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[創論]米国の役割は変わるか
対中外交、協議が必要 ユーラシア・グループ社長 イアン・ブレマー氏
――世界での米国の位置をどうみますか。
「2007年と比べてあらゆる面で強くなっている。エネルギー自給への道を進み、成長率は他の民主主義の先進国よりかなり高い。米国株への海外からの投資も記録的水準だ。人々は米国を再び市場として信頼し始めた。だが経済が改善しても国際的な環境は厳しくなる。米国があまり行動しようとせず、米国と意見の異なる中国などの力が強くなるからだ。米国衰退論には強く反対するが、米国の外交政策や世界での立場は難しい局面を迎える」
――世界をリーダー不在の「Gゼロ」と呼びましたが、新たな体制はできますか。
「米主導の構造は崩れてGゼロになったが、新秩序の種のような新たな関係や連合はみられる。環太平洋経済連携協定(TPP)や米欧自由貿易協定は、グローバルではないが米主導の有志連合だ」
「緊張の増す米中に比べると、あらゆる面で機能重視のドイツと中国の戦略的な関係も重要になっている。ブラジルは中国と競合するようになった。製造業や通貨問題だけでなく、アフリカでの影響力という面でも争っている。日本とロシアの協力関係も始まろうとしている。ロシアは友好国と資金、日本はエネルギーを渇望している」
――「世界の警察官」といわれた米国の役割は。
「この問題で米国の世論は無視できない。オバマ政権が外交政策で国民から最も批判されている事件はリビア大使館襲撃事件だ。アフガニスタンでの戦争に敗れつつあることや、イラクの分裂は批判されない、シリア問題でも真の批判はない。米国人の多くが米国は関わるべきではないと考えているからだ。シリア問題はGゼロ時代の象徴だ。国際的な指導力がない時に何が起こるかを示している」
――経済が回復して米国民が自信を持てば状況は変わりますか。
「米国が唯一の超大国として復活することはない。経済回復が続けば、国際問題によりお金を使おうという意思は出るだろうが、かつての役割に戻ることにはならない。世界はより複雑になり、米国以外の国の力が増している。米国の役割の変化は、米政策当局者の決定によるものではなく、中国など新興国の台頭によるものだ」
冷戦回避、争いの芽 摘め
――米中が冷戦に向かう懸念はありますか。
「そうならないように望むが、その側面はすでにある。東西冷戦時代は安全保障上の主要な脅威はソ連だった。1991年のソ連崩壊でその後10年間は脅威はなくなった。01年の同時テロ以降は、テロ、アルカイダが主な脅威になった。そして最近、米国はテロではなくサイバーだと言い始めた。これは中国だ」
「中国が安全保障上の脅威となれば、経済が中心だった対中政策も違ったものになる。中国とは友人でも、直接の敵でもないが、悪い方向に傾きがちだ。これは米国にとっても中国にとっても、日本にとっても良くないことだ」
「何が今後の米中関係を悪化させるかわからない。北朝鮮問題かもしれないし、東シナ海での日中の紛争かもしれないし、南シナ海での中国とベトナムかもしれない。アップルなど米企業が中国で知的財産権を失うことや、中国内の何者かによる米国へのサイバー攻撃かもしれない。問題解決にはかつて米ソ間でしたような協議が必要だ」
――日中関係の冷え込みと米国の役割は。
「オバマ政権がイスラエルとトルコの和解を仲介したように、米国が日中間の緊張緩和に協力できれば素晴らしい。問題は日米と米イスラエルの関係は似ているが、米トルコ、米中の関係は違うということだ。米国は北大西洋条約機構(NATO)加盟国のトルコとは信頼関係にあるが、今の米中にそれはない」
Ian Bremmer 米スタンフォード大で博士号。98年に世界の政治リスクを分析する調査会社ユーラシア・グループ設立。43歳。
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「まとめる力」発揮を 米ジョンズ・ホプキンス大 ヴァリ・ナスル氏
中国など新興国の台頭や金融危機に伴う経済低迷で米国の指導力に陰りが生じている。21世紀の世界での米国の役割はどう変わるのか。オバマ政権初期に国務省顧問を務め、今の米国の外交政策に批判的なヴァリ・ナスル氏と、リーダー不在の世界を「Gゼロ」と表現したイアン・ブレマー氏に聞いた。
――今の米国の外交政策に批判的ですね。
「世界の重要問題に米国が指導力を発揮する必要はなく国内問題に集中すべきだという議論がある。特に中東地域で明白だ。アラブの春で大きな機会があるのに、米国は真剣に関わろうとしていない」
「米国の指導力は重要で、国際的に果たす役割がないとみるのは危険だ。世界は米国の指導力がない世界への準備はできていない。警察官、審判、憲兵などどう呼ぼうとも同じで、世界の安定と繁栄に米国の介入は必要だ。北朝鮮、日中の紛争でも、最後は米国が関わる。他にこうした国はない」
――オバマ政権は軍事介入には慎重です。
「大統領が軍事介入に慎重なのは正しい。米国がイラク戦争のように常に軍隊を先に動かすべきだとは思わない。米国は外交や経済面の関与、対抗勢力の結集などができる。米国の『まとめる力』が非常に重要だ。軍隊は米国がこうしたことをするのを助けているにすぎない。外交政策すなわち戦争ではない」
――米国はアジア重視政策をとっています。
「アジア重視は重要だが、方法に問題がある。まず、それをわざわざ宣言する必要はなかった。新政策として打ち出せば、中東、中南米、欧州に『関与を小さくする』と通告するようなものだ。しかも現実には国務長官は中東問題に多くの時間を割いている。アジア重視が軍事的な中国封じ込めなのか、貿易面のことなのかもはっきりしない」
――米国のアジアでの役割をどうみますか。
「東アジアでも欧州のように経済的繁栄が緊張を弱めると考えられてきたが、今は突然のナショナリズムへの回帰が起きている。日中、中国と南シナ海、日韓と政治危機が経済を脅かしている。米国がこの流れを抑えるのは簡単ではない。各国の指導者は事態が制御できなくならないよう注意すべきだ」
――日本の課題は。
「過去20年間で中国と韓国が日本の大きな競争相手として台頭し、日本はアジアの新たな現実に対処しなければならなくなった。米国との同盟が重要なのは言うまでもないが、アジア地域の安定と経済体制づくりのために、日米関係をどう使うかが重要だ」
「より重要なのは日本経済の行く末だ。日本のアジア地域での影響力はその経済規模に依存している。経済で中国や韓国に完全に圧倒されてしまえば、今後のアジアでの位置にも大きな影響が出る」
中東 積極的関与を期待
――中国の中東への影響力について指摘しています。
「中国は西に動いている。原油など天然資源を求めて中央アジア、ペルシャ湾に向かっている。中国にはイスラム系住民が住む国境地帯がある。この地域への中国の態度は、南シナ海の領有権問題に似ている。中国はそこに政治的影響力を持ち、米国がそこに来ないことを好む。米国が中東への関心を失う一方で、中国にとって中東は戦略的な関心となってきたのだ」
――輸入原油への依存低下で米国にとって中東は重要ではないとの見方もあります。
「その議論には誇張がある。シェールガス革命があっても、米国は今後何年も原油を輸入し続ける。米国が中東原油に依存しなくなっても、原油価格は国際市場で決まるので、中東の原油生産に支障が出れば価格は上昇する。中東から原油を買わないから関係ないとはいえない」
――一般の米国民は中東への関与を減らすことを支持しているようです。
「政府の役割は世論を形作ることで、世論の陰に隠れることではない。米国民は米国の第1次大戦参加を支持していなかった。世論だけを見て行動していたら米国は戦後復興のマーシャルプランも支持しなかっただろう」
Vali R.Nasr 米ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院学部長。テヘラン生まれの中東専門家。79年のイラン革命後に米国に移住。オバマ政権初期の09〜11年に国務省顧問。52歳。
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「21世紀、米国が指導力」80%
日本経済新聞電子版の読者に、21世紀に世界で指導力を発揮すると思う国を尋ねたところ、80%が米国と答えた。「人口増加に十分対応できる広大な土地を持つ」「移民の受け入れが進んでいる」などの声があった。2位の中国は7%にとどまった。日本は5%で3位。インド、ロシアを挙げる人は少なかった。
米国の世界での発言力が今後どうなるかについては、「変わらない」が47%、「弱くなる」は44%で見方が分かれた。「強くなる」は少数派だった。
米国が世界で影響力を維持するために必要なものを聞いたところ、経済力が53%でトップ。以下、軍事力が29%、外交力が13%だった。「外交には経済力が不可欠」「軍事力の維持には多額の支出が強いられる」との理由から、経済力を選ぶ読者が多かった。
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構造変わる世界、影響力なお大きく
アフガニスタン、イラクの2つの戦争で疲弊した米国では中東など遠い地域での外交・軍事介入に消極的な世論が広がっている。財政赤字による国防費削減などで資金面の制約も生じている。世界のあらゆる問題に口をはさむ「世界の警察官」の負担は重すぎるというのが今の米国民の気分だろう。とはいえ、世界の問題の多くは現実には米国なしではなかなか解決しない。ブレマー氏が指摘するように新興国の台頭で世界の構造は大きく変わっているが、Gゼロの先の新秩序の行方はまだ見えていない。
(ワシントン支局長 藤井彰夫)
[日経新聞6月23日朝刊P.9]
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