実力が試されることになる。ただ、非効率な国営企業などを抱える中国経済がそれを達成できるかどうかについては、あまり楽観的になれない。
中国経済に関して1つ確かなことは、今後は成長率が低下することだ。個人消費中心の経済構造への転換に加えて、人口要因(生産年齢人口)の低下、さらには中国が抱える不動産バブルやシャドーバンキングなどの問題を考えると、どう考えても中国経済は、すでに高成長の段階を過ぎている。成長率が鈍化することは避けられない。
問題は、中国の問題が顕在化するスピードとタイミングだ。問題が時間をかけて表面に出てくるのであれば、中国政府も対応が可能だろう。しかし、不動産バブルやシャドーバンキングのシステムを通して過剰債務の問題が急速に悪化すると、おそらく中国政府は混乱を短期間で終息させることはできない可能性が高い。
その場合は、中国国内の不動産や株式などの価格が急落し、それが世界へと伝播することだろう。悲観論者が指摘する“チャイナリスク”が現実のものとなり、世界経済に大きな打撃を与えることになる。
政策対応の巧拙いかんで分かれる明暗
中国が辿るメインシナリオは現実路線か?
一方、現在中国の財政は主要先進国よりも良好な状況にある。そのため短期的に見ると、国内経済に大きな異変があれば、財政によって何とか事態の収拾を図ることが可能だろう。また、足もとでITや家電といった分野で民間企業の成長が顕著になっており、そうした活力が中国経済の下支え役を果たすことも期待できる。
これらの要素を総合して考えると、中国政府が上手く政策対応することができれば、中国発の世界経済大混乱の懸念はそれほど大きくないと見られる。ただ、間違いなく、中国経済の成長鈍化は徐々に顕在化していく。そのスピードが速いと、“衰退”という言葉が当てはまる状況になるはずだ。
中国経済の成長率が鈍化すると、経済格差に苦しむ国民の不満が一段と高まると見られる。その矛先は共産党政権に向かうはずだ。長期間、その不満を武力で抑えることは難しい。民衆からの民主化の要請が高まり、どこかの段階で共産党の一党支配体制が崩れる可能性が高い。
台湾の友人は、「気長に待っていれば、中国はいずれ台湾と同じ民主国家になる。そうなったら、本土と台湾が一緒になればよい」と言っていた。おそらく、中国はそうした道を歩むことになりそうな気がする。ただ、中国が悠久の歴史を歩んできたことを考えると、それが実現されるためには多くの時間がかかることだろう。
かの国が「中華思想」的な強硬路線から現実路線へと変わることができる日は、いつのことだろうか。
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