02. 2013年9月10日 08:40:08
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シリア軍事攻撃、八方塞がりのオバマ大統領中東を変えるのは、結局SNSでなくジハード(聖戦)なのか 2013年9月10日(火) 堀田 佳男 米オバマ政権によるシリアへの軍事攻撃が現実味を帯びてきた。 軍事攻撃に至る背景として、オバマ大統領はかねてイラク政府軍による化学兵器の使用を条件に挙げていた。いわゆる「レッドライン(越えてはならぬ線)」を踏み込んだら、ということだ。 8月21日、首都ダマスカスの郊外で化学兵器(サリン)が使用され、ジョン・ケリー国務長官は26日、シリア政府が使ったことは「否定できない」と発言。フランスもこの見方に追従した。 しかし、さまざまな角度から冷静に眺めると、シリア政府軍の犯行であるとは断定できていない。シリア政府の肩をもつわけではない。単に現段階で、シリア政府の悪行と結論づけるには科学的データが揃っていないということだ。 国連調査団がシリア国内に入り、化学兵器の使用疑惑を解明するため、被害者の血液や土壌の分析を進めている。その結果が出るのは9月中旬以降である。 駐日シリア代理大使は「神に誓って使ってない」 この件でワリフ・ハラビ駐日シリア代理大使は6日午後、本国からの要請を受けて東京都内で会見を行った。 「日本は米国と信頼関係にあるので、ぜひ米国に圧力をかけて(軍事攻撃を)阻止して頂きたい」 さらに「シリア政府が自国民を殺害することはないし、その見方は一方的なもの」と述べ、化学兵器の使用を否定した。それは最初から想定できた言い分だった。筆者は同代理大使に詰問した。 「自国民に化学兵器を使っていないと、神に誓って言えるのか」 イスラム教徒やキリスト教徒にとって、「神に誓って」という言葉は重い。ハラビ氏は笑みを浮かべながら明言した。 「神に誓って言えます。化学兵器は使用していません」 「ロシアから化学兵器を持ち込み、その備蓄が国内にあるのは本当か」 「そんな事実は全くないです」 ハラビ氏の言葉に淀みはなかった。仮に同氏が化学兵器の使用を熟知し、その上で虚言を吐いているとしたら、これはもう「悪党」と呼んで差し支えない。1400人を超す自国民の死傷者が出ている。 化学兵器使用の完全否定は、アサド大統領を始めとするシリア政府要人に共通する態度である。しかし、その場にいたスイス人記者は「プロパガンダ(世論誘導の宣伝行為)だな」と呟いた。真実はまだ判らないままだ。 一方、ケリー長官は国連調査団の結果が出される前にシリア政府軍の犯行と断定した。それは米諜報機関の報告が上がってきたからだった。 「シリアで行われた(化学兵器による)攻撃は、良識と常識によって十分に判断がつく」 テレビカメラの前で、米国民に説明した内容は、残念ながら科学的に確固たる証拠を提示するまでにはいたっていない。 これは10年前の2月5日、コリン・パウエル国務長官(当時)が国連安保理で行ったイラクの化学・生物兵器の開発・所持についての報告を想起させる。 当時の「パウエル報告」は詳細に及んでいた。2時間に渡って写真とグラフ、ビデオを駆使して大量破壊兵器の証拠を提示した。しかし、イラク国内から大量破壊兵器は発見されず、後に米国のイラク軍事侵攻の理由付けはもろくも崩れ去る。 イラクの大量破壊兵器より説明はあいまい 今回のケリー発言の内容は、当時のパウエル報告とでは比較にならないほど曖昧で、論拠が甘い。というより、シリア政府以外に犯人はいないという答えをすでに用意していたと思える内容だ。 しかし前述したように、シリア政府の犯行ではないという確たる証拠も現時点ではない。 未確認の情報として、化学兵器が使用される直前、反シリア政府組織がトルコ国内で密会し、「今後の反政府運動の転機になるようなオペレーションを仕掛ける」ことを話し合ったという。反政府組織が化学兵器の使用者であることを示唆する内容だ。前出のハラビ駐日代理大使も反政府組織によるものと述べた。 こうして見てくると、米国を中心にした欧米諸国の結論とシリア政府の言い分は矛盾しており、どちらかが虚言を吐いていることになる。両者が真実を述べていない場合も想定できる。 いずれにしても、21世紀になっても近代国家が国際関係の舞台で虚言を吐いている事実は否定できない。歴史を振り返れば、多くの政治家や政府高官が虚言を述べてきたが、こうした無責任な言動こそが国家の信頼を失わせている。 ウォールストリート・ジャーナルでコラムを執筆するブレット・スティーブンズ氏はこれを「言葉の持つ意味が失せている。文明の危機」と書いた。 オバマ大統領は米諜報機関の報告内容が正確かどうかにかかわらず、シリアへの限定的な軍事行動にでる可能性が高い。それによって、シリア情勢はどう変化するだろうか。 ワシントンのシンクタンク、ブルッキングス研究所のテロ対策専門家で元CIA(米中央情報局)高官のブルース・リーデル氏はこう推測する。 「問題は、米軍が軍事行動をとってシリア政府を攻撃すればするほど、アルカイダを助ける結果になることです」 現在シリア国内にはアルカイダ系組織が2団体あり、最近急速に拡大しているという。約5000人の戦闘員がおり、反シリア政府運動を展開している。皮肉にも、行動の方向性は米国と同じだ。 リーデル氏は「米国がアルカイダを支援することはないですが、米軍がシリア政府を軍事的に攻めれば攻めるほど、アルカイダを勢いづかせる結果になるのです」と話す。 SNSの限界を口にするイスラム過激派 それでなくとも、最近になって過激派の勢いが増している。 チュニジアから始まった「アラブの春」により、中東諸国では反政府運動が本格化した。ツイッターやフェイスブックというSNSのネット力で独裁政権が倒れた。エジプトのムバラク元大統領も2011年に失脚。暴力的なジハード(聖戦)によって打倒されたのではなく、SNSに負けたと言っても過言ではなかった。それはアルカイダ系組織の存在意義の低下にもつながった。 ところが、2012年6月に終身刑判決を受けたムバラク元大統領は8月25日、保釈される。イスラム過激派はSNSの限界を口にするようになったという。アサド政権の打倒もできていない。 リーデル氏が説明する。 「独裁者だったムバラク元大統領が戻ってくることで、アルカイダはSNSでは革命が成就しなかったという論理でいます。最終的には、過激な行動に訴えるジハードこそが唯一の生きる道と結論づけているのです」 こうした状況で、オバマ大統領が軍事攻撃を選択しても、シリア情勢が好転する道筋は見えない。軍事攻撃ではアルカイダを助け、一方で静観するだけでは米国の威信が失われるという八方塞がりの状況だ。 米連邦議会マイク・リー上院議員は、「シリアについては米国の直接的利害をほとんど見いだせないし、差し迫った危機とも言えない。もし軍事介入するなら、オバマ大統領はその方法、戦費、目的、限定期間等を提示する必要がある」と説く。ヘンリー・キッシンジャー元国務長官も軍事介入には反対だ。軍事介入はほぼ確実に、現状のさらなる悪化を招く。 オバマ大統領が今、アルカイダを含めたシリア情勢にどう対処するかで、今後10年の中東諸国の方向が決まる可能性がある。その点で、オバマ大統領は最重要ポイントに差しかかっている。 このコラムについて アメリカのイマを読む 日中関係、北朝鮮問題、TPP、沖縄の基地問題…。アジア太平洋地域の関係が複雑になっていく中で、同盟国である米国は今、何を考えているのか。25年にわたって米国に滞在してきた著者が、米国の実情、本音に鋭く迫る。
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