02. 2013年12月24日 02:23:03
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第1次世界大戦:不安を胸に振り返る100年前の世界 2013年12月24日(Tue) The Economist (英エコノミスト誌 2013年12月21・28合併日号)第1次世界大戦から1世紀を経た現在の世界情勢は、大戦勃発に至る時代に恐ろしいほど似ている。 今からちょうど100年前の年の暮れ、欧州の大半の人は新年の1914年を楽観的に待ち望んでいた。ワーテルローの戦いに始まるその前の100年間も、世界に惨事が全くないわけではなかった。米国は悲惨な南北戦争を経験し、アジアの一部地域では戦いがあり、普仏戦争が起こり、時折、植民地紛争もあった。 だが、欧州大陸は全体として平和だった。グローバリゼーションと新技術――電話、蒸気船、鉄道――が世界を1つにつなぎ合わせた。ジョン・メイナード・ケインズが、当時のロンドン市民の暮らしを見事に描き出している。 ケインズが描いた暮らしから過去に例を見ない悲惨な戦争へ 「朝の紅茶をベッドでゆっくり飲み」、「世界中のさまざまな商品」の配達を注文し――彼が現代に生きていたらアマゾン・ドットコムでそうしただろう――、そうした状況を「ごくありふれた、確かな、良くなりこそすれ、いつまでも変わらずにあるもの」だと書いているのだ。 ケインズのベッドサイドのテーブルには、ノーマン・エンジェルの『The Great Illusion(大いなる幻想)』も置かれていたかもしれない。この本の中では、欧州各国の経済がこれほど一体化していては、戦争は無益でしかないという主張が展開されている。 だが、1年と経たないうちに、世界は過去に例のない悲惨な戦争に巻き込まれた。900万人の命が失われた。ソビエト・ロシアの誕生、あまりにもいい加減に引き直された中東諸国の国境、そしてヒトラーの台頭など、その後の様々な地政学的な悲劇も勘定に入れれば、犠牲者の数はその何倍にも膨らむ。 自由の友だったテクノロジーは残虐行為の道具となり、恐るべき規模で人々を殺戮し、奴隷化した。世界中に障壁が張り巡らされた。特に1930年代の世界大恐慌の時代には壁が高くなった。 ケインズの時代のロンドン市民が享受していたグローバリゼーションが再び動き始めるのは、1945年になってからだ。見方によっては、グローバリゼーションの再開は、東欧が解放され、ケ小平の改革が中国で実を結び始めた1990年代まで待つ必要があったとも言えるだろう。 1世紀前に世界を襲った惨事は、ドイツが原動力になっていた。当時のドイツは、欧州の支配をもくろみ、そのための戦争を起こす口実を探していた。 だが、現状に満足していた世界にも責任はある。ロンドンでもパリでもほかの場所でも、あまりにも多くの人が、英国とドイツはお互い米国に次ぐ貿易相手国なのだから、争う経済的理由がなく、従って戦争など起こるはずがないと信じていた。 ケインズの言葉を借りれば、「軍国主義と帝国主義、人種的対立と文化的対立、独占や制限や排除のもくろみや政治学は、いわば現在の楽園における蛇の役割を果たすもので、(ロンドン市民向けの)日刊紙の娯楽材料にすぎな」かったのだ。 それぞれの役回り 人類は過ちから学ぶことができる。その証拠に、昨今の経済危機への対応も、大恐慌につながった過去の過ちを避けようという決意から生まれたものだ。1世紀前に解き放たれた恐怖の記憶があるおかげで、現代の指導者たちが戦争へ転がり込む可能性は低くなっている。 現代の惨事が持つ爆発性の力、つまり、核によるホロコーストの脅威も、止めどないエスカレーションを食い止める強力なブレーキとして機能し、若い世代が前線へ送り出される事態を防いでいる。 それでも、100年前との類似点はやはり気がかりだ。 現在の米国が、当時の英国にあたる。衰えが見え始め、世界の安全保障を維持できなくなっている超大国だ。当時のドイツの役回りを演じるのが、米国の主要な貿易相手である中国で、新興の経済大国は国家主義的な怒りを露わにし、急速に軍事力を増大させている。現代の日本は、衰えゆく覇権国の同盟国で、地域的な力を失いつつあったフランスに相当する。 これらの類似は、全く同じというわけではない。中国は、ドイツ皇帝のような領土拡大の野望は抱いていない。米国の防衛予算は、大英帝国よりもはるかに他を圧倒している。とはいえ、世界が警戒するに足るだけの類似性はある。 だが、全体的に見て、世界は警戒していない。1914年と現在の類似性の中でも特に気がかりなのが、現状に満足しきった世界の雰囲気だ。現代の事業家は、当時の事業家と同じく、金儲けに忙しすぎて、株価表示画面の片隅で舌をちらつかせる蛇に気づいていない。 政治家たちは、100年前と同じように国家主義をもてあそんでいる。中国の指導者は経済改革の煙幕として排日感情を煽り、日本の安倍晋三首相も同じ理由で日本人の国家主義を扇動している。 インドでは、来年の選挙でナレンドラ・モディ氏が首相になるかもしれない。ヒンドゥーナショナリストのモディ氏は、自身が首相を務めるグジャラート州で起きたイスラム教徒虐殺事件に対する謝罪を拒んでいて、インド首相となれば、イスラム国家の隣国パキスタンとの潜在的な核紛争のボタンに指をかけることになる。 ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、シリアが自己崩壊するのをただ傍観している。そして、20世紀の流血を経てまとまった欧州連合(EU)は、新たに芽生えた国家主義により、その創設以来最も対立と分裂が深まっているように見える。 危険な思い込み そうした火種から大火災へと広がらないようにするためには、2つの予防措置が役立つだろう。1つは、潜在的な危険の脅威を最小限に抑えるシステムだ。北朝鮮が崩壊したらどうなるのか、その正確なところは誰にも分からないが、米国と中国は、その時になって互いに敵対することなく北朝鮮の核開発計画の安全性を確保するために、あらかじめ計画を立てておかなければならない。 中国は海域を接する隣国との間で、手の込んだ危険な「チキンレース」をしている。いずれ、どこかの国がどこかの国と衝突することになる――そして、その事態に対処するシステムは、現時点ではまだ存在しない。この海域での行動規範が必要だ。 世界を安全にするための第2の予防措置は、米国がもっと積極的な外交政策を取ることだ。イランの核開発を巡る暫定合意を成立させたとはいえ、バラク・オバマ大統領は中東から距離を置いてきた。シリアでの武力介入に対する消極的な姿勢が、それを示している。 また、インドやインドネシア、ブラジル、そして何よりも中国といった新興国をグローバルなシステムに組み込む努力も、ほとんど見せていない。そうした姿勢ははからずも、熱意の欠如と歴史の無知の両方を露わにしている。軍事力と経済力とソフトパワーを持つ米国は、今でも世界になくてはならない存在だ。特に、国境をまたぐ気候変動やテロといった脅威への対応には、米国の力が欠かせない。 だが、米国がリーダーとして、そして世界秩序の守護者として行動しない限り、各地域の強国が、隣国を脅しつけて自国の力を試したいという誘惑に駆られることになるだろう。 恐らく、現在の世界にある危険は、どれも1914年の恐怖に匹敵するような事態を招くものではないだろう。狂気は、その動機が人種であれ、宗教であれ、民族であれ、普通は理性的な利己心に屈する。だが、狂気が勝利すれば、大虐殺につながる。つまり、理性が勝っていると思い込むのは、自己満足のそしりを免れない。それが1世紀前の教訓である。 不安定な新興国市場の行方 FRBの量的緩和縮小よりも国内の政治リスク 2013年12月24日(Tue) Financial Times (2013年12月20日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
緩和縮小か催涙ガスか――。どちらが来年、新興市場にとってより大きなリスクになるだろうか? 米連邦準備理事会(FRB)が金融刺激策を縮小させる計画に乗り出した今、米国の金融政策を取り巻く不確実性は幾分薄れ、多くのアナリストは、政治リスクが一段と2014年を決定付ける特徴になると考えている。 発展途上国では常に政治的混乱のリスクがある。この1年だけを取ってみても、投資家はブラジルやトルコ、ウクライナ、タイで起きた広範な抗議運動や大衆の混乱に打ちのめされた。 だが、アナリストや資産運用担当者の中には、今後数年間は政治リスクがさらに大きな問題になると言う者もいる。多くの発展途上国で要求を強める中間層の出現が、厳しさを増す経済的現実や長く権力の座にとどまる指導者と激しく衝突するためだ。 「世論リスク」という大きな現象 「低成長、弱くなった指導者、新たな中間層の要求、ソーシャルメディアの偏在が1つにまとまり、ついには我々が『Vox Populi(世論の意)』リスクと呼ぶ現象、つまり、移ろいやすく不安定で急激に動員される世論になっている」とシティグループの政治アナリスト、ティナ・フォーダム氏は主張する。 これは、資産運用担当者たちの間で賛同者を増やしている見方だ。今や一部の資産運用会社は、こうした定量化できない、モデルを覆す政治的な落とし穴を舵取りする手助けをしてもらうために、政治学者や退官した政府高官、さらには元スパイまで起用している。 「政治リスクは巨大だ」。アビバ・インベスターズのグローバル市場責任者、ダニエル・ジェームズ氏はこう言う。「多くの資産運用担当者は過去3〜4年間で、政治について考えていたよりも多くのことを学んだ・・・が、政治的な不確実性は大きくなるばかりだ」 FRBが来年量的緩和プログラムの規模を縮小し続けるとの見通しは、依然として新興国市場にとって支配的な要因だ。だが、緩和縮小と政治リスクは関連し合っており、来年はさらにその傾向が強まる可能性がある。 夏場の「テーパリング癇癪」に最も影響された一握りの国は、来年選挙を迎える。南アフリカ、インド、トルコ、インドネシア、ブラジル――「フラジャイル・ファイブ」と総称される――は、前回の選挙の時よりもはるかに厳しい経済状態を背景に選挙を迎えることになる。 「抗議が抗議を生むことはよくあることで、それらは選挙の準備期間中により一般的になる。これがこうした国々の多くで今後1年にわたって起きるだろう」とフォーダム氏は指摘する。 不安定さは、政治家によりポピュリスト的な立場に向かうよう促す可能性がある。「当局が社会不安を防ごうとして財政出動に走る国もあれば、当局が賃金を引き上げる可能性のある国もあるが、どちらもインフレを生じさせるだろう」とブラックロックの新興国債券部門責任者、セルジオ・トリゴ・パズ氏は言う。 自然発生的な社会不安の勃発 迫り来る選挙のせいで、各国中央銀行がFRBの緩和縮小の結果として予想される通貨安と戦うための利上げに慎重になる可能性もある。多くの新興国市場の中央銀行は今、法律的には独立しているが、大半の中央銀行は実際にはまだ政治的影響を受けやすいとファンドマネジャーたちは言う。 だが選挙は、少なくともはっきりとその到来を告げる、識別できるリスクだ。選挙よりも大きな懸念は、自然発生する、しばしば混沌とした社会不安や革命熱の勃発だ。これらは、その性質上、予想するのが難しく、どのように展開するのか予想するのはそれ以上に困難だ。 ブラジルやトルコで起きた抗議行動は今年次第に勢いがなくなったが、2010年にチュニジアの小さな村で起きた控えめな抗議行動は中東全体に広がり、チュニジア、リビア、エジプトで独裁者を倒し、石油まみれの湾岸の王国をも慌てさせた。 政治アナリストや用心深い資産運用担当者たちは、目を光らせているいくつかの兆候があると話す。高インフレ率、中間層の不満感、仕事のない多くの若者、浸透するソーシャルメディアの活用、そして選挙で選ばれたかどうかに関係なく、長年権力の座にある政治指導層などだ。 ただ、そのきっかけが非常に特異なものであることはよくある、とコンサルティング会社コントロール・リスクスの戦略分析責任者、ジョナサン・ウッド氏は言う。「混乱は、非常に小さな個別の理由によって引き起こされることがある。環境が整ってさえいれば、こうした小さな出来事が急激に拡大する」 取り締まりの質も要因だ。小さな地域的問題が、当初の不器用な治安上の対応の後に急に爆発することがある――ブラジルやトルコ、ウクライナで今年明らかになったように。フォーダム氏は次のように話す。「歴史は、その目的が一般市民に正当だと見なされている抗議運動に対する厳しい戦術が、しばしば抗議運動を刺激し、悪化させ、政治的安定を危険にさらす場合があることを示している」 掘り出し物のチャンスも それでも、政治的混乱は、ボラティリティーを好むファンドマネジャーたちにとって、魅力的な機会を作り出すことがある。選挙は不確実性につながるかもしれないが、「市場にとってプラス」の改革をもたらす起爆剤にもなり得る、とバークレイズのエコノミスト、アリア・モバイヤド氏は言う。 トリゴ・パズ氏は、政治不安の可能性がある国を探していると言う。これは、多くの投資家がすぐに現地市場から逃げ出し、他の投資家が飛び付く掘り出し物を残していくという予想に基づいている。「理想的には、一端こうした国々を避けて、その後それらの国が打ちのめされた時点で参入したい。それが我々の戦略だ」とトリゴ・パズ氏は話している。 By Robin Wigglesworth
プーチン大統領にとって良い1年はロシアにとって悪い1年だった 2013年12月24日(Tue) Financial Times (2013年12月20日付 英フィナンシャル・タイムズ紙) ロシア大統領、政敵の元石油王を恩赦へ ミハイル・ホドルコフスキー氏はプーチン大統領の恩赦から数時間後に釈放され、ドイツに到着した〔AFPBB News〕 元石油大手ユーコス社長のミハイル・ホドルコフスキー氏が釈放される。ウラジーミル・プーチン大統領の権威に楯突いたことで10年以上服役した後、大統領から恩赦されることになった。 これをロシア政府の心境の変化と見なすのは間違いだ。 恩赦はむしろ、投獄されているグリーンピースの活動家や女性パンクバンド「プッシー・ライオット」のメンバーについて提案されている恩赦と同様、時折寛大な行為を示すことに利益を見いだす、独裁者の計算されたジェスチャーだろう。 西側諸国のためらいを突き、外交的勝利 プーチン氏本人にとっては、今年は良い1年だった。同氏は国際社会の尊敬を得ることを切望している。米国は世界から一歩退くことで、ロシア政府に国際舞台の上座のスペースを譲った。プーチン氏は、ロシアは世界の超大国として米国と対等の存在だと思い込みたがる。ホドルコフスキー氏の恩赦は、ロシアがまだ米国と対等であるフリをしたがる人物の行動だった。 シリア情勢を巡る西側諸国のためらいは、プーチン氏に重要な外交的勝利を与えた。米国のバラク・オバマ大統領は、シリア政府が化学兵器を使用した後、バシャル・アル・アサド大統領率いる体制を爆撃すると脅したが、オバマ氏が乗り気でないことは誰もが知っていた。 オバマ氏がためらっているうちに、武力行使を振りかざした英国のデビッド・キャメロン首相は、英国議会から武器を取り上げられる羽目になった。フランスのフランソワ・オランド大統領は、武力行使をいとわない介入主義の祭壇に一人取り残された。 シリアの化学兵器廃棄に関する合意で、米国政府はアサド氏が権力の座にとどまることを認めた。この合意は、ほかにも2つのメッセージを発信していた。西側諸国はもはや、ロシアの同意なしでは中東の指導者を追放できないということ、そして、政治的解決を仲介するいかなる取り組みにおいてもロシア政府の存在が欠かせないということだ。 実際には、化学兵器に関する合意によりオバマ氏は辛い窮地から逃れることができた。だが、プーチン氏が勝者に見えた。米国政治の右派の多くにとって、このエピソードは、中東における米国の権威低下の証拠だった。イランの核開発計画の抑制に向けた同国との合意をプーチン氏が支持したことは、ワシントンの外交政策のタカ派に同じメッセージを送っていた。 より自国に近い場所では、ロシア政府は、アルメニアが西を向いて欧州連合(EU)に近づいたはずの連合協定を阻止した。そして、首都キエフの街頭でまだ大規模なデモが続いているものの、プーチン氏は差し当たり、ウクライナとEUの連合協定を妨害することにも成功したように見える。プーチン氏は、ロシアの昔の臣下をユーラシアの関税同盟に囲い込む決意を固めている。 「プーチン氏にノーベル賞を」、露団体が声明 シリア外交を評価 今年は国際舞台で大いにスポットライトを浴びたウラジーミル・プーチン大統領だが・・・〔AFPBB News〕 アルメニアの場合もウクライナの場合も、ロシア政府は脅しと約束が入り混じる作戦を展開した。恐らく、威嚇の方がインセンティブよりも大きな役割を果たした。 プーチン氏がウクライナのビクトル・ヤヌコビッチ大統領と結んだ取り決めの詳細は、ロシア政府の手厚い金融支援には厳しい条件が付いていることを示している。ウクライナが資金を得られるのは、同国がロシアの言うことに従う場合に限られるのだ。 プーチン氏にとっては「容赦ない圧力の政治は明らかに功を奏する」と述べたカール・ビルト・スウェーデン外相の辛辣なコメントは正しかった。 こうした流れから、ソチ冬季五輪に先立って、プーチン氏は得意になっている。五輪開催の費用が手に負えないほど膨れ上がる一方、ロシアの人権軽視に抗議して、世界の多くの首脳が出席を見送る見通しだ。 そんなことはどうでもいい。五輪のファンファーレは、ロシアが再び台頭しつつあるという幻想を維持する助けになる――。プーチン氏はこう期待している。また、ホドルコフスキー氏や他の反体制派の釈放は、西側諸国の抗議を弱めることになるだろう、と。 自発的な友人がいないロシア ロシア政府は外交政策のことを、北大西洋条約機構(NATO)とEUが永遠の敵であるゼロサムゲームと見なしている。ロシアが勝つのは、西側が負けたと見られる時だけだ。この冷戦時代のものの考え方に従えば、ウクライナとEUの経済統合はロシアの敗北だ。 アサド氏のシリア追放もロシアの敗北になる。アルメニアと西欧諸国の貿易拡大でさえ、旧ソ連圏に対するロシアの支配力を揺るがしていただろう。 ロシアには、これと言った自発的な友人がいない。いるのは、ロシアが脅して服従させた国々と、ロシア政府との関係に利点を見いだす一握りの便宜的同盟国だ。どれほど批判派がいようとも、米国を賞賛し、真似る国は多い。ロシアのようになりたい人は誰一人いない。ロシアの力は壊し屋の力なのである。 プーチン氏の虚栄心は、ロシアの弱さを覆い隠している。大統領がいいところを見せているうちに、ロシアは一段と深刻な経済的衰退に入っていく。ロシアの戦略的弱点――高齢化が進み、縮小する人口、崩れかけたインフラ、近代化されていない経済、風土病のような汚職、法の支配の欠如――は周知の通りだ。 ロシアの問題に新たな緊急性 原油価格の下落と経済成長の減速は、こうした問題に新たな緊急性を与える。ロシアは今、遠からず払う余裕のなくなる数十億ドル単位の資金をウクライナに約束している。 プーチン氏は時折、そうした不快な真実をほとんど認めたように見えることがある。同氏は最近、ロシアからの大量の資本流出を食い止められないことで自身の政府を批判し、資本を国外に移すロシア企業を処罰するよう求めた。 もしかしたらここに、ホドルコフスキー氏の釈放を決めた判断を説明するもう1つの理由があるのかもしれない。元オリガルヒ(新興財閥)の投獄は国内外の潜在的投資家に、ロシア政府の気紛れで自分たちの資産が没収され得ることを常に思い出させる材料だったからだ。 ホドルコフスキー氏はもうすぐ自由になるかもしれないが、ほかに変わったことはあまりない。プーチン氏は先の年次記者会見で、ソ連崩壊は20世紀最大の悲劇の1つだったという使い古されたテーマに回帰した。本当の災難は、強欲で無法な独裁政治のせいでロシアが転落したことだ。 By Philip Stephens なぜ中国社会はすぐパニックに陥るのか 国民を信用せず情報をひた隠しにする政府 2013年12月24日(Tue) 柯 隆 中国の歴代首相が、政府活動報告の中で、経済政策を立てるうえでの一番の悩みとして毎回挙げるのが、物価の上昇である。
現在、中国の景気は減速局面に転じているが、李克強首相は前任者たちと同様に物価の上昇を心配していると強調する。景気が減速すれば、物価の上昇よりもデフレーションを心配するはずである。なぜ中国では、景気の良しあしと関係なく物価が上昇するのだろうか。 一般的に経済学では、いかなる財やサービスでも、その需要が供給を上回ると価格は上昇するものとされている。その価格の上昇によって需要が抑制され、供給と均衡するようになれば、価格の上昇が止まる。逆に、需要が供給を下回るとメーカーは在庫を抱えるようになり、値下げを実施する。価格の下落は需要を刺激し、供給と均衡するようになればデフレーションがストップする。これは市場経済の基本である。 ことあるごとに買い占めに走る中国人 目下の中国経済は投資が伸び悩み消費が盛り上がらないため、景気が減速していると言われている。しかし、中国人の購買力が弱くなったわけではない。家計貯蓄はGDP比で30%に達し、市中ではマネーがじゃぶじゃぶとあふれた状態にあり、いつでもインフレが再燃する恐れがある。 中国の検索サイト「baidu.com」内のニュースコーナーに35枚の写真が貼り付けられている。それは1980年代以来の中国で、パニックに陥った消費者が様々な商品を買い占めたときの姿だった。 古いものには、1983年、北京のデパートで大勢の市民がシャツやジャケットを買い占める写真があった。88年の写真には、1人の南京市民(自称エンジニア)と冷蔵庫が写っている。彼は故郷南京で冷蔵庫が売り切れたため、わざわざ北京へ買いに行った。幸いにも冷蔵庫を手に入れることができた。だが汽車で南京に帰ったこのエンジニアは、どのようにして冷蔵庫を運んだのだろう。 88年と89年は「官倒」、すなわち共産党幹部による投機が横行していた時期だった。国民の間で幹部の特権に不満が募り、最後に民主化を要求する天安門事件が起きた。 89年の写真は、四川省でタバコを買い占めようとする群衆が雑貨店などへ殺到する光景だ。しかし、タバコを買い求める人々の顔を見る限り、みんながヘビスモーカーのようには見えない。その写真で面白かったのは、タバコを売りさばく店員は口にタバコをくわえ、焦ることなく一人ひとりに1カートンずつ売りさばいていたことだ。 放射能を恐れて塩に群がる 1990年に上海証券取引所が成立し、翌年の91年に深セン証券取引所が成立した。そして92年には株式投資ブームが到来する。 そこに群がったのは、投資家というよりも、中国語では「炒股」、すなわち株式を炒めるように熱く(高く)なったところでそれを売り裁きキャピタルゲインを手に入れようとする人たちである。「股民」と呼ばれている「投資家」は、自分が投資している企業の業績にはまるで無関心であり、株価を見て株を売買するのが基本のようだ。 2000年に入ってからは、都市部ではとっくに冷めたカラーテレビブームが農村で沸き起こった。都市近郊の農民はカラーテレビを買うために一斉に大都市を目指した。テレビを手に入れた農民は、みんなが満面の笑みを見せていた。まるで60年前、共産党・人民解放軍が地主を打倒し、その土地を農民に割り当てたときと同じようだった。 2003年には新型肺炎(SARS)が流行し、お酢に消毒効果があるとマスコミが取り上げたのをきっかけに、人々はスーパーや雑感店へ殺到し、お酢は一瞬にして売り切れた。 2011年に日本の福島で原発事故が起きると、塩はガンの予防に効くとのデマが流れた。塩にはヨウ素が入っているため放射性物質を体外へ排出することができるというのだ。それを耳にした市民はスーパーへ殺到。中には、塩を2トン買った若者もいたとう。その後、パニックが落ち着いてから、この若者は2トンもの塩を使いきれずスーパーへ返品にいった。さすがスーパーは返品を認めず、若者に漬物屋を開業したらどうかとアドバイスしたそうだ。 日本でも、年末ジャンボ宝くじを買い求める人々が売り場で列を成すことがある。しかし、中国では列を成すことは少ない。誰もが売り場を目がけて我先にと押しかけるのだ。人ごみでけが人が続出することも少なくない。 政府が情報を隠すからデマが広がる なぜ中国社会はパニックに陥りやすいのだろうか。 Baidu.comの掲示板の書き込みを見ると、「物不足で飢えたときの記憶がまだ新しいから」「教育レベルの低い人が多いから」「物しか信用できない」などと書かれている。 確かに、物不足の時代が長く続いたため、今の中国社会はすでに豊かになっているとはいえ、当時の記憶をまだ忘れられていない。しかし、すべての人々が過去の悲惨な記憶が原因でパニックに走ったとは思えない。 パニックの背景に必ず存在するのは経済学で言う情報の非対称性であり、ときにはデマも少なくない。 中国の官制メディアはグッドニュースを優先的に流すが、バッドニュース、特に政府にとって都合の悪いニュースをほとんど流さない。2011年、浙江省温州市で高速鉄道追突事故が起きたとき、鉄道省のスポークスマンは生存者が見つかったことを受けて「(事故は)まるで奇跡のようだ」とポジティヴな表現で総括した。 しかし、市民は官制メディアが伝えるグッドニュースをとっくに信用しなくなっている。正しい情報を入手できない市民は口コミの情報を頼りにするしかない。だが口コミの情報にはデマが混ざることが少なくない。このデマこそが中国社会がパニックに陥りやすい大きな原因である。 日本のような先進国では国民の知る権利が保障されているが、実は中国の憲法でも保障されている。中国社会をパニックから救うためには、まず、政府および官制メディアが国民に真実を伝えるようにしなければならない。 政府は、悪いニュースを流すと社会がパニックに陥るのではないかと恐れている。国民には悪いニュースに耐える力が不足していると考えているためだ。しかし、社会不安を最も助長してしまうのは、真実を隠すことである。悪いニュースを隠せば隠すほど、政府にとっては不都合な状況が生まれてくることを理解すべきだろう。
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