05. 2013年7月12日 16:45:05
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JBpress>海外>中国 [中国] 米国を喜ばす術を身につけ始めた人民解放軍 米中戦略経済対話〜中国株式会社の研究(223) 2013年07月12日(Fri) 宮家 邦彦 この原稿が掲載される日の朝、今年の米中戦略経済対話(S&ED)はすべての日程を終え、締めくくりの共同最終声明発表が行われている頃だろう。ワシントンで7月10日、11日の両日、米中双方から合計30省庁ものトップが参加して開催された米中閣僚級年次協議は今年で早5回目となる。 本来なら会議終了後にこの原稿を書きたいところだが、それでは締め切りに間に合わない。しかも来週はワシントン出張が入っており、米国の最新情報についてはその時に書くつもりだ。されば、いつもの通り、限られた情報に基づき、今回のS&EDの意義について筆者の独断と偏見をご披露しよう。(文中敬称略) S&ED日程から見える実態 イラン核協議「時間切れが近い」、ケリー米国務長官 ジョン・ケリー国務長官〔AFPBB News〕 米国務省によれば今年のS&EDの米中双方の共同代表は、米側がジョン・ケリー国務長官とジェイコブ・ルー財務長官、中国側が杨洁篪国務委員と汪洋副首相であり、全員S&EDは初参加だ。 国務省関係の具体的会合日程は次の通りだが、同時並行的に財務省で行われる経済関係会合も似たようなものだろう。 7月10日(場所はすべて国務省) 0900 全体開幕セッション(4人の共同代表が参加) 1015 気候変動セッション(4人の共同代表) 1130 エネルギー安全保障セッション(4人の共同代表) 1245 安全保障トラック少人数ワーキングランチ(ケリー長官と楊国務委員) 1415 安全保障トラック少人数セッション(ケリー長官と楊国務委員) 1800 全体写真撮影(4人の共同代表) 1830 全体夕食会(4人の共同代表) 7月11日 0830 米中企業CEOとのラウンドテーブル会合(4人の共同代表、ただし、国務省からはバーンズ副長官が出席、場所は財務省) 1015 安全保障トラック全体会合(バーンズ副長官と楊国務委員、場所は国務省) 1130 エコ・パートナーシップ関連行事(同上) 1215 安全保障トラック少人数ワーキングランチ(同上) 1345 安全保障トラック少人数セッション(同上) 1730 米中最終声明発表(4人の共同代表、場所は財務省) 1810 米側共同代表による記者会見(米側共同代表、場所は財務省) 以上長々と日程を書き出したのにはわけがある。読者の皆さんにこの種の会議が実際にどのように動いていくかを理解していただきたいからだ。「2日間も長時間会合ができるのだから、米中関係緊密化は予想以上に進んでいる」と思われるだろうが、おっとどっこい、そう簡単なものではない。 ほとんどは原稿の読み上げ 例えば気候変動関係は初日の10時15分から75分間。長いようだが逐語通訳を入れれば、片道では全体の4分の1の20分にも満たない。代表は双方とも2人だから、1人当たりは10分。しかも、気候変動については別途事前に専門家会合が開かれ、双方の発言は整理されているのだろう。 閣僚レベルで丁々発止の激論を交わす時間はまずない。少なくとも中国側は個々の発言について詳細な原稿を作成しているはずだし、米側も恐らく同様だ。この点は気候変動の次に議論されるエネルギー安全保障に関する議論でも変わらない。時間は同じく1時間15分しかないのだから、仕方ないだろう。 この種の会議で常に重要なのは「全体」会合よりも「少人数」会合だ。筆者の経験では、機微で難しい話をするのは「少人数」会合と相場が決まっている。注目は安全保障トラックの少人数会合だ。 もっとも、中国の凄いところは「少人数」だろうが、「全体」会合であろうが、話す内容がほとんど変わらないことだが・・・。 一般に中国の政治家や官僚は個人的意見の開陳には極めて慎重であり、自分自身の本音を他人に言うことはまずない。「少人数」とは言っても、中国人の他人が入るから、信用できないのだろう。 中国要人が本音を喋るのは「1対1」(英語ではテタテtête-à-tête)の会合の際だけ、というのが筆者の教訓だ。 というわけで、残念ながら今回のS&EDでも米中間の懸案に大きな進展が見られることはない。そもそも、このような形式化したS&EDが機能しなくなったので、米国は6月に非公式でプライベートな雰囲気での首脳会談をお膳立てしたのだから・・・。今回も中国側の姿勢は相変わらずということだと思う。 埋まらない米中の溝 これを象徴するような発言が7月10日の開幕セッションでの中国側汪洋副首相の発言だ。同副首相はこう述べている。(オリジナル中国語の英語訳) 当然ながら、米国と同様、我々は何と言われても、中国の基本的システムと国益を害するような見解を受け入れることはない。我々にとってそのような対話は受け入れ不能である。これが我々の基本線であり、断念することは決してない。 (Naturally, like the United States, we will never accept views, however presented, that undermine our basic system or national interest. To us, a dialogue like that is simply unacceptable. This is our bottom line and we will never give up.) 「それを言っちゃあ、おしまいよ」というツッコミを入れたくなるほどだ。汪洋もまだ若いのか、相当気負っていたのだろう。米国に対するよりも、中国国内に対する「自分は容易に妥協しない」というメッセージだろうか。初めてのS&ED参加だが、こんな発言をするようでは彼の器もその程度なのかもしれない。 そうは言っても、米中間に進展がないわけではない。それどころか、徐々にではあるが、米中間の議論は毎回深まっているように思える。冷戦時代の「米ソ戦略対話」と「日米貿易交渉」を足して2で割ったような今回の会合で予想される議題と議論の成果について簡単に触れておこう。 ●サイバーセキュリティー 米国はサイバー攻撃を通じた企業秘密・知的財産権の盗取行為を問題にしているが、後述するように、今回は米中間に一定の歩み寄りが期待できそうだ。 ●北朝鮮 これまで「北朝鮮の安定」を最優先してきた中国が、最近「北朝鮮の安定」の前に「北朝鮮の非核化」を置くようになったことは重要だ。もちろん、これも中国にとっては単なる戦術的方針変更にすぎないが、今の米国はこれを受け入れるしかない。北朝鮮では米中で「成果があった」という評価だろう。 ●アジア海洋領土問題 米国は領土の帰属について中立的立場を維持しつつ、問題の平和的(すなわち、中国が武力を用いない)解決を求めている。この点は汪洋の言うとおり、中国にとって「決して受け入れられない国益」だ。されば、この問題は当面平行線となり、具体的成果は出ないだろう。 ●米中軍事交流 この問題は中国側が交流再開に応じれば「進展」、交流を中断すれば「停滞」となる、基本的には中国次第でどうにでもなる問題だから始末が悪い。今回も中国側が望めば細かい「成果」を出すことは可能だろうが、それによって中国側の戦略的姿勢が変わるとは思えない。 ●気候変動 深刻な大気汚染問題に直面する中国側はようやく最近態度を軟化させたように見える。2009年の国連気候変動会議(COP15)で米中関係が険悪化したことは記憶に新しいが、6月の首脳会談を受け温室効果ガス(HFC)の削減で更なる進展が見込まれる。大きくはないが、これも成果と言っていいだろう。 ●投資・会計・為替・農業・輸出規制などの経済問題 米国は中国による外国人出資比率制限などの障壁に直面しており、中国での投資機会がフェアではないと主張する。2国間投資協定の予備的協議でも始まれば一定の「成果」と言えるだろうか。 また、米証券取引委員会(SEC)は米証券取引法違反の疑いで5大国際会計事務所の中国法人を告発している。 さらに、米国は中国による米国産牛肉、豚肉、鶏肉の輸入拡大や遺伝子組み換え作物の認可促進を求めているし、中国の為替操作、対中貿易赤字問題なども引き続き懸案だ。米中経済関係は一昔前の日米貿易摩擦と同じような不愉快な様相を呈し始めている。中国さん、米国相手の交渉、ご苦労様です。 サイバーという宿題 1カ月前、筆者は「習近平がオバマから貰った『宿題』をどこまで実行するか、そのために人民解放軍に対しいかなる指示を出すか、解放軍は習近平の指示にどこまで従うか、それとも面従腹背を決め込むのか。その結果は7月にも予定される米中戦略・経済対話の中で明らかになる」と書いた(中国株式会社の研究その219)。 もちろん、最大の宿題は中国のサイバー攻撃だ。1カ月前、当時のトーマス・ドニロン大統領補佐官は、「もしこの問題が処理されず、米国の知的財産に対する直接盗取が続けば、この問題は米中経済関係にとって非常に困難な問題となり、2国間経済関係の潜在的可能性を阻害するだろう」と警告している。 どうやら、中国側はこの警告を真剣に受け止めたようだ。今回のS&EDの直前、米中は双方の文人専門家と軍人が参加する第3回SSD(戦略安全保障対話Strategic Security Dialogue)会合を開き、長時間この問題で意見交換を行ったという。目立たないが、これは実に大きな進展だと思われる。 誤解があるかもしれないので、念のため申し上げておく。そもそも、米国は中国に「スパイ行為をやめろ」などとは一度も言っていない。米国も当然情報収集はやる。中国も当然やっているだろうし、それをやめろとまでは言わないだろう。 米国が求めているのは「サイバー攻撃による民間企業の知的所有権の盗取」をやめろということ。要するに、「玄人は玄人同士で競い合えばいいのであって、素人さんには手を出すな」と言っているのだ。官民の区別がはっきりしている米国では当然のことである。 ところが、これが中国人にはよく分からないかもしれない。官民の区別が希薄な中国では「素人も玄人もない」からだ。そもそも、中国のスパイの多くは「素人上がり」であり、中国のスパイにとっては米国政府も米企業も「同じ穴の狢」でしかないだろう。 筆者が注目するのは、今回米国が長時間にわたり中国側、しかも中国の軍人たちを含めて直接、サイバー空間でのルールのあり方をについて丁寧に説明できたらしいことだ。 具体的には、次のような点を中国側、特にハッキング・オタクが軍服を着たような連中の指揮官に忍耐強く伝えたのではなかろうか。 ●西側諸国では政府と民間企業の利益が異なること ●政府同士のハッキングは仕方ないが、民間企業の知的所有権盗取は認められないこと ●特に、これを中国の経済的利益拡大に使うことは重大なルール違反となること 中国側が正確にこれを理解したかどうかはこの際問題ではない。筆者が恐れているのは、米中間の懸案、特に米側が最も懸念する問題について、中国側、特に人民解放軍関係者が具体的話し合いに応じ、徐々にではあっても一定の成果を出す「癖」を付け始めているのではないかということだ。 汪洋の言うとおり、中国が多くの国益について「絶対に譲歩しない」間は、日本にも巻き返しのチャンスがある。だが、米中がそれを乗り越え相互に妥協し始めれば、それこそ日本にとっては危険な兆候だ。 かかる意味でも、米中のサイバー問題に関する意見交換は今後とも注視していく必要がある。 JBpress>日本再生>国防 [国防] 仮想標的は日米艦隊、 中露が海軍合同訓練を実施 2013年07月12日(Fri) 北村 淳 7月2日、中国海軍艦艇7隻が対馬海峡を抜けて日本海を北上した。中国海軍とロシア海軍の合同演習「海上連合2013」に参加するためである。それらの中国軍艦は、7月5日、ロシア沿海州ウラジオストクのロシア海軍基地に到着した。 「海上連合2013」は中国海軍とロシア海軍の合わせて18隻の水上艦艇、艦載ヘリコプター、航空機、海軍特殊部隊、それに“敵潜水艦役”のロシア潜水艦が参加して、7月5日から12日までの間、ウラジオストク沖のピヨトル大帝湾を中心に実施されている。 精鋭艦隊を派遣した中国海軍 中国海軍によると、「海上連合2013」に参加している中国海軍艦艇は北海艦隊所属艦5隻と南海艦隊所属艦2隻、それにヘリコプター3機と海軍特殊部隊1個分隊で、指揮官は北海艦隊の楊駿飛副司令官である。これらの軍艦は全て対馬海峡接近中に海上自衛隊により視認され、中国海軍が公表していた通りであったことが確認された。 ◎「海上合同2013」参加中国艦隊 【北海艦隊所属】 ・051C型(旅洲級・瀋陽級)駆逐艦:「瀋陽」「石家庄」 ・054A型(江凱II型)フリゲート:「煙台」「塩城」 ・大倉級(福清級)補給艦:「洪澤湖」 中国海軍054A型フリゲート(写真:米海軍) 【南海艦隊所属】
・052B型(広州級)駆逐艦:「武漢」 ・052C型(蘭州級)駆逐艦:「蘭州」 「瀋陽」と「石家庄」すなわち051C型駆逐艦は対水上艦・対潜水艦・対航空攻撃能力全てが強力であるが、とりわけエリア防空能力を重視した駆逐艦であり、「煙台」と「塩城」すなわち054A型フリゲートは対潜水艦戦能力が強化されている。 052B型駆逐艦の「武漢」は強力な対水上艦攻撃能力が付与されており、052C型駆逐艦「蘭州」は、中国が独自開発した“中国版イージスシステム”搭載艦で防空能力が極めて高いとされている。 南シナ海を主たる担当海域とする南海艦隊の主力艦である「武漢」と「蘭州」がわざわざ参加しているのは、ロシア海軍潜水艦が南シナ海で活動していると言われているため、南海艦隊とロシア海軍の連携を強化するためではないかと勘ぐる向きもある。 攻撃力の高いロシア太平洋艦隊 一方、中国艦隊を迎える形のロシア太平洋艦隊は、現有する大型水上戦闘艦6隻のうちほぼ全ての5隻を出動させ、そのほか小型ミサイル艇や補助艦艇、対潜ヘリコプター、海洋哨戒機、海軍歩兵特殊部隊、それに通常動力潜水艦を参加させている。 ソビエト連邦崩壊後の著しい海軍力低下のために中国艦隊のような新鋭軍艦は見当たらない。いずれの水上艦艇も海軍先進国から見ると旧式となりつつある軍艦と言える。とはいってもロシア太平洋艦隊が使用しているそれらの年季の入った水上戦闘艦艇は“使い勝手の良い”軍艦と見なされており、ソ連・ロシア海軍軍艦の特徴である“強力な攻撃力”を備えている。 ◎「海上合同2013」参加ロシア艦隊 【水上戦闘艦】 ・スラヴァ級ミサイル巡洋艦:「ヴァリャーク」 ・ウダロイ級駆逐艦:「アドミラル・ヴィノグラードフ」「アドミラル・トリブツ」「アドミラル・シャーボシニコフ」 ・ソヴレメンヌイ級駆逐艦:「ブイストルイ」 ・タランタル級ミサイル艇:3隻 ロシア太平洋艦隊旗艦ヴァリャーク(写真:米海軍)
ロシア海軍ウダロイ級駆逐艦(写真:米海軍) 【補助艦艇】 ・給油艦:「ペチャンガ」 ・海洋曳航船:「MB-37」「SB-522」 【“仮想敵”潜水艦】 ・キロ級潜水艦:1隻(2隻) 「空母キラー」と呼ばれるスラヴァ級ミサイル巡洋艦は、ソ連海軍がアメリカ空母を撃破するために設計した超強力ミサイル(SS-N-12)搭載の巡洋艦であり、水上艦艇攻撃能力だけでなく対潜水艦戦、防空、対地攻撃能力にも優れており、単艦で多様な戦闘が可能な軍艦である。現在「ヴァリャーク」はロシア海軍太平洋艦隊の旗艦である。 ソヴレメンヌイ級駆逐艦の「ブイストルイ」も、強力な対艦ミサイル(SS-N-224)を搭載しており、「ヴァリヤーク」同様に「空母キラー」と言われている。 3隻が参加するウダロイ級駆逐艦は、ロシア海軍では大型対潜艦と分類されており、艦隊を敵潜水艦から防御するのが主要任務であり対潜水艦戦能力が極めて高い駆逐艦である。 そして“敵の高性能通常動力型潜水艦”すなわち“優秀な自衛隊潜水艦”を演じるために「海上合同2013」に参加するロシア海軍キロ級潜水艦は、自衛隊潜水艦同様に極めて静粛性の高い潜水艦であり、ロシア太平洋艦隊は8隻、中国海軍は12隻(うち改良型10隻)を運用している。 ターゲットは海自潜水艦が護る米海軍空母 中国人民解放軍「解放軍報」によると、「海上合同2013」は初めて中国海軍の大規模艦隊が中国の海軍基地を遠く離れて、中国自身による安全保障態勢のない海外の海域で実施する合同演習であり、まずこの点が中国海軍に大きな意義と試練を与えている、としている。 そして、このロシア海軍との合同演習では、 (1)艦隊停泊地の警戒防御、対空作戦、対水上艦作戦、敵潜水艦が潜航している海域の通過作戦、護送作戦、奪取された船舶の解放作戦、海上補給、捜索・救難活動などの合同訓練、 (2)空中目標、海上目標、海中目標に対する実弾砲射撃訓練、 (3)海上閲兵、 などが実施され、とりわけ実弾を使用しての訓練が多い点と、中国海軍・ロシア海軍双方の高度な指揮恊働能力が試される点とが特徴とされている。 このように総花的な演習内容が公表されているが、なんといっても“目玉”の合同訓練は「敵潜水艦潜航海域通過作戦」ということができる。 もちろん、いずれの国々の軍事演習と同様、中露合同演習も特定の第三国を想定していないとはいうものの、ここでいう“敵潜水艦”を演じるのがロシア海軍が誇る極めて静粛性の高い通常動力潜水艦キロ級潜水艦であることから、海上自衛隊潜水艦であることには疑問の余地がない。 要するに、想定しているのはこういう状況である。海上自衛隊潜水艦が潜航し、警戒している海域を、アメリカ海軍空母戦隊が航行する。そこに中露連合艦隊が攻撃を加えてアメリカ空母を撃破する、というのが「敵潜水艦潜航海域通過作戦」の目的である。 すなわち、 (1)対潜能力が高いフリゲート「煙台」「塩城」と駆逐艦「アドミラル・ヴィノグラードフ」「アドミラル・トリブツ」「アドミラル・シャーボシニコフ」それに中露の対潜ヘリコプターによって海上自衛隊潜水艦を警戒・捕捉し、 (2)防空能力が高い駆逐艦「瀋陽」「石家庄」と“イージス”駆逐艦「蘭州」によってアメリカ海軍空母艦載機に対する警戒と攻撃を行い、 (3)強力な対艦攻撃力を有する巡洋艦「ヴァリャーク」、駆逐艦「ブイストルイ」、それに駆逐艦「武漢」が長距離対艦ミサイルによってアメリカ海軍空母を攻撃する、 というシナリオである。 合同演習の意義 この合同演習で対潜水艦戦合同訓練が実施され、それも上記のように「海上合同2013」の眼目と考えられることから、中国海軍とロシア海軍の同盟関係と相互信頼関係が相当高まっている、少なくとも海上自衛隊とアメリカ海軍の同盟関係程度のレベルに近づいているという解釈が成立する。 というのは、いずれの海軍においても、潜水艦ならびに対潜水艦戦というものは最高度の機密事項であり、そう簡単に他国海軍との合同対潜水艦戦訓練は実施されないからである。実際に、アメリカ海軍も、スウェーデン海軍(原子力潜水艦しか保有していないアメリカ海軍は最新鋭通常動力AIP潜水艦をスウェーデン海軍から“借用”していた)と海上自衛隊とだけしか合同対潜水艦戦訓練は実施したがらない。 また中国海軍は、対潜水艦戦の分野では(ソ連海軍以来の)経験が豊富なロシア海軍から多くを学ばねばならない状況に置かれている。1980年代後半より、がむしゃらに海軍の近代化を推進し続け、質量ともに飛躍的に強化されてきた中国海軍にとり、最も遅れをとってしまっている分野が“敵潜水艦”すなわち海上自衛隊の優秀な潜水艦に対処する対潜水艦戦能力なのである。 これまで中国海軍は、自他共に対潜水艦戦能力が弱体であることを認めながらも、なかなかこの能力の強化に努力を傾注することができなかった。だが、いよいよ本格的に対潜水艦戦能力の構築に本腰を入れ始めるとの表明が「海上合同2013」と言えなくもない。 これは奇しくも、6月にカリフォルニア州サンディエゴで実施された多国籍軍水陸両用作戦合同訓練「ドーンブリッツ2013」に自衛隊が参加して日本防衛の致命的欠缺(けんけつ)の1つである水陸両用作戦能力の構築に踏み出したのと軌を一にしている。 米海軍戦略家たちの嫌な予感 このように、いよいよ中国海軍もその最大の欠缺の1つとされている対潜水艦戦能力の本格的取得に踏み出したことを受けて、少なからぬ米海軍戦略家たちの間には「実に嫌な感じがする」といった雰囲気が醸し出されてきている。 中国海軍がさらに質的に強化され、ロシア太平洋艦隊も復活し、アメリカ海軍は強制財政削減により予算が一律カットされ続けた場合(予定通り予算カットが続くと、アメリカ海軍は第1次世界大戦以降最小の艦艇規模になってしまう)には、日本がアベノミクスではないが“異次元”の防衛システム改革(すなわち、適正な自主防衛能力の構築)を断固として実施しない限り、「アメリカ海軍が持ちこたえられるのはそう長くはないことを日本の指導者は自覚しているのであろうか?」という声が少なくない。 |