01. 2013年9月12日 10:00:49
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JBpress>海外>欧州 [欧州] スウェーデン、シリアからの全難民受け入れを宣言 シリア危機を巡り揺れる欧州〜北欧・福祉社会の光と影(26) 2013年09月12日(Thu) みゆき ポアチャ 米大統領、世界に対シリア軍事介入への支持を求める オバマ大統領はG20首脳会議の前にスウェーデンを訪問した(写真右はスウェーデンのフレドリック・ラインフェルト首相)〔AFPBB News〕 先日書いたが、先週9月5〜6日にロシア・サンクトペテルブルクで開かれた主要20カ国・地域(G20)首脳会議の前にバラク・オバマ米大統領がスウェーデンを訪問した。 到着後、スウェーデンのフレドリック・ラインフェルト首相と会談した大統領は、さっそくシリアへの軍事行動への支持を求めたようだが、首相は「国際的な平和と安全保障の問題は国連の場で対応すべきだと信じる」と明言し、米国を支持する姿勢はさっぱり見せていない。 その後に出された北欧5カ国との共同声明でも、米国と軍事行動をともにすると表明した国はない。北大西洋条約機構(NATO)加盟国であるデンマークですら、ヘレ・トーニング・シュミット首相は「外交面で後押しする」とは表明したが、軍事面での協力については何の言及もしていない。 シリア難民全員を受け入れ、申請すれば永住権も付与 オバマ大統領がスウェーデンに足を踏み入れる前日の3日、スウェーデン政府は入国を希望するシリア難民全員を受け入れると発表した。一時的な滞在許可だけではなく、申請すれば永住権も得られる。家族を呼び寄せることも可能になる。 この理由として、移民難民政策担当省はホームページで「シリアでの紛争が3年目に入り、さらにエスカレートしている。 国際政治や外交政策の努力でも、現在の状況では解決には到底至らないように見える。限定的な外国の軍事作戦は、国の状況を安定させることが期待できない。従って紛争は恐らく継続するだろう」と説明している。 シリア難民に永住許可を付与する国は、欧州では前例がない。 同省のフレドリック・ベングトソン氏は、「現在スウェーデンは、こういったケースについてのロールモデルとなっている。今日シリアで何が起こっているのかは、誰の目にも明らかだ。 今、スウェーデン内で社会の成員全員が連帯し、責任を取る必要がある」と話している*1。 同省が言うように、シリアの内戦が解決に向かい、難民の波が減少する見通しは全く立っていない。 スウェーデン政府が「全難民受け入れ」を発表した同日、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が、シリアの国境を越えた難民の数が200万人を超えたと発表した。この前週に国連人道問題調整事務所(OCHA)が発表した数字によると、シリア国内で避難している人は425万人、これにイラク、ヨルダン、レバノンなどの周辺国へ入国している難民の数を合わせると600万人を超えている*2。 *1=http://www.migrationsverket.se/info/7595.html, http://sverigesradio.se/sida/artikel.aspx?programid=83&artikel=5634316, http://www.dn.se/nyheter/sverige/darfor-far-syrierna-stanna/ *2=http://www.unhcr.se/en/media/artikel/0afb4303075d26b5465565e23949bd00/unhcr-two-million-syrians-are-refug.html http://www.migrationsverket.se/info/7595.html スウェーデンは現在、最大のシリア難民受け入れ国だ。2012年から2013年にかけて、約1万5000人のシリア難民がスウェーデンに入国した。2013年中に、合わせて5万4000人が新たに入国すると同省は予測している*3。
右表によると、今年の1月以降スウェーデンに入国した難民数が減少しているが、これは欧州への入り口となっているギリシャが国境の警備を強化したためだ。シリアの状況が落ち着いて、出国する難民数が減少したというわけでは全くない。 ギリシャ当局によるシリア難民の扱いに非難の声 話が多少逸れるが、アムネスティ・インターナショナルや国境なき医師団などは繰り返し、ギリシャ当局の残忍な移民・難民の処置を厳しく批判している。 アムネスティ・インターナショナルのリポートでは、粗末なボートでギリシャ沖にやっと到達し、上陸の直前で溺死する何百という難民の状況や、やっと上陸した難民をギリシャ当局が刑務所に収容し「恥ずべき、ぞっとするような」条件で拘束していることが報告されている。 保護者を伴わない子供たちは、国際基準に違反する「非常に劣悪な条件」下で収容されている。数カ月前に見たテレビのドキュメンタリーでは、ギリシャの沿岸警備隊がボート上の難民に銃を向け「動くな、動いたら撃つ」と言ったり、意図的にボートを沈めようとしている映像もあった。 アムネスティ・インターナショナルによると、ギリシャが難民として入国を正式に許可しているのは到着する人のうちわずか1%だ。とにかくギリシャ当局は、あらゆる手段で受け入れ数を減らそうとしているようだ*4。 話をスウェーデンに戻すと、受け入れに当たっての国内での最大の問題は住宅不足だ。これに加えて、スウェーデンは現在、違法滞在者にも医療や教育の権利をほぼ認めており、難民の大量受け入れが国家財政に与える影響は甚大だ。受け入れ賛成派と反対派が世論を二分し、そして難民・移民と、もとの住民との軋轢など、社会問題も噴出している。 以前「大量難民の波とシリア戦争終結の可能性」でも書いたが、大挙して押し寄せる難民の波がこのまま増え続ければ、スウェーデン財政は破綻、国家分裂の危機だ。 スウェーデンの難民受け入れ拡大は対米措置か? この状況で、なぜ難民をさらに受け入れようとするのか? そして、オバマ氏の訪問直前のタイミングでシリア難民全面受け入れを発表したスウェーデン政府の意図は何か? 首相をはじめ誰も言おうとしないが、この背後には、やはり米国のシリアへの軍事行使反対の意思があるのだろう。米国との関係悪化を恐れつつも、それを明言せず、こうして意思表示をしようとする、ほとんど苦渋の決断、ということではないのか。 *3=http://www.advokatsamfundet.se/Advokaten/Tidningsnummer/2013/Nr-4-2013-Argang-79/54-000-asylsokande-beraknas-komma-till-Sverige-under-2013/ *4=http://www.amnestyusa.org/research/reports/annual-report-greece-2013?page=2, http://livewire.amnesty.org/2013/04/12/8229/, http://www.bbc.co.uk/news/world-europe-20793729 米国の言い分は「シリアのバシャル・アル・アサド政権が化学兵器を使用した」ということだ。8月21日にシリアの首都ダマスカス近郊で化学兵器による攻撃があり、多数の市民が犠牲になった事件について、米国政府はシリア政府軍が行ったとして、国際的に違法な化学兵器の使用に対して制裁するとしている。 しかし米国は、シリア政権が化学兵器を使用したという明確な証拠を明示できずにいる。国連をはじめとする多くの専門家が、「アサド政権が行ったという証拠ははっきりしない」と言っている。 アサド政権は化学兵器使用を否定、米国でも根強い攻撃反対論 当のアサド大統領は、化学兵器は使っていないと繰り返し明言している。 ロイター通信の報道によると、仏紙フィガロのインタビューで同大統領は「政府軍も展開する場所で化学兵器を使用することは不合理だ」とし、「オバマ、(フランスのフランソワ・)オランド両大統領はこれまで政権側が化学兵器を使用したという証拠を提示できていない」と主張している。 また、9月8日のCBSテレビによるインタビューでも「私が国民に対し化学兵器を使ったという証拠はない」と述べ、「使用したのは反体制派側だ」と話している。 シリア軍事介入に疑念示す欧州各国、米に同調せず ホワイトハウスの前でシリアへの軍事攻撃に反対し、抗議デモを行う人々〔AFPBB News〕 さらに、米国民の多くも、自国政府がシリアを攻撃することに反対を表明している。 3日に公表された米ワシントン・ポストとABCニュースの世論調査によると、ほぼ6割、59%の国民がシリアに対するいかなる軍事攻撃にも反対するとしており、攻撃を支持すると答えたのは36%だった。若い年齢層での反対は多く、18〜39歳の間で65%、65歳以上の間で55%となっている*5 9日に公表された、ロイターとイプソスの調査では、シリアへの軍事介入に反対する米国民は63%となっており、8月30日までに実施した調査での53%から増加している。一方、支持すると回答した人は前回の20%から16%に低下した*6。 自国民の多くが反対していることは、米国政府も認識している。 オバマ大統領はG20首脳会議の閉幕時に「現在の世論がどうなっているのかは、よく分かっている」「多大な人的犠牲と財政負担を負いながら10年以上にわたる戦争を経験してきた米国民は、中東へのさらなる軍事介入を想像させるどんなものに対しても疑いの目を向けるだろう」と述べ、戦争に疲れた国民に軍事攻撃を支持するよう求めるのは容易ではないと認めている*7。 欧州の風向きに変化 G20サミットでは、大方の報道によると「オバマ米大統領はシリアに対する軍事攻撃を呼び掛けたが、参加国の意見の対立を解消することはできず、国際的な支持を集めるには至らなかった」といった論調だった。報道のタイトルも「米への支持は広がらず」「シリア問題では意見対立」というものが目立った。 つまりG20サミットでオバマ大統領は「シリアへの軍事介入への、各国からの支持の取り付けの説得工作に失敗した」と認識されたということだった。 そのはずなのだが、欧州では、サミット後の数日間に突如として米国の軍事介入を支持するという方向に風向きが変わり始めたようだ。 *5=http://www.washingtonpost.com/blogs/the-fix/wp/2013/09/03/most-in-u-s-oppose-syria-strike-post-abc-poll-finds/ *6=http://www.reuters.com/article/2013/09/09/us-syria-crisis-poll-idUSBRE9880YJ20130909 *7=http://stream.wsj.com/story/latest-headlines/SS-2-63399/SS-2-319062/ 「シリア軍事介入への支持は拡大している」、米仏外相 シリアへの軍事介入に対する国際社会の支持取り付けに奔走するジョン・ケリー米国務長官(左)〔AFPBB News〕 サミットが閉幕した翌日の7日に、リトアニアの首都ビリニュスで、ジョン・ケリー米国務長官が参加して欧州連合(EU)外相会議が行われた。 この後に発表された声明では、EUはこれまでの姿勢を一転させ、「(幅広い情報源からの)情報は、十分な量の化学兵器および同兵器の投下手段を所有する唯一の者として、シリア当局が(化学兵器による)攻撃を行ったとの説得力のある証拠を示しているようだ」とし、シリアに対する米国の戦争準備を支持した。 読み上げられた声明の内容は、こうなっている。 「ダマスカス郊外において大規模な化学兵器による攻撃が行われ、多くの女性や子供を含む何百人もの人々が殺害された」「攻撃はあからさまな国際法違反であり、戦争犯罪および人類に対する犯罪である」 はっきりした証拠がないままシリア攻撃支持に転換 シリア政権が化学兵器を使用したとする何らのはっきりした新しい証拠も提示されていず、シリア当局が攻撃を行ったとの証拠を「示しているようである」という推定だけで、シリア政権を犯人扱いするものだ。 さらに声明は「この身勝手な化学兵器の使用に直面した今、国際社会は手をこまねいているわけにはいかない。このような犯罪は許されず、罰せられないことはあり得ないことを明確にするため、はっきりとした強力な対応が必要である。シリアもしくは別の場所で再び化学兵器が使用されるための悪しき前例を作るのを阻止しなければならない」としている。 オバマ大統領が8月末に、ホワイトハウスで対シリア軍事行動を決断したという声明を発表したが、この時の声明に酷似しているようだ。オバマ氏が述べたのは、こうだ。「シリアで、アサド政権が化学兵器を使用し、女性や子供など1000人以上が殺害された・・・(この攻撃は)周辺国をも脅かすもので、目をつぶることはできない」*8 8日付のウォールストリート・ジャーナル紙によると、このEU外相会合での声明の骨子を決定した原動力はドイツだという。 前週のG20サミット時に提出された「シリアの化学兵器攻撃に『強力な国際的な対応』を呼び掛け、米国などの取り組みを支持する」声明に対し、ドイツのアンゲラ・メルケル首相は「欧州の統一見解を出すことが先だ」として反対し、署名していない。 が、その後ドイツは方針を転換し、上記の声明に署名して米国を支持することを決定したようだ。同紙によると、ドイツ外相のギド・ヴェスターヴェレ氏は「EUの優れた、非常に賢明な態度を見た後、首相と私は今、当然ながらG20の声明を支持すると決定した」と話した*9。 *8=http://www.consilium.europa.eu/uedocs/cms_data/docs/pressdata/EN/foraff/138691.pdf *9=http://online.wsj.com/article/SB10001424127887323623304579060692417802108.html シリアのクルド人が大挙してイラクに流入、激化する戦闘逃れ 米国による軍事攻撃を控え、大勢のシリア国民が日々、国外に脱出している〔AFPBB News〕 ここへ来て、シリアに化学兵器の放棄を求めるロシア提案を受け、外交的解決を目指す動きが活発になっている。オバマ大統領も10日の国民向けテレビ演説で、当面は外交努力を優先する方針を示した。だが、米軍には攻撃準備態勢の維持を指示した。 実際、米国はシリア攻撃に向けた準備を着々と進めてきた。ウォールストリート・ジャーナル紙によると、シリア戦争計画は当初のシナリオから拡大しており、現在は東地中海に展開する米海軍艦隊からの巡航ミサイルの一斉射撃だけでなく、中東地域の米軍基地および米国本土の基地からも米戦闘機を派遣して、持続的に爆撃作戦を遂行することも含まれている。 介入シナリオは本格的な軍事攻撃に拡大か? 同記事中に詳述されている利用可能なオプションは、「巡航ミサイルを運ぶことができるB-52爆撃機、カタール基地にある低空飛行長距離、空対地ミサイルを運ぶB1S、ミズーリ基地の重い誘導爆弾を運ぶB-2ステルス爆撃機がある」という*10。 ロンドンのタイムズ紙は、6日にこう報じた。「米中央情報局(CIA)は、彼らが来週開始する可能性がある米国の爆撃攻勢に役立つように、シリアの反政府勢力にサウジアラビアや他のアラブ諸国からの新たな武器供与を監督している」「兵器の新たな大規模な注入は、対戦車兵器や対空ミサイルだけでなく、他の武器も備えている」*11 準備されているのは、シリア政府に対する本格的な軍事攻撃だ。目標はアサドを暗殺してシリア軍を一掃し、別の政権を立てることのようだ。 ロシア提案が出た後、事態は急速に流動性を増したものの、軍事攻撃が回避されるかどうかは、まだ予断を許さない。もし攻撃が行われたら、そのプロセスで、シリアの民間人、男性と女性、数千、数万の子供たちがさらに殺されることになる。 *10=http://online.wsj.com/article/SB10001424127887324577304579054973488682120.html *11=http://www.thetimes.co.uk/tto/news/world/middleeast/article3861699.ece http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/38667 |