04. 2014年4月24日 03:09:24
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http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20140422/263302/?ST=print 「ニュースを斬る」 理性的なプーチンとヒステリックなオバマ ロシアの視点で見るウクライナ危機(2)2014年4月24日(木) 森 永輔 米欧との関係が悪化したロシアは、対中関係の改善に努める。ロシア問題の専門家、畔蒜泰助氏はこう見る。対ロシア関係を深めてきた安倍政権、そして日本にとってこれは良いニュースなのか?それとも悪いニュースなのか? (聞き手は森 永輔) (前回はこちら) ロシアが今後打つ手から考えて、4月17日の4者協議をどう評価しますか。 畔蒜 泰助(あびる・たいすけ) 東京財団研究員 兼 政策プロデューサー 専門は米ロを中心としたユーラシア地政学、ロシア国内政治経済、日ロ関係、 原子力を含むロシアのエネルギー戦略。モスクワ国立国際関係大学国際関係学部修士課程修了。国際政治、ロシア国内政治を専門とするジャーナリストとしても活動。(撮影:菊池くらげ、以下すべて) 畔蒜:当初、欧米・ウクライナ暫定政権と、間には大きな溝がありました。前3者は、ウクライナ東部の施設占拠をロシアが主導していると訴えていた。ロシアはそれを否定すると共に、憲法改正して「連邦制」を導入する以外に現在の状況を安定化させる道はないと主張していました。しかし、共同声明(ジュネーブ合意)を読むと、両者はだいぶ歩み寄りました。
ジュネーブ合意を読むと、かなり前向き、建設的なものだと思います。予定を超えて7時間も話し合っただけのことはあった。ジュネーブ合意は欧米とロシアの主張をうまく取り入れています。例えば「非合法な武装勢力は武装解除する」「違法に占拠された施設は、正しい所有者に返還される」という条項は米国の主張を取り入れたもの。「憲法改正はウクライナすべての地域、政治勢力を含む国民対話を経て行う」はロシアの主張です。この部分は2.21合意にも沿っています。 4者協議は前向きで建設的 ただ、オバマ大統領は協議が終わるやいなや、「ロシアは数日以内で武装解除などの合意を実行するべきだ。そうでなければ追加制裁を準備する」という趣旨の発言をしています 。これはどう評価しますか。 畔蒜:「数日以内」というのは、いくらなんでも無理でしょう。ウクライナを安定させる作業は関係国が協力して進めるべきものです。ロシアが全面的な影響力を持っているわけではありません。オバマ大統領の発言にはヒステリックなものを感じますね。この点は懸念材料です。プーチン大統領は「米国はウクライナを安定させる気が本当にあるのだろうか」と不信感をさらに深めたと思います。 したがって、4者協議は成ったものの、それが実行できるかどうか予断を許さないと思います。 ロシアの中国頼りは日本にもメリット 4者協議に加わってはいませんが、中国の動向は無視できません。5月末にはプーチン大統領が訪中することになっています。 畔蒜:制裁によりロシア企業の資金状況が悪化する中、ロシアにとって中国の存在感はより大きくなっています。経済的に欧州に頼れない今、ロシアは東方シフトを進めるでしょう。いや、進めざるを得ない。 4者協議とほぼ併行してロシア国内で行われた国民対話で、ロ中関係に関する質問が出ました。これに対してプーチン大統領は「重視する」と回答し、欧米をけん制しました。今後、シベリア開発に中国が資金を提供したり、ロシア産のガスを中国に提供したりする動きが出てくるでしょう。ガスの売買に関しては価格面で折り合いがつかず、交渉が難航していました。しかし、ロシアが譲歩して中国に有利な価格で合意する可能性があります。 では、ロ中関係が強化されることは日本にどのような影響を及ぼすか。私は日本の価値が高まると考えています。ロシアは対中依存度を高めたくはない。そのためには、日本との関係をも良い方向に持っていき、バランスを取る可能性がある。
北方領土交渉も進展する可能性があります。もちろん、4島の返還というのは難しいですが。ロシアでナショナリズムが高まっているので領土交渉は難しいという見方がありますが、プーチン大統領のようなナショナリストでないと交渉を進めることはできないという見方もできます。ただし、この可能性の窓がいつまで、そして、どこまで開いているかを判断するのは非常に困難な作業です。また、米国との同盟関係とのバランスをどう取って行くかは、安倍外交にとって大きなチャレンジになるでしょう。 欧州の目、米国の目 欧州側の対応からは、事を大きくしたくないという印象を受けます。制裁を科したといっても、ロシアとウクライナの一部の要人の渡航を禁じたり、資産を凍結したりするにとどめている。ガスの禁輸を含む、経済制裁に進む気配はありません。 しかし、これはロシアが求めていることが2.21合意への回帰だと見切っているからかもしれませんね。ウクライナ東部のロシアへの編入や軍事侵攻はまずないと。 畔蒜:欧州の本音、特に経済界のそれは、ロシアとの関係をこれ以上悪化させたくないというものでしょう。ドイツのメルケル首相が「もしウクライナ東部でさらなるエスカレーションがあった場合は経済制裁も辞さない」と発言しています。これは、さらなるエスカレーションがなければ追加制裁はしないというメッセージとも受け取れます。ここらで妥協の余地があるのかもしれません。 妥協が成立するよう、ロシアは明確なメッセージを出す必要があります。ただし、ロシアにそう促せば、「もう出している」と答えるでしょう。 ロシアがメッセージを送っているつもりでも、米国のオバマ政権がそれを受け入れず、違う形の反応を示しています。米国には、ロシアを冷戦期のソ連と同一視する勢力が一部に残っています。さらに、中間選挙が近いので、オバマ政権は弱腰と見られるような態度をこれ以上見せるわけにはいかない状況です。シリアへの軍事介入を中止したことで既に評価を落としていますから。 安全保障を巡る国と国とのコミュニケーションは本当に難しいですね。お互いが被害妄想のような状態にあり、常に相手の意図を疑う。そして疑うことそのものが、その後のミスコミュニケーションを拡大させることにつながるケースがある。 プーチン大統領の悲願はユーラシア同盟 畔蒜:長期的な流れに目を向けると、もう1つ別の流れが見えてきます。それはロシア主導の自由貿易圏であるユーラシア同盟を成就して、強いロシアを作りたいというプーチン大統領の願いです。ユーラシア同盟は、カザフスタンとベラルーシが既に加盟している関税同盟をベースにしています。ロシアとしては次にウクライナに加盟してほしい。 安全保障面で見ると、ロシアがウクライナに求めているのは、NATOに加盟しないという保証です。 それにもかかわらず、ロシアから見れば、欧州はウクライナに対して不用意に手を伸ばした。ヤヌコビッチ政権と交渉して、ウクライナをEUの側に引っ張ろうとしたわけです。EUとの連合協定の内容は政治経済の両面をカバーしており、その中には軍事的側面も含まれています。プーチン大統領がこの動きを、単なるEUとの経済協力の側面からだけではなく、軍事的側面からも警戒した可能性は十分にあります。
ちなみに、2003年には、ロシアと欧州を繋ぐガスパイプラインをロシア、ウクライナ、ドイツの3カ国で共同管理するという合意が成りました。ウクライナ情勢の安定化がロシアと欧州の双方にとって利益があり、そのようなウクライナを巡るWin-Winの関係をロシアと欧州が作り上げることは不可能ではないことをこの合意は示唆しています。とすれば、ウクライナが軍事的中立という点さえクリアされれば、EUとの連合協定とロシアとのユーラシア同盟の並存という可能性があり得るかもしれません。 ところが、ウクライナで2004年にオレンジ革命が起きて親米派が政権を取ったことで、この合意は反故になりました。 オレンジ革命は、ウクライナの大統領選挙で激戦の末、親米派のユーシェンコ氏が当選した出来事ですね。 畔蒜:おっしゃる通りです。ロシアから見れば、ウクライナが極端な親米路線に転じたことで、ガスパイプラインのドイツとの共同管理をベースにした、ウクライナ情勢の安定化策が阻止された。 2.21合意が、独・仏・ポーランドとロシアの仲介の下で締結されたことを考えると、2.11合意が反故になるまでは、欧州とロシアによる危機管理という側面が強かったと思います。 一連のお話をうかがうと、西側の報道を元に我々が抱いているプーチン大統領やロシアの像がずいぶん変わります。「帝国主義者であるプーチン大統領が、旧ソ連諸国などに対する影響力を、武力を使ってでも確保する」と主張するコラムなどが目に入りますが、かなり様相が異なる。プーチン大統領の一連の行動はかなり抑制的だし理性的に見えます。 畔蒜:その通りだと思います。もし、欧州とロシアが仲介して締結された2.21合意があのまま遵守され、ウクライナ情勢の安定化に向けた政治プロセスが動き始めていたら、クリミア自治共和国へのロシア軍の特殊部隊の派遣とその後のロシア連邦への編入という事態にまで発展することはなかったでしょう。 現在のウクライナ東部の不安定化についても、ロシアが主導的にこれを仕掛けているということはない。むしろ、この状況を利用して、2.21合意の地点まで状況を押し返すことを意図しており、帝国主義的な拡大を目指すものではないでしょう。 ロシア系住民を抱える周辺諸国の懸念 プーチン大統領の動きが非常に理性的、かつ穏健であることは分かりました。しかし、ロシアのラブロフ外相は「ウクライナ東部に住むロシア系市民を守るためにあらゆることをする」と発言しています 。これは、ウクライナへの軍事介入も辞さないという意味に取れます。主権や国境を重視する現在の国際ルールを逸脱する発言ではないでしょうか。 畔蒜:そうですね。しかし、ラブロフ外相の発言は「重大な関心を持っている」という程度のものだと思います。しかも、この場合の「守る」は「人道上、許されないような行為」がロシア系住民に及んだ場合に限定されるでしょう。
コソボで起きた民族浄化運動のことを思い出してください。あの時、西側はユーゴスラビア軍の施設を空爆しました。ラブロフ外相が想定しているのは、同様の事態だと思います。事実、ウクライナの暫定政権側には、反ユダヤ主義などの過激な排外思想を持った人達が含まれています。だから、今回のジュネーブ合意にも反ユダヤ主義(anti-semitism)への言及があります。とはいえ、よほどのことがない限り、ロシアによるウクライナ東部への軍事介入はないと思います。 なるほど。それにしても、ロシアの周辺国には、どこにもロシア系住民が遍在しています。これは、どうしてなのでしょう。ロシアは戦略的に入植政策を進めていた。 畔蒜:それは考えすぎです。ソ連時代はみな1つの国で、自由に行き来することができました。そうした中で自然に人が移動した結果です。 とはいえ、ポーランドやバルト3国、中央アジアなどロシア系住民を抱える国々は「次は自分の国では」という懸念を抱いています。 畔蒜:それは、クリミア編入という決断を下したロシアが払わなければならない代償ですね。そうした国々にそのような意図はないことを理解してもらう必要があります。 懸念を抱く国々の動向は、ロシアが今後取るべき行動を考える際に、重しの役割を果たすかもしれないですね。ユーラシア同盟構想を推進するのに大きな障害となる可能性があるならば、ロシアはウクライナ東部で無茶なことをするわけにはいかない。 畔蒜:おっしゃる通りだと思いますし、プーチン大統領にはそのような意図はないと思います。 このコラムについて ニュースを斬る 日々、生み出される膨大なニュース。その本質と意味するところは何か。そこから何を学び取るべきなのか――。本コラムでは、日経ビジネス編集部が選んだ注目のニュースを、その道のプロフェッショナルである執筆陣が独自の視点で鋭く解説。ニュースの裏側に潜む意外な事実、一歩踏み込んだ読み筋を引き出します。 http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/40525 JBpress>海外>ロシア [ロシア] 家庭内のいがみ合いと文明の衝突 西側の人には分からないウクライナ情勢の本質 2014年04月24日(Thu) 市野 ユーリア なにをかしましく騒ぎたてるのか きみら 諸国の雄弁家たちよ? なにゆえ きみら 呪いのことばでロシヤをおびやかすのか? なにが きみらを憤激をさせたのか? リトワニヤの動乱か? やめにしてくれ。これは スラヴ民族同士のあらそい 内輪の 昔からの 運命にさだめられたあらそい きみらが解決できる問題ではない。 プーシキン、「ロシヤを中傷するものたちへ」 河出書房出版『プーシキン全集1』より、草鹿外吉訳 (1)ロシア: ウクライナの不可分の一部 最初に私の出自についてお話ししたい。今から200年ほど前、私のロシアの姓である「ストノーギナ」は、実は「ストノーガ」という古くからあるウクライナの姓だった。ストノーガというのはコサックの名前だ。つまり、地元の軍人と、ロシアの当局からもウクライナの当局からも独立した、ウクライナで最も自由な人々の名前だった。 その後、私の先祖はロシアに移り住み、姓が少し変わった。ここで言いたいのは、私のように血が混じった人間はロシアとウクライナに大勢いるということだ。何世紀にもわたり、私たちは家族として暮らしてきた。常に友好的で相互理解があったわけではないが、それでも家族として生きてきたのだ。 スラブ系民族だとはいえ、言ってみれば混血で、学校ではロシア、ウクライナ双方の作家や詩人の作品を読み、ロシア、ウクライナ双方の歌を歌い、ウクライナ人の友人を大勢持つ私のような人間にとっては、今の状況は非常に痛ましく感じる。 また、欧米の政治家とマクロエコノミストの話がどれほど浅はかかということに驚きを禁じ得ない。彼らは頑なに、政治的な国境や経済制裁、民主主義と圧政など、二義的な問題ばかりについて語るが、一義的な問題は、ロシアとウクライナの血で結ばれた「家族関係」であり、今や10世紀以上にわたって私たちが共有してきた文化的価値観だ。 長い歴史的見地、文化的伝統の観点から現状を見るために、ロシアの天才詩人プーシキンの言葉を冒頭で引用した。地政学や社会制度は大きく変わったとしても、文化的な角度から見ると、大した変化はないのだ。 ウクライナ人が歴史のどの段階で劣等感を抱き、「ウクライナはロシアの一部と見なされるべきではない」などと言うようになったのか、私には分からない。現代のロシアがキエフから、つまり「キエフスカヤ・ルーシ」から始まった昔を思うと、両国の規模に関係なく、ウクライナ人は「ロシアはウクライナの不可分の一部と見なすべきだ」と主張する権利があるはずだ。 この数カ月というもの、ロシアでは「エリートの沈黙」と呼べそうなことが起きている。もちろん、一部のアーティストは「平和に暮らそう」とか「我々は兄弟を殺す戦争を始めるべきではない」といったメッセージを発する演説やコンサートを行ってきた(私もその1つに参加した)。 だが、ロシアの知識階級からは、ウクライナに対するウラジーミル・プーチン大統領の姿勢やロシア政府の行動への本格的な批判はそれほど出ていない。なぜか? ロシアの知識階級は、近代のリベラルな倫理観と伝統的な民族的価値観の間で引き裂かれているのだ。たとえロシア政府が取った一部の行動について政治的に意見が合わなくても、私たちは皆、キエフスカヤ・ルーシに由来する家族としての感情の低下に傷ついてきた。血のつながり、そしてウクライナとの長い関係における歴史と宗教の重要性から、ロシア人は最終的にウクライナのことを、ロシアおよびロシア文化の一部と見なすようになった。 ところが、現代のリベラルな世界の文脈においては、そのような考え方は犯罪と見なされる。民主的な価値観にどれほど良識があるにせよ、欧米は本当に、強力な血縁関係、文化的関係を否定できるのだろうか。 今の状況を分かりやすく説明するなら、2人の近親者がその関係における重大な局面を迎えたという状況、つまり、プーシキンが「家庭内のいがみ合い」と表現した状況である。このような関係に対するヨーロッパ人の干渉は、ただの礼儀知らずのように思える。しかし、欧州諸国の陰謀と舞台裏の工作は挑発的に見えるし、明らかに、真の狙いを隠している。 薄っぺらな記事の大半(最近では日本のメディアにも出てきた論調で、多くの場合は米国の観点を反映している)は、問題を分かりにくくするだけだ。というのは、こうした記事は2人の姉妹を、単なる経済的、政治的パートナーと見なしているからだ。 だが、ここで思い出してほしいのは、米国というのは、未成年の子供が実の親を提訴することを社会生活の基準にした国だということだ。米国にとって合理的に思えることは、ロシアや日本など、長い歴史と豊かな伝統文化を持つ国にとっては単なるカルチャーショックだったりするのだ。 私が日本の媒体で比較的最近読んだ記事の中で最も誠実だと思ったのは、「クリミアってどんなとこ?」と題した3月29日付の日経新聞の記事だった。 日本人の大半は単に、クリミアという土地柄や今起きている戦いの理由を知らず、深く知ろうとする時間もないのだ。彼らにとってはそれで幸いだろう! 一般市民にとってはグローバル化した世界は頭痛の種と化していて、「グローバル社会」の甘いおとぎ話は次第に多くの壁にぶつかり、新たな時代の大戦に発展する可能性があるのだから。 (2)第3次世界大戦: 文化間の戦争 米国人科学者のサミュエル・P・ハンチントン氏は、いわゆる「文明の衝突」について語ったことで有名だ。彼は著作や論文で、冷戦後の紛争が最も頻繁かつ暴力的に起きるのは、イデオロギーではなく文化的な違いのためだと論じた。ロシアとウクライナを巡ってこの先何が起きるかは、文化的な分界の新たな局面の明白な例になるだろう。こうした分界は実際、20世紀にも起きた。 第2次世界大戦後、米国は自国の影響力を世界的に拡大することにしたが、その結果、アジアや中南米で政策が失敗するのを何度も露呈した。しかも、政策が失敗したのは、ひとえに文化的な理由からだった。 あれは1950年代のことで、当時、米国は自国の代表者たちに、世界各地の文化的伝統と各国が抱く期待を認識する方法について教えるための特別な機関を創設した。その取り組みが生み出した新しい科学が文化人類学であり、その有名な例が、ルース・ベネディクトによる日本の研究だった。 米国にとっては、これは本当に必要不可欠な作業だった。独自の文化的起源を持たず、没落した人たちによって築かれ、新たに生み出された社会的、経済的価値観をもって「文化」とした国は、とてもではないが、伝統と慣習の貴重さを理解できないだろう。 ロシア(そしてソビエト連邦)は、別の問題を抱えていた。歴史的に長く、豊かな文化を持つ国は、あらゆる種類の資源を姉妹国と気前よく分かち合ってきたが、小さな国々がたとえ相手が庇護者であれ、他国からの文化的支配を完全には歓迎しないかもしれないという事実をひどく甘く見ていた。 多くのウクライナ人は今、数世紀にわたるロシアの文化的支配に苛立つあまり、それを完全に拒否し、差し当たりは西側の文化を受け入れることにしたのかもしれない。だが、これはウクライナ東部には当てはまらない。東部では、家族関係に加えて、正教会というロシアとの強力な宗教的関係がある。宗教は文化の中で最も強い側面であり、東部に住むウクライナ人は今、西側からカトリック教が襲ってくることについて不安そうに語っている。 欧州連合(EU)もまた、「文明の衝突」の好例だ。西側世界は多文化制度を築くことで、文化的な相違と類似を減らし、それを自由市場と自由な政治制度の「普遍的」原則に置き換えようとしてきた。だが、ハンチントン氏は次のように指摘している。 「偽善、ダブルスタンダード、そして『例外』は普遍主義を装うことの代償だ。民主主義は奨励されるが、民主主義がイスラム原理主義者を権力の座に就かせる場合は例外だ。核不拡散はイランとイラクには説き勧められるが、イスラエルには説教されない。自由貿易は経済成長の特効薬だが、農業は例外。人権は中国にとって問題だが、サウジアラビアにとっては違う。石油を持つクウェート人に対する侵略行為は大々的に撃退されるが、石油を持たないボスニア人に対する侵略は違う。ダブルスタンダードは実際、原理原則の普遍的基準の避けられない代償なのだ」 このような政策は欧州で最近、そうした政策を受け入れない、不満を抱く集団や個人から大きな批判を浴びている。銃で多文化主義に反対する意思を表明したアンネシュ・ブレイビクの大量殺人事件もあった。世界各地に反グローバル主義者がいる。規模が小さい例はたくさんある。 (3)2人の大統領の違い 文化的、文明的角度から世界情勢について語り始めたロシアのウラジーミル・プーチン大統領〔AFPBB News〕 プーチン大統領が文化的、文明的角度から世界情勢について語り始めた最初の――そして今のところ唯一の――政治家・国家指導者だということは、本当に驚きだ。これはプーチン大統領がハンチントン氏の本を読んだことを意味するのか? オバマ氏が読んでいないことを意味するのか? プーチン氏の演説が実に予想外で多くの人にとって斬新な考えに満ちていたのに対し、3月26日にオバマ氏がブリュッセルで行った演説は、完全に冷戦時代に属するレトリックを使ったもので、国際問題に対する最新の見識を全く見せなかった。 米国は文化人類学に関する学校を刷新し、オバマ氏に新しいボキャブラリーを与えるべきだ。だが、それ以上に良い米国への助言は、米国の価値観は必ずしもどの国にとっても普遍的な価値観ではないという事実を思い出し、自国の価値観は自国の文化的、地理的領域にとどめておくべきだ、というものだ。 プーシキンの詩には次のような言葉もある。 スラヴ人のいくつもの流れが ロシヤの海に合流するだろうか? 海は涸れてしまうだろうか? これこそ問題である。 いずれにせよ、この問題はロシアの問題であり、ロシアと隣接する文化圏の問題だ。世界の文化には力強い「ロシアの世界」がある。これは世界屈指の豊かさと奥行きを持つ世界であり、魅力と反発の極でもある。現状を見る限り、ロシアは文明の衝突の中で自国の役割と目的を見直しているようだ。
ロシアが編入決定 クリミアってどんなとこ? http://www.nikkei.com/article/DGXDZO69030850Y4A320C1TY1P01/ 2014/3/29付 日本経済新聞 朝刊 イチ子お姉さん ロシアが隣国(りんごく)、ウクライナの南部にあるクリミア半島の編入を決めたわね。すでにロシア軍が軍事的に制圧しているわ。 からすけ 日本やアメリカ、ヨーロッパなど世界は編入を認めていないって聞いたけど。ところでクリミアって、どんなところなの? ■何度も勢力争いの舞台に イチ子 冬季五輪とパラリンピックが開かれたロシアのソチという街は覚えているかしら。黒海に面したリゾート地だったわね。クリミアはソチから北西方向にあるウクライナという国の黒海に突き出た半島地域よ。 からすけ 冬季五輪というと、寒いところかな? イチ子 それが亜熱帯性(あねったいせい)の温暖な気候で、海岸にはヤシの木も育っているような保養地なの。ヤルタという街があって「黒海の真珠(しんじゅ)」とも呼ばれる美しい所らしいわ。面積は日本で3番目に広い福島県の1.9倍ほど。およそ200万人が住んでいるの。 からすけ ウクライナとクリミアはどういう関係だったの? イチ子 ソ連が崩壊してから、ウクライナは1つの独立国として世界から認められているわ。国際連合という世界の国々が集まって平和問題などを話し合う集まりにも参加しているの。クリミアは自治共和国といってウクライナの一部ではあるけど、お金の使い方などで普通(ふつう)の州などよりも自分たちのやり方を通せるの。クリミア半島のうちウクライナ政府が直接統治していた特別市セバストポリを除くのがクリミア自治共和国よ。 からすけ どうして自治共和国になったの? イチ子 複雑な事情があるの。クリミアではウクライナ語ではなくてロシア語を使う住民が6〜7割と多数派で、イスラム系の住民も住んでいるの。ウクライナ全体ではロシア系の住民は少数派だから、その意見は通りにくいでしょう。だから自治権を強く求めてきたのよ。 からすけ いろんな住民がいるのはなぜ? イチ子 歴史的にクリミア半島は大国の勢力争いの舞台(ぶたい)になってきたの。昔はオスマン・トルコ帝国(ていこく)の領土でイスラム系タタール人が住んでいたのだけど、1783年にトルコとの戦いに勝ったロシア帝国が自分の領土に編入して、黒海艦隊(こっかいかんたい)と呼ぶ海軍を置いたの。19世紀半ばには南下しようとしたロシアと、イギリス、フランス、トルコなどとの間でクリミア戦争が起き、第2次世界大戦中にはナチスドイツも侵略(しんりゃく)してきたの。ソ連のスターリン書記長はタタール人がナチスドイツに協力することを恐(おそ)れて中央アジアに追放したから、ロシア系住民が多数になったのよ。 からすけ じゃあ、クリミアはずっとロシアの領土だったの? イチ子 ソ連時代は、初めはソ連の中にあるロシア共和国の領土だったの。ところがソ連のフルシチョフ第1書記が54年にクリミア半島をウクライナ共和国に編入したの。その後、91年にソ連が崩壊(ほうかい)し、ウクライナが国家として独立してクリミアがウクライナの中に残ったのよ。 ■ロシア系、根強い不満 からすけ その後、クリミアは独立しようとしなかったの? イチ子 ロシア系住民による独立運動が激しくなったこともあったのよ。でも今回は住民投票という意思決定の仕組みを使って、ロシアの領土に入ろうと決めたの。3月16日に投票をして、18日にはロシア編入をプーチン大統領が表明するなど、電撃的(でんげきてき)に事態が進んだわ。 からすけ 住民が決めたのに問題なの? イチ子 そう簡単じゃないのよ。住民投票には「ウクライナの中にとどまる」という選択肢(せんたくし)が無かったし、そもそもロシア軍がクリミアに入り込んできた中での投票なので、少数派のウクライナ系住民にとっての公平性は保てていないのでは、というのが欧米(おうべい)の考えよ。 からすけ ロシアからすれば小さなクリミアにどうしてこだわるの? イチ子 ウクライナに新しい政権ができると「クリミア半島にある黒海艦隊の基地が使えなくなるかもしれない」という見方があるの。その危機感がロシアを突(つ)き動かしたという専門家もいるわ。 からすけ 米ソ冷戦時代というのを習ったけど、またそうなるの? イチ子 冷戦時代に戻るのは避(さ)けたいとみんな考えているわ。まずは経済面でロシアに痛手を与えて、考えを変えるよう促(うなが)しているところよ。 ■領土争い 犠牲になる小国 豊島岡女子学園中学高等学校の神谷正昌先生の話 クリミア半島のロシア編入で思い出されるのは、第2次世界大戦前にチェコスロバキア(当時)のズデーデン地方がドイツに割譲(かつじょう)されたことです。 ナチスドイツのヒトラーは、第1次大戦で失った領土を回復するため、東方への生活圏(せいかつけん)の拡大を推(お)し進めました。そして国境(こっきょう)付近(ふきん)に位置し、ドイツ人居住者が多数を占(し)めているという理由でズデーデン地方をドイツ領とすることを要求しました。 1938年9月に、イギリス、フランス、ドイツ、イタリアの4カ国の首脳がドイツのミュンヘンで会談し、「領土的要求はこれが最後」というヒトラーの発言により、ドイツの要求が受け入れられました。イギリス、フランスが戦争を避ける融和政策をとったのです。 しかし、会談に呼ばれなかったソ連は、イギリス、フランスがチェコスロバキアを売り渡(わた)したとして両国に対する不信感を強め、大国の足並みが乱れます。結局、翌年には約束は破られ、第2次世界大戦に突入(とつにゅう)していきました。大国の都合で小国が犠牲(ぎせい)になったわけです。 ニュースなテストの答え 問1=自治共和国、問2=黒海艦隊 http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/40523 JBpress>海外>ロシア [ロシア] ウクライナで軍事技術流出の危機 中国が早くも触手伸ばす 2014年04月24日(Thu) 小泉 悠 2014年2月のヴィクトル・ヤヌコーヴィチ政権崩壊と、それに続くロシアのクリミア併合で始まったウクライナ危機は、依然として収束 の兆しを見せていない。騒擾の続くウクライナ東部の情勢が今後どこへ向かうのか、ロシアによる天然ガスの供給停止や軍事介入は あるのか、等に今や世界中が注目しているところだ。 だが、こうした派手な事態ばかりが注目される一方で、今回のウクライナ危機ではもう1つの重要な問題もひっそりと持ち上がってき ている。 産業の結びつきが強いウクライナとロシア ウクライナでのロシア軍部隊の存在示す「証拠写真」、米が公開 ウクライナ東部スラビャンスクで、親ロシアの分離派勢力に占拠された行政庁舎前を見張る武装した男性〔AFPBB News〕 ロシアとウクライナの産業間の結びつきを巡る問題だ。ことに本稿では、軍需産業の面からこの問題について考えてみたい。 ウクライナは帝政ロシア時代から重工業や炭坑で栄え、ソ連時代にはスターリン体制下でさらに重工業化が推し進められた。 こうしたソ連時代のサプライチェーンはソ連崩壊後も簡単になくなってしまったわけではなく、依然としてロシアとウクライナの産業は密 接に結びついている。 そもそもウクライナの全輸出額(約820億ドル: 2012年)中、ロシアへの輸出額は230億ドルを占めており、ロシアは最大の大口 輸出先である。 特にウクライナの主要輸出産品である機械製品の約4割、鉄鋼・鉱物製品の約2割をロシアは輸入しており、依然として産業の 多くがウクライナの原料、製品、コンポーネントに依存していることが分かる。 機械製品について言えば、特に目立つのが鉄道関連だ。 例えばウクライナのルガンスク州にある鉄道車両メーカー「ルガンスクテプロヴォーズ」はロシアの鉄道車両メーカー「トランスマッシュ・ ホールディング」の傘下企業となっており、一般の電車や、貨物列車用の機関車等を生産している。これらの鉄道車両はウクライナ の機械輸出額のおよそ半分を占めており、その大部分がロシア向けだ。 そのほかの機械製品や鉄鋼製品も大部分はロシア向けに輸出されている。そして、こうした事情は軍需産業も例外ではない。 ソ連時代、ウクライナには陸海空宇宙にわたる多くの軍需産業拠点が設けられ、一説によれば、ソ連の軍需産業の30〜40%は ウクライナ領内に所在していたという。 一例を挙げるならば、ソ連で唯一、航空母艦を建造する能力を持っていたニコラーエフ造船所(現・黒海造船所)や、世界最大 の航空機「An-225」を開発したことで有名なアントノフ設計局、弾道ミサイル開発を行っていたユージュノエ設計局、ソ連の主力戦 車工場の1つであったマールィシェフ記念工場・・・などである。 ロシアの航空宇宙産業を担ってきたウクライナ 露、新型弾道ミサイルの発射実験に成功 米には事前通知 ロシアの大陸間弾道ミサイル「トーポリM」(2010年撮影)〔AFPBB News〕 そしてソ連崩壊後も、こうした企業群のいくつかは依然としてロシアとの取引を続けてきた。 ロシアとの結びつきは航空宇宙産業において特に強く、例えばロシア戦略ロケット軍の配備している「R-36M2」(NATO=北大西 洋条約機構名SS-18)重ICBMは前述のユージュノエ設計局の支援なしではメンテナンスを行えない。 R-36M2はロシア戦略ロケット軍の配備している300基以上のICBMのうち56基を占めるに過ぎないが、各ミサイルは10発もの戦 略核弾頭を搭載可能であるため、搭載核弾頭は全部で560発にもなる。 新START(戦略兵器削減)条約の交換データ結果によれば2014年3月時点でロシアが配備している戦略核弾頭(戦術核弾 頭や貯蔵されているものは除く)は1512発であるから、実に3分の1以上の戦略核弾頭がわずか56基のウクライナ製ミサイルに搭載 されている計算になる。 報道によると、ウクライナからの支援が得られなくなったことですでにロシアではR-36M2の維持に問題が出始めていると伝えられ、ロ シアの核抑止態勢を脅かす問題にまで発展しつつある。 また、ロシアが保有する打ち上げロケットの中で唯一、静止軌道に人工衛星を投入可能な大型ロケット「プロトン-M」はウクライナ 製コンポーネントに依存しており、ロシアの海上打ち上げサービス「シーローンチ」が使用する「ゼニット-3SL」ロケットもユージュノエ系 列のユージュマッシュ工場が製造している。 さらに世界中で使用されているロシア製ヘリコプター「Mi-8/17」シリーズや新型攻撃ヘリコプター「Mi-28N」が搭載するエンジン はウクライナのモトール・シーチ社がほぼすべて製造しているし、次期大型輸送機の1つである「An-70」もウクライナとの共同開発だ 。 このような例は挙げていけば枚挙に暇がなく、ロシアの国防や産業にとって大きな障害となる可能性がある。 こうした可能性については日本でも部分的に報じられているものの、これだけでは事態の一面しか見ていないことになると筆者は考 える。 そもそもロシアは今回のウクライナ危機以前からウクライナへの依存を危険視し、各種の対策を講じてきた。 軍事の脱ウクライナ政策を進めてきたロシア ウクライナは2000年代初頭頃からNATO加盟を公然と掲げ始めており、上記のような国防・安全保障上の重要分野をウクライナ に握られていることは深刻な脅威と見なされるようになったためである。 このため、ロシアはウクライナに依存しない新型重ICBM「サルマート」を2016年頃から配備する予定であるほか、今年中には完全 国産の大型ロケット「アンガラ」の初打ち上げが実施される予定だ。 さらにロシアは近年、アントノフと並ぶ大型輸送機メーカーのイリューシン系列(本社はロシアだが工場はウズベキスタンにあった)の 生産拠点をロシア領ウリャノフスクへと移転して独立した輸送機生産体制を再構築しており、ヘリコプター用エンジンも完全国産が 可能な体制を整えていた。 したがって、当面はウクライナとの関係断絶による困難は予想されるにせよ、数年中にはその影響を最小化することは可能であると 思われる。 むしろ懸念されるのは、残されたウクライナ軍需産業の方だ。 巨大な軍備を持つロシアとは異なり、ウクライナの場合は軍事力の規模が小さく、しかもソ連崩壊後は経済的負担を軽減するた めに軍の縮小を一貫して進めてきた。 つまり、内需(ウクライナ軍をはじめとする軍事組織)向けの生産だけではソ連から受け継いだ巨大な軍需産業を維持していくため の仕事が確保できないのである。 実際、ウクライナ軍需産業の連合体である「ウクルオボロンプロム」によれば、ここ数年、軍需産業の生産した武器や装備品の97 %は輸出向けであり、輸出先のかなりの割合をロシアが占めていた。 ロシアがウクライナに依存していたのと同様、ウクライナもまた、ロシアに大きく依存していたわけだが、両国の断交が今後も続けば、 ウクライナ軍需産業がたちまち苦境に陥るであろうことは容易に想像がつく。 もちろん、前述したヘリコプター用エンジンや戦車メーカーなどはロシア以外の顧客とも取引を行っているし、今後も販路を拡大して いくことは可能である(実際、ウクライナは東南アジアや中東などに幅広く装甲車両などを販売している)。 しかしユージュノエ/ユージュマッシュのようなロケット/ミサイル関係のメーカーはそうはいかない。 いかに重要なコンポーネントや技術を持っていても、最終産品を握っているのはロシア側であり、ロシアとの関係が切れれば即、仕 事を失うことになるためだ。 懸念される技術流出 核戦争による飢饉で文明は終わる、研究 インドの長距離弾道ミサイル「アグニ5」(2013年)〔AFPBB News〕 そこで懸念されるのが、技術流出である。 最近の報道によるとユージュマッシュ設計局は早くもトルコや中国と接触しているとされ、機微なロケット/ミサイル技術が流出する ことになりかねない。 特に先端軍事技術を求める中国は以前からロシアをバイパスしてソ連の軍事技術を入手するためにウクライナとの関係を深めてお り、同国初の空母「遼寧」は船体から各種技術(艦載機や着艦システムなど)に至るまで、いずれもウクライナから入手している。 弾道ミサイル開発を続けるパキスタン、イラン、北朝鮮などへ技術が流出する懸念も無視できない。 つまりウクライナの軍需産業の破綻は日本の安全保障問題にも結びついてくる可能性があるわけで、ウクライナ危機でロシアのみ が苦境に陥っていると考えるわけにはいかない。 そこでウクライナ発の経済危機を阻止するためにも、日本周辺における安全保障環境を安定化させるためにも、軍需産業を含む ウクライナの産業に対する支援を真剣に検討してみてはどうだろうか。 もちろん、日本がウクライナの武器を買い支えるといったオプションは現実的ではないし、ウクライナの軍需産業全体を支える必要も ないだろう。 しかし、機微な技術を扱う一部の企業や技術者に対しては、ソ連崩壊後のロシアに対して西側諸国が行ったように、新たな職を 用意したり、フェローシップを支給したりといった形で技術流出を防ぐことは可能なのではないだろうか。 ウクライナとの宇宙協力を拡大することも1つの方策として考えられよう。 いずれにせよ、ウクライナの軍需産業が持つポテンシャルを軽視せず、ソ連時代の技術遺産が「身売り」されるような事態を防ぐこと を日本の安全保障という観点から是非検討すべきであると考える。 |