01. 2013年8月07日 10:07:09
: niiL5nr8dQ
JBpress>海外>The Economist [The Economist] エジプト軍の弾圧:民主主義と偽善 2013年08月07日(Wed) The Economist (英エコノミスト誌 2013年8月3日号)カイロで起きた非武装のイスラム教徒に対する銃撃を欧米が非難しなかったことは、臆病であり、短絡的だった。 モルシ支持派75人以上が死亡、警察と衝突 エジプト 7月26日、カイロのラバ・アルアダウィヤモスク周辺で抗議デモを行うムハンマド・モルシ前大統領と「ムスリム同胞団」の支持者たち。この翌日に丸腰の市民が数十人殺された〔AFPBB News〕 この6月にトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン首相が自国民に対して催涙ガスや放水銃を使用したことで受けた激しい非難を覚えておいでだろうか? ウラジーミル・プーチン氏がロシア軍にモスクワの路上のデモ隊に実弾を発砲するよう命じたら、どんな憤激を招くか想像してみてほしい。 だが、7月最後の週末、エジプト軍が大勢のデモ隊を殺害し始めた時、欧米はしかめ面をして見せ、暴力を自制するようすべての当事者に訴えるだけだった。 そうした控えめな対応は、道徳的な勇気の欠如だけでなく、エジプトの、そして欧米の真の利益がどこにあるか分かっていないことを露呈している。 銃撃事件が起きたのは7月27日早朝、30年前にアンワル・サダト大統領が暗殺された練兵場の近くだった。7月初めに軍事クーデターで追放されたムハンマド・モルシ氏の支持者らは、軍に対してモルシ氏の大統領職復帰を要求するためにデモ行進していた。そこへ武装警官(および民間の軍支持者)が発砲した。 モルシ氏が所属するムスリム同胞団のメンバー80人以上が死亡し、それを上回る負傷者が出た。 殺害の後、バラク・オバマ米大統領は自身の考えを明らかにしなかった。意見を述べる役目はジョン・ケリー国務長官に任され、ケリー氏は単にエジプトの指導者たちに「崖っぷちから一歩下がるよう」求めただけだった。同様に、英国ではデビッド・キャメロン首相がウィリアム・ヘイグ外相にエジプトの将官たちに警告する仕事を委ねた。 西側諸国のダブルスタンダード モルシ氏の追放に対する米国の抗議は、エジプトに対するF16戦闘機の供与を遅らせることだった。しかし、その控えめなジェスチャーも、銃撃事件の直前に台無しになった。エジプトでクーデターがあったことを認めると、エジプトに対する援助が自動的に打ち切られる可能性があったために、オバマ政権はエジプトでクーデターがあったと言うことを拒み、賢明でない前例を作ってしまったのだ。 ムスリム同胞団、そして中東全域のイスラム教徒たちは一連の経緯から、欧米は世俗主義者が攻撃を受けている時にはある基準を適用し、イスラム教徒が攻撃されている時は別の基準を適用するという結論を下すだろう。彼らとしては、民主主義は普遍的な政体ではなく、世俗派を権力の座に就かせるためのトリックだと考える。 欧米が、ムスリム同胞団がエジプトの政治プロセスに復帰するのを思いとどまらせたいのであれば、これ以上良い方法はなかなか思いつかない。 モルシ氏を殺人の疑いで正式に拘束、デモ隊衝突で死者も エジプト カイロのタハリール広場では7月26日、アブデル・ファタフ・アル・シシ国防相を支持する大規模デモが行われた〔AFPBB News〕 いずれにせよ、たとえムスリム同胞団が政界復帰を望んでいると仮定しても、軍がそれを許すかどうかは分からない。将官たちは今、欧米が自分たちに多かれ少なかれフリーハンドを与えてくれたことが分かっている。 アブデル・ファタフ・アル・シシ国防相は、7月26日のデモ行進によって「潜在的なテロ」と戦う「権限」が与えられたと主張している。 新政府は既に、ホスニ・ムバラク政権において嫌われていた治安機関を復活させている。 モルシ氏を追放するために軍に協力したリベラルなエジプト人は、その熱意を悔やむことになるだろう。確かにムスリム同胞団による統治はひどかった。同胞団は自分たちの権力基盤を固めることに着手し、経済を無視した。彼らは無秩序で党派に偏っていた。 だが、イスラム主義者はエジプトの人口の大半を占めている。彼らを政治から排除する方法は唯一、治安部隊が大半の権限を握ることだ。それが実現すると、エジプトは自由な国として機能しない。 利口過ぎて嫌われる 欧米は民主主義の普及に関心がある。しかも、それはエジプトに限ったことではない。民主化のプロセスは容易でもなければ、不可避でもない。現実政治を学ぶ賢い人たちが、エジプトでは軍が権限を掌握しているのだから将官たちと良い関係を保つべきだとオバマ、キャメロン両氏に助言したに違いない。 しかし、まずクーデターに対して、そして今度は非武装の民間人への銃撃に対して非難することを露骨に避けることで、欧米は随所にいる民主主義の敵の見解を裏付けてしまった。すなわち、欧米の説教は偽善だらけだということだ。 オバマ氏が次に権威主義者に対して公民権を尊重するよう迫る時、その分だけ正当性を主張することが難しくなったと感じるだろう。 トルコの報道の自由を蝕むエルドアン首相 2013年08月07日(Wed) Financial Times (2013年8月6日付 英フィナンシャル・タイムズ紙) トルコ首相、軍用機撃墜への対抗措置取ると明言 エルドアン首相の攻撃はとどまるところを知らないように見える〔AFPBB News〕 英エコノミスト誌が2011年のトルコ総選挙で自身の対抗馬の支持を表明した時、レジェップ・タイイップ・エルドアン首相は無理もない憤りに駆られて選挙戦に火を付けた。 問題の社説が掲載された日にコンヤで開かれた集会では、何万人もの支持者がエルドアン氏が同誌の傲慢さをあげつらうのを見て歓声を上げた。エコノミスト誌はトルコの世俗派の野党だけでなくイスラエルとも共謀していると首相はほのめかした。 エルドアン氏はプロボクサーのように敵をにらみつけ、支持表明を利用して政敵にジャブを放った。その時の選挙で3度連続の勝利を収めて以来、そして何より、強権的な首相の振る舞いに抗議する6月の全国的な市民のデモ以降、エルドアン氏はボクサーがグラブを外して素手で殴りかかるように手段を選ばなくなった。 2年前のエルドアン氏の爆発には、ネオイスラム主義の公正発展党(AKP)を鼓舞し、コンヤに代表される保守の牙城アナトリア地方の支配を強化するために演出した部分もあった。ところが今、エルドアン氏は6月にイスタンブールのタクシム広場から放たれた嘲笑と怒りを実存的な脅威と捉えており、首相の攻撃はとどまるところを知らないように見える。 特に、ただでさえ強烈だった批判に不寛容な姿勢は、トルコメディアの独立性の残骸をも破壊する恐れがある。 ケマリストの応援団だったメディアへの敵意 メディアに対するエルドアン氏の敵意は、今に始まったものではない。10年以上権力の座にありながら、首相とAKPはなお野党意識を払拭できずにいる。 それも、ある程度までは理解できる。何しろAKPは、トルコ共和国の建国の父、ムスタファ・ケマル・アタチュルクが生み出した世俗派のエリート層に取って代わるなかで、軍や司法、そして過去のクーデターでケマリスト(アタチュルク信奉者)の応援団の役目を果たしたメディアなどの権力の中枢と壮大な戦いを繰り広げた。 メディアを手なずける「家畜化」が勢いを増したのは、エルドアン氏が選挙で2度目の勝利を収めた2007年、首相の娘婿が国内最大手のサバー紙の経営を引き継いだ時のことだ。その後、AKPを解党に追い込もうとする軍と司法による挑戦に打ち勝つと、エルドアン氏とAKPは攻撃に転じた。 大勢の軍幹部と政治家、学者、それに少なからぬ数のジャーナリストが、欧州連合(EU)加盟の野望に駆り立てられてトルコの自由を拡大したAKP政権の転覆を図った陰謀容疑で逮捕された。 8月5日にはいわゆる「エルゲネコン事件」の裁判でついに判決が下され、トルコ軍のイルケル・バシュブー元参謀総長が終身刑を科された。一方、起訴されていた275人のうち、無罪を言い渡されて釈放されたのは、たった21人だった。 反対勢力の魔女狩り 私情を挟まない観測筋でさえ、表向きは「深層国家」に法の支配を課そうとする試みとして始まった動きが厄介な反対勢力の魔女狩りに発展したと考えている。 2009年に主要日刊紙ハリエットを発行するメディア大手ドアン・グループが脱税の疑いで25億ドルの罰金を科されると、魔女狩りの印象が一段と強まった。ドアンはこの罰金のせいで日刊紙ミリエットなどの傘下新聞の売却を余儀なくされた。 だが、新たなオーナーの下でさえ、ミリエットは十分に従順とは言えない。同紙は今年2月、クルド労働者党(PKK)の指導者で投獄されているアブドラ・オジャラン氏との政府公認の会合の議事録を掲載した。トルコ南東部で30年続き、4万人以上の死者を出してきたクルド民族の武装闘争の終結を図る交渉だ。 エルドアン氏はリークに激怒し、市民集会で「この手のジャーナリズムは地獄に落ちるべきだ」と述べた。公正を期するために言えば、エルドアン政権の国家諜報機構長官を務めるハカン・フィダン氏とPKKの会談を録音した2011年のリークは、オスロでの両者の秘密協議を台無しにした。恐らくはそれがリークの狙いだったのだろう。 だが、今回の一件では、ミリエットは、長年トルコで独り、少数派クルド民族との和解を訴えてきた有力コラムニストのハサン・ジャマル氏を追い出す結果になった。 催涙ガスが放たれている時に民間放送局が流していた番組は・・・ しかし、メディアがどこまで落ちたかを明らかにしたのはタクシム広場での反乱だった。イスタンブール中心部が催涙ガスにむせていた時、民間放送局はペンギンや統合失調症、火星からの放射線に関する番組を流していた。サバー紙の週末の一面は、喫煙に対するエルドアン氏の考えに紙面を割いていた。 あれ以来、AKPは好んで国際的な広がりを持つ新たなクーデターの陰謀を特定するようになった。メディアと、実体がなく定義が曖昧な「金利ロビー団体」、トルコ産業界のコングロマリット(複合企業)、さらにはエルゲネコン人脈までもが組んで10年前から陰謀を企てているというのだ。 トルコのジャーナリスト組合によれば、先月は著名コラムニストでサバー紙のオンブズマンだったヤブス・バイダー氏が解任され、22人のジャーナリストのうち1人が解雇された。タクシム広場のデモ以降、37人が退職に追い込まれたという。 ニューヨークに拠点を置くジャーナリスト保護委員会(CPJ)の言葉を引用するなら、トルコは中国とイランを上回る「世界一多くジャーナリストを刑務所に入れた国」であるだけではない。 バイダー氏が政府の怒りを買ったニューヨーク・タイムズ紙への寄稿で説明したように、大半のトルコメディアは、建設や銀行、通信分野のうまみのある契約で政府に借りがあるオーナーたちによって、報道を封じられているか、攻撃犬として利用されている。 トルコから輝きを奪う被害妄想的な不寛容 トルコ首相「忍耐にも限度」、反政府デモ10日目も強硬姿勢崩さず 6月のタクシム広場での反政府デモ〔AFPBB News〕 政府方針から外れたコングロマリットでトルコ経済の1割近くを占めるコチ財閥は先月、税務監査官の捜査を受けた。これは異論を許さない首相による報復と見なされている。 エルドアン氏は異論を許さないばかりか、同氏の信心深いパターナリズムの息が詰まるような抱擁を受け入れない、若々しい社会の多様な半分の非礼にも我慢ができない。 確かに、ツイッターなど、こうした若者のお気に入りのメディア――エルドアン氏はこれを「社会に対する脅威」と表現した――は報道封鎖に勝ることがある。 だが、イスタンブールのツイッター利用者たちはアナトリア地方の奥地では大した意味を持たない。エルドアン氏はそれを知っている。その一方で、同氏の被害妄想的な不寛容は、かつて自らが変化に手を貸してイスラム世界における民主主義の灯台となったトルコから輝きを奪っている。 By David Gardner
|