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5月に予定されている欧州議会選挙で、多くの人が期待するとおりに極右政党が善戦した場合、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領以上に喜ぶ人間はいないだろう。ウクライナのロシア系住民をファシストやナチスから庇護していると主張するプーチン大統領に、欧州政治の非主流派から支持が集まっていることが興味深い。同大統領を支持するのは不気味な制服姿が印象的なハンガリーの極右政党「ヨッビク」のメンバーから、それよりは洗練された着こなしのフランスの極右政党「国民戦線」まで様々だ。
かつて、ロシアの友人といえば左翼だった。今でもギリシャなどには親ロシア派の共産主義者がいる。だが最近、ロシアの同志としていちばん目につくのはポピュリストの右翼だ。ウクライナ危機は、ロシアに対する彼らの共感を引き出した。クリミアでロシア編入の是非を問う国民投票が行われた際には様々な急進派が“オブザーバー”として招かれ、その感はますます強まった。“オブザーバー”にはギリシャやドイツの左翼や数々の”変り種”に加え、国民戦線、ヨッビク、ベルギーのフラームス・ベランフ、オーストリア自由党、イタリアの北部同盟の党員もいた。西側諸国の大半が国際法違反だと非難する今回の国民投票を、彼らは「手本とすべきもの」と称した。
欧州の極右主義者たちはプーチン大統領に何を見ているのだろうか。形は違えど国粋主義者である彼らは、ロシアの影響を逃れるために戦うウクライナに肩入れしてもよかったはずだ。ハンガリーのシンクタンク「ポリティカル・キャピタル」のピーター・クレコ氏は、プーチン大統領が支持を集めているのはロシアが運営するメディアの好意的な報道だけが原因ではないと指摘する。
プーチン大統領が力強く国益を主張する姿や、キリスト教の伝統的な価値観を重視する姿勢、同性婚への反対、そして重要な経済部門を国の管理下に置くその手腕に多くの人々が惹かれているという。加えて、東欧に根づく「汎スラブ主義」(スラブ民族の連帯と統一を目指す思想)も一役買っている。そして一般に言われるのは、極右主義者の多くがプーチン大統領と同様に米国・EU(欧州連合)が主導する世界秩序を嫌っているということだ。プーチン大統領にとって、極右主義者たちからの支持は欧州で影響力を持つための第2のチャンネルとなる。
東欧から西欧へ広がるプーチン支持
東欧諸国は旧ソビエト連邦に占拠されていた苦い思い出を持つが、数年前から親ロシア化の傾向を見せている。ハンガリーの直近の選挙で20%を得票したヨッビクは2007年、エストニアのロシア系住民が起こした暴動を非難した。この暴動は第二次世界大戦を戦った旧ソ連兵の銅像を撤去したことに反発したものだ。だがその1年後、ロシアがグルジアに侵攻した際にはこれを支持している。
この時、ブルガリアとスロバキアの極右政党もロシアの支持に回った。それ以降、ロシアの影響力は西欧でも見られる。国民戦線のマリーヌ・ル・ペン党首はかねてよりモスクワで丁重な待遇を受けており、昨年はクリミアを訪問している。イタリアの北部同盟が昨年12月に開いた党大会では、親プーチン派の官僚たちが「キリスト教に基づく欧州の価値観」の共有を訴え、拍手を受けた。この党大会には新たな3人の同調者が参加していた。オランダ自由党のヘルト・ウィルダース党首 、オーストリア自由党のハインツ=クリスティアン・シュトラーヒェ党首 、そして国民戦線ル・ペン党首の欧州政策アドバイザー、ルートヴィヒ・ド・ダンネ氏だ。
ド・ダンネ氏にとってこうした政党は、ユーロ体制、もっと広く言えばEUが掲げる連邦主義への反感を共有する存在だ。彼らはグローバル化に反対し、保護主義を支持する。そしてポルトガルの首都リスボンからロシア極東のウラジオストクに至る地域で「祖国から成る欧州」を実現しようとしている。
ウクライナに関してド・ダンネ氏はキエフで起きた革命を「無効」とし、クリミアにおける国民投票は住民の親ロシア感情を受け止めた正しい策だと主張している。EUと米国に近づくことで、ウクライナの暫定政権はIMF(国際通貨基金)からの圧制に自国をさらし、国の天然資源を略奪の危険にさらしている。
プーチン大統領に歩み寄る動きは、オランダ自由党のウィルダース党首にとっては面倒な事態かもしれない。彼はEUの権限強化には反対だが、同性愛者の権利は強く支持しているからだ。ド・ダンネ氏によると、欧州懐疑主義を掲げる同盟は、国際的な事象ではなくEU内部の事柄についてだけ調整することで合意している。
プーチン大統領を賞賛する傾向は英国のイギリス独立党(UKIP)にまで広がっている。UKIPは、ル・ペン氏とウィルダース氏を「人種差別色が強すぎる」と見ているほか、北部同盟とは決別の方向に動いている。だがUKIPのナイジェル・ファラージ党首は、プーチン大統領のやり方を嫌いながらも、同大統領が首尾よく米国と欧州の裏をかいたと考えている。ファラージ氏はテレビ討論の中で、EUはウクライナにEU加盟をちらつかせてプーチン大統領を挑発した責任があると語った。ファラージ氏の批判は、EUの拡大政策――今や多くの人が「移民」と結びつけて考えるようになっている――を攻撃する一つのやり方かもしれない。だが、このEUというクラブが外部の人々にとっていまだに魅力を持つことを暗に認めたものでもある。
政府を揺さぶる欧州極右
プーチン大統領も、欧州の非主流派政党だけをあてにするほど愚かではない(こうした政党の一部が成功しているという事実はあるが)。だから反体制グループの育成に加え、各国の国内エリートたちを引き込む努力も行っている。ヨッビクは東欧との経済的関係強化を提唱しているが、ハンガリーのビクトル・オルバン首相は既にその方向で動いている。同首相は共産主義との闘いの達人で、ハンガリーの欧州復帰を果たした人物だ。同氏は最近、ロシアから100億ユーロ(約1兆4000億円)の融資を受けて原子力発電所を増設する方針を決め、工事をロシアに発注した。欧州による対ロシア制裁の緩和にも努めてきた。
イタリアでは北部同盟のマッテオ・サルヴィーニ氏がクリミアの国民投票を支持するだろうが、中道左派のマッテオ・レンツィ首相もまた、厳しい制裁には異議を唱えている。
EU懐疑主義の政党は今後間違いなく力をつけ声高になると思われる。ただし、欧州議会の主要な判断を覆すのに必要な人数と団結力が根本的に欠けている。したがって、もっと微妙なところで勝負してくるだろう。議席を持つ主流政党にこれまで以上の裏取引を強要し、EUによる統治の正統性にさらなる疑問をなげかける可能性もある。
彼らの活動の重点は、国内政治に影響を与え、各国の政府をEU懐疑主義へと向かわせることになりそうだ。そしてプーチン大統領への支持を叫ぶ。その結果、戦後の秩序に武力で挑むプーチン大統領に対して欧州が一枚岩で対応することはますます難しくなるだろう。5月の欧州議会選挙で危ぶまれるのは、反対票だけではない。
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Apr. 19th, 2014 All rights reserved.
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欧州の少なくない極右政党がプーチンを支持するのは、プーチンが自由主義経済を制限し、基幹部門経済の国家統制をともなう混合経済政策をとっていること、EUによる欧州の連邦主義化政策に反対の立場であること、同性愛など多様な性的志向の容認に反対しこれを強く抑圧していること、そしてなによりもチェチェン・ゲリラに対する無慈悲な闘いと、政治に影響力を行使しようとした新興財閥への弾圧で見せたプーチンの強権的な「国家主義者」としての見かけが、これら極右政党にとってシンパシーを感じさせずにはおかなかったのだと思われる。
しかし、これら極右政党が見ているのは理想化したプーチンである。プーチンの本当の狙いはかつての「大国ロシア」の復活であり、ロシア連邦をユーラシア連邦へと発展させること。それはネオ・ユーラシア主義とも呼ぶべきものであって、かつてのソ連邦に匹敵する地政学的領土拡張主義を意味している。ネオ・ユーラシア主義はEUが進める欧州の連邦化と正面から衝突する。ネオ・ユーラシア主義は自由主義市場経済に制限を書けようとする。市場経済は国家に奉仕すべきであるというのがネオ・ユーラシア主義の立場である。同時にユーラシアの様々な宗教を尊重しながら宗教の社会的優位性をユーラシア圏の形成に役立つものとして利用する。ネオ・ユーラシア主義は必然的に領土の拡張を目指すことになり、「ロシア帝国主義」はネオ・ユーラシア主義の当然の帰結である。
今、ウクライナで起きている事態は、EU・欧州連邦主義とプーチンの進めるネオ・ユーラシア主義の覇権争いであり、同時にロシア帝国主義の封じ込めを図ろうとする米帝国主義との覇権争いでもある。
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