01. 2014年5月20日 19:06:03
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現状では、欧米の動きは、かなり読めるので、ロシアが主導権を握っているが、ウクライナ国民の理性は、かなり怪しいから、あまり楽観はできないだろう http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/40708 JBpress>海外>ロシア [ロシア] ウクライナ危機で反ドル政策を加速させたいロシア あらかじめ準備されていた制裁対抗措置に見えるプーチン大統領のしたたかな狙い 2014年05月20日(Tue) 杉浦 史和 東ウクライナの一部地方での住民投票も開票され、米国を中心に西側とロシアはお互い一歩も引かない対抗を続けている。一部にはすでに内戦の様相を呈し始めているとの報道もあるなか、事態の進展を防ぐべく、西側もいよいよ制裁措置を本格化せざるを得ない状況となっているようだ。 前回の弊記事では、ロシアは相当に追い込まれており、経済制裁を厭わずクリミアの独立と編入を推し進めざるを得なかった旨を記したが、実際に経済制裁の効果はいかほどであろうか。また経済制裁はロシアの行動を変化させることにつながるのだろうか。 本稿では、改めて今回の経済制裁がロシアにとって持つ意味を検討してみたい。 効果の乏しい経済制裁 プーチン大統領、クリミアを訪問 編入後初 経済制裁をものともしないロシアのウラジーミル・プーチン大統領〔AFPBB News〕 一般に国際政治学の世界では、経済制裁が制裁対象国の行動様式を変更させることは非常に難しいと考えられている。 なぜなら、現代のように経済の相互依存関係が進んでいる状況では、経済制裁の発動は必ず制裁発動国の国内の一部にも負の影響(ブーメラン効果)を与えるので、短期的には支持を得ても、長期的には制裁措置そのものを維持することが困難となるからだ。 他方、両国の経済関係において相互依存が十分に進んでいないとすれば、制裁の発動が対象国に対してそもそも十分なインパクトを及ぼすことはないため、その効果は疑問視されることになる。 ブーメラン効果もない代わりに、対象国を痛めつけることができない。この場合、制裁は形ばかりで内実を伴わないものとなる。 では今回のケースはどうか。制裁措置は有効で、ロシアの行動様式を変革するに足るものとなっているのだろうか。 結論から先に言えば、まだ制裁措置は形式的な範疇にとどまっており、米国を中心に一層の制裁強化が検討されているものの、ロシアの行動を変えることは難しいように思える。以下、4点に絞って、その理由を説明しよう。 第1の理由は、ロシアと経済的な相互依存関係が親密なドイツを中心とする欧州諸国が制裁措置の拡大に慎重であり、制裁が効果を発揮するかどうか不明だからだ。 比較的相互依存関係が希薄な米国は、制裁措置の一段の強化を求めているが、西側諸国が足並みをそろえることは難しいように見える。それはとりもなおさず、個別の国がそれぞれロシアとの経済関係に与える損得勘定を計算しているからにほかならない。我が国もある程度の同調で済ませようとしているように感じられる。 ロシア政府の思惑を超えて動き始めたウクライナ 親ロシア派が住民投票を強行、ウクライナ東部2州 ウクライナ・ドネツクで、独立の是非を問う住民投票の投票をする人〔AFPBB News〕 第2に、現在の東ウクライナの動きは、ロシア政府の思惑を超えて動き始めている点も見逃せない。 ウラジーミル・プーチン大統領は、対西側諸国に対するポーズであったとしても、東ウクライナにおける住民投票の実施を延期するように要請した(5月7日の欧州安保協力機構(OSCE)のブルカルテル議長との会談時)。 ウクライナ政府のすべてが米国にコントロールされていると考えるのが現実的でないのと同様、分離主義的傾向を強める東ウクライナの諸地域がすべてロシア政府の意のままにコントロールされていると考えるのもまた不合理なのである。 第3に、ロシア政府は今般の経済制裁をあらかじめ予測していたのではないかと思われるほど用意周到に対策を施していた。 今回、米国やEUが発動した制裁措置の1つに、ロシア政府高官に対する資産凍結がある。ロシア人が何らかの形でロシア国内で稼いだお金を、国家による没収を恐れて外国の銀行に預けることは普通にあることなので、特に政府高官ともなれば多額の資産を外国で保有することは何も不思議ではない。 ところが昨2013年5月、高級公務員による外国銀行口座の開設および外国の金融サービスの利用を禁止する法律(連邦法第79号)が制定された。 これはロシア政府関係者の汚職対策の一環であったのだが、同法が規定する対象者は大統領、首相ならびに閣僚、上院・下院議長ならびに副議長などとなっており、今回の制裁対象者をカバーしている。 すなわち、もし法律通りに政府高官の外国資産が国内に還流されているのであれば、今回の措置は全く無意味なものであった可能性が高い。 米国当局者は当然ロシア側の立法措置を知っていたはずだから、法律が形骸化していると認識しているか、単に象徴的な制裁措置として今回の措置を打ち出した可能性もある。 実際、ロシアからの資本逃避の問題は繰り返し話題になるロシア経済の宿痾であり、今回のウクライナ危機に際しても、ロシアからの資本逃避が拡大しているとの報道がなされていることも確かだ。だがそうであるとしても、今回の制裁措置には事前に対策が施されていたという点は、看過できない。これでは実効性も乏しくなろう。 もう1つ、今回の制裁にはサンクトペテルブルクに本店を置くロシア国内資産規模第10位の商業銀行「バンク・ロシア」の資金決済の拒否という措置が含まれている。 国際的な資金決済ができなくなったロシアの商業銀行 これに対して、プーチン大統領が「それなら自分も同行に口座を開設し給料を受け取ることとする」と嘯(うそぶ)いたそうだが、実はこちらの措置はもっと深刻で興味深い問題をはらんでいる。 その後、4月末の制裁の拡大局面では、クレジットカードのビザとマスターカードが制裁対象のSMPバンクなど2行が発行するカードの決済を止める措置も含まれた。 ロシアの一介の商業銀行が国際的な資金決済ができないというのはにわかに信じがたいが、実は米国にはそれを可能にする金融権力を持っている。今回のウクライナに関する一連の騒動で、米国の弱体化が強調されるものの、特に国際金融の世界における米国の地位はいまだに堅牢なのだ。 具体的に言うと、現金を除くすべてのドル決済はニューヨーク連邦銀行が管理人となって在ニューヨークの銀行間で決済される仕組みとなっている。北朝鮮がマカオの銀行バンコ・デルタ・アジアの資金決済を停止され、苦境に陥ったのもこうしたドルの決済システムのインフラへのアクセスが締め上げられたからだった。 ロシアでは、こうした金融制裁措置に対してすぐさま独自の決済網を整備することや、日本のクレジットカードであるJCBに倣って米国のクレジットカード会社に頼らない仕組みを作らなければならないとして、対抗措置を準備するようだ。 この制裁措置は、実のところプーチン大統領がかねて重視してきた政策と軌を一にするところがあるのが、非常に興味深い。 プーチン大統領はかなり以前から、米国による国際金融支配の構造に対して公然と異議申し立てを行ってきた。例えば、大統領に就任後、最も力を入れたのは、IMF(国際通貨基金)など国際金融機関からの融資を期日前に返済することだった。 借金を背負っていることで国際機関や米国に国内のあれやこれやに口を出されることを嫌ったからと言われている。さらに石油を米ドルで独占的に決済する仕組みを良しとせず、ユーロやロシア・ルーブルでの決済が可能になるよう努力してきた。 2008年の米国初の金融危機発生後は、特にBRICs諸国間で、米ドルを介さない貿易決済体制の構築を主導してきた。米ドルの不安定性に辟易としている中国とともに、安定的で公平な国際通貨の制度を作り上げるべきだと主張してきたのである。 つまりプーチン大統領は米国覇権のシンボルであるドル基軸体制に明確に反対する人物の1人なのだ。 米ドルを愛好してきたロシア人 しかし実際には、プーチン大統領の意図に反して、ロシア人はソ連時代から米ドルを愛好してきた。場合によっては崇めてきたと言ってもいい。このため、ソ連崩壊後は国内に米ドルが自由に流通する事態となり、経済のドル化が進行した。 経済が安定しルーブルの為替レートが落ち着くとドル化の水準は低下するものの、1998年のロシア危機の発生など経済の不安定化が顕著になると、ドル化の傾向が現れる。 出所:Duffy, Nikitin, and Smith (2005) “Dollarization Traps” 注:CDIは包括ドル化指標、DIは代理変数としてのドル化指標。前者は外貨の現金流通を含める概念で、後者は単純に外貨建て預金をM2で除して算出する。 ドル化の指標は、厳密な定義によれば包括ドル化指標(CDI)といって外貨現金の流通高と外貨建て預金残高を足し合わせたものを外貨流通高と国内通貨のM2の合計で割ることで算出される。
Duffy, Nikitin, and Smith (2005)の計算によれば2001年のロシアは73.5と極めて高い数値となっている(右の表)。 米連邦準備制度理事会(FRB)の推計では、1990年代にロシアに蓄積された米ドルはロシア・ルーブルの流通量を上回っていたという。このためロシア政府は、とりわけプーチン大統領の指導下で脱ドル化政策をとってきた。 具体的には2006年にロシア産石油のルーブル決済を開始したのを皮切りに、政府系金融機関であるズベルバンクによる外貨建ての融資を停止し、国の外貨準備に占める米ドルの比率を低減させた。 翌2007年にはロシアで活動する外資系企業の米ドルを利用した納税を廃止し、政権与党である統一ロシアは、対米自立の一環で強力な反米・反ドルキャンペーンを行い、一時はドルの呼称そのものを禁止する措置さえとったのであった。 こうした一連の措置にもかかわらず、ロシアでのドル化は根絶されてはいない。 図1:CDIの代理指標(出所)ロシア中央銀行のデータに基づき筆者作成 拡大画像表示 右の図1はCDIの代理指標で、定義は把握が困難な外貨流通高を除外して外貨建て預金残高÷M2として算出されるドル化指標(DI)の推移である。
2006年から2008年にかけて落ち着いたかに見えたDIが2009年に跳ね上がっているのは、国際金融危機でロシア経済が著しく不安定化した結果である。 図2は企業向け与信と個人預金に占める外貨建ての割合の推移を見たものである。2000年代初めからおおむねその水準は低下傾向にあるとはいえ、2割程度の与信、預金が外貨建てであるという事実は、ロシアでの脱ドル化が依然容易でないことを示している。 図2:与信と預金の外貨建て割合(出所)ロシア中央銀行のデータに基づき筆者作成 拡大画像表示 ロシアでドル化が進行するのは様々な要因があるが、自国通貨ルーブルに比して米ドルが安定しているからである。
今般の経済制裁を契機にして、ルーブルは年初1ドル=32.85ルーブルに対して5月初時点で同35.64ルーブルとおよそ1割下落した。これは政府の企図する脱ドル化に逆行して作用する可能性がある。 以上見たとおり、ロシアに対する経済制裁は、筋金入りの反ドル主義者、プーチン大統領が政権を運営する限り、これがいかにロシアの実体経済を傷つけようともこれを奇貨として反ドル政策、反米覇権政策の文脈で都合よく解釈される可能性が高い。 かように、米国が躍起となって進めている経済制裁は、プーチン大統領を喜ばせることこそあれ、その対ウクライナ政策の見直しに結びつくことはないであろうと推測することができるのである。 経済制裁の実効性は元々低いとはいえ、西側、とりわけ米国はある種のジレンマに陥っていると言えるのかもしれない。 |