03. 2013年9月04日 10:43:17
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JBpress>海外>Financial Times [Financial Times] 米国は「世界の警察官」を辞めてしまうのか 2013年09月04日(Wed) Financial Times (2013年9月3日付 英フィナンシャル・タイムズ紙) 英国帝国主義の傑出した詩人ラドヤード・キップリングは1899年、米国にあてた詩を書いた。「白人の責務を担え」という書き出しで、「平和のために苛烈な戦に挑み/飢えた者たちの口を満たし/病の広がりを食い止めよ」といった言葉が連なっている。 今では米国の大統領は黒人であり、キップリングのような人が用いた帝国主義者の言葉をあえて使う著名な知識人はいないだろう。 米国が担う「世界の警官」という特別な責務 米国のハクトウワシに対抗を、カナダで白熱する国鳥選び 米議会は9日以降、シリアへの軍事介入について審議する〔AFPBB News〕 しかし、米国は世界の警察官という特別な責務を担うべきだという考え方は今なお健在で、バラク・オバマ大統領がシリアに対する軍事行動を求めた発言にも見受けられた。 「我が国はアメリカ合衆国である」。大統領はそう強調し、1945年以降の世界の秩序を構築・防衛するという特別な役目を担っていることを説いてみせた。 だが、米国は今でも世界の警察官の役目を担い、「平和のために苛烈な戦に挑む」準備ができているのだろうか? この問いは、シリアへの軍事介入を審議する米連邦議会に重くのしかかることになる。 オバマ氏自身のためらいと米国内の世論調査の結果が示しているように、多くの米国人は軍事介入にかなりの疑念を抱いている。シリアへのいかなる軍事介入にも加わらないという英国の決断も、この疑念をさらに強めることだろう。 キップリングがこの世を去ってから80年近く経った今、多くの英国人は今回の議会の判断を、英国がついに――たとえ米国の保安官代理という立場であっても――世界の警察官であろうとする帝国主義後の本能から脱したしるしだと解釈している。 米議会も軍事介入を否決すれば世界に激震 英国は世界で4番目に大きな軍事力を擁する国であり、国際連合安全保障理事会のメンバーでもあるため、世界の警察官を辞めるとなればその影響は世界に及ぶことになろう。しかし、仮に米国もそれと同様な道をたどるとなれば、世界を文字通り揺るがすことになる。 だが、それでも、その可能性があることは明らかだ。イラクやアフガニスタンで戦争をしてきた米国は戦いに疲れており、経済も景気後退のために弱っている。 シェールガス革命のおかげで中東への依存度はかなり小さくなっている。また、米国の国民はオバマ氏から一般市民に至るまで、自国の兵士が外国に出向いたら花束で歓迎されるなどという幻想をもう抱いていない。 むしろキップリングが例の詩で警告していたこと、すなわち「暮らしを良くしてやろうとすれば非難され/守ってやろうとすれば疎まれる」ことを予想するようになっている。 外交政策担当者と一般国民の間にギャップ 米野党の有力議員、対シリア攻撃を容認 ホワイトハウス前で、バラク・オバマ大統領の写真の切り抜きを掲げてシリア攻撃に反対するデモ参加者〔AFPBB News〕 英国と同様に米国でも、世界の警察官になることをまだ当然視している外交政策担当者たちと、彼らより懐疑的な一般国民との間にギャップが生じているように思われる。 世論調査によれば、英国民のほぼ4分の3はシリアに関する英国議会の決断を支持している。一方の米国では、大統領が計画している巡航ミサイルでの攻撃について国民の意見が真っ二つに割れており、連邦議会の審議はそのような状況の下で行われることになる。 シリア問題に関するこのような懸念は、完全に理解できる。検討しているのはあくまで限定的な攻撃だとオバマ氏は再三強調しているものの、オバマ氏がきちんと答えられない疑問がいくつか残っているからだ。 例えば、もしシリアのバシャル・アル・アサド大統領が攻撃に屈せず、化学兵器を再度使用したら何が起こるのか? シリアにおける、化学兵器以外の人権侵害は無視するのか? 米国はシリアの今後について、実行可能な政治的ビジョンを描けているのか? 首都ダマスカスに巡航ミサイルを何発か撃ち込み、それによって何とか状況が改善してくれることを期待するというやり方は、あまり高度な戦略ではないように思われる。 英米の介入主義のあり方 もっと大きな問題もある。米国は1945年以降、世界の安全を保障する国であることを自認してきたが、それは決して、あらゆる紛争に介入したりあらゆる人権侵害を制止したりするという意味ではなかった。 例えば、米国は1980年代のイラン・イラク戦争には介入していない。この戦争はシリア紛争と同様に、米国が信用していない国同士で戦われ、化学兵器も使用された。 特に残虐な内戦に介入したり、特定の兵器を禁じたりすることが米国の役割だという考えが根付いたのは1990年代以降のことだ。その起源はルワンダ虐殺、ボスニア戦争、そして対テロ戦争の一環としての「大量破壊兵器」に関する新たなドクトリンの発展にある。 英国の元首相で、このリベラルな介入主義のドクトリンの発展に大きく貢献したトニー・ブレア氏は2009年の演説で、こう問いかけた。「我々は今、より伝統的な外交政策に戻るべきなのか? 大胆さを欠く一方で慎重さを増し、あまり理想主義的でなく、より現実的な政策に戻り、介入が招きかねない予期せぬ結果を恐れて、許し難いものを進んで容認すべきなのか?」 英下院は今回明らかに、この問いに対して肯定的な答えを出し、ブレア派の遺産を拒絶した。 米議会がシリアへの関与を否決すれば、米国もまた、外国勢力がどんな行動に出たら米国の軍事力行使が正当化されるのかについて、より伝統的かつ限定的な立場に回帰しているというシグナルを送ることになる。つまり、理論上は、シリア問題で行動を拒むことは必ずしも、米国が世界の警察官の役割から完全に退くことを意味しないわけだ。 世界の安全保障を支えてきた米国のレッドライン 問題は、そうした米国の決断はアサド政権によるさらなる残虐行為を促すうえに、必然的に、それよりずっと大きなメッセージを送っていると解釈されることだ。というのは、米国の「レッドライン(越えてはならない一線)」には何らかの意味があるという確信が、太平洋からペルシャ湾、ロシア・ポーランド関係に至るまで、世界の安全保障構造の大半を支えているからだ。 良くも悪くもオバマ氏はシリアに関してそうしたレッドラインを引いた。オバマ氏が週末に示唆したように、米国がシリア問題で行動しなければ、米国の敵国は結論を下すだろうし、同じことは米国の同盟国についても言える。ほんの数例挙げるだけでも、日本、イスラエル、ポーランドの政府は皆、米議会がシリアでの軍事行動を否決すれば不安を感じるだろう。 世界は思っている以上に米国の警官に依存しているのだ。 By Gideon Rachman JBpress>海外>Financial Times [Financial Times] 1度否決されようが、英国の介入主義は死なない 2013年09月04日(Wed) Financial Times (2013年9月3日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
英国のジョージ・オズボーン財務相はよく同僚に向かって、自分が政治の第一原則と見なすものについて語る。「数を数えられなければならない」というのが、それだ。彼の言わんとすることは、マーガレット・サッチャーの失脚や連立政権の誕生といった極めて重大な出来事でさえ、議会における基本的な算数から生まれたということだ。 英国、シリア軍事介入は「国連調査終了までない」 英国のデビット・キャメロン首相は政府提案を否決され、シリアに対する軍事介入への不参加を明言した〔AFPBB News〕 デビッド・キャメロン首相は今、苦々しい気持ちでこの原則を思い出していることだろう。思い上がった首相官邸が先週、票を読み誤っていなければ、今頃シリアとの戦争が差し迫っていたかもしれない。 だが、シリアのバシャル・アル・アサド大統領に対する軍事行動を求めた政府提案が僅差で否決されたことで、介入計画は頓挫し、見たところ米国による介入も遅らせたようだ。 英議会での展開は、この1年間で引き締まった政治運営が昔のお粗末なやり方に陥ったことを意味している。 自党議員をも常に驚かしてきたキャメロン氏の介入意欲 キャメロン氏の性格のあらゆる側面からすれば、同氏は外交政策においてドライな現実主義者であるはずだ。何しろ慎重で、夢想的なプロジェクトに対してイングランド人らしい不信感を抱いている。しかし同氏は、2008年のロシアとグルジアの衝突でグルジアを支持するなど、野党党首時代から道義的な行動主義を好む傾向を見せてきた。 かねてキャメロン氏は何事についても強い信念を持たないと不満をこぼしてきた与党・保守党の議員たちは、同氏の介入意欲には常に驚かされ、時として不安を覚える。 北大西洋条約機構(NATO)加盟国であり、国連安全保障理事会の常任理事国でもある国の指導者としてのキャメロン氏の存在が、今流行の介入主義に対する悲観的な見方を割り引いて考える理由の1つだ。 この見方によると、英国がシリア介入に参加しないことは、同様の任務にとって不穏な前兆となる。10年間首相を務めたトニー・ブレア氏が支持し、実践したような「道義的な戦争」は衰退傾向にあるとされている。 コソボやシエラレオネでも実施された道義的介入が増加した背景には2つの理由があった。まず、西側諸国には軍事的関与に責任を持つ余裕があった。第2に、ベトナム戦争の失敗は消えゆく記憶だった。まる1世代の指導者にとっては、選択して手がけた戦争は本能的にトラウマや屈辱を連想させるものではなかった。 <英航空テロ未遂>休暇を続けた首相に非難の声 - 英国 人道的介入に関するトニー・ブレア元首相のドクトリンは今も生き続けている〔AFPBB News〕 ところが、金融危機とイラクおよびアフガニスタンでの屈辱を経験した後、今はどちらの条件も成立しない。全般的に西側諸国、特に英国は、ブレア主義を実践する資金も士気も足りない。 これは興奮を呼ぶものだ。孤立主義の右派や平和主義の左派にとっては、希望的観測でもある。 だが実際は、1999年にブレア氏がシカゴで提唱した介入のドクトリンについて最も目覚ましいことは、過去10年間の失敗にもかかわらず、かなりしっかり持ち堪えてきたことだ。 人道的介入に関するブレア主義は健在 今からわずか2年前、英国はリビアへの軍事介入で主導的な役割を果たした。リビアへの介入は現在シリアについて提案されている軍事行動よりも規模が大きく、西側諸国は巡航ミサイルを発射しただけでなく、飛行禁止区域も設定した。しかも、戦争に疲弊しているはずの英国民と議会も介入を支持した。 もちろん、シリアはリビアより手ごわい敵であり、英国が表明した戦争の目的は、政権交代までは至らず、不安になるほど曖昧だった。アラブの春も2011年以降、暗転した。しかし、これらはすべて実際的な屁理屈だ。西側諸国の間では、世界の火薬庫とも言える一触即発の地域に対してでさえ、的を絞った人道的介入そのものに対する反対論はない。 リビアはブレア主義が存続したことを示す具体的な例だが、ブレア主義は理念の世界でも生き残っている。 今では「保護する責任」について語るのが普通のことになった。国連は2005年にこの言葉を作り、以来ずっと、その概念を固めてきた。このドクトリンは、軍事行動を最後の手段として扱っているが、国家の主権は絶対的なものではないことを受け入れている。安保理常任理事国としてロシアと中国も含む機関としては驚くべきスタンスだ。 ブレア氏が最初に同じ主張を唱えた時には、論争を引き起こした。それが今では、行動ではないにせよ言葉の上では、正説に近い考えになりつつある。 その功績はブレア氏のものではないかもしれない。世界は恐らく、ルワンダとボスニアでの抑制の利かない残忍行為以来、何らかの形の道義的介入の規範に向かっていた。だが、このことは、ブレア氏の外交政策を葬り去るべきではないことを意味している。 実際、ブレア氏が収めた最大の勝利は、後に続く英国の政治家に影響を与えたことかもしれない。確かに、シリアへの軍事介入を潰すことに手を貸した労働党党首のエド・ミリバンド氏は、神経症と呼べそうな熱心さでブレア氏と自らを区別している(それぞれの選挙での実績が、ミリバンド氏に代わって両氏を区別することになるかもしれない)。 ミリバンド氏が「イラクの教訓」に留意するよう政府に迫る時、戦争が外交政策に対するアプローチ全体を傷つけたと同氏が考えていることは明らかだ。 英国政界を担うブレアチルドレン だが、ミリバンド氏は同世代の有力政治家の中では異例だ。 ブレア氏のシカゴ演説を聞いて肯くだろう閣僚はキャメロン氏だけではない。オズボーン氏もタカ派だ。自身が大臣を務める教育省以外にも影響力を持つマイケル・ゴーブ氏は、英国政界きっての熱心な介入主義者だ。自由民主党党首でキャメロン政権の副首相を務めるニック・クレッグ氏でさえ、シリアでの軍事行動を支持した。 彼らは若い政治家だ。こうした政治家がいる限り、介入の正当性を訴える主張を聞く人がいる。彼らをブレアチルドレンと呼ぶといい。 By Janan Ganesh
JBpress>海外>The Economist [The Economist] ロシアと欧米:冷え込む関係 2013年09月04日(Wed) The Economist (英エコノミスト誌 2013年8月31日号)
欧米諸国との関係が冷え込むなか、ウラジーミル・プーチン大統領は中国に目を向けている。 プーチン露首相、米大統領と初会談 「オバマ氏に期待」 ロシアのウラジーミル・プーチン大統領(右)と米国のバラク・オバマ大統領〔AFPBB News〕 9月初旬にサンクトペテルブルクで行われる主要20カ国・地域(G20)首脳会議でロシアのウラジーミル・プーチン大統領がホストとしてバラク・オバマ米大統領をはじめとする各国首脳を迎える時、お互いに抱く恨みと嫌悪は隠し切れないだろう。 オバマ氏は最近、プーチン氏のボディーランゲージを「教室の後ろで退屈している子供」になぞらえた。また、モスクワで予定されていた2国間の首脳会談をキャンセルし、代わりにスウェーデンを訪問することにした。 完全に死んだ米ロ関係の「リセット」 とどめになったのは、逃亡した米諜報機関職員のエドワード・スノーデン氏をロシアがかくまったことだ。だが、この一件を巡る論争は、プーチン氏がクレムリンに復帰した2012年以降明らかだったものを一層はっきりさせただけだ。すなわち、2009年に鳴り物入りで打ち出された米ロ関係の「リセット」は瀕死の状態であるどころか、死んでしまったということだ。 シンクタンク、カーネギー財団モスクワセンターのドミトリー・トレーニン所長は、首脳会談の中止はミハイル・ゴルバチョフ氏の全盛期に始まった25年のサイクルの終わりを告げたと言う。 共通の目標と価値観の前提はもう崩れた。ロシアは西側に近づいている素振りも見せない。西側からの批判に対しては、苛立ちながらロシア国内の事情への理解と忍耐を求める代わりに、批判をただ無視している。 2008年にロシアとグルジアの戦争が起きた時にも米ロ関係の危機があった。しかしオバマ氏は、4年間プーチン氏に代わって大統領を務めたドミトリー・メドベージェフ氏と真剣に向き合い、関係を復活させた。多くの人はいまだに、メドベージェフ氏の愛想の良さが誠実なものだったのか、パフォーマンスだったのか論議している。 リビアを巡り、関係の冷え込みが悪影響をもたらし始めた。ロシアは市民の命を守るための国連決議を支持したが、これが軍事介入によるムアンマル・カダフィ氏の政権転覆をもたらすと、騙されたと感じた。 「中世的どころか原始的でさえあるカダフィ惨殺」のイメージはプーチン氏の脳裏から離れなかった。プーチン氏は2012年に「リビアのシナリオをシリアに適用することは誰にも許されない」と書いている。 モスクワで過去最大規模の抗議デモ、主催者側は「12万人」と発表 2011年12月、下院選での不正疑惑に抗議する反プーチンデモに集まった人びと〔AFPBB News〕 プーチン氏はウクライナとグルジアの革命の裏に欧米の存在があったとひとり合点しており、2011年12月のモスクワでの大規模デモも米国の責任だと考えている。一連のデモは、敵がクレムリンの門まで攻めてきた確実な証拠だというのだ。 プーチン氏はこれに対し、「外国のスパイ」だとして海外から資金援助を受けている慈善団体や運動組織を攻撃した。 プーチン氏は中核となる支持基盤を強化するため、ロシアのイデオロギーの空白を国家主義と反米主義で埋めた。最大のテーマは相反する2つの文明に関するもので、西側は経済の衰退、国際社会の無謀な行為、道徳的退廃を体現しているというもの。ロシアはこの悪しき影響から自国を守り、正教と過去の栄光に基づくロシア独自の伝統的価値を守らねばならないという。 最近の同性愛「プロパガンダ」禁止法や、政府関係者が外国に銀行口座や不動産を保有することを禁じる法律の背景にあるのは、こうした考えだ。 ビジネスに関しては二重のアプローチ、台頭する中国に接近 ビジネスはまた別の話だ。猛烈な反欧米主義者でさえ、提携先や投資家として外国の大企業を喜んで迎える(彼らはこうした外国企業を、欧米諸国で自分たちの政治的利益のために働くロビイストとしても利用する)。 この二重アプローチは目新しいものではない。1934年、ヨシフ・スターリンはこう述べている。「我々とビジネスの関係を構築しようとする者は常に我々の支援を得られる。一方、我が国を攻撃しようとする者は、その鼻先を我がソビエトの裏庭に突っ込むのを阻止するために、破壊的な打撃を受けることになる」 西側諸国に代わる存在として、プーチン氏は東に目を向け、中国の台頭を「ロシア経済の帆に風」をとらえる絶好の機会として称賛している。中国とロシアはどちらも、強く、豊かであるために互いを必要としていると同氏は主張する。 どちらも人権について相手方に説教することはない。中国はロシアのことを、米中間の緊張が高まった場合に戦略的に重要になる安全な資源基盤と見なしている。その主張を裏付けるように、中国の新指導者である習近平氏は国家主席就任後最初の外遊先をモスクワにした。 シリアについては、ロシアは何度も制裁に対して国連安全保障理事会の拒否権を行使し、シリアの化学兵器使用に対する国際監視を阻止してきた。しかし、対立を求めているわけではない。恐らくはイスラエルや他の国々による強気な発言のおかげで、ロシアはどうやら、シリアの体制側に最新の防空システムを提供せず、シリア人を訓練するために人員を派遣したこともなさそうだ。 米ロ関係を長年観察してきたイーゴリ・マラシェンコ氏は、ロシアはソ連とは異なり、主に重大な決断に対する責任を負う用意ができていないために、大きな国際問題に関与しないと指摘する。 しかし、ロシアはウクライナと欧州連合(EU)の連合協定の問題については「越えてはならない一線」を定めており、EUに対抗するユーラシア経済共同体(EAEC)の正当性を訴えるため全面的な貿易制裁に出ている。 季刊誌「グローバル政策の中のロシア」の編集者のフョードル・ルキヤノフ氏は、EAECの最大のポイントは貿易の促進ではなく、旧ソ連圏の国々をロシアの勢力圏内につなぎ留めておくことだと指摘する(また、関税同盟にウクライナを入れると、EU内の英国のように「確実な頭痛の種」になると付け加えている)。 ウクライナを脅しても一層遠ざけるだけ、EUとの関係も緊迫する恐れ しかし、ウクライナを脅すことは同国を一層遠ざける可能性が高く、米国と同様、ロシアの同性愛プロパガンダ禁止法に愕然としたEUとの緊張を高めることになるだろう。かつてロシアの応援団だったドイツは、今やロシアを一番声高に批判している。この状況はビジネス上、不利になる(何しろEUはロシアにとって断トツに大きな貿易相手だ)。 また、EUを説得して公用パスポートの保有者にビザ(査証)なしでの入国を認めさせようとする、私利に駆られたプーチン政権の目標も頓挫するかもしれない。 クレムリンが何と言おうと、教養がある裕福なロシアの中間層は、欧米に目を向け続ける。ロシアの指導者たちの最大の弱点は、自国民や外国人を引きつけるプラス要素がないことだ。変わりゆく世界にロシアを備えさせるという発言にもかかわらず、プーチン氏は主に、脆い現状を乱すことに対する強い不安感をかき立てている。そうした態度がロシアを後退させている。
シリア危機:オバマ大統領の危険な賭け 2013年09月03日(Tue) Financial Times (2013年9月2日付 英フィナンシャル・タイムズ紙) 米政府、シリア軍事行動の承認を議会に正式要請 ホワイトハウスの大統領執務室で、ジョン・ベイナー下院議長(共和党)と電話で協議するバラク・オバマ大統領(左)と耳を傾けるジョー・バイデン副大統領〔AFPBB News〕 藪から棒とはまさにこのことだ。米国のバラク・オバマ大統領は8月31日、シリアへの攻撃について連邦議会の承認を求めることにした。この決断は大統領のこれまでの在任期間で最も予想外のものであり、最もリスクの高いものの1つでもある。 大統領の当面の運命は、敵対的な関係にある2者、すなわちシリアのアサド政権と連邦議会の共和党に握られた。両者は強い影響力を手に入れた格好だが、これを予想通りに行使してくれるあてはない。 オバマ氏は大統領として非常に危険な局面に――それもある程度自発的に――入りつつあると見てほぼ間違いない。 外交的な解決策を追求する時間は稼げたが・・・ まず、この決断のプラス面から見ていこう。連邦議会での審議は来週、すなわち9日以降にならなければ始まらないため、オバマ氏はこの承認要請により外交的な解決策を追求する時間を買ったことになる。 今週火曜日には、20カ国・地域(G20)首脳会議が開催されるロシアのサンクトペテルブルクに向かう。この首脳会議後に2国間で会談しようというウラジーミル・プーチン大統領からの招待は先月辞退しているが、シリア攻撃を少なくとも10日間延期したことにより、オバマ氏はプーチン氏や中国政府、アラブ連盟、その他主要なアクター(行動主体)と対話をする窓口を開いた。 うまくいけば、軍事行動の可能性をちらつかせた外交が機能することを立証できるだろうし、実際にそうなれば1つの勝利と言える。 しかし、議会の承認をまだ得ていないオバマ氏の威嚇をプーチン氏やその他の指導者たちが真剣に受け止めると考えるのは楽観的だろう。また、議会が攻撃を承認するまでは、オバマ氏は首都ワシントン以外の場所で長い時間を費やすことができない。議会での証言を求められるジョン・ケリー国務長官とチャック・ヘーゲル国防長官も同様だ。 ジョージ・W・ブッシュ氏のイラク戦争が2002年に承認された時や、その父親であるジョージ・H・W・ブッシュ氏による最初のイラク戦争(湾岸戦争)が1990年に――上院での得票数の差は2002年の時よりもかなり小さかったが――承認された時のように、シリア攻撃は上下両院で認められるとオバマ氏は自信を見せている。 確かに、1973年に戦争権限法が制定されて以降、攻撃開始の提案を拒まれた大統領はいない。もっとも、わざわざ審議を求めた大統領はほとんどいなかったが。 もし連邦議会の承認を来週、あるいは再来週に得ることになれば、オバマ氏の立場は国内外の両方で強くなるだろう。まず米国内では、シリアで何が起ころうとこれは連邦議会と共同で取り組んだことだと主張できるようになる。国民の大多数が軍事行動に懐疑的である今、オバマ氏はこれを超党派の行動にしたいと考えている。正常な政治的本能の現れだと言えよう。 米国外でもオバマ氏の信用は高まるだろう。連邦議会の承認は、いわゆる米国例外主義を最大限に発揮するものとなるだろう。外国の罪のない子供たちが何百人も毒ガス攻撃を受けたことに対応するために、政治的な立場の違いを乗り越えるのだ。 台本通りに事が進むか? 以上がオバマ氏の計画だ。しかし、英国議会が先週、シリアに関する英国政府の提案を否決してからは、台本通りに事が進むと確信することは難しくなっている。民主党も共和党もこの件については流動的であるため、明らかな過半数を得て承認されると予想することはできない(そうなる可能性が最も高いはずではあるが)。 ジョン・マケイン氏をはじめとする共和党タカ派の多くと、マックス・ボーカス氏などあてにできる民主党中道派の議員たちはオバマ氏の提案に賛成するだろう。ナンシー・ペロシ下院院内総務などリベラルのタカ派の一部も賛成に加わるだろう。 しかし、孤立主義を標榜するティーパーティー(茶会)系の共和党議員は以前、法案の成立阻止のために民主党のリベラル派と手を組んだことがある。今回も同じやり方を使うことが考えられないわけではない。もし連邦議会でシリア攻撃が否決されれば、オバマ氏は大変な打撃を受けることになる。 そして、議会の意思を踏みにじるか、それとも国際舞台でレイムダックになるかという選択を迫られることになるだろう。 この件については、ホワイトハウスは英国のデビッド・キャメロン首相よりも票読みができると想定しなければならない。もしそうでなければ恐ろしいことになる。いずれにしてもワシントンはこれから、世界における米国の役割とオバマ政権の今後についての議論で持ちきりになるだろう。 シリアで起きることについて責任を負うリスク 英国の首相ほど無能力ではないと想定するなら、オバマ氏はこれよりもはるかに高いハードルに中東の地で直面することになろう。コリン・パウエル元国務長官はかつてイラクについて、「自分が壊したものは、自分で引き取ることになる」と述べた。 オバマ大統領が連邦議会の承認を得たら、米国はその瞬間から、シリアで起きることについて責任を負うことになるのだ。これがオバマ氏の真のギャンブルだ。 いささか突飛な話だが、一部で言われているように、大統領は潜在意識では議会がノーと言うことを願っているのだろうか? それとも予想外の出来事がいろいろ起き、特に英国議会が攻撃を否決したために、オバマ氏がシリア攻撃を渋る気持ちが以前より弱まったのだろうか? 何のせいで開戦の決意が強まったかはともかく、オバマ氏はシリア攻撃の承認を米国に求めている。マケイン氏は8月30日、多くの人々の気持ちを代弁する形で、英国議会がシリアに関する政府提出議案を否決したことを「英国が世界の強国の座を降りた1つの象徴」と切り捨てた。 ベトナム戦争の記憶 確かにその通りかもしれない。ただ、英国が米国の戦争に加わらないのはベトナム戦争以来のことである。ベトナム戦争は、2人の大統領を沈めるのに手を貸し、その後継者たちのほとんどを悩ましてきた泥沼だった。米国戦史上もっともコストの大きな失敗だった。 オバマ氏が限定的な攻撃の承認を求めているのは、明らかに、シリアへの介入がベトナム式の終わりの見えない展開になるのを避けるためだ。あくまで化学兵器の使用を罰するのが目的だとしており、政権交代には一切言及していない。 しかしマケイン氏らは、バシャル・アル・アサド大統領の排除を求めるより強硬な決議を望んでいる。また当のアサド氏は間違いなく、米国が簡単には手を引けなくなるような方法で対応してくるだろう。 かつてリンドン・ジョンソンが、戦闘をエスカレートさせればベトナム戦争から抜け出しやすくなると期待したのと同じように、オバマ大統領は、自分では制御できないゲームに足を踏み入れる危険を冒している。 もちろん、オバマ氏は連邦議会と手を携えてゲームに加わることになる。良かれと思ってそうするのだろう。恐らくは、そうするよりほかになかった。しかしこのやり方は、予想外の事態に備える保険にはなっていない。良きにつけ悪しきにつけ、オバマ氏はシリア問題で大きな賭けに打って出ている。 By Edward Luce
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