01. 2013年8月26日 23:13:55
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2013年 8月 26日 20:04 JST 【オピニオン】失敗に終わった米国の中東大戦略 記事By WALTER RUSSELL MEAD 画像を拡大する image Associated Press カイロ市内の大統領府前で、オバマ大統領の顔写真と米国旗を掲げる反モルシ前大統領派の人(7月7日) ヘブライ語聖書によると、この世の始まりは「tohu wabohu(トーフー・ワボーフー)」、つまり混沌(こんとん)と混乱だったという。中東は今月、その原始の状態に逆戻りしているようだ。イラクの崩壊は止まらず、シリアでは内戦が続く。暴力はレバノンに広がり、先週はシリアで化学兵器が使用されたとの疑惑が生じた。エジプトは内戦の危機にひんしている。将軍たちはムスリム同胞団を弾圧し、街頭の暴徒は教会に放火した。かつてオバマ大統領の中東地域の最良の友として称賛されたトルコの首相はエジプトの暴力をユダヤ人のせいにしている。しかし、その他の誰もが責任は米国にあると非難する。 オバマ政権は中東についてのグランドストラテジー(大戦略)を策定していた。それは意図が明確で、慎重に練られ、一貫して遂行された。 残念ながら、その大戦略は失敗に終わった。 計画はシンプルではあったが、洗練されていた。米国はトルコの公正発展党(AKP)やエジプトのムスリム同胞団といった穏健派のイスラム主義集団と手を組み、中東の民主化を進めたいと考えていた。そうすれば一石三鳥が狙える。まず、オバマ政権はこれらの政党と連携することでイスラム世界の中の「穏健な中間層」と米国との隔たりを縮める。その次に、平和的で穏健な政党であれば有益な成果を手に入れることができるということをイスラム世界に示すことで、テロリストや過激派を孤立させ、イスラム世界の中でテロリストらの非主流化を進める。そして、最後に、米国に支持された集団がさらに多くの中東諸国に民主主義をもたらすかもしれず、そうなれば経済・社会情勢が改善され、人々を狂信的で暴力主義的な集団に追いやった苦しみや不満は徐々に取り除かれる。 オバマ大統領(私は2008年の大統領選でオバマ氏に投票した)と政権幹部は、この新たな大戦略が成功すれば民主党リベラル派が米国の外交政策の有能な担い手であることをはっきりと証明することになると期待していた。リンドン・ジョンソン大統領とジミー・カーター大統領の任期中の嫌な記憶をやっと忘れることができる。国民はジョージ・W・ブッシュの外交政策の混乱を今でも不満に思っているから、民主党は波乱の時代に国のかじ取り役を務めるべく有権者から最も信頼された政党として長期的に優位に立てるだろう。 オバマ政権の外交政策に歴史がどのような審判を下すかを予想するのはあまりにも早すぎる。大統領の任期はまだ41カ月残っている。中東情勢が再び激変するのに十分すぎる時間だ。にもかかわらず、大統領はさらによい結果を手にするためには、アプローチを変更しなければならない。 画像を拡大する image REUTERS シリア軍による化学兵器使用疑惑の後、ダマスカスに保管された死体を調べる活動家たち(21日) 振り返ってみれば、ホワイトハウスは中東に関して5つの大きな見込み違いをしていたようだ。ホワイトハウスが支持するイスラム主義集団の政治的成熟度と能力を見誤ったこと。エジプトの政治情勢を見誤ったこと。米国にとって最も重要な2つの中東の同盟国(イスラエルとサウジアラビア)との関係に戦略が与える影響を見誤ったこと。ホワイトハウスは中東のテロ活動の新たな力学を把握することができなかったこと。そして、最後に、シリアに介入しないコストを過少評価していたことだ。 ここ数年の米国の中東政策は、中東の比較的穏健なイスラム主義の政治運動には賢明かつ巧みに政権を運営するだけの政治的成熟度と管理能力があるという見方に依存していた。トルコのAKPの場合はそれが半分だけ正しかったことがわかった。つい最近まで、レジェップ・タイイップ・エルドアン首相はどんな過ちを犯したとしても、適度に効果的かつ適度に民主的な方法でトルコを統治しているように見えた。しかし、時間とともに、そうした見方は受け入れられなくなった。エルドアン政権は記者を逮捕し、政敵に対する怪しげな起訴を支持した。敵対的なメディアを脅したり、露骨にデモを取り締まったりしている。党幹部の主なメンバーは、トルコが問題を抱えているのはユダヤ人や念力など神秘的な力のせいだなどと主張し、ますます動揺しているようだ。 事態は困ったことになってきている。つまり、オバマ大統領がかつて世界の首脳の中で最良の友5人のうちの1人として名前を挙げ、「さまざまな問題に関して極めて優れたパートナーであり極めて優れた友人である」とたたえた人物は今、米国政府から非難されている。非難の理由は、その人物がエジプトのモハメド・モルシ前大統領失脚の黒幕はイスラエルだという「攻撃的な」反ユダヤの主張を展開しているためだ。 しかし、モルシ氏と比べて、エルドアン氏は効率的な統治と賢明な政策を行う宰相ビスマルクのような存在だ。モルシ氏とムスリム同胞団はただ単に、政権を預かる準備ができていなかっただけだ。彼らは与えられた権限の範囲を理解せず、崩壊しつつある経済を何もできないままいじくり回した。何千万人ものエジプト国民が流血のクーデターに声援を送るほど、彼らの統治は不適切で不安定だった。 米国の大戦略の基盤が弱いのは陰謀論者や無能で不器用な人々のせいである。米国はほぼどのような事情があってもトルコやエジプトの指導者と実施すべきことは実施していただろう。しかし、こうした運動と手を結んだことは結局、賢明ではなかった。 ホワイトハウスは米国の外交政策に関わるその他の大半の関係者とともに、中東に関してもう一つ重要な過ちを犯した。それはエジプトの政治的混乱の本質を根本的に見誤ったことである。トーマス・ジェファーソンがフランス革命をアメリカ独立革命のような自由民主主義的な運動と誤解したのと全く同じように、米国政府はエジプトで起きている出来事を「民主主義への移行」だと考えた。そのようなことは全くあり得なかった。 エジプトで何が起きたかと言えば、高齢になったホスニ・ムバラク元大統領が息子に跡を継がせてエジプトを軍事的な共和国から王国に変更するように画策していると軍が考えるようになったということだ。将軍たちは反撃した。混乱が広がると、軍は身を引いて、ムバラク政権を崩壊させた。しゃべり続ける自由主義者や失敗ばかりしている同胞団とは比べ物にならないくらい強大な力を持つ軍はこの期に及んで、エジプトが1950年代以降維持してきた体制を復活させようと行動を起こしたところだ。自由主義者のほとんどは自分たちをイスラム主義者から守れるのは軍だけだということを理解しているようだ。イスラム主義者たちは軍が今でも仕切り役であることを学んでいる。こうした出来事が起きている間に、米国と欧州は存在しない民主主義への移行を推進しようといつまでも忙しく動き回り、夢中になっていた。 次の問題はオバマ政権が自らが選んだ戦略がイスラエルやサウジアラビアとの関係に与える影響を見誤っていたことだ。そして、この2つの国が腹を立てれば、中東で米国をどれほど悲惨な立場に追い込むことができるかを過小評価していたということである。 イスラエルとの断絶は早々にやってきた。オバマ大統領が新たなリンカーンやルースベルトとしてメディアに歓迎されていた忘れがたき初期の時代に、ホワイトハウスはパレスチナとの交渉を再開させるためにイスラエルに入植の完全凍結を宣言させることができると信じていた。結果は、オバマ大統領の外交政策上の最初の大失敗となった。この失敗は最後のものとはならなかった(過去数年間、政権はイスラエルとの関係修復に努めてきた。その1つの結果として、米国が優れた手腕を発揮していれば2009年に始まっていたはずの和平協議が現在、進行中である)。 サウジアラビアと不和になったのはその後のことである。これにもホワイトハウスは驚いたようだ。ホワイトハウスはトルコやモルシ大統領が統治するエジプトと手を結ぶことで、サウジの中東政策を台無しにし、サウジから外交の主導権を奪おうとするカタールの企てを支持した。 多くの米国人はサウジが同胞団やトルコのイスラム主義者をどれほど嫌っているかを理解していない。イスラム主義者全員が一致しているわけではない。サウジは長い間、ムスリム同胞団をスンニ派の世界の中での危険なライバルとみなしてきた。スンニ派の中心がイスタンブールにあった輝かしいオスマン帝国時代を復活させたいと願うエルドアン首相のあからさまな熱望はサウジの優位性を直接の脅かすものである。カタールとカタール政府が経営するメディア「アルジャジーラ」が資金や外交、広報活動でトルコやエジプトを熱心に支援したことがさらにサウジを怒らせた。米国がこれらの国を支援する一方で、イランやシリアについてのサウジの警告に注意を払わずにいたため、サウジ政府は米国の外交を支援するよりはむしろ損なわせたいと考えた。弱体化するモルシ政権と対峙(たいじ)するエジプト軍と手を組むことは、サウジにとってカタール、同胞団、トルコ、そして米国を驚かせる魅力的な機会だった。 第4の問題は米政権が緩やかにつながっていたテロリストの活動やテロリスト集団の生命力と適応力をどうやら見くびっていたことだ。オサマ・ビン・ラディンの死は大きな勝利だったが、アフガニスタンとパキスタンに潜伏するアルカイダには打撃を与えることはできなかった。現在、復活を遂げたテロ活動は、リビアからマリにかけての戦域やナイジェリア北部、シリア、イラク、イエメンなどでのテロリストの大きな成果につながっている。今月、米国が20の在外公館を閉鎖したのはテロリストにとって事実上の大勝利だった。テロリストは米国の行動に大きく影響を与える能力を保持していることを証明することができたからだ。オバマ大統領が考えていた以上にわれわれの敵はメンバーを容易に集めることができるようになった。士気も高まり、資金調達も楽になっている。 最後の問題はオバマ政権がシリアへの介入の代償を懸念するのは当然のことながら、この卑劣な事態に干渉しないコストがどれほどのものになるかを早い段階に把握しなかったことである。内戦が長引くに従って、人道上の犠牲者はおぞましいレベルにまで増えた(リビアで欧米の介入がないままに起きていたであろう数字をはるかに超えている)。地域社会内部や宗派間の憎しみは毒気を帯び、殺りくや民族浄化、宗教浄化が確実に増加しそうだ。不安定さはシリアからイラク、レバノン、果てはトルコにまで広がった。こうした問題全てが内戦が長期化するにつれて悪化しているが、介入は一日一日と困難で大きな犠牲を伴う選択肢になりつつある。 だが、こうした問題以外にも、米国が早期にシリアに介入しなかったことで(初期であれば「背後から導く」ことができたかもしれない)、テロリスト、ロシア・イランの枢軸の双方は重要な勝利を手にすることになった。重要な同盟国の間のオバマ政権の評判は著しく傷ついた。ロシアとイランはバッシャール・アル=アサドを支持した。オバマ大統領はアサド政権の打倒を呼び掛けたが、成し遂げることはできなかった。中東各国の冷淡な現実主義者にとって、このことは米国の大統領が救いがたいほど無力であることの決定的な証拠となっている。ロシアとイランは米国がシリアで楽々と勝利することを恐れていたが、大統領はその機会をつかみ損ねた。他に説明のしようがなかった。 これは危険なことである。ニキータ・フルシチョフがピッグス湾事件や失敗に終わったウィーン会談のあと、ケネディ大統領は無力で無能だとの結論を下し、その後、キューバからベルリンに至るまで大統領を試し続けたように、ウラジミール・プーチン大統領と最高指導者のアヤトラ・アリ・ハメネイ師は優柔不断で決断ができない米国の大統領を相手にしていると考え、その考えに基づいてそれぞれの政策を修正している。フルシチョフのケネディについての判断は間違っていたし、オバマ大統領の敵も大統領を過小評価しているが、こうした見方が修正されるより前に危険な重大局面が生じる可能性がある。 米国のシリア政策がロシアやイランに利益をもたらしたとすれば、テロリストにとっては思わぬ幸運だった。内戦が長期化したことでテロリスト集団や過激派集団は、シーア派の敵に対するスンニ派の闘争の指導者としての地位を確立することができた。テロリスト集団の名声は残虐行為とイラクでの敗北によってひどく汚されたが、シリアでは勇敢で理想主義的と受け止められたことで名声は高まった。湾岸地域の豊かな資金源とジハード(聖戦)戦士集団の資金上のつながりはこの10年でほぼ破壊されたが、それも再建され、強化されている。何千人という過激派が新しい技術や考え方、人脈を祖国に持ち帰るために訓練を受け、思想を吹き込まれている。シリアで起きているこうした変化はアフガニスタンの聖戦士の変化よりもはるかに危険に思われる。アフガニスタンは遠い地にあり、(中東諸国のほとんどの人にとっては)野蛮な場所である。シリアは中東の中心にあり、聖戦が広がれば壊滅的な影響が出る恐れがある。 現状をめぐる興味深い要素の1つは、米国の外交政策は中東地域で次々と失敗を繰り返している一方で、歴史上、米国にとって最も重要な3つのパートナー――エジプト軍、サウジアラビア、イスラエル――はかなりの健闘を見せており、政策が一致しなくなると米国を出し抜いた。 同盟関係は、米国の外交政策が成功するかどうかで大きな役割を果たしている。現在、混乱している米国の中東での同盟関係を修復することは、オバマ政権が立ち直りのきっかけとして何よりも望んでいることかもしれない。 オバマ政権はこの不安定な地域で姿勢を立て直しながら、過去4年半の教訓を得る必要がある。まず、同盟関係が重要だ。イスラエル、サウジアラビア、エジプト軍は戦略上の利害を共有している点からも、さらには、ムスリム同胞団のような集団や小国とは異なる意味で実質的な当事者であるという点からも、米国にとって中東地域における最も重要な協力者である。この3つの勢力が協力してくれれば、物事はある程度うまくいくことが多い。この中で米国の邪魔をする勢力が出てくれば面倒なことになる。オバマ政権はイスラエルとの関係修復に必要で困難な仕事を引き受けた。そして、エジプトの将軍とサウド王室の懸念にさらに注意を払う必要がある。こうした関係を持っても、米国が尊重する価値観を捨てることにはならない。むしろこれらの勢力は米国の権力が及ぶ範囲を見極め、米国単独の取り組みがうまくいかない地域では他の協力者を得ようとする。 第2に、テロとの戦いは米国が考えていた以上に厳しいものになるだろう。われわれの敵はあちこちに散らばり、増殖している。暴力的な聖戦はアピール力を取り戻した。アラブ世界やアフリカの一部や欧州、米国では、活力を取り戻した独創的な運動が大混乱を引き起こそうとしている。われわれが貧困や低開発、独裁などの「根本的な原因」を取り除くことでこの問題を排除することができると考えるのは妄想である。われわれは政策の時間枠の中でそれらを排除することはできない。醜い戦いが待ち受けている。国民の不安を鎮めると期待しながらテロの脅威を抑制する代わりに、大統領は長期的な戦いに賛成する世論を形成しなければならない。 第3に、イランに関心を戻さなければならない。イランの増大する権力への懸念はイスラエルとサウジアラビアをつなぐ糸である。サウジアラビアとイスラエルの双方が支持できるイラン戦略を策定して取り掛かれば、オバマ大統領は目まぐるしく変わる状況の中で米国の姿勢を立て直しやすくなるだろう。つまり、シリアに対しては今よりもはるかに厳しい政策になりそうだ。譲れない一線を示しても、相手がその一線を越えたときに後ずさりしては信頼を取り戻すことはできない。 オバマ大統領はソ連がアフガニスタンに侵攻したときのカーター大統領と同じような局面を迎えている。外交政策の重要な要素を支えた前提は今やしっかり保たれていない。時代はすっかり変わった。政策の転換が必要だ。大統領は才能豊かな指導者である。世界は大統領の行動を見守っている。 (ミード氏はバード大学の外交・人文分野のジェイムズ・クラーク・チェイス教授で、「アメリカン・インタレスト」誌の編集委員。) |