01. 2013年6月19日 07:18:38
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「対馬は韓国のものだ」と言い出した韓国人韓国の異様な行動を岡本隆司准教授と読む(1) 2013年6月19日(水) 鈴置 高史 韓国の異様な行動が目立つ。岡本隆司・京都府立大学准教授と「華夷意識」を補助線に読み解く(司会は田中太郎)。 「対馬の即時返還」を決議 岡本隆司(おかもと・たかし) 京都府立大学文学部准教授。1965年京都市生まれ。神戸大学大学院文学研究科修士課程修了、京都大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得退学、博士(文学)。専門は近代アジア史。多言語の史料を駆使した精緻な考証で、現代の問題にもつながる新たな歴史像を解き明かす。主な著書に『近代中国と海関』(名古屋大学出版会、1999年、大平正芳記念賞受賞)、『属国と自主のあいだ』(名古屋大学出版会、2004年、サントリー学芸賞受賞)、『世界のなかの日清韓関係史』(講談社選書メチエ、2008年)、『中国「反日」の源流』(講談社選書メチエ、2011年)、『李鴻章』(岩波新書、2011年)、『ラザフォード・オルコック』(ウェッジ選書、2012年)、『近代中国史』(ちくま新書、近刊)などがある。(撮影:佐藤久) 岡本:「対馬返還論」が韓国で盛り上がっています。聞いた日本人は驚きます。議論自体は昔から韓国にあったものですが、なぜ今、突然に対馬なのか――。これを考えることで韓国人や中国人の見方・考え方を知り、日本に対する動きを予測することも可能です。
竹島だけではなく、対馬の領有権を韓国が主張する、というのですか!韓国人は本気でそんなことを言い出したのですか。マナーの悪い韓国人の観光客が押し掛けたり、土地を買いあさったりして対馬で韓国問題が起きていることは知っていましたが……。 鈴置:ソウル近郊の議政府市という自治体の議会が、今年3月22日に日本政府に対し「対馬の即時返還」を求める決議文を採択した、と韓国メディアが報じています。 4月末には大韓民国海洋連盟という組織と、釜山にある釜慶大学という大学が「対馬返還を日本に求める」目的でシンポジウムを開きました。この連盟の総裁は元・海洋水産相であり、それほど「変わった団体」というわけではありません。 韓国の新聞も昨年から「対馬領有論」を主張する軍人や小説家の意見を載せ始めています。岡本先生のご指摘のように、昔からそうした主張はありましたが、韓国メディアではほとんどとりあげられませんでした。それがここに来て、急速に目立つようになりました。 「沖縄」と同根の「対馬」 なぜ、「対馬は韓国領」ということになるのでしょうか。 岡本:要するに、朝貢という歴史上の制度が関わっています。朝貢とは、臣下が君主のところに貢ぎ物をもって挨拶に行く儀礼のことです。朝鮮王朝(李氏朝鮮)が中華王朝に朝貢をしていたのは有名です。 一方、朝鮮王朝からみますと、江戸時代まで釜山に使者を送っていた対馬が朝鮮に朝貢していた、自分たちに臣属していた、ということになります。このあたりの史実は学界では常識なのですが、普通の日本人はよく知りません。 でも、厳然として対馬はずっと日本の一部ですが……。 岡本:もちろんそうです。江戸時代には幕藩体制を構成した一藩でもありました。しかしそれは朝鮮王朝にとっては関係ないことです。自分に朝貢していた事実が重要なのです。
実は同じことがちょうど今、南方でも起きています。沖縄――昔の琉球王朝は、島津・薩摩藩に服属しながら、清朝にも朝貢していました。 最近、中国が「沖縄は中国に属していたはずなのに日本に奪われた」と言い出しています。これと、韓国人の「対馬を返せ」という要求は根っこの部分ではつながっているのです。 「竹島」へのカウンターパンチ 韓国人は本気でそんなことを考えているのでしょうか。 鈴置:仮に日韓首脳会談の席上、日本の首相が「対馬は日本の領土だ」と韓国の大統領に確認を求めたとします。韓国の大統領は「そうです」と認めるかどうか。たぶん、言を左右にして言質を与えないでしょう。 岡本:仮定の話ですが、ありえないことではないと思います。 そんな空気にあるのですか、今の韓国は。 鈴置:まさにその「空気」という表現が当たっています。まだ日本人に対し「対馬を返せ」と言ってくる韓国人は多くはありません。しかし、公の席で「対馬は日本のものだ」と語れる韓国人が減っているのも事実です。 社会の「空気」が変化しているからです。だから大統領もおいそれと「対馬は日本の領土」とは語れなくなったのです。 では、なぜ今、空気が変化したのでしょうか。 鈴置:理由は3つあります。まず、日本の竹島返還要求に対抗するためです。2012年、李明博大統領が竹島を訪問しました。これに怒った日本が、国際司法裁判所に提訴する構えを見せました。 「対馬を返せ」とカウンターパンチを繰り出せば、日本の主張を弱められる、あるいは日本の意図を挫けると韓国人は考えたのでしょう。 無茶を言えてこそ大国 もう1つは「韓国の隆盛と日本の衰退」を実感したい、という願いでしょう。韓国人は「これまでは国力が弱かったから言いたいことが言えなかった。でも、我が国は世界屈指の大国になったし、日本は落ち込む一方」と考えています。「対馬返還要求論」は「言いたいことを言える日韓関係になった」ことの象徴なのです。 しかし、いくらなんでもそんな無茶苦茶な論理を……。 鈴置:無茶苦茶だからこそいいのです。韓国・朝鮮社会では「力がある人」とは「無理難題を言える人」を意味します。無茶を通せてこそ初めて力がある人なり、国になったことを実感できるのです。 ことに今、中国が尖閣だけではなく沖縄も自分のものと言い始めた。韓国とすれば、中国を後ろ盾にして日本に無理難題を言える絶好の機会なのです。これが3つ目の理由です。 韓国の新聞には日本の新聞以上に大きく沖縄独立論や、その運動の活動ぶりが載るようになりました。「中国が今、日本を揺さぶっている。我々もこれに追従しよう」という意識からでしょう。 「中国の尻馬」と華夷意識 中国の尻馬に乗る、ということですね。 岡本:単に「追従しよう」とか「尻馬に乗る」ということにとどまらないのです。中国人と韓国人の話の持って行き方、論理の組み立て方、あるいはものの見方・考え方には実に共通点が多い。「反日」はその典型です。 あれほどの「反日」、しかもそれをイデオロギー・国是まがいにまで高めているのは、中国大陸と朝鮮半島のみです。共通点をひとことでいえば華夷意識、あるいは華夷秩序がベースになった考え方をする、ということです。 「中華思想」という言葉もありますが。 鈴置:朝鮮王朝は「小中華」を自称していました。自分は中国王朝に次いで世界の中心である、と考えたのです。 岡本:「中華思想」は使われすぎて意味が広くなってしまいましたし、「中華」だけだと一方的で誤解を招きがちですので、ここでは「華夷意識」を使っておきます。 中国人と韓国人は、自分が「中華」であって上にあり他人が下にある、という世界観を持っています。この「華夷意識」は儒教特有の階層的な世界観です。上下関係という序列でもって世界の秩序を保つとの発想です。 ランキングが大好きな韓国人 「自分が上で相手が下」という自己中心的な見方は、どの民族にもある土俗的な自尊心です。しかし、中韓の場合は儒教・朱子学でもって理論武装しました。その結果、中国人や韓国人は「自分が上で他人が下」という世界観を強烈に抱くようになったのです。 韓国紙の日本版を読むと毎日、必ずありとあらゆる世界ランキングが載っていて「韓国が日本より上か下か」分かる仕組みです。 鈴置:男性1人当たりのポルノに支払った金額の国別ランキング、なんてものまで載りますからね。ただ、英BBCの「どの国が世界に貢献しているか」という調査だけはほとんど報じられません。 2012年度調査まで日本の人気は世界1位か2位である一方、韓国は下から数えた方が早かったためです。「日本の方が倫理的に上」という評価は、彼らの華夷意識からは耐えがたいのでしょう。とにかく順位を付けて――上下を具体的にはっきりさせるのが好きです、韓国人は。 岡本:そういう序列ごのみのルーツが華夷意識であり、それを具現化するものが礼です。つまり序列・秩序の内容は頭のなかで思っているだけではダメで、礼によって現実に分かるようにしなくてはなりません。 「礼」を知らない東方の野蛮人 つまり、何らかのパフォーマンス、あるいは、文章表現による視覚的な確認が必要でして、前者の一例が手土産を持って挨拶に行く――つまり朝貢です。 後者はたとえば、朝貢を受けた側が出す「受け取り」――これが冊封です。「冊」というのは文書の意味ですが、ここでは、天子がしかじかの君主に任命してやるという辞令という意味になります。 そもそも礼というのは、多分に虚構・フィクションです。「儀礼的」という言葉もあるくらいで、われわれの日常でも頭を下げたからといって、本当に屈服・従属しているわけではありません。朝貢も冊封も実質の支配・従属を必ずしもともなわない、まさに儀礼的な関係でした。 しかし実質がともなわないからこそ、「礼」で視覚化される上下関係という建前には、きわめて敏感でした。逆にいいますと、礼を守り、その建前を守っていさえすれば、実質・本心の支配・従属をしなくとも、平和に過ごしていけたわけです。 そんな彼らにとって、東の果て、海の向こうに「度し難い存在」が1つあるのです。「中華」に朝貢にも来ないし「冊封」も欲しがらない。つまり「礼」をわきまえない野蛮な奴らがいるのです。 心の奥底に残っていた土俗的意識
さらにこの野蛮な連中は、文化はもとより力でもかなわないはずの巨大な中国に攻めて来る。倭寇や秀吉です。 一方、強大な兵力で脅されて攻められても、うわべだけの屈服すらせず全力で歯向かって来る。たとえば元寇です。中国人や韓国人にとって東のはての度し難い存在――日本は理解の外にあるわけです。 それが、20世紀に入る頃、中国人と韓国人は困惑しました。「礼」をわきまえない野蛮な日本が西欧化を通じ、圧倒的な力を持ったのです。そこでやむなく彼らは、日本が先に導入し、グローバルスタンダードでもあった「西欧化」を受け入れたのです。 中国人と韓国人は理念と現実の矛盾に100年の間、悩み続けてきました。表向きは儒教、華夷秩序を捨てました。しかし、心の奥底には土俗的な意識は残りますから、葛藤があったのです。 「対馬奪還」で歴史を取り戻す ずっと中心であった。にもかかわらず、中心ではなくなったことを自覚せねばならない――。この釈然としない心境の象徴が、たとえば中国にとっては沖縄であり、韓国にとっては対馬です。それぞれ朝貢に来ていたのに、いずれも来なくなったからです。 鈴置:非常に面白い。中国が「沖縄を返せ」というのは「尖閣」に絡めての揺さぶりであり、韓国が「対馬返還論」を唱え始めたのは「竹島」で有利な地位を得るため、と考えてきましたが、それだけではないのですね。 岡本:もちろん、鈴置さんご指摘の外交的な戦略・戦術からでもあることはまちがいありません。とくに今というタイミングはそうなのでしょう。 しかし、「失われた歴史」を取り返すために今、沖縄や対馬の領有権を主張し始めた中国人や韓国人の心の奥底にある、華夷意識という歴史的自尊心を見逃してはいけないと思います。 (明日に続く) 『中国に立ち向かう日本、つき従う韓国』好評発売中 韓国はなぜ、中国と一緒になって日本を叩くのか? 米国から離れて中国ににじりよるのか? 朝鮮半島を軸に東アジアの秩序を知り、 ガラリと変わる勢力図を読み切る!! 「早読み 深読み 朝鮮半島」の連載を大幅に加筆・修正して最新情報を1冊に。
早読み 深読み 朝鮮半島 朝鮮半島情勢を軸に、アジアのこれからを読み解いていくコラム。著者は日本経済新聞の編集委員。朝鮮半島の将来を予測したシナリオ的小説『朝鮮半島201Z年』を刊行している。その中で登場人物に「しかし今、韓国研究は面白いでしょう。中国が軸となってモノゴトが動くようになったので、皆、中国をカバーしたがる。だけど、日本の風上にある韓国を観察することで“中国台風”の進路や強さ、被害をいち早く予想できる」と語らせている。 http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20130617/249773/?ST=print |