06. 2013年10月10日 18:38:49
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イランと米国の国交回復はあり得るか!?34年間に積もり積もった不信感 2013年10月10日(木) エッテハディー・サイードレザ 9月25日はイラン人にとってはもちろん、国際政治に関心のあるすべての人にとって、とても大切な日になりました。イランのロウハニ新大統領が国連で、国際世界に向け、国の新しい方針について演説したからです。 「オバマ大統領の演説を注意深く聞いた。米政府がリーダーシップを発揮する政治的意思を持ち、戦争を挑発する勢力に追随することがなければ、我々は見解の相違点に対処する枠組みを構築することができる。この目的を達成するためには、対等な立場、相互の尊重、国際法の原則が重視されるべきだ。もちろん、米国の主張が一貫していることを期待する」とロウハニ大統領は語りました。 演説が終わったとたん、多くの人は頭を抱え、新大統領の言わんとしたことを推し量ろうとしました。ロウハニ大統領は恐らく、世界が聞きたいことより、イラン政府が言いたいことを語りました。 そう。イランは古代ペルシア帝国の歴史を誇らしく思っています。イランは約40年前には「中東の警察」と呼ばれていました。今もそれを超える地位を望んでいます。国の面積、人口、そして軍事力の高さを考えれば、これは望外のものではないでしょう。 しかし、過去34年の間、イラン・イスラム共和国の夢の実現を妨害した国があります。それは米国です。米国とイランは、79年革命以降、敵対する関係を続けてきました。 一般のイラン人は、イランの国内問題のほとんどは米国に責任があると考えていると言えます。国の宣伝の影響で、多くのイラン人にとって米国の政治家は悪魔以外の何者でもないのです。イランの政治家の一部は、「米国の政治家は、一日も早くイランの政府を転覆させ、対イスラム政策を実施しようとしている」と主張しています。アメリカを敵視しつつも国交を持つ国はあります。しかしイランと米国の間には、国交はもちろん、官僚同士の対話すらありません。 しかも、面白いことに世界の他の国々と同様にアメリカ人に憧れ、一般のアメリカ人に会うと親しくしているイラン人も少なくないのです。アフマディネジャッド前大統領でさえ「イラン人は『アメリカ死ね』とよく口にするけど、それは政治家を指してのこと。一般のアメリカ人は別」と言いました。 9月27日の金曜日に、ロウハニ新大統領はイランとアメリカの間にある壁を乗り越えました。ロウハニ氏はオバマ大統領との面談は断ったものの、電話で会談。34年間の間、両国の間に積もり続けた雪が溶け始めました。これからイランとアメリカとの敵対関係がどのように変化するのか、楽しみだと思います。 ただし、アメリカとイランが近未来において国交を回復し、「イラン脅威論」がなかったことになると楽観的に思っている方がいらっしゃれば、両国が解決すべき問題について知っておいた方がいいと思います。両国は3つの大きな問題を解決しなければなりません。歴史問題、世界観、そして、パレスチナ問題です。 許してもいいけど、忘れてはいけない 歴史問題とは、アメリカが50年代にイランの内政に干渉して以降、イラン国民が反米感情を抱いていることを指します。 イランのモハンマッド・ジャワッド・ザリーフー外務大臣は9月29日、アメリカのテレビ番組に出演しインタビューに応じました。インタビュアーが「アメリカ死ね!」と叫ぶイラン人について質問したところ、同外相は南アフリカのネルソン・マンデラの言葉を引用しました。「許してもいいけど、忘れてはいけない」。イラン人は何を許すべきなのでしょうか。 「アメリカ死ね!」という考えは、アメリカによるイランの介入に端を発しています。50年代にイランで、選挙で民主的に選ばれた政権が誕生しました。しかし、クーデターが起きて、王政が復古。このクーデターをアメリカが支援したのです。アメリカは、イラン・イラク戦争ではイラクを援助。化学兵器の使用を許しました(関連記事「戦争はあってはならない!」)。その後、一般のイラン人が乗っていた飛行機を撃墜。さらに、30年以上にわたってイランに対して経済制裁を課しています。これらの問題を簡単に忘れることができるでしょうか。 近代における他国の事例を見ると、イランとアメリカ両国が本当に関係を正常化する気があれば、それも可能だと考えられます。日本と韓国、そして日本と中国も、60〜70年代に国交を回復しました。それと同様にイランも、アメリカが行った昔の行為を許し、和解することができると思います。イランも、現在の韓国や中国と同様に「歴史」を忘れることはできません。しかし、一時的にせよ、国益のために昔の行為を許せば、イランとアメリカの関係改善は達成できると思います。 大きいサタン対イスラム世界 次に世界観について。1979年に革命が起きて王政が倒れた時、時は冷戦下で、イランのイスラム教徒は平等な社会を作り、神様の教えに従うことだけを考えていました。さらに、「西洋でもない、東洋でもない、イスラム共和国!」というスローガンを立て、イランの新しい政治体制が目指す世界の姿を明らかにしました。 当時、西洋を代表する国はアメリカとイギリスで、東洋の代表は共産主義のソ連でした。当初は「ソ連死ね!」とも言っていましたが、ソ連との関係が緊密になるに従って、このスローガンは言われないようになりました。 一方、イラン政府は次第にアメリカを「大きいサタン」として非難し始めました。この大きいサタンは、79年革命によってイランから追い出されたパフラヴィー王を受け入れ、イランに対する敵意を明らかにしました。これが後の在イラン米国大使館の人質事件につながりました。 当時、革命指導者であったホメイニ師は、「革命は単にイランのためではなく、全世界の貧しい人々のためのものだ。イランの革命が失敗すれば、全世界の貧しい人が失望する」と訴えました。その一方で一部のイラン人も、「イランのイスラム主義政権はイスラム世界を代表する体制である。だから、他のムスリム(イスラム教徒)国を主導するべきだ」と訴えるようになりました。 つまり、イランとアメリカという2つの異なる世界観を持つ国が、中東で対立するようになりました。 アメリカの自由主義世界観とイランの宗教主義世界観との違いが両国間の交渉に与える影響は非常に大きいものがあります。 現在イスラム世界においてイニシアチブを取ろうとしている国はイラン、トルコ、そして、サウジアラビアです。アメリカはこの3つの国を競わせてバランスを取ることで、中東における影響力を維持しようとしています。特に、サウジアラビアを軍事的に支援することで、スンニ派(サウジ)とシーア派(イラン)の間にあるライバル意識をあおっているように見えます。 このアメリカによるサウジ向けの軍事支援が、イランがアメリカを疑いの目で見る大きな原因になっています。オバマ大統領が9月25日の国連演説で「イランの政治体制の転覆を狙ってはいない」と強調したのは、恐らく、イランが持つ疑惑を解消することが目的だったと思います。 これまで積もりに積もった相互疑惑は、交渉で解決できるとしても、かなりの時間を要するのではないでしょうか。イランの国営テレビはこれまで「大きいサタンの脅威」を国民に対して懸命に訴えてきました。34年間にわたって「アメリカ死ね」と叫んできた国民の一部に対して、「アメリカとの友好関係が大事だ」と説得することができるでしょうか。ただし、イランと米国との間の対話を深めることで、これ以上の疑惑が生まれないようにすることはできると思います。 疲れることなくイランを脅迫し続けるイスラエル 3つめのパレスチナ問題について。シオニズムの目的はユダヤ人が住む国を樹立することです。今日のパレスチナの地に元々住んでいたユダヤ人は、数多くの戦争のために、世界各国にちらばらざるを得ませんでした。さらに、第二次世界大戦ではヒトラーににらまれ虐殺されました。そんなユダヤ人が自分の国を持つことを悪いとは思いません。 しかし、祖先が数千年前にパレスチナの地に住んでいたことを理由に、この土地にユダヤ国家を設立するのは根本的に間違っていると思います。ユダヤ人が虐殺されたのはパレスチナ人のせいではありません。なぜパレスチナ人が母国から追い出される必要があるのでしょうか。 79年革命以降、イランはパレスチナ人の味方をするようになりました。もちろん、単純にパレスチナ人は母国に戻ることを望んでも無理な話でしょう。既に数百万人のユダヤ人が世界各国からイスラエルに連れてこられ、住むようになっています。ロウハニ氏はアフマディネジャッド前大統領とは異なり、パレスチナの問題は全国民の投票によって解決すべきだと強調しました。 しかし、イスラエルは「ロウハニの微笑み戦略は恐ろしいものだと」と主張し、イランの核施設を攻撃すると再び脅迫しました。アフマディネジャッド前大統領はイスラエルを脅迫し、イランに対して敵対的な姿勢を取るように仕向けてしまいました。これに対して、現在のロウハニ大統領の「微笑み外交」は、イランに対するイスラエルの立場を弱める作用をしていると言えます。アフマディネジャッド前大統領は「イスラエルを地図から消すべきだ」と語り、国際社会におけるイランのイメージは大きく傷つけました。ロウハニ大統領の微笑み戦略は、イランのイメージは回復させつつあります。 アメリカはイスラエルの「戦略的な同盟国」として、いつもイスラエルの便宜を図ってきました。一方、イランは同じムスリムの立場からパレスチナの一部を代表するハマスを支援してきました。この構図で見る限り、パレスチナ問題を平和的に解決する道筋はみつかりません。つまり、イランとアメリカが関係を改善するうえで最も大きな障害物(Obstacle)はパレスチナ問題であり、両国がパレスチナとイスラエルに対する無条件の支援をやめない限り建設的な交渉が成立しないのです。 少なくともイランは、先に紹介したインタビューにおいて外務大臣が、イスラエルのことを「シオニスト政府」ではなく「イスラエル」と呼び、イスラエルを国として初めて認めたように考えられます。なので、アメリカも一歩を譲るべきではないかと思います。せめて、イスラエルの核兵器をIAEA(国際原子力機関)が監視できるように、イスラエルを説得するべきではないでしょうか。 イスラエルは400発の核弾頭を持っていると言われています。それにもかかわらず、IAEAによる監視を受けていません。これに対してイランはウランを濃縮しているだけなのに経済制裁の対象になっています。この不公平さは多くのイラン人にとって納得のいかないことです。 このコラムについて 100%イラン視点 イラン人コラムニスとのエッテハディー・サイードレザ氏が、日本ではほとんど知られていない「イラン・イスラム共和国」を生きる人々の暮らしや、日本に住むイラン人の視点で見た“日本”について、楽しく、分かりやすく紹介する。世界のメディアは「イランの脅威」を報道するばかりで、イランのユニークな自然や、世界に誇れる由緒ある文化や遺跡などをほとんど伝えていない。たとえイランに興味があっても、「イランは危ない」というイメージが渡航をためらわせる。そこでサイードレザ氏がビジネスやレジャーの対象国として再認識してもらえるよう、母国で実際に起きていることの真実を明らかにする。 |