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日高義樹著『アメリカの大変化を知らない日本人』より
2016年、米軍撤退でアジアの大混乱が始まる――日高義樹のワシントン情報
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20140313-00010000-php_s-pol
PHP Biz Online 衆知 3月13日(木)12時0分配信
■アメリカ軍はアジアからすべて引きあげる
アメリカは2014年以降、本格的にアジアから引きあげる。すでに述べたように、沖縄からグアム島に海兵隊が移動し、日本にアメリカの基地はあっても、アメリカ軍がまったくいない状況になる。
アメリカ第七艦隊が横須賀や沖縄に基地を持っているが、海軍というのは、孤立主義の象徴と言ってもよく、基本的にはアメリカ本土から出撃する体制をとる。海軍力の日本における存在は軍事的には無視される。
2016年、アメリカ陸軍部隊は完全に韓国から撤兵する。アメリカ軍はアジアからすべて引きあげることになるのである。アジアを取り巻く西太平洋、日本海から南シナ海、インド洋からペルシャ湾に至る広大な海域は、アメリカの戦力地域からはずされることになる。その結果、アジアにおいて、これまで予想しなかったような大動乱が起きると予測される。
この大動乱についてはのちほど詳しく述べるが、日本にとって最も懸念されるのは、いくつかの戦争と、インドネシアのイスラム勢力による反米の動きが、中近東から日本への石油の流れを阻害する結果、日本に石油危機が到来することである。
そうした戦争をもたらす要因として、中国、ロシア、インドなどにおける地殻変動的な政治的変革を挙げることができる。まずこの変動について述べてみよう。
アメリカ国防総省の推定によると、中国国内の政治情勢は2013年現在、きわめて不安定になっている。アメリカ国防総省の中国専門家は次のように指摘している。
「習近平政権は軍部の圧力のもとにあり、中国の地方は完全に無政府状態になっている。軍部の力がなければ中国の統一は不可能な状態になっている」
この国防総省の分析に、アメリカのCIAなども同意している。習近平政権の誕生は、実質的には軍部による政権収奪であったと見ている。
アジアの3番目の勢力であるロシアは、プーチン大統領が全体的な情勢を把握してはいるものの、極東および中央アジアにおける政治力が極端に低下しているだけでなく、国防力も弱まっている。
アジアにおける4番目の大国インドは、経済がうまくいっていない。このため、経済的に影響力を失いつつある。インドは2002年から2011年まで、年間の国内総生産を7.7パーセントまで拡大し、中国に追いつきつつあった。ところが2012年に入ると急速に経済の開発が縮小し、通貨ルピーが安くなる一方では、インフレがひどくなり、財政赤字が止まらなくなっている。
インド経済がつまずいたのは2004年に登場した現在の政権が経済政策を誤ったからであり、アメリカのオバマ大統領と同じように経済の構造改革ができず、一方で社会福祉の経費を増やしすぎてしまったからである。
「中国の国内が混乱して軍部が権力を掌握している。インドの経済開発が失敗し、当面、国際的な地位が縮小し続けている。そして日本は相変わらず日和見主義を続けている」
アメリカ国防総省やCIAはアジアの情勢についてこう見ている。このため、アジアが大混乱するのは避けられないと分析しているのである。
アメリカ国防総省がまとめた「2025年後の世界」という予測の中では、アメリカ軍が東シナ海、西太平洋、南シナ海、そしてインド洋から、兵力を引きあげるため、大きな軍事的変動が起きると予測している。
アメリカ陸軍やCIAの推定によれば、2016年以降、南北朝鮮合併の動きが強くなる。政治的に見ればこの合併は不可能だと思われるが、中国の影響力と日本に対する戦略的な目的から、統一・合併の動きが強まると見る分析官が多くなっている。国防総省の専門家は韓国と北朝鮮が合併すれば、核兵器を背景に日本に対する戦略的な脅しを強め、極東アジアが一挙に緊張すると見ている。
■圧力を増す中国の動き
続く大きな問題は、ロシアと中国の国境および中央アジアの情勢で、今後急速に緊張が高まり、各地で混乱が起きると予想される。アメリカ国防総省は中国がエネルギー不足から、周辺に対する戦略行動を強化し、向こう1、2年以内にシベリアやカザフスタンなどに対する侵略を開始すると分析している。
この中国の動きに対してロシア側は核兵器による報復の脅しをかけるとともに、軍事行動の準備に入る。極東ロシアや、中央アジアに油田を持つ世界の巨大石油企業は、アメリカに介入を求めるが、アメリカ議会は簡単には動かないと予想される。
第三の紛争地域は台湾である。中国は台湾を合併する欲望を捨てていない。香港方式の合併を求め、アメリカが軍事力を後退させるとともに、露骨な動きに出てくる。これに対して台湾側は、核兵器の開発を含め、中国に対する対立的な態度を変えないと思われる。しかし、ここでもアメリカが積極的に軍事力を使って介入する見通しはあまりない。
アジア4番目の衝突はインドネシアである。インドネシアのイスラム勢力が暴動を起こし、マラッカ海峡や、スマトラとジャワ島の間のスンダ海峡、バリ島とロンボク島を隔てるロンボク海峡の閉鎖を行い、世界の海上輸送に大混乱を生じさせる。
インドネシアのイスラム勢力が行動を起こすのは、次のアメリカ大統領選挙戦の最中である2016年になると思われる。大統領選挙が終わったあと、アメリカ国内では、アメリカ海軍をインドネシアに送るかどうかという問題が論議されると思われるが、アメリカ国民は賛成しないだろう。一方、中国とインドは積極的に介入し、インド海軍はマラッカ海峡までを制圧すると思われる。
こうした変動の結果、石油の値段が一時的に上がったり、周辺が大混乱したりするが、アメリカの世論はアメリカ海軍が再びアジアへ戻っていくことには反対すると思われる。
インドネシアの暴動などの結果、シーレーンの確保に中国とインドが重大な役割を果たすことが明確になるとともに、インドと中国の海軍力の同盟体制が確立することになる。アメリカ海軍がアジアに戻らないことが明らかになるとともに、アジアにおける新しい軍事バランスが確立することになる。
2020年から25年にかけて、アメリカの核拡散防止政策が力を失い、世界各国が核兵器を競ってつくるようになると見られる。この結果、日本がアメリカの核の傘の下に居るために同盟体制を取り続けるのか、あるいは独立した軍事力を持つようになるのか、さらには中国との軍事同盟体制をとるのか、重大な選択に迫られると、国防総省関係者は見ている。
アメリカ国防総省をはじめ専門家が最も注目しているのは、日本の核装備と日本の軍事力強化である。それと同時に、インド、中国、インドネシア、台湾が日本との戦略的な話し合いに力を入れてくると見ている。CIAも10年後には、日本、インド、中国、ロシア、それに台湾との戦略的な話し合いがきわめて重要になってくると見ている。
■石油が日本に来なくなる〜迫られる選択
こうしたアジアにおける新しい戦略体制の話し合いは、アジアの国々が、アメリカ抜きで、石油などの海上輸送路の安全を確保する体制を考え始めていることを示している。2016年以降は、世界の石油の需給体制が混乱し、アジア全体が動揺するが、それと並行して中東において再び混迷が始まる。
アメリカはシェールガスとシェールオイルの増産が確実なこと、カナダやメキシコからふんだんに石油や天然ガスを得られることから、中東への関心をなくしつつある。とくに外交問題を軽視するオバマ政権は、イラク、アフガニスタンを見捨てるだけでなく、イランとの関わりをも放棄しようとしている。
オバマ大統領はイランに対する経済制裁をやめることで、イランに核兵器開発を諦めさせようとしているが、この外交戦略がうまくいくはずがない。イランは核兵器開発の道を突き進むだろう。
イランの核開発は中東情勢だけではなく、アジア太平洋の軍事情勢を混乱させる。いま中東で懸念されているのは、過激派の攻勢によってパキスタンが国家としての機能を失い、崩壊することだ。
中国はパキスタンにテコ入れをしようとしているが、インドがそれを許さないとアメリカの情報関係者は見ている。またインドとイランは、アフガニスタンを分割するための話し合いを始めるとともに、軍事的な占領体制を強めてくると見られている。
アメリカの専門家は、中東情勢がどのような形で安定するか見極めかねている。最悪のシナリオは、アメリカがアフガニスタンとの間でアメリカ軍を駐留させるための地位協定を結ぶことができず、アメリカ軍が完全に撤退したあと、アルカイダ系の部族の首脳が大統領に就任することだ。
イラクとアメリカの関係もうまくいっていない。このため、中国が経済的な影響力を急速に強めてきている。中国、インド、イランが軍事的な協力体制を強化し、中東情勢を安定させた場合、日本の立場は苦しくなる。
日本はインド、中国との関係を強化して、石油の安定供給を図ろうとすれば、アジア、西太平洋において、アメリカとの関係を断ち切っていかなければならなくなる。日本とアメリカの関係が弱くなれば、中国の強い影響のもとに置かれることになる。アジア極東における日本の立場は急速に悪くなる。
向こう10年、東南アジアが混乱すると同時に、その混乱が中央アジアや中東にも及べば、日本の石油戦略に大きな影響が出てくるのは避けられない。その場合、アメリカのシェールガスや天然ガスにどこまで頼ることができるかが、日本の政治的、そして軍事的な立場を決めることになる。中国をとるか、アメリカをとるか、日本の存在を賭けた選択を日本は避けることができない。
日高義樹(ハドソン研究所首席研究員)
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