02. 2013年9月25日 02:42:14
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米国とイランの歩み寄りは本物かロハニ大統領の就任で膨らむ関係修復への期待 2013年9月25日(水) 堀田 佳男 米国とイランの2国関係に変化が生まれつつある。 イランでは今年8月4日、ハサン・ロハニ氏が新大統領に就任し、バラク・オバマ大統領は外交儀礼上の祝辞を送った。ロハニ大統領は過激派で知られたアフマディネジャド前大統領と違い、穏健派と言われる。そのため内外から米国との関係修復が可能との見方がある。 しかも今週、両大統領はニューヨークの国連総会に出席。正式な首脳会談は予定されていないが、挨拶程度の顔合わせは期待されている。それだけでも国際関係の舞台ではちょっとしたニュースである。 というのも、米国とイランは1980年4月以来、国交を断絶しているからだ。過去33年間、トップ会談は実現していない。シリア内戦を含めた中東地域の安定化を考えると、両国首脳が対話のできる関係になることは望ましい。 両大統領、スイス大使館を通じて書簡のやりとり ロハニ大統領は就任後から、オバマ大統領とスイス大使館を通して書簡のやりとりをしていることが分かっている。米国側の最大の狙いはイランの核兵器開発を中止させることであり、イラン側は米国による経済制裁の解除と軍事力行使からの解放である。 アフマディネジャド前大統領は、米国に対しては徹底した抗戦姿勢を貫いた。直接戦火を交えることこそなかったが、歩み寄りの態度は見られなかった。 だがロハニ氏は少なくとも表面上、米国との硬直した関係の修復に興味を示す。イランが国際社会と積極的にかかわっていくためには、米国との関係改善はかかせない。 オバマ大統領との書簡のやりとりの詳細は明かされていないが、ホワイトハウスのベン・ローズ大統領副補佐官(国家安全保障問題担当)が9月19日、特定記者と懇談している。 「米国がイランとどうかかわるべきなのか、まだ様子を見ている段階。先方からの書簡の内容は(関係修復に)肯定的で、かつ建設的です。ただ言葉だけでなく、彼らがとる行動で判断したい」 行動というのは、イランが核兵器開発を中止するかどうかである。実行に移せるのか。米国をはじめとする西側諸国が注視するのはそこである。 今月18日、米NBCテレビの独占インタビューを受けたロハニ氏は明言している。 「核兵器という存在を肯定するはずもありません。宗教上、信仰上、また道義的理由からも反対です。イランが過去核兵器を求めてきたことはないですし、今後もないでしょう。平和利用でしか核開発を追求していません」 どこかで耳にしたようなセリフである。 シリア政府が化学兵器を「製造していないし、保有もしていません」と言い続けながら、今月になって初めて認知した事実に似ていなくもない。 今後ロハニ氏は時間をかけて、核兵器を開発していないことを国際社会に証明しない限り、この言説はシリアの虚言の二の舞になる。 ただロハニ氏は前大統領と違い、米国と対話する姿勢を見せていることは確かだ。それがポーズだとしても、オバマ氏と何らかの妥協点を見いだそうとしている。 今月20日には、ワシントン・ポストにハサン・ロハニ大統領の名前でコラムを掲載した。もちろん本人が直接書いたものではないだろう。だが、首都ワシントンの政府関係者に宛てた内容である。 「不健康なライバル関係を終わらせるためには協力が必要です。外交はもはやゼロサムゲームではありません。建設的な関与政策の時代に突入したというのが私の見方です」 コラムの主旨はごもっともであるが、国際原子力機関(IAEA)が2011年11月に出した報告書には、イランが核兵器開発を進めている研究内容が明記されている。爆発物の起爆装置開発や核弾頭設置実験が行われた記述もある。 安全保障問題の専門家であれば、イランの核兵器開発が現実的であるとの見方はシリアの化学兵器所有とほぼ同レベルのことである。 それだけにローズ大統領副補佐官が前述した「言葉だけでなく、行動で判断したい」というセリフは、米国政府の対応としては当然のことである。 ロハニ氏のツイッター、オバマ大統領を持ち上げる さらに、ロハニ氏はツイッター(英語)を駆使して西側諸国とコミュニケーションをとってもいる。もちろんこれもイラン政府の役人が代筆しているのだが、情報の発信に努めている。しかも米国へのあからさまな批判が影を潜めている。 たとえば、シリア政府が化学兵器の保有を認める前、オバマ大統領はシリアへの軍事攻撃をちらつかせていた。だが軍事行動がしばらく棚上げされると、ロハニ氏は「戦争をしかけなかったことは、(米国が)弱いことにならない。むしろ戦争することが弱いことだ」と回答し、オバマ大統領を持ち上げてさえいる。穏健派をあらためて強調するような発言である。 こうした両大統領の表象的な言動を眺める限り、両氏がいまにも硬い握手を交わし、トップ会談をするようにも思えるが、外交はそれほど簡単ではない。 少なくとも国交が断絶され、両国は長期間にわたって猜疑心を抱きつづけてきた。周囲を取りまく環境は急な変化に対応していけない。オバマ大統領はロハニ大統領の穏健な動きを歓迎してはいるだろうが、来春くらいまではロハニ大統領の真意と出方を探るだろう。急に関係改善を迫るほど、オバマ政権も浅はかではない。 というのも、米連邦議会は相変わらずイランへの制裁の動きを強めているからだ。2006年にイラン制裁法を、2010年には包括的イラン制裁法を成立させている。昨年6月もイラン原油制裁法を発効。今年7月にはイランの自動車産業に圧力を加えるため、部品供給を禁止する法案を成立させた。制裁の動きは弱まるどころか強まる一方なのだ。これが現実である。 オバマ政権の柔軟な対応とは逆に、連邦議会は上下両院とも過半数の議員がイラク制裁で団結している。それはワシントンで最強とも言われるイスラエルロビーの力によって、議員の意向が方向づけられているためだ。 オバマ大統領は9月30日、イスラエルのベンジャミン・ネタニヤフ首相と会談予定で、その時に同首相からイランへの不信任を改めて求めることが予想される。同首相の対イランへの考え方は、9月19日に公表した文書でも明らかだ。 関係修復のカギはイスラエルが握る 「イランの新大統領の欺瞞に満ちた言葉を盲目的に信用してはいけない。間違いなくイランは西側メディアを利用して、自分たちの利害を叶えようとしている」 ネタニヤフ首相は、イランの核兵器が完成に近づいており、ロハニ氏の甘い言葉は完成までの時間稼ぎに過ぎないというのだ。 現実的で成果のともなう外交というのは、双方が地道な協議をひとつずつ積み重ねていくことでしか成功を見ないはずである。その点で、オバマ・ロハニ両大統領が国連で握手を交わしたとしても、長年の対立が短期間で氷解するわけではない。 イラン国内ではむしろ、ロハニ氏が親米路線に舵を切ることで反発を招くこともありうる。米国でも、連邦議会からの反発は継続されよう。 カーター政権下で始まったイランとの確執は、オバマ政権2期目で解消されることになるのか。それはオバマ氏の政治力というより、最終的にはイスラエルの影響力によって決定づけられているかにも見える。 このコラムについて アメリカのイマを読む 日中関係、北朝鮮問題、TPP、沖縄の基地問題…。アジア太平洋地域の関係が複雑になっていく中で、同盟国である米国は今、何を考えているのか。25年にわたって米国に滞在してきた著者が、米国の実情、本音に鋭く迫る。 日経BP社 |