【ソウル＝加藤宏一】北朝鮮の朝鮮人民軍は22日午後６時ごろ、黄海の南北境界水域に近い韓国領の延坪島（ヨンピョンド）付近で活動中の韓国軍の哨戒艦近くに砲弾を撃ち込んだ。韓国軍は境界の北側に応射。韓国側に被害は出ていない。韓国軍関係者が明らかにした。北朝鮮は核実験の可能性も示唆する一方で、日朝協議を継続するなど対話路線は撤回しておらず、硬軟両様の対応で揺さぶりをかけている。

　現場は、韓国が黄海上の南北境界と位置付けている北方限界線（ＮＬＬ）付近で、延坪島の南西14キロの地点。北朝鮮は10発前後の砲弾を撃ち込み、そのうち２発が南側に着弾。これを受けて韓国側は北側に向かって５発撃ち返した。延坪島の住民は緊急避難し、周辺海域で操業していた韓国の漁船も一斉に退避した。

　聯合ニュースによると、２発の砲弾は哨戒艦から約150メートルと至近距離の海面に着弾。韓国軍関係者らの話として、「北朝鮮がＮＬＬ南側に射撃したのは例があるが、韓国軍の艦艇を狙い、砲弾を撃ち込んだのは今回が初めて」と伝えた。韓国国防省は同日、北朝鮮側に対して、「武力挑発を厳重に抗議する。（これにより生じる）全ての責任は北朝鮮にある」との通知文を送った。

　北朝鮮の今回の強硬対応の直接のきっかけは、韓国軍が20日、ＮＬＬの南側に越境した北朝鮮の警備艇に対し、警告射撃を加えたことだ。北朝鮮は強く反発。朝鮮中央通信によると、朝鮮人民軍は21日、「重大な軍事挑発だ」と非難。南北の境界水域付近で活動する韓国軍の艦艇は「例外なく我が軍の攻撃対象となる」と強く威嚇していた。

　北朝鮮はＮＬＬを認めておらず、軍民合わせて４人の死者が出た2010年の延坪島砲撃事件など、これまでも周辺海域でたびたび軍事挑発を行ってきた。今回もＮＬＬの無効化を図る狙いがあるとの見方があり、韓国軍は警戒を強めている。

　南北による砲撃の応酬は３月31日以来。この時は北朝鮮がＮＬＬの北側で射撃訓練をすると韓国側に事前に通告し、多連装砲など500発以上を発射した。そのうち、100発余りが南側海域に着弾し、韓国が自走砲300発余りを北側に撃ち返している。韓国軍には同程度の武器で３倍撃ち返す規定があるとされ、22日もこの方針に沿ったとみられる。

http://www.nikkei.com/article/DGXNASGM22056_S4A520C1EA1000/