01. 2013年9月09日 14:20:10
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JBpress>海外>中東・アフリカ [中東・アフリカ]「どこの国でもいいから助けてくれ!」 シリア国民の悲痛な叫びを聞いてほしい 2013年09月09日(Mon) 黒井 文太郎 化学兵器使用とアメリカの軍事介入への動きによって、日本でも8月下旬からシリア情勢に関する報道が急に増えてきた。しかし、その論調にはおかしなところがいくつもある。 実は筆者は、シリアとはプライベートで長く深く関わってきた。20年前に結婚した元妻がシリア人で、その後、何度もかの国を訪問し、親族や友人を通じてシリア人社会を内側から見てきたのだ。 シリアは北朝鮮と同様の強権体制の独裁国家で、秘密警察が国中に監視網を構築し、不満分子は徹底的に弾圧する恐怖支配が行われている。言論統制も徹底され、もともと外国人記者が自由に取材できるような国ではないうえ、外国人と接する機会のあるシリア人も、秘密警察を恐れて外国人に迂闊にホンネを話すことはない。したがって、なかなかその真の姿が外国人には見えにくい。 筆者のような関わりは希少ケースと言っていいが(シリア人女性と結婚した日本人は筆者が2人目らしい)、そのためシリア国内に今も住む親族や友人・知人たちから直接、“身内”として率直な話を聞く機会を持つことができた。そうした立場でシリアで進行してきた悪夢のような出来事の経緯を、2011年3月の民衆蜂起からずっと見てきたが、日本の報道から受ける印象は、筆者の知る話とはかなり違っている。 もちろん筆者の現地人脈は限られたものであり、すべてのシリア国民の声に接しているわけではない。どこの国にも様々な考えの人がいるだろうし、もちろんアサド政権側の人間、すなわち一般国民を弾圧する側の人もいる。 そういった意味では、筆者の人脈は、アサド政権に弾圧される側に偏っている。しかし、シリアでは弾圧される側が、する側より圧倒的に多い。したがって、筆者が聞く情報は、シリアでは国民の多くが共有するものと、筆者は考えている。筆者が聞く話がすべて、偶然にもごく一部の極端な過激分子の言葉ばかり、などということはあり得ない。 最も重要なのは進行中の虐殺を止めること こうして筆者は、アサド政権に弾圧される側の状況と、彼らの気持ちをある程度知る立場にいるわけだが、そこで日本の世論に違和感を覚えるのは、例えばまずアメリカの軍事介入に対する感覚の大きな温度差だ。 現在、アメリカ批判の立場からは、「米軍が勝手に戦争を始めるのは許せない!」「アメリカは横暴だ!」「戦争反対!」といった声がある。まるで米軍が軍事介入することで戦争が始まるかのような物言いだ。 しかし、実際には現地は、すでに最悪の状況にある。8月21日に化学兵器によって殺害されたのは千数百人とみられるが、これまですでに10万人が死亡している。このうち、戦死した双方の戦闘員を除けば、そのほとんどは政府軍による市街地・住宅地への無差別な空爆や砲撃によって死亡した一般市民である。 アサド政権というのは、独裁体制の存続のためなら、戦闘機で自国民を空爆する政権である。シリアで進行してきたことは、もうずっと前から、アサド政権による住民のジェノサイド(大量殺戮)だ。化学兵器使用はその一局面にすぎない。 反政府軍に参加している人も、参加していない人も、「とにかく誰でもいいから政府軍の暴虐を止めてほしい」と願っている。これまで2年半もの間、シリアの人々は、国際社会が自分たちを助けてくれるのではないかと期待し続け、それがことごとく裏切られ続けてきたことに絶望してきた。 今回、初めてアメリカが軍事介入に動いたことで、不安ながらも、初めてわずかな望みが見えてきたと感じているシリア人は多い。そうした現地の悲鳴のような思いが、日本ではなかなか理解されない。 少なくとも政府軍による空爆や砲撃に日常的に晒され、肉親や友人を殺害され続けている側のシリア国民にとって、外国軍の軍事介入こそが望みの綱だ。彼らにすれば、別に米軍でなくても構わない。どこの国でもいいから助けてほしいのだ。 アサド政権の同盟者であるロシアの拒否権により、国連安保理が機能を停止しているから、米軍などによる軍事介入は確かに国際法の裏付けがない。しかし、そんなことは、日々殺され続けている人々にとっては関係ない。 仮にここでアメリカが手を引けば、アサド政権は「何をやっても、結局はアメリカは手を出せない」と判断し、それこそ無制限に化学兵器を乱用し、無差別砲撃や空爆をさらに拡大するだろう。外国軍が軍事介入しないとなれば、さらなる大虐殺が行われることになるのだ。「アメリカが勝手に他国を攻撃していいのか?」という見方には、こうした現地事情への視点が欠けている。 かつてベトナムがカンボジアに侵攻したことで、同国の国民はポルポト派の大虐殺から救われた。ルワンダでは、ウガンダがツチ族ゲリラを支援したことで、フツ族民兵による大虐殺にストップをかけることができた。誰でもいいのだ。とにかく進行中の虐殺を止めることが、最も重要なことなのではないか。 同じようなことで言えば、反体制派が一枚岩でないことから、「アサド政権を倒しても、さらに混乱するだけで、もっと事態がひどくなる」との見方がある。先のことは誰にも分からないが、シリアの人々にとっては、そんな先のことよりも、とにかく現在進行中の虐殺を止めることが最優先である。 シリア国民からすれば噴飯モノの「自作自演説」 日本の論調で違和感があるもう1つのことは、「化学兵器使用は反体制派の自作自演だ」との見方がなぜか強いことだ。 確かに、それが政府軍によるものだとの決定的証拠はない。アメリカはシリア政府軍の化学兵器関連部隊の事前の動き、軍事衛星による砲撃のモニタリング、シリア政府高官の通信傍受情報など、いくつかのインテリジェンスを証拠として提示しているが、機密情報の部分が詳細に公開されたわけではないから、部外者には判断のしようがないのも事実である。 しかし、イラク戦争でのインテリジェンスの誤謬を厳しく批判されたアメリカ政府が、確信のないままにあれだけ断定するというのは、考えられない。同じように、イギリスやフランスの首脳があれだけ確信的に断定しているのも、それなりに根拠のあるインテリジェンスを入手しているからだろう。 ロシア政府は真逆の主張をしているが、自国メディアを事実上管理下に置き、メディアも世論も気にする必要のないロシアと、メディアや世論の追及に常に晒され、誤った情報分析・判断が政権担当者の致命傷になる西側主要国では、その信頼性には雲泥の差がある。インテリジェンスの基本としては、どんな情報源も無条件で信用してはいけないが、ロシア情報が米英仏情報より信用できるなどという前提は典型的な反米バイアスであり、インテリジェンス的には落第である。 また、かつてオウムが作っていたような初歩的なレベルのサリンと違い、今回使われたような強力な兵器級の化学兵器の製造と運用は、それほど容易なものではない。化学兵器を反政府軍が入手したという根拠ある情報はこれまで皆無であり(トンデモ情報はネット上にいくつもあるが)、反政府軍が化学兵器を保有しているという仮定自体が荒唐無稽だが、百歩譲って仮に彼らが化学兵器を保有していたとしても、それを政府軍の攻勢に合わせて複数の場所で、あれほど効果的に使用するなど不可能だ。作戦には意思と能力が必要だが、そもそも反政府軍にあれほどのオペレーションを実行する能力はない。 意思の面でも、百歩譲って反政府軍が政府軍に罪をなすりつけようとの意図があったと仮定しても、民間人を1000人以上も殺戮するほどの規模は必要ない。反政府軍の自作自演説など、シリア国民からすれば噴飯モノの珍説である。 アサド政権は「証拠を示せ」と反論しているが、そもそも証拠が出てこないように小細工しているのは、アサド政権である。化学兵器使用は半年前から繰り返し行われていたが、アサド政権がようやく国連調査団の調査を認めたのは2013年の8月。国際メディアの取材もまったく認めていない。反体制派側の犯行だと言うのなら、いくらでも取材させて宣伝したいはずなのに、実に不思議なことだ。 今回も、ほんの数キロ地点に国連調査団がいるのに、立ち入りを認めたのは5日も後のこと。その間、シリア政府は「すべて嘘だ」と化学兵器使用そのものを否定しつつ、被害地に猛烈な爆撃を加え、化学兵器使用の痕跡を破壊した。なかったことにしようとしていたわけだ。 その後、隠しきれなくなって「反体制派のしわざ」と転じたが、アサド政権の主張などすべて欺瞞であることは、シリア国民なら誰もが知っている。独裁政権が嘘しか言わないことは、何もシリアだけのことではなく、アラブ世界の常である。サダム・フセインもカダフィも同じことで、そのあたりはアラブ社会の常識の範囲だ。 誤算だった国際社会の反応 こうしたことは、シリアと関わりのある一定層がいる欧米主要国やアラブ諸国ではよく知られており、アサド政権の信用度などゼロに近いが、日本ではそこがなかなか理解されないようだ。 筆者はテレビなどで解説を求められる際、分かりやすく伝えるために、「シリアは北朝鮮と同じ」としばしば表現している。徹底した恐怖支配、言論統制、権力の世襲に至るまで、シリアは北朝鮮とまったく同じだ。アサド政権の主張を鵜呑みにするということは、拉致問題や核問題で北朝鮮の主張を信じるのと同じようなことである。 「国連調査団がいる時期に、政府軍が化学兵器を使って自らの立場を悪くするはずがない」 → 「だから反体制派の自作自演だろう」という見方もあるが、それはまったく根拠にはならない。 政府軍には、化学兵器を使う能力があるが、意思もある。今回使われたダマスカス近郊は反政府軍の牙城で、長期にわたって政府軍が無差別砲撃や空爆を続けても奪取できないでいるエリアだった。しかも当地の反政府軍は強力で、戦闘を有利に進めており、首都中枢を狙うほど勢力を拡大していた。アサド政権にとっては非常に脅威に感じていたはずである。 今回、政府軍は化学兵器使用と同時に、戦力を同方面に集中し、大規模な制圧作戦に動いている。化学兵器で同地域にいる反政府軍を後退させ、その力の空白に乗じて占領しようという作戦である。良し悪しは別として、軍事作戦としては実に有効なやり方だ。 その際に想定される国際的な非難については、要するに「タカをくくっていた」のだろう。これまで2年半もの間、アサド政権がどれほど非道な行いを重ねても、さらには小規模な化学兵器使用を重ねても、結局は盟友ロシアが国連安保理をブロックしてくれたため、国際社会から具体的な圧力を一切受けずにきた。今回もシラを切っていれば、どうせ国際社会は何もできないと考えたのだろう。国際社会がこれほど反応し、アメリカが軍事介入まで準備したのは、アサド政権にとっては誤算だったはずだ。 「反政府軍はテロリスト」というプロパガンダ 日本で自作自演説が根強いのは、1つには、日本ではなぜか「反体制派は外国に扇動されたテロリスト」という説が出回っていることが背景にあるようだ。これはアサド政権がしきりに主張しているプロパガンダそのものだが、現実は違う。 シリアでは2011年3月に反体制デモが始まったが、徹底した弾圧に抗議して、自警団的に反政府軍が活動を開始したのが同年秋頃。以降、基本的には政府軍と地元有志の反政府軍の戦いというかたちで内戦が行われている。 ところが、翌2012年夏頃から、反体制派の中に過激なイスラム原理主義を主張するグループが台頭。その中に国外からの義勇兵も多く参入するようになった。また、同じ頃には、特に北部で、反政府軍の中にギャング化した一部の部隊が混じり込むようになった。 それらは国際メディアにも大きく報じられたが、それをもって「反政府軍は外国に扇動されたテロリスト」とのキャンペーンが、シリア政府系メディアによって大々的に行われた。しかし、実際にシリア国内から聞こえてくる話では、そうした過激派の勢力が強いのは北部や東部を中心とする一部であって、現在も全国レベルでみれば、反政府軍の主力は上記したような自警団的な有志軍である。“一部”を“全体”に誇張する単純な情報操作だ。 これは単に筆者の個人的な人脈からの情報ということではなく、現地を取材した内外のジャーナリストの多くが指摘することでもある。親アサドの論調では、反政府軍にはカタールやサウジアラビアから大量の武器が支給されていることになっているが、筆者の現地情報でも、他のジャーナリストたちの取材報告でも、そのような事実はない。 確かにカタールやサウジからの武器支援はあり、最近はそれが徐々に増えてきてはいるが、悲しいほど小規模であり、一部の反政府軍部隊にしか届いていない。ほとんどの反政府軍は、政府軍拠点を攻略して鹵獲(ろかく)した武器で戦っている。そんなことは、現地から毎日大量に発信されているYouTube映像でも分かることなのだが、なぜか日本では「反政府軍=外国が支援するテロリスト」という政権側メディアによって創作された“物語”が、根強く流布している。 こんな論調も目にしたこともある。 「当初のデモは民衆の行動だったが、一部過激分子が武装路線に転じたことで、反体制派は民衆の支持を失った」 いったいどこからの情報か、不思議でならない。前述したように、反体制派の一部に問題があるのは事実だが、反政府軍の主流は現在も地元の有志軍であり、しかも志願兵は今も増え続けている。 反体制派の一部には、確かに捕虜の即時処刑を行った部隊もあるが、それと政府軍が正規の作戦として市街地や住宅地を空爆するのとは、少なくとも戦場では同列ではない。住民への空爆など言語道断で、弾圧される側のシリア人でアサド政権に怒りを覚えていない人などいないだろう。アサド政権打倒は、大多数のシリア人の願いなのだ。 現場取材できずに中立を保つ日本メディア 日本では現在、シリア問題に関する言説が、一部例外はあるものの、ほぼ以下のような構図になっている。 ・現地取材経験者や現地に政府機関系以外の人脈のある人 → 反アサド ・アルジャジーラや欧米主要メディアを主な情報源とする人 → 反アサド(これらの国際メディアは、結局はいちばん現場を取材しており、現地の声も拾っている) ・シリア国営通信、ロシアのメディア、イラン・ラジオ、アブハジアのテレビなどを主な情報源とする人 → 親アサド ・上記の親アサド系メディア情報をソースとして書かれたネット情報を、主な情報源とする人 → 親アサド ・自分たちが現地で直接取材していないものについては両論併記が原則の日本のマスメディア → 中立 こうした日本でのシリア報道のあり方は、シリア人からみれば実に不思議なものに見えるだろう。“現地の声”と“親アサド系メディアのプロパガンダ”がほぼ同格に両論併記されているのだ。 前述したように、筆者の情報源は一般的なシリア人住民だが、個人的人脈であるから、むろん限られたサンプルでしかない。しかし、それは紛れもなく、シリア国内から届けられる現地の声だ。 筆者の視点が偏っているとの印象を持つ人も当然いるだろうが、ならば他にどういった現地の声が、どういった立場の人々から届いているのかを、筆者自身もぜひ知りたいと思う。 情報源がシリア国営通信や『ロシア・トゥディ』ではお話にならないが。
JBpress>海外>The Economist [The Economist] シリア攻撃:イラクとは異なる大義 2013年09月09日(Mon) The Economist (英エコノミスト誌 2013年9月7日号) 米議会がシリア攻撃について採決する時、世界における米国の立場を定義することになる。 オバマ米大統領、シリア軍事行動で議会に承認を求める ホワイトハウスでシリア情勢について語るバラク・オバマ大統領〔AFPBB News〕 10年と言えば、世界的な影響力の盛衰という点では、ごく短い時間だ。ほんの10年前には、経済はワシントン・コンセンサスに縛られ、地政学はホワイトハウスが操る絶対的な超大国の力に完全に支配されていた。 しかし今、化学兵器を使用したシリアのバシャル・アル・アサド大統領を罰する攻撃の開始を前にして、バラク・オバマ大統領は、議会の承認を求める必要があると考えた。 英国は、最も緊密な同盟国である米国と歩調を合わせられなかった。中東でも、米国のリーダーシップの低下がしきりに語られる。そして、オバマ大統領の補佐官の1人はブリーフィングで、シリア攻撃は「嘲笑されない程度の必要最低限の強度」になると述べた。 米国が残虐行為に罰を与えず野放しにしたことは、過去にもしばしばあった。イラクのサダム・フセイン元大統領が1980年代にクルド人やイラン人を毒ガスで攻撃した時、米国がミサイルを撃ち込むことはなかった。アサド現大統領の父親であるハフェズ・アル・アサド元大統領が2万人もの自国民を虐殺した時も同様だ。 だが、当時は冷戦の真っ只中だった。イラクはイランと戦争中で、国連の化学兵器禁止条約により化学兵器使用の禁止が強化される前だった。 世界が成り行きを注視 さらに、オバマ大統領は昨年夏、シリアの化学兵器使用は許さないと明言している。神経ガス攻撃で1000人以上が死亡し、しかもそれ以前にもたびたび使用されていたことが明らかになっている現状を考えれば、シリアは米国が意志を貫く力を試しているとオバマ大統領が結論づけたことは正しい。 従って、議会の採決とその後の行動は、米国の――そして西側諸国の――世界での立場を定義する出来事となる。イラク攻撃の驕りとアフガニスタンのはかり知れない混乱を経た米国に何が残っているのかを示すことになるだろう。 米国は今、ロシアとイランの挑戦を受け、また中国も、経済大国としても、(優柔不断な民主主義に対立するものとしての)独裁主義の擁護者としても影響力を強めている。そうした中で、今回の米国の判断は、西側の自信を示す指標にもなる。 世界が注視している。敵も味方も、この節目の時が今後の成り行きを決定すると見込んで、それぞれの行動を決めるはずだ。だからこそ米国は、ただ行動するだけではなく、正しい理由で行動することが肝要なのだ。 バグダッドの重荷 本誌(英エコノミスト)は米国とその同盟国に対し、アサド大統領に化学兵器を放棄する最後のチャンスを与え、拒まれた場合には強硬に攻撃するべきだと主張してきた。攻撃の目的は、政権交代ではなく、抑止力の回復ということになる。オバマ大統領が自らの言葉を守ったという印象を与える必要があるからだ。 行動を起こさなければ、アサド大統領のさらなる化学兵器使用を促すことになるし、イランや北朝鮮をはじめ、世界中の独裁者と核拡散国家に力を与えてしまう。 米議会が、今回ばかりは党派争いより原理原則を優先し、大統領を支持することを期待したい。終始毅然とした態度を見せているフランスが加われば、オバマ大統領は嘲笑しようなどという気を誰にも起こさせない激しい攻撃でアサド政権を叩くことができるだろう。それなら良い。だが、オバマ大統領の作戦の進め方には、議会採決の選択という点でも、説明の表現という点でも、問題がある。 議会採決は、オバマ大統領にとっては短期的なメリットがある。米国民の大半は、シリア攻撃に反対しているようだ(英国民とフランス国民の大半も同様だ)。議会採決を実施すれば、攻撃の正当性を手に入れ、共和党にも責任を負わせることができる。だが、その代償は何か? もちろん、軍事行動が否決される可能性はある。現実に大統領を破滅させ得るリスクだ。だが、議会で勝利を収めたとしても、オバマ大統領の外交政策の信頼性――まさにオバマ大統領が守ろうとしているもの――は弱まることになる。 世界を相手にする時には、最高責任者は鋭く機敏に動かなければならない。大統領には時に、国民に不人気な厳しい決断を下すことが求められる。議会の信を問うという選択は、自身の決定権を制限するものではないとオバマ大統領は主張している。だが、今回の作戦は、抑止力を高めるためのものだ。 オバマ大統領の議会採決要請により、今後の軍事行動も、議会の断片的主張の気まぐれにさらされるはずだという見通しが生じた。それは大抵、抑止力を弱めることになる。 オバマ大統領はこれに反論して、自分はジョージ・ブッシュ前大統領の負の遺産に対処していると主張するかもしれない。その遺産のために、米国は(そして英国とフランスも)軍事介入の目的と諜報機関の活用に関して、根強い懐疑主義を抱え込むことになった。イラクとアフガニスタンの作戦のために、西側諸国は数兆ドルの税金と数千の兵士の命という代償を支払っている。 米国民の多くは、たとえ口には出したがらなくても、イスラム教徒が民主主義や寛容性といった欧米の価値観の素質をあまり持ち合わせていないのではないかと疑っている。感謝されないどころか、絶望的な任務だとすれば、なぜわざわざ世界の警察になろうとするのか? ビジョンの問題 そうした懐疑論者たちは、前回の戦争を戦っている。だが、シリアはイラクではない。アサド政権が虐殺に手を染めたという証拠は、疑いようがないほど明々白々だ。また、攻撃を受けたアサド大統領がさらにサリンをまいて米国に対抗したとしても、オバマ大統領はシリア国内に侵攻しようとはしないだろう。 シリアへの軍事介入を支持する議論は、イラクの時よりも厳密で、あの時ほど夢想的なものではない。第1にあるのが、米国の国益の計算だ。国際政治の場は、本来的に無秩序なものであり、法も条約も、強制力を持って初めて秩序を課すことができる。 米国は、世界の警察であることにより、自国の利益と好みに従って規則を形づくる力を持つ。米国が後退すれば、その分だけ他の大国が入り込んでくる。米国が執行者として行動しようとしなければ、米国の規範は弱まっていくだろう。消極的だと見なされるだけでも、試される。中国は既に米国をつついている。ウラジーミル・プーチン大統領のロシアは、米国に対抗し始めている――しかもそれは、シリア問題に限ったことではない。 今回の化学兵器攻撃の前なら、シリアが米国の国益にとって重要であるか否かについて議論があってもおかしくはなかった。だが、アサド大統領がオバマ大統領の権威に真っ向から挑戦した今となっては、もはや議論の余地はない。 軍事介入を支持する第2の理由は、西側の価値観の再確認だ。米国の権威は、戦力投射能力だけでなく、建国者たちが訴えた価値観の永続的な魅力にも由来する。そうした価値観は、恐らくオバマ大統領が考えているよりも強い力を持っている。 中国の経済が減速し、政治的腐敗が明らかになっている今、新興国の国民にとって、北京コンセンサスは今後ますます魅力を失っていくだろう。 ブッシュ前大統領は愚かな侵攻、捕虜虐待、帝国主義的な過剰な拡張戦略により、米国の価値観に傷をつけた。アサド大統領の残虐行為に適切な軍事力で対処すれば、世界における米国の道徳的権威を取り戻す役に立つはずだ。米議会は、これに関与する必要があるのなら、そうしたメッセージをできるだけ声高に、かつ明確に発するべきだろう。それは米国の同盟国にも言えることだ。
JBpress>海外>Financial Times [Financial Times] シリア攻撃支持で危険な領域に踏み込むフランス 2013年09月09日(Mon) Financial Times (2013年9月6日付 英フィナンシャル・タイムズ紙) フランスはシリアに対する軍事攻撃に参加する用意があるというフランソワ・オランド大統領の宣言を受け、ジョン・ケリー米国務長官が米国の「最古の同盟国」としてフランスを称えた時、フランスの評論家たちは満足感で身震いした。 だが、最近消極的になった英国に取って代わり、フランスが米国政府と肩を並べたことから来る満足感は、長続きしなかった。米議会の承認を軍事行動の条件とすることにしたバラク・オバマ大統領の予想外の動きにかき消されてしまったのだ。パリでは、先の週末の声明でオバマ氏がフランスに一言も触れなかったことが大きく取り沙汰された。 米議会の決定がフランスの政策を左右 仏大統領、シリア政権を「罰する準備できている」 フランソワ・オランド大統領はいち早く、シリア攻撃への参加を表明した〔AFPBB News〕 オランド、オバマ両氏は6日、モスクワでシリア情勢について会談する予定になっていた。 だが、オバマ氏の策略は、フランス政府にとって極めて不快な現実を浮き彫りにした。フランスの政策について決定権を握るのは、今やエリゼ宮(大統領官邸)ではなく米議会だということだ。 フランスが単独では攻撃を仕掛けられないことをオランド氏は認めている。これは軍事的、外交的な現実の認識に過ぎない。だが、この状況は、大統領のスタンスがイラク進攻に反対した10年前のフランスの立場とは好対照に、フランスをほぼすべての欧州諸国よりも前面に立たせたことを浮き彫りにしている。 オランド氏の率いる社会党政権は、シリア政府に対する民衆蜂起の初期から、率先して反政府勢力を支持し、バシャル・アル・アサド大統領の退陣を求めてきた。 フランス政府は英国とともにシリアへの武器禁輸を解除するよう欧州連合(EU)を説得した。反政府勢力への殺傷兵器の供与については、イスラム主義勢力の手に落ちることを懸念して二の足を踏んだが、8月21日にダマスカス郊外で化学兵器による攻撃が起きると、オランド氏はほとんど間を置かずに軍事行動を支持した。 国連や同盟国と歩調を合わせてきた伝統と一線 シリア攻撃の支持は、今年1月、イスラム過激派による制圧を防ぐためにマリ介入に踏み切ったオランド氏の大胆な行動に続くものだ。この決断は広く支持された。 シリアを巡って、マリ介入がオランド氏に有利に働くことはなかった。社会党は今のところ、アサド氏は「あるまじき人権侵害」について罰せられなければならないというオランド氏の主張を強く支持している。 しかし、国連安全保障理事会の承認がなく、欧州の同盟国からの支持もなく、危険な結果になるリスクを負ってフランスがシリアを攻撃する意思があることを表明したことについては、不安の声が上がっている。「これは初めてで、良くないことだ」と、ある有力経営者は述べた。 介入反対の背景には、政治的な点数稼ぎがかなりある。ニコラ・サルコジ前大統領の中道右派政党・国民運動連合(UMP)内では、元外相のアラン・ジュペ氏をはじめとした一部の大物が軍事介入を支持しているが、世論調査によると、国民の過半数は反対している。 UMPの上院議員で、フランス・シリア議員連盟の代表を務めるフィリップ・マリーニ氏は、フランスは今、2003年と「完全に正反対」の立場を取り、国連および同盟国と協調して行動するという伝統的な政策ドクトリンに反していると言う。 オランド氏は、どんな軍事行動も限定的なものになると述べて疑念を払拭しようとした。だが、同氏はさらに、攻撃はシリアの戦場で反政府勢力が有利になるよう戦力のバランスを変え、ジャン・イヴ・ルドリアン国防相の言葉を借りれば、それにより「政治的な力学を変える」ことを目指すと示唆して懸念を呼んだ。 限定的な局部攻撃の効果に疑問の声 「魅惑的な理論ではあるが、私は信じない」とマリーニ氏は言う。「限定的な局部攻撃を信頼するのは困難だ。シリア政府には、部隊と資材を人口密集地域に移して(攻撃に)備える時間があった」 さらに同氏は、軍事攻撃は「ロシアを警戒させ、ジハード主義者を強くし、悲しいかな、(ハサン・)ロウハニ大統領率いるイランと関係を築くチャンスを台無しにする」と付け加える。 それでも、米議会がゴーサインを出せば、オランド氏は約束を実行に移す覚悟のようだ。エリゼ宮は、大統領がもし最初にフランス議会で同様の決議を求めることにしたら、過半数を獲得する自信があると述べている。 だが、オランド氏はただでさえフランス経済の低迷を巡る大きなプレッシャーにさらされている時に、恐るべきリスクを取ることになる。 By Hugh Carnegy in Paris |