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中国の横暴に対して一歩も引かないベトナム: 自主防衛の気概を日本も見習うべし
JB Press 2014.05.15(木) 北村 淳
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/40671
5月5日、横須賀を母港とするアメリカ海軍第7艦隊旗艦「ブルーリッジ」が、中国とフィリピンが領有権紛争中の南シナ海東部スカボロー礁周辺海域を航行していたところ、2隻の中国海軍軍艦(駆逐艦とフリゲート)と遭遇した。
中国は南シナ海で露骨に強硬姿勢を示しているうえ、2013年も南シナ海で中国軍艦がアメリカ海軍巡洋艦「カウペンス」(「米軍巡洋艦に中国揚陸艦が『突撃』、衝突も辞さない中国海軍の攻撃的方針」、JBpress)に体当たりをするがごとく急接近した記憶が新しいため、ブルーリッジ側には緊張が走った。
しかしブルーリッジと中国海軍戦隊の間には何の交信もされず、何ごともなく両者は離れていった。
中国に“やや配慮する”アメリカ
この中国艦との遭遇に関して第7艦隊では、「ブルーリッジのスカボロー礁周辺海域航行は“FON -operation”ではなかった」との声明を発した。
“FON-operation”(航行の自由・作戦)というのは、アメリカ国務省と国防総省が、海洋の権益線引きや島嶼の領有権を巡って紛争中の海域に軍艦を派遣して、「紛争当事国は国連海洋法条約をはじめとする国際法の原則に遵って違法な主張は取り下げて、海洋の安全航行を尊重しなければならない」というメッセージを暗示する示威的軍事作戦である。
オバマ大統領が、日本やフィリピンを訪問し、中国の海洋侵攻政策を牽制するようなポーズを取った直後であったにもかかわらず、第7艦隊は「ブルーリッジの航行は、“FON-operation”ではなかった」といった公式声明をわざわざ発した。このことは、「中国側を刺激しないように」とのアメリカ政府による配慮の表れと見て取れる。
ちょうど時期を同じくして中国と海洋での領域紛争で衝突したフィリピンやベトナムにとっては、アメリカが中国に対してどの程度強硬な態度を取る可能性があるのかを探る1つのヒントになったとも言える。
ベトナムにとって中国との軍事衝突は想定済み
そのベトナムであるが、かねて中国との間では南シナ海のパラセル諸島(西沙諸島)とスプラトリー諸島(南沙諸島)で領有権紛争を抱えており、軍事衝突も経験している。
今回のパラセル諸島近接海域での中国による油田掘削作業を巡っての中越衝突において、中国側には法執行機関の船艇だけでなく海軍艦艇も加わり、戦闘機(Tuoi Tre News 05/11)まで出動しているとされている。アメリカ海軍大学のホルムズ教授などは、中国側はこれまでの「小さな棍棒外交」を捨て去っていよいよ本格的に牙を剥き始めた、と警告している。
ただし、アメリカ人に警告されるはるか以前から、中国との海洋での紛争がやがて何らかの形での武力衝突に発展するであろうとベトナムが覚悟を決めていたことは間違いない。なぜならば、ベトナムは数年前から軍事力とりわけ海洋戦力の強化に取り組んでいるからである。
まず航空戦力の近代化として、ベトナム空軍はロシアからスホイ27戦闘機を12機購入した。それに引き続き、より強力なスホイ30MK2戦闘機24機を購入し、さらに12機を注文している。同様に、ベトナム海軍もやはりロシアからキロ636型潜水艦2隻を購入し、さらに4隻を注文、ゲパルド3.9フリゲート2隻を購入し、さらに4隻を注文。その他にも8隻の小型艇を購入し、さらに10隻を注文している。
スホイ30MK2戦闘機、キロ636型潜水艦、ゲパルト3.9フリゲートなどは、いずれもアメリカやロシアや中国などの最先端兵器には及ばないものの、国際水準では十二分に強力な近代的兵器である。そして国防費がおよそ33億6000万ドルのベトナム軍が第4.5世代戦闘機と言われているスホイ30MK2を36機装備し、高性能潜水艦であるキロ636型潜水艦を6隻保有するということは、国防費がおよそ592億7000万ドルの日本が第4.5世代戦闘機F-2を88機(修復中を含む)潜水艦を16隻(将来的には22隻)運用しているのと比べて、いかに海洋戦力の強化に力を入れているのかを察することができる。
国境線を巡って紛争が頻発
中国と国境を接しているベトナムは、古来覇権主義国家である中国との紛争が絶えなかった。ベトナム戦争期以降でも、数回にわたって中国との武力衝突が発生している。
ベトナム戦争末期、アメリカ軍戦闘部隊がベトナムから撤退した翌年の1974年1月、当時南ベトナムと中国が共に領有権を主張していたパラセル諸島(西沙諸島)で、南ベトナム軍艦と中国軍艦との間ににらみ合いの事態が発生した。中越ともに軍艦に陸戦部隊を載せてパラセル諸島に送り込み、それぞれいくつかの島々に陸戦部隊を上陸させて対峙した。ついに1月19日に、中国軍が上陸していたパーム島(広金島)に南ベトナム軍が上陸しようとしたところ銃撃戦が始まり、中国艦隊(コルベット4隻、駆潜艇2隻)と南ベトナム艦隊(フリゲート3隻、コルベット1隻)の間での戦闘が開始された。
激しい衝突と砲撃によって双方とも軍艦にダメージを受けたが、南ベトナム側のコルベットは沈没しフリゲート2隻も大破した。また島嶼における陸戦隊同士の戦闘でも中国側が優勢を占め、この西沙諸島海戦(中国側の呼称は「西沙諸島自衛反撃戦」)は中国側の勝利となった。
南ベトナム軍を追い払った中国軍は、いくつかの島々を占領して西沙諸島の中国による実効支配が開始され今日に至っている。
1979年には、国境紛争より引き起こされたのではなかったが、中国人民解放軍の大軍(兵力20万〜30万、総動員数は60万と言われている)がカンボジアとの戦争中で兵力が少なかったベトナムに侵攻した。ベトナム側は少数の正規軍(7万)で防衛しなければならず民兵部隊(5万)が参加して中国侵攻軍との激戦を展開した。この軍事衝突は「中越戦争」と呼ばれ、中国では「対ベトナム自衛反撃戦争」と呼ばれている。
中越戦争では、中国人民解放軍が侵攻兵力数や戦車などの火力数ではベトナム側を圧倒していた。しかし、ベトナム戦争で米軍相手に戦った百戦錬磨の民兵軍を中心としたベトナム軍は極めて強いうえ、国土防衛意識に燃えており、士気が高かった。一方、急遽駆り集められて動員された人民解放軍の士気は低く、文革の影響で軍内部の指揮系統が崩壊していた。その結果、数倍の兵力によりベトナム侵攻を企てた人民解放軍は多数の戦死傷者を出して完敗し、中国に撤退した。
さすがに中越戦争での手痛い敗北後は中国共産党政府はベトナムとの全面的戦争は避けるようになったものの、地上での中越国境線を巡っての紛争は頻発し、しばしば軍事衝突に発展した。1979年から1990年にかけて、少なくとも7回(1度の衝突は半年から1年近くも継続した)にわたって中国軍とベトナム軍の間に死傷者が出る戦闘が繰り返されて、双方ともに多数の損害を出している。ソ連の崩壊ならびにベトナム軍によるカンボジア内戦介入の終結とともに、1990年代以降は、中越間の国境を巡っての軍事衝突は終息した。
地上での国境紛争と並んで、海洋でも中国とベトナムの領域紛争は続いた。ただし、パラセル諸島では1974年の西沙諸島海戦で中国が実効支配を開始して以降、軍事衝突は発生しなかった。一方、中国とベトナムの双方がそれぞれいくつかの岩礁を占拠して領有権争いを繰り広げていたスプラトリー諸島(南沙諸島)のサウスジョンソン礁では、1988年3月14日、陸兵を上陸させるために3つの岩礁に向かっていたベトナム海軍の揚陸艇と2隻の武装輸送船が中国海軍フリゲート戦隊に発見され、両軍の間で砲撃戦が勃発した。結局、ベトナム側は2隻を撃沈され1隻を大破され、70名の戦死者を出して駆逐された(サウスジョンソン礁海戦)。その後も、サウスジョンソン礁では中国とベトナムがそれぞれいくつかの岩礁を占領してにらみ合いが続いている。
ベトナムの“捨て身”の徹底抗戦戦略
ベトナムはこのように国境紛争で中国との武力衝突を数多く経験している。中国は近年、南シナ海や東シナ海において、ベトナムやフィリピンのみならず日本やアメリカに対しても強硬な姿勢を露骨に示しており、ベトナムがそんな中国との間にいずれは何らかの形での軍事衝突は避けられないであろうと覚悟を決めて、海洋戦力の強化に踏み切ったことは容易に理解できる。
もちろん、いくらベトナム軍がロシア製の強力な航空機や軍艦を手に入れて海洋戦力を強化しても、中国海洋戦力とは比べるべくもない戦闘力に過ぎない。強大な中国人民解放軍にベトナム軍が太刀打ちできないのは、ベトナムとしても承知のうえである。
しかし歴史的に、中国侵攻軍との数々の戦いや米軍とのベトナム戦争のように、ベトナムの戦略は民族の誇りと国土を守るために侵略軍に対して徹底抗戦し、自らの血と引き換えに侵略軍にも多大の出血を強いてやがては撤退させる、という捨て身の徹底抗戦戦略に特徴がある。実際にこの戦略によって、ベトナム戦争や中越戦争ではアメリカ軍や中国軍を撃退させた。
また、数々の国境紛争での小規模軍事衝突で中国側は勝利したもののそれ以上の軍事侵攻には至らなかったのは、ベトナムとの全面的戦争に立ち至ると、ベトナムは伝統的な徹底抗戦戦略を用いて中国側も大損害を被ってしまうと中国側が考え、局地的衝突で収束させようとしたからである。
したがって、ベトナムとしては、パラセル諸島や南沙諸島を巡る中国との領有権紛争が武力衝突に発展した際に、強大な中国軍にある程度は反撃を加えて手痛い損害を与えるだけの海洋戦力を保持することによって、対中抑止効果を期待しているわけである。
もちろんそのためにベトナム軍にも多大の犠牲が生ずることは当然ではあるが、国土と民族の誇りを守るためには当然であると、ベトナム戦争という未曾有の苦難を乗り越えた経験を持つベトナムの指導者や多くの市民は口にしている。
日本はベトナムの自主防衛の気概を見習うべし
ベトナムも日本も、軍事力を振りかざして島嶼領土を手中に収めようとする中国と対峙している。しかし、アメリカという軍事的支援を期待できる後ろ盾がある日本と違って、中国と陸と海で隣接しているベトナムには軍事的に保護してくれる後ろ盾がいない。
ロシアはベトナムに武器は売却するし、戦略的要地であるカムラン湾の永続的使用を狙ってはいるものの、たとえ中越軍事衝突が勃発してもベトナムを軍事的に支援する見込みはない。アメリカもカムラン湾を狙ってはいるものの、中国を敵に回してベトナムを軍事支援するシナリオは現実的とは言えない。ASEANはNATOのような軍事的な同盟組織ではないため、ベトナムが軍事的な期待を寄せる先ではない。
要するに、ベトナムは自らの血を流しても徹底抗戦するという意気込みを抑止力として、強大な軍事力を擁する中国に立ち向かわなければならないのである。
「アメリカに捨てられないために」戦々恐々として普天間移設問題の解決を急ぎ、あわてて集団的自衛権行使に向けて奔走し、戦略もなしにアメリカが喜びそうな高価な兵器を購入しようとしている日本政府は、ベトナムの自主防衛の気概を少しでも見習わねばならない。
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