03. 2013年9月18日 02:51:01
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JBpress>海外>USA [USA] 化学兵器を国際管理に置くことにしたシリアの欺瞞 アサド政権の延命で困窮する周辺国 2013年09月18日(Wed) 堀田 佳男 これほどの欺瞞があるだろうか。 シリア政府は過去、何度となく化学兵器の使用と保有を否定してきた。 化学兵器を持っていないと言い張っていたはずだが・・・ シリア政府の秘密部隊、化学兵器分散し「米国の追跡妨害」 米紙 荒廃したシリア首都ダマスカスのヤルムク)パレスチナ難民キャンプ(9月12日撮影)〔AFPBB News〕 今月6日、日本外国特派員協会の会見に現れたシリアのワリフ・ハラビ駐日代理大使にその点を質した。 「自国民に対して化学兵器を使っていないと、神に誓って言えるか」 同代理大使は微笑を浮かべてはっきりと次のように答えた。 「神に誓って言えます。化学兵器は使っていません」 「化学兵器の備蓄があると思う。ロシアから持ち込まれているはずだ」 「そんな事実は一切ありません」 だが9日、それが虚言であることが分かる。シリアのイターム・ムアレム外相がモスクワでロシアのセルゲイ・ラブロフ外相と会談。シリア政府として初めて、化学兵器の保持・備蓄を認めたのだ。12日にはバッシャール・アル=アサド大統領もこの事実を追認した。 さらにシリア政府はロシア側の提案で、化学兵器を国際管理下に置くことに同意。14日にはジョン・ケリー米国務長官とラブロフ外相がシリアの化学兵器の廃棄に向けた枠組みで合意した。 これで米国の軍事攻撃は一時的に回避されたが、これまで築き上げてきたシリア政府要人たちの言説は一瞬にして論拠を失った。 米国も過去何度となく、さまざまな場面で大統領や政府高官が虚言を述べてきてはいる。しかし化学兵器の全面否定から認知へと180度の方向転換を見せる数日前に、よくも「神に誓って言えます」と言えたものである。 しかもハラビ駐日代理大使は筆者の目をしっかりと見据えながら返答したのである。次の週には外務大臣と大統領が全く逆の内容を公表すると知らなかったとはいえ、自己嫌悪に陥らないのだろうか。 政府の中枢にいる人間がこうした虚言を吐く限り、化学兵器をすべて国際管理下に置くという合意をシリアが履行するか疑わしい。 米国、ロシアに次いで3番目に多い所有量 米露、シリア化学兵器の廃棄で合意 2014年半ばまでに シリアの化学兵器廃棄で合意した米国とロシア(左は米国のケリー国務長官、右がロシアのラブロフ外相)〔AFPBB News〕 2014年半ばまでに、すべての化学兵器を廃棄する予定だという。国連常任理事国の5カ国は廃棄案に合意しているが、シリア政府が本当に廃棄に真剣だろうか。 と言うのも、シリアは化学兵器の所有量においては米国、ロシアに次いで世界第3位とも言われており、廃棄は容易な作業ではないからだ。 専門家の見立てでは、少なくともシリア国内には10カ所以上の製造所と備蓄所がある。廃棄に至るまでには長期間が必要になるし、国際組織の監視員がシリアに派遣されても、隠蔽してすべてを開示しない可能性が高い。廃棄作業を行える要員や国際監視員の数にも限度がある。 イラクで大量破壊兵器の調査を主導したデービッド・ケイ元団長は米テレビに出演し、「この作業ができる要員は全世界でも数百人しかいないので、迅速に化学兵器の調査と廃棄を行うことは難しい」と現状を語っている。 米国は冷戦時代に3万1000トン以上の化学兵器を製造したと伝えられる。1997年以降、廃棄を始めているが、16年経った今もまだ終了していない。 今まで化学兵器の使用だけでなく所有すら明かしてこなかった国家が、米国からの軍事攻撃をかわす目的だけで簡単に化学兵器をすべて手放すとは思えない。それは北朝鮮が核兵器開発を全面的に破棄しなかったことに似ている。 さらにシリアは1997年に発効した国際条約「化学兵器禁止条約」を批准していない。同条約には189カ国が署名しているが、シリアは北朝鮮、イラク、イスラエルなどと並んで参加を拒絶している。その国が全廃を真剣に模索すると、どうして信じられるだろうか。 百歩譲って、シリアが今後化学兵器の使用を中止しても、反政府組織が化学兵器を入手して使っているとの情報もある。 国連は16日、調査報告書を公表し、8月21日に使われた化学兵器を神経ガスのサリンと断定したが、シリア政府軍によるものなのか反政府組織によるものかはいまだに不明だ。シリア政府は化学兵器の使用を認めていないが、1400人以上が死傷した事実は否定できない。 米露による会談が進んでも、米国の軍事攻撃が一時的に回避されるだけで、内戦の終結につながるわけではない。戦火が長引けば長引くほど反政府組織の活動は過激になる傾向さえある。 シリアの反政府組織は数百に上る 米大統領がシリア問題で演説、「外交努力を優先」 シリア問題でリーダーシップが問われている米国のオバマ大統領〔AFPBB News〕 すでにアルカイダ系組織「ヌスラ戦線」の動きは活発化している。欧米諸国が支援する「自由シリア軍」をはじめ、セクト間、民族間の反政府組織は数百に上るとの情報もある。 都内で先週、ランチを共にしたヨルダン人は、「できればバラク・オバマ大統領には軍事攻撃を行ってほしい」と切実に訴えた。 「アサド政権を倒さずして中東の平和は訪れない。1999年にビル・クリントン政権が行ったセルビアの爆撃に似た軍事作戦を敢行すればアサド政権を倒せるはず」と説く。 たしかにオバマ政権の高官は、米軍の戦略オプションの1つとしてコソボ空爆のモデルを挙げている。米軍が先導する北大西洋条約機構(NATO)軍は、セルビアに対して78日間の空爆を行った。米国は国連安保理の承認を得ずして空爆に踏み切り、地上軍は投入していない。 当時、米連邦議会は空爆するかしないかで2つに割れていた。下院の採決は213対213。しかしクリントン大統領は「ゴーサイン」を出した。 結果として独裁者スロボダン・ミロシェヴィッチ大統領を政権から引きずり下ろし、アルバニア系住民に対するジェノサイドの責任を追及して逮捕・収監している。 米国にしてみると、空爆だけで自国の死傷者は出さず、地上軍を投入しなかったので戦費も格段に安かった。結果的にコソボ紛争による88万人の難民のうち、80万人が故郷に戻ることになった。 前出のヨルダン人も難民についての憂慮は大きいと語る。 「現在、シリアから国境を越えてヨルダンに入った難民数は70万人を超えました。毎日5000人ずつ増えています。もう財政的にも治安面でも限界です。それでなくとも我が国にはパレスチナ難民が大勢います。早くシリア内戦を終結させて、政情安定化を図って難民が母国シリアに帰国できる体制をつくる必要があります」 米国がいまロシアとシリア問題で会談できる関係になったことで、シリア政府と反政府組織、さらに周辺国を含めた地域和平会議を開く必要があるだろう。 化学兵器の使用禁止だけでなく、シリア国内での休戦協定を締結しなくてはいけないし、米国は反政府組織に提供している軍事的、金銭的支援も止めるべきである。 国連の監視の下、新政府樹立に向けての段階的な準備も必要になる。セクト間を取りまとめることは容易ではないし、生やさしい作業ではない。 何よりも、シリア人の中から民主化を推進する強剛な指導者の登場が望まれる。
JBpress>海外>Financial Times [Financial Times] ミサイルだけでは米国の信頼性を確立できない 2013年09月18日(Wed) Financial Times (2013年9月17日付 英フィナンシャル・タイムズ紙) 米大統領がシリア問題で演説、「外交努力を優先」 バラク・オバマ大統領はシリア危機を巡る対応で米国の信頼性を損ねたのか?〔AFPBB News〕 米国政府にしてみれば、化学兵器の使用はシリア危機の1つの側面にすぎない。この危機ではもう1つ、非常に重要なものが危険にさらされている。それは米国の「信頼性」、すなわち、米国と世界の安全保障が頼りにしていると見なされることの多いあの神秘的な特性だ。 ロシアの外交活動のおかげで、バラク・オバマ大統領はシリア問題を巡り米連邦議会で屈辱的な敗北を喫する恐れを免れた。 だが、この一連の展開では、米国の大統領や政治家、そして国民は軍事力の使用にますます消極的になっており、米国の言う「レッドライン(越えてはならない一線)」が越えられた時でさえ軍事行動を渋るという印象が残ることになった。 そのため、イランや中国などの米国の競合国は近いうちに米国の決意を試したくなるだろうとの懸念が浮上している。 様々な要素で構成される大国の「信頼性」 その可能性は確かにある。しかし、米国の影響力はレッドラインが越えられたら必ず行動を起こすという意思があるか否かにかかっているというのは、大国にとっての「信頼性」の意味をあまりにも狭くとらえた見方だ。 安全保障にかかわる約束を守ろうとすることは、信頼性の一要素でしかない。外交政策でとんでもない失敗をしないことや、強い経済と魅力ある社会を維持することも、信頼性の重要な要素だ。 例えばここ10年間で、世界に対する米国の影響力や威信に最も大きな打撃をもたらしたのは、イラク戦争と2008年の金融危機だった。どちらも、レッドラインを守ることや巡航ミサイルを発射することに消極的な姿勢とは全く関係がない。 それどころか、イラク戦争から得られた1つの教訓は、しっかりと計画を練らずに軍事介入を行うことは、軍事力の行使についてためらうことよりもはるかに大きなダメージを米国の影響力にもたらし得るということだった。 実際、過去半世紀の間に見られた、米国の世界的な地位に対する最も大きな打撃を2つ挙げるとするなら、いずれも、ベトナムとイラクという誤った軍事介入によるものだったと言えるだろう(イラク戦争はベトナム戦争によるダメージの一部を再現している)。 そしてこれとは対照的に、米国の外交政策による最大の勝利――ソビエト帝国の崩壊――は、大砲を1度も撃つことなく達成されているのだ。 レーガン元大統領も部隊の派遣には極めて慎重だった 「鉄の女」が拾ったレーガン大統領の落書き ロナルド・レーガン元大統領(右)は「強い米国大統領」の象徴〔AFPBB News〕 保守派から見れば、ジミー・カーターと今やオバマ氏が弱い大統領の典型であるように、ロナルド・レーガンが強い大統領の典型だ。 しかし、レーガンは確かに軍事費を増やしたものの、実際に部隊を派遣することには非常に慎重だった。 例えば、レーガン政権が米軍に課した最も大胆な任務は、人口9万人の小国グレナダへの侵攻だった。また1983年、レバノンに派遣されていた米軍兵士241人が爆弾攻撃を受けて命を落とした時には、米軍をレバノンから撤退させている。 リビアへの空爆も行ったが、これは懲罰を目的とした短期間の攻撃で、当時のカダフィ政権を倒す意図はなかった(この点は、シリアに対するオバマ氏の計画にやや似ている)。 結局のところ、レーガン時代に重要だった強さは国内経済の再興だった。米経済の再興は、折しもソビエト経済が崩壊していく時に米国が自信と威信を取り戻すのに役立った。 オバマ氏は間違いなく、世界における米国の強さは究極的には経済の強さで決まるという要点を理解している。米国は「国内での国造り」に注力しなければならないと、ことあるごとに繰り返しているのがその証拠だ。 肝心なのは経済の強さ 過去1世紀に見られた世界の覇権国の盛衰もこの要点を裏付けている。英国やフランスの衰退、そしてソビエト連邦の没落は、経済力が弱いために国際社会への関与を継続できないという事実によって引き起こされたものだった。 この3つの事例ではいずれも、戦争の費用が国を傾かせた。ソ連では、アフガニスタンへの侵攻が自らのとどめを刺す原因の1つになり、英国の帝国を維持する能力は第2次世界大戦の戦費により事実上潰えた。そして戦後のフランスの強さは、アルジェリアとインドシナにおける不運な戦争によって蝕まれた。 世界最大の経済大国の座が中国に近々明け渡されることを考えれば、米国には、多額のコストをもたらす軍事面での過ちを今後も繰り返すゆとりなどない。 だが、シリアの化学兵器使用を受けて、新たな外国紛争を避けようとするオバマ氏の決意が揺らいだ。 大統領とホワイトハウスのチームは毒ガスの使用に心から震え上がり、米国のレッドラインに何らかの意味があることをはっきり示したいと思っていた。 オバマ氏は軍事介入の計画がいかに限定的であるかを繰り返し強調することで、軍事行動を求める呼びかけと、自身が抱く反介入主義の本能に折り合いをつけようとした。ジョン・ケリー米国務長官の言葉を借りれば、軍事行動は「信じ難いほど小規模」なものになる計画だった。 だが、懐疑的な向きは、それほど限定的な攻撃が一体どんな成果を上げるのか、また、介入が次の介入を呼ぶのではないかという当然の疑問を投げかけた。 効果的だった武力行使の威嚇 シリア危機は扱いが難しい危機の典型例だ。何しろ、シリアへの軍事介入の是非を巡る議論では、双方の主張が説得力を持っている。また、オバマ氏の舵取りは不安定だったものの、軍事力を行使するという威嚇はなされ、実際にロシア、シリア両国は態度の変化を強いられた。 というのは、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が、これまで誰も気付かなかったオバマ氏への心の広さから外交イニシアチブに乗り出した可能性もあるとはいえ、ロシア政府が心底、中東での米国の軍事行動に危機感を募らせたために素早い行動に出た可能性の方が高そうだからだ。 その意味で、不器用な対応にもかかわらず、オバマ氏の軍事行動の威嚇は効果的だった。 米政府がシリアに向けて即座にミサイルを発射できなかったことは、国際問題において未来永劫、米国の軍事力が行使されないことを意味すると結論付ける国があったとすれば、それは間違いなく愚かな国だ。米国は今なお世界で傑出した軍事大国であり、軍事介入の長い歴史を持つ。 オバマ氏が軍事行動を取る前により注意深く熟慮する決意を固めているという事実は、必ずしも米国の信頼性を損なうものではなく、むしろ信頼性を守る助けになるかもしれない。 By Gideon Rachman
JBpress>日本再生>国際激流と日本 [国際激流と日本] 北朝鮮はシリアの同志、 オバマ政権の「弱腰」でますます増長? 2013年09月18日(Wed) 古森 義久 米国のシリアへの軍事攻撃宣言を巡る混迷の展開は、北朝鮮という意外な存在に意外なスポットライトを浴びせることとなった。「オバマ大統領の右往左往したシリアへの対応は、北朝鮮に自信を与える効果があった」という見解が語られるようになったのだ。そうなると北朝鮮はこれまでよりも強気な対外姿勢を取ると見られ、わが日本にも影響が及ぶことになる。 非人道的なアサド政権の行動が不問の形に オバマ大統領のシリア軍事攻撃の宣言は二転三転し、意外な結末を迎えた。結末といっても、まだ変転の可能性はある。だが、米国による軍事攻撃はまず起きないだろう。 その意味ではこの駆け引きでの敗者は米国であり、勝者はシリアとロシアと言えそうだ。そしてその背後で北朝鮮がにんまりするという構図が浮かんでくるのである。 まずオバマ大統領は、シリア政権軍が大量破壊兵器である化学兵器を使用したことは国際規範や人道主義に反する行為だとして軍事攻撃での懲罰を加えると宣言した。2013年夏、オバマ大統領はシリア情勢について、アサド政権が大量破壊兵器を使えば、米国はその行動を「レッドライン(赤い線)」を越えたと見なし、断固たる懲罰行動を取ると言い切っていた。その後にアサド政権軍が実際に化学兵器を使ったという情報を得て、その誓約を実行に移さざるを得ないと判断したのだろう。 ところが同大統領はすぐに態度を変え、米国議会にその是非を諮ると言明した。米国の憲法上、この種の軍事力行使に際して、大統領は米軍の最高司令官として、また行政府の長として、特に議会の意向を問う必要はないのにもかかわらず、だ。 だが、米国の議会も世論も軍事力行使には反対が多かった。米国のこの種の実力行動にはいつも同調するイギリスも議会も「ノー」の表決を下した。 オバマ大統領は振り上げたこぶしをどうするかの判断に迫られた。そんな状況の中でロシアのプーチン大統領は米国の動きに反対し、「シリア政府が化学兵器を使った証拠もない」とまで明言した。G20という国際舞台で米国大統領の言葉を正面から否定してみせたのだ。 そんなところに突然ロシア側から「シリアの化学兵器を国際管理下で廃棄する」という提案がなされた。シリアのアサド大統領もすぐに同意した。それまで化学兵器の保有さえ認めていなかったアサド大統領が、保有していることを前提に廃棄に応じたのである。 米国の巡航ミサイルを自国の軍事拠点に撃ち込まれることを避けられるのなら、「廃棄」という姿勢を見せるのもそれほど高い代償ではない、という計算だろう。本当の廃棄かどうか、内戦下のシリアでの検証はとてつもない難作業となる。 9月14日にはこのロシア提案に米国政府も同意して、シリアの化学兵器問題は外交交渉や国連の調停に委ねられることになった。 これにより、今回の騒ぎのそもそもの原因であるシリア軍による化学兵器を使った自国民1400人の大量殺戮という蛮行は、当面、懲罰を受けないままとなった。オバマ大統領が「決して許さない」と断言した非人道的なアサド政権の行動は不問の形となってしまったのだ。 アサド政権がいくら化学兵器を放棄するからといって、こうした事態の展開は、オバマ大統領の当初の誓約からすれば決して許容できる範囲ではないだろう。ピストルを使って殺人を犯した犯人が、そのピストルを放棄さえすれば殺人は責められない、という状況を考えれば、いまのシリアの事態のいびつさが分かる。 大量破壊兵器を開発する北朝鮮とシリア アメリカがこうした外交交渉に応じるのは、やはりオバマ大統領が最初から軍事力行使にためらいがちだったからだろう。 「軍事忌避」「交渉優先」というのは、国際問題への対応としてそれ自体は褒められてよい姿勢である。だが大量破壊兵器を使った大量虐殺という事態が起きてもなお、その責任をめぐって外交交渉をするだけということになれば、国際秩序はどうなるのか。犯罪的な行為への懲罰も報復も制裁も取られず、その実行について外交的な交渉を始める、というのであれば、暴力を振るう側が野放しに近い常態となる。 アメリカのこうした態度の結果、どのような国が得をするのか。 当のシリアや、その支援国のロシア、さらには米国が消極的かつ軟弱になると利益を受ける中国、という諸国の立場は割と分かりやすい。だが、意外なのは北朝鮮である。 今回の外交展開で北朝鮮が利益を得る。そうした見解をオバマ政権の高官たちが述べている。 ジョン・ケリー国務長官は「北朝鮮はシリア軍事攻撃を審議する米国議会の動きをじっと見つめ、同議会が曖昧な結果の審判を下すことを切望している」と語った。チャック・ヘーゲル国防長官も「北朝鮮は化学兵器の使用を禁じる国際規範が弱くなり、米国が消極的になると、より高圧的な対外姿勢を取るだろう」と述べた。 他の米国政府高官たちも「シリアの大量破壊兵器使用に対して制裁を加えなければ、北朝鮮のように大量破壊兵器を開発する他の諸国にとって、軍事力で阻止されたり報復される恐れが減ることになる」と強調していた。オバマ政権は「北朝鮮を増長させないためにもシリアを攻撃せねばならない」と対外的に宣言していた。だから攻撃をしないとなると、北朝鮮が増長するというのは自然な理屈だろう。 大量破壊兵器と言えば、核兵器を筆頭に化学兵器、細菌兵器である。現在、米国が問題視する大量破壊兵器の開発国家は、まず北朝鮮とイランである。両国とも核兵器の開発を急いでいることが明白となっているのだ。 歴代の米国政府はオバマ政権も含めて、北朝鮮に対する「レッドライン」として、北が自国で完成させた核兵器そのもの、あるいは部品類を他国へ輸出することを挙げてきた。北朝鮮が核弾頭の小型化、軽量化に成功し、米国本土に届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)に核弾頭を装備することを確実に達成したとなれば、これまたレッドラインを越えたこととする指針が最近では明確となっていた。 今後、自国の化学兵器を米国との交渉に利用? 北朝鮮にとってシリアは同志だと言える。北朝鮮とシリアは、米国政府による「テロ支援国家」に共に長年指定されていた。北朝鮮はブッシュ前政権の最終段階でその指定を解除されたが、シリアはなお指定されたままである。 そのうえ、北朝鮮とシリアは大量破壊兵器をめぐる協力も緊密だった。シリアは北朝鮮の支援を得て、明らかに核兵器製造用と見られる原子炉を自国内に建設していた。その原子炉は2007年9月、イスラエル空軍の奇襲で破壊された。翌年4月に米国政府が空爆の前と後の証拠写真を公表したところ、間違いなく軍事用の核爆弾製造のための原子炉だったという。 北朝鮮とシリアは化学兵器でも共通点があった。まず両国とも化学兵器を開発し、保有していた。そして化学兵器の貯蔵や使用を禁じる化学兵器禁止条約に両国とも加盟していなかった。シリアの保有する化学兵器は、すでに伝えられるように、ロシアだけでなく北朝鮮からも調達されていたという情報もある。 このように北朝鮮とシリアは共にテロ支援国家の軌跡を有し、しかも大量破壊兵器の開発や保有に協力し合ってきた。このつながりを見ると、シリアがサリンを使って1400人を殺しても、物理的な制裁を何ひとつ加えることができず国際的な外交交渉にその対応を委ねるという米国の対応が北朝鮮に一種の安堵感を与えることは、論理の帰結だろう。北朝鮮はオバマ政権の弱腰を見極めたことにもなる。 北朝鮮の今後の動きについては、ロシア外交官として北朝鮮に駐在した経験を持つ北朝鮮研究者のゲオルギ・トロラヤ氏が、米国の外交雑誌のサイト(9月12日付)に興味ある論文を発表した。 「シリア危機と北朝鮮」と題する同論文で、トロラヤ氏はこう述べていた。「北朝鮮は、シリアが化学兵器を外交取引の材料として使い非常に大きな報償を得られそうになってきた状況を見て、今後、自国の化学兵器を米国との交渉に利用してくる確率が高い」 いずれにしても、今回のシリアの化学兵器使用と米国の軍事攻撃保留の動きが北朝鮮をこれまでよりも強気にさせるという展望は、日本としても認識しておくべきだろう。 |