01. 2013年8月01日 02:25:42
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経済制裁と核開発、“脅された国”はこう思う深刻な薬不足がイラン国内を脅かす 2013年8月1日(木) エッテハディー・サイードレザ 報道で得られる情報は正確か? 米国や国際社会は、今なおイランに対して経済制裁を続けています。それがイランに与える影響について多くの報道がなされていますが、その信頼性はとても低いと言わざるを得ません。 イランの現状を伝える通信社は、大きく3つのグループに分けられます。まず、イラン国内で報道活動を行っていますが、政府によって厳しく動きを制限されている通信社です。その通信社が配信するニュースを見ると、経済制裁による影響はとても低く、それどころか輸入制限のおかげで、イラン製の商品がとても売れているように思えます。たとえ制裁が理由で何か問題が起きたとしても、それは大したことではないと、この通信社は報道しています。 第2のグループは欧米系の通信社で、こちらは逆に制裁の影響を大げさに報道する傾向があります。庶民の怒りは爆発寸前で、もうすぐイランでも他の中近東の国々と同様に革命が起こるはずだとその通信社は報道しています。特にイランの石油輸出に対する制裁の影響を、これら欧米系通信社は誇張します。 そして第3のニュース通信社は、主に反対派に属し、海外で報道活動をしています。しかし、イラン政府に反対しているグループは1つではないため、この手の通信社が配信するニュースの中身は、非常に多様です。 というわけで、経済制裁の影響をあるがままに報道する通信社もあれば、勝手な想像を働かせて報道する通信社もあります。特に信頼性が低いのは、以前の王制を支持し、1979年のイラン革命後、米国や欧州に追放されたイラン人たちが運営する通信社です。彼らは過去34年にわたり、近い未来にイスラム共和国が崩壊すると報道してきました。彼らはイランから追放され、1日も早く母国に戻りたいので、当然現在の政府が崩壊することこそが理想だと言えるでしょう。 情報に対する信頼性の低い通信社のせいで、海外の人々がイランの現状を正確に知る手段はほとんどありません。一番確かなのは、イランの庶民たちの声を直接聞くことですが、以前このコラムで紹介したように、イランでの調査、取材活動は政府によって管理され、最終的に国民は今の生活に大変満足しているという結果が出るのが当たり前となっています。 さらにイラン社会の階級格差が広がりつつあるため、人によって制裁の影響が異なってきています。中には、経済制裁のおかげで大金持ちになった人も少なくないのです。もちろん彼らに聞けば、制裁に対して何の不満など抱いていません。 経済制裁が引き起こした薬品不足 しかし、大金持ちであれ、貧乏であれ、イランでは薬を必要としている患者が多いのは事実です。薬は値段が上がっただけならまだしも、そもそも輸入されないので、患者たちは本当に苦しい日々を送っています。 薬品不足の問題は、経済制裁の影響を直接受けている面もありますが、間接的な影響もあります。まず、米国は一方的にイランの銀行との取引をほぼ完全に禁止しているので、薬を輸入することが複雑になっています。これが経済制裁の薬に対する直接的な影響です。 7月25日、オバマ政権は、イランへの輸出に関して人道的な観点から必要な物資に対する制限を緩和すると発表しました。その中で米財務省は、イランへの輸出を認める医薬品のリストを公開しました。恐らく、これは非政府系の人道支援団体による活動の成果だと思われます。最近はイランにおける薬品不足がとても深刻化し、多くのイラン人が「医薬品制裁の削除」を求める運動を始めたこともあり、オバマ政権は薬品の輸出制裁を緩めたように思えます。しかし、こうした発表にもかかわらず、イランと取引すれば罰せられる可能性があるので、金融機関が取引を再開することについて、まだ楽観はできません。 さらに米国の経済制裁によるドル高でも、薬品不足が悪化しました。これが間接的な影響です。2011年3月は1ドル=1万リアル(当時は約100円)でしたが、13年2月には1ドル=3万5000リアルに上昇しました。わずか2年で、3倍以上もドルが跳ね上がったのです。これにより輸入薬品の値段が急上昇する一方、国民の収入は伸びていないため、患者たちはさらにひどい状況に置かれることとなりました。 もちろんイラン国内の薬品産業も発展しており、国内で生産される薬もあります。しかし、問題は脱髄疾患やガンの治療に必要な薬の不足です。現在、米国からの薬品輸入は以前の半分に低下し、薬を購入できないために命を失う患者が大勢います。血友病の薬はもうすぐ足りなくなるといわれており、米国による経済制裁は多くのイラン人を“殺害”する可能性があります。 致命的な疾患の薬だけでなく、ほかにも困っている患者がたくさんいます。最近友達と話をしたところ、彼の母親が使っていた目薬が10倍も値上げされ、もはや国内での入手が困難となり、海外で購入してもイランに郵送してもらうこと自体が難しいのでお手上げだと言っていました。これでは、まさに米国は「イランとの戦争」を始めたのと変わりません。 それではなぜ、米国はイランに対してこれほど厳しい経済制裁を行っているのでしょうか。 次第に厳しくなっていった経済制裁 米国によるイラン制裁のきっかけとなったのは、79年のイラン革命です。当時、パフラヴィー国王はイランを追放された後、エジプトやモロッコに滞在してから、米国に入りました。追放された国王は、ガンの治療を受けるために入院したと米政府は発表しました。しかし、革命の熱気であふれている当時のイランでは、理由が何であれ、国王をイランに引き渡すべきだと米政府に要請しました。それを当時のジミー・カーター大統領が拒否したため、イランにある米国大使館の前で大きなデモが行われました。そして人々は大使館に侵入し、444日にわたって大使館の職員たちを人質に取ったのです。 カーター政権は対抗措置として、米国の銀行に保管されていた120億ドルのイランの財産を凍結しました。これにより、80年以来イランとアメリカの国交が途絶えただけでなく、イランに対する経済制裁も次第に厳しくなってきました。 米大使館への侵入について、いまだにはっきりした情報はありませんが、イランの大学生による行動だったと思われます。その1つの理由として、50年代の事件が挙げられます。当時、民族主義を掲げるモハンマド・モサッデク首相の政権は、米国の介入によって崩壊し、イランを逃げ出したパフラヴィー国王が再び王座に就きました。そのため、イラン人は50年代から米国を敵視し、79年の革命後は米大使館は自由に活動できないため、学生たちが大使館に侵入したのかもしれません。彼らは学生であっても、共産主義に近い考え方を持っていたと主張する学者もいます。 また、人質解放まで444日もかかった理由としては、米国内における民主党対共和党の争いのせいだという学者がたくさんいます。この事件のために、民主党のカーター政権は後期の選挙で負け、共和党のロナルド・レーガンが当選しました。 いまだに真相が分からなくても、米大使館人質事件をきっかけにイランへの経済制裁が始まったのは事実で、この事件はイランや米国の歴史上、とても重要な出来事だったといえるでしょう。 それ以来、イラク・イラン戦争の時にはイランへの武器販売を禁止する制裁を受けたり、87年のレーガン政権でも経済制裁を受けました。さらに、95年のクリントン政権による「完璧な経済制裁」は、イランを国際社会から孤立させるのが狙いだと考えられます。 核開発計画か、それとも核兵器開発か 経済制裁が厳しさを増したのは、07年の「イランの核開発計画」を巡る問題が起きてからです。イランは、核開発の狙いは平和利用のためだと主張していますが、国際社会はなかなか信じてくれません。イランは濃縮ウランの製造も発電やガンの治療用というのが目的であると主張していますし、北朝鮮とは異なり国際原子力機関(IAEA)の調査員はイランの核施設の一部を訪問できます。なのに、なぜ国際社会の信頼を得ることができないのでしょう。 一番大きな理由は、イランと米国との国交断絶ではないでしょうか。両国が互いに敵視し合っているのに、信頼関係が成立するはずなどありません。その上、2001年、9・11の米国同時多発テロ事件以降、イランは米国によって包囲されている状態です。米軍はイラクやアフガニスタンを武力によって占領しただけでなく、パキスタン・ペルシア湾地域の各国、クウェート、トルコ、アゼルバイジャン、キルギズ、アルメニアにも米軍基地を配置しています。 米国にしてみれば、米軍の配置によって脅かされているイランが核兵器の開発を狙っていると考えても無理はないでしょう。一方、イランの立場からすると、仮に核兵器開発を狙っていても、それを明かすわけがありません。イランと米国との国交が回復しない限り、こうした状況が改善する見込みはなさそうです。 イラン革命の結果、イランとイスラエルとの国交も断絶されましたし、イランはイスラエルを国として認めない立場を取りました。現在イランで使われている地図を見ると、イスラエルという国は存在しません。これは他の一部の国の地図で、パレスチナが存在しないのと同じことです。パレスチナ問題をほぼ世界各国が無視している中、イランはそれを重視してきました。ですから、ことあるごとにイランとイスラエルは互いに脅し合います。 パレスチナ問題がイランの核開発に与える影響ですが、イスラエルが核兵器保有の“疑い”があることが大きいでしょう。国際社会はイスラエルの核兵器保有を厳しく監視しようともしないくせに、“敵”であるイランは核兵器を開発するはずだと思い込んでいます。はっきり言って、国際社会がイランとイスラエルを平等に扱わない限り、イランの核開発問題は解決しないだけでなく、周辺の国々も自己防衛のために近代兵器の開発を始める可能性が高いでしょう。 イスラエルはイランの核施設を破壊すべきだと強調するだけでなく、独自の空襲を計画していると脅してきます。国際社会に監視されていない国は、他国をこうも簡単に脅迫するのだという現実は、多くのイラン人にとって理解不能です。これでは、イランの核開発の目的が何であれ、それを支持する人がいても不思議ではありません。 米国やイスラエルによって“脅かされている”イランは、本当に核兵器の開発を狙っているのでしょうか。答えは、立場によって異なります。しかし、過去に例のないほどの厳しい経済制裁を通して、既に「イランとの戦争」が始まっているのは事実です。 人権を守るためにリビアやシリアの国内紛争に介入した米国や欧州連合国は、核開発問題を理由に、イランに対して例のない制裁を可決しました。表向きは政府や軍事に関係する人々を狙ったものですが、実際は国民だけが苦しんでいます。この矛盾は理解できないと同時に、耐えがたいものがあります。 21世紀の“戦争”は、残酷すぎます。以前は軍人と軍人との戦争でしたが、現在の“戦争”は一般人を無差別に狙うだけです。政府間の争いは、政府間の対話によって解決されるべきではないでしょうか。 このコラムについて 100%イラン視点 イラン人コラムニスとのエッテハディー・サイードレザ氏が、日本ではほとんど知られていない「イラン・イスラム共和国」を生きる人々の暮らしや、日本に住むイラン人の視点で見た“日本”について、楽しく、分かりやすく紹介する。世界のメディアは「イランの脅威」を報道するばかりで、イランのユニークな自然や、世界に誇れる由緒ある文化や遺跡などをほとんど伝えていない。たとえイランに興味があっても、「イランは危ない」というイメージが渡航をためらわせる。そこでサイードレザ氏がビジネスやレジャーの対象国として再認識してもらえるよう、母国で実際に起きていることの真実を明らかにする。
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