07. 2013年9月19日 03:50:32
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戦争はあってはならない!シリア攻撃は同国民の命のためなのか?! 2013年9月19日(木) エッテハディー・サイードレザ シリア政府が化学兵器を使用したとして、アメリカのオバマ大統領は軍事攻撃の意図を表明しました。これによって中東は、新たな戦争の危機に直面しました。もちろんアメリカは、様々な理由を挙げて、シリアを攻撃しない方向にもっていくと思います。多くの専門家も、「ロシアの反応とイスラエルの安全を考えれば、軍事攻撃をするはずがない」と考えています。 戦争が起こるか否かに関わらず、シリアが置かれている地政学的な位置と、アメリカをはじめとする自由主義陣営の行動がいかに利己的であるかを理解する必要があるでしょう。後に説明するようにシリアは特異な場所に位置しているため、自由主義陣営は軍事介入を控えていました。そして、内戦の停止に向けて努力するのではなく、反政府勢力に武器を供給し続け、内戦の火に油を注いできた。そして今、米国は、アサド政権が化学兵器を使用したと決めつけ軍事介入しようとしています。 アラブの春がシリアに波及 シリアで内戦が広がり続け、既に数万人の犠牲者が出ています。しかし、これまで、国際社会が軍事介入することはありませんでした。過去において国際社会は、「人権保護」を理由にいくつかの内戦に介入しています。その嚆矢となったのがコソボでした。NATO(北大西洋条約機構)は、「人権保護」を理由にコソボの内戦に軍事介入しました。この後、国際社会は2011年、リビアの内戦にも「人権保護」を理由に介入しました。なのに、なぜシリアには介入してこなかったのでしょう? 特に、シリアとバーレーンの状況を比較し、国際社会の反応を批判する専門家が多くいます。サウジアラビアがバーレーンに軍隊を派遣し、反政府勢力を抑圧した時、世界はバーレーンの国民のことを無視したように見えました。今回、アメリカがシリアに対する攻撃の意志を示したのも、シリア国民のためではなく、自らの国益のために軍事攻撃しようとしていると見えます。人権を真に大切にしようとしているのではなく、自分たちの都合によって介入したり、しなかったりしているわけです。 ここで、シリアが置かれている地政学的な位置と自由主義陣営の利己主義について詳細に見てみましょう。この利己主義の典型例として、かつてアメリカがイラン人に対して行った「人権侵害」を紹介します。 2010年に、チュニジアを皮切りにして、アラブの国々で次々に自由化の運動が起こりました。「アラブの春」と呼ばれるものです。欧州各国やオスマン帝国による植民時代が終わったあと今日まで、アラブの多くの国は、独裁政権が統治してきました。この独裁制度を転覆するべく、2010年にアラブ民族は立ち上がりました。 チュニジアやエジプトにおける自由化運動は、外国から干渉を受けることなく成功しました。一方、リビアでは、国連安保理の議決の下、国際社会が軍事介入したことで、カダフィー政権を転覆させることができました。この軍事介入は、「人権侵害」を防止するためだったと言えるでしょう。 そして、革命の波はついにシリアに至りました。アサド政権は例のない残酷さで反対勢力を抑圧し始めました。実は、シリアの国民が虐殺されるのは、これが初めてではありません。1982年には当時の大統領であったハーフィズ・アル=アサドが「ムスリム同砲団」の運動を抑圧し、1.7万〜4万人のシリア人を虐殺しました。しかし、当時は冷戦の影響もあったし、「人権保護」の意識もまだ高くはありませんでした。このため、アサド一族は政権を維持することができました。 2011年から始まったシリアの今回の反政府運動では10万人以上の死者と数百万人の避難者が出ました。しかし、シリアがとても戦略的な場所に位置しているので、自由主義陣営はこれまで軍事攻撃に踏み込むことができませんでした。 戦略的な位置にあるシリア シリアは次の2つの理由から「戦略的な場所」にあると言えます。1つは、イスラエルの隣国であること。第2は、ロシアの基地があること。 第1のイスラエルの隣国であることについて。アサド政権が崩壊した場合、反政府勢力がどんな政体を取るのか、今のところはっきりしていません。反政府勢力は様々な勢力で構成されています。単純に自由を求める人も居れば、イスラム原理主義のために戦うアルカイダのグループまでいます。アサド政権が転覆すれば、イスラエルが脅威に直面する可能性があるわけです。 2については説明するまでもないでしょう。アメリカが誤ってロシアの基地を攻撃するようなことがあれば、大問題になります。 このため、戦争による解決は合理的な方法ではありません。そこで自由主義陣営は、シリア国民にとって最も合理的でない行動を選択しました。内戦をずっと続くものとして、事態を見守る姿勢を選んだのです。自由主義陣営は、内戦を止め、何の罪もない国民の命を救うのではなく、反政府勢力に武器を供給し内戦を続けさせ、アサド政権を弱める道を選びました。このために、既に数万人の人が命を失っています。 それなのに今になって米国は、化学兵器を使用した疑いがあるので攻撃するとシリアを脅迫しています。米国は、本当に「人権保護」を考えているのでしょうか。米国がシリア国民の命を考えていたのなら、数万人の犠牲者が出ることはなかったのではないでしょうか。 化学兵器をアサド政権が使用したという証拠も定かではありません。さまざまテレビ局がシリアから報道した映像を見れば、化学兵器が使用されたことは否定できません。しかし、誰がこの化学兵器を使用したかを示すちゃんとした証拠はありません。そもそも国連の検査官がシリアにいる時に、アサド政権はなぜ化学兵器を使用するのでしょうか。 米国がシリアを攻撃しようとする目的は何なのでしょう。そして誰が化学兵器を使用したのか。これらの問いに対する答えは、オバマ大統領とアサド大統領だけが知っています。我々、一般人は30年間待ち、CIA(米中央情報局)が機密書類を公開するのを待つしかありません。しかし、その時どんなに大騒ぎになっても、命を失った人の役に立つことは何一つもないでしょう。 国益のためにイラン人の虐殺を許した米国 偶然なことに、イラン・イラク戦争でイラクが化学兵器を使用した時、米国がこれを止めなかったことが、CIAの機密書類公開によって明らかになりました。 イラン・イラク戦争は8年も続き、20世紀に起きた戦争の中で最も長いものと言われています。1980年にイラクがイランに侵攻。当時イラクの大統領であったサッダーム・フセインは戦争を始めた時、「3日間でイランの首都・テヘランを占領する」と自慢げに強調しました。戦争は結局、8年後に休戦条約を結んで終わりました。 イランは過去30年にわたって、イラクが化学兵器を使用したと主張してきました。しかし、国際社会はそれを認めてくれませんでした。8年の間、イラクは3500回も化学兵器を使用し、多くのイラン人は30年たった今でもその後遺症に悩み、命を失っています。 国際社会はイラクが化学兵器を使用したことを今年の8月末になっても相変わらず否定していました。しかし、CIAが機密書類を公開したことで、これ以上否定するわけにはいかなくなっています。 この書類について報じた記事によると、米国はイラクが化学兵器を保有することを知っていただけではありません。イラン・イラク戦争が終わりに近づいた1987年に、イラクがこの化学兵器を使用するのを手伝ったのです。イランが戦争に勝つ見通しが立った1987年、イランの部隊は大切な攻撃を準備していました。この時、米国は、軍事衛星を使ってイラン部隊の位置を確認し、イラクに伝えました。イラクは化学兵器を使い、イランのこの攻撃を防ぐだけではなく、イラン人を恐怖に陥らせました。 当時、在イラク米国大使館にいた米国人大使館員の1人は「イラクは『神経ガスを使用する意図』を我々に告げることはなかった。けれども、我々はそのことを既に知っていたから、イラクから聞く必要はなかった」とインタビューで語りました。まさに、恥知らずなこと極まりない行動です。 さらに米国は、1988年7月3日にイラン航空のエアバスを撃墜し、一般の乗客290人がすべて死亡しました。これを機に、イランは休戦交渉のテーブルに着くことになりました。子供66人を含む無実の人が米国の国益のために簡単に殺されたのです。このことは、イラン人の記憶に今でも鮮明に残っています。 戦争はあってはならないものです。戦争に「良い戦争」と「悪い戦争」の区別はありません。「国益のために」という理由で戦争に進むことは根本的に間違っています。国際社会がシリアの国民の命を考えていたのなら、これまでに数万人の犠牲者が出るはずがありません。 このコラムについて 100%イラン視点 イラン人コラムニスとのエッテハディー・サイードレザ氏が、日本ではほとんど知られていない「イラン・イスラム共和国」を生きる人々の暮らしや、日本に住むイラン人の視点で見た“日本”について、楽しく、分かりやすく紹介する。世界のメディアは「イランの脅威」を報道するばかりで、イランのユニークな自然や、世界に誇れる由緒ある文化や遺跡などをほとんど伝えていない。たとえイランに興味があっても、「イランは危ない」というイメージが渡航をためらわせる。そこでサイードレザ氏がビジネスやレジャーの対象国として再認識してもらえるよう、母国で実際に起きていることの真実を明らかにする。 日経BP社 |