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ドイツ仕様の「ユーロ・ホーク」(Euro Hawk) 〔PHOTO〕gettyimages
飛行許可のおりない無人偵察機に大枚をはたいたドイツ国防省のスキャンダル
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/36120
2013年06月14日(金) 川口マーン惠美 :現代ビジネス
今年になって明るみに出た無人偵察機の購入をめぐるスキャンダルが、まことに喧しい。国防大臣デ・メジエールの首が飛びそうな勢いだ。
ドイツでは9月に総選挙があるので、野党はここぞとばかりに大臣攻撃に励んでいるが、野党の雄SPDの攻勢がところどころ緩むのは、おそらくこのプロジェクトの言い出しっぺがSPD自身であるからだろう。気を付けないと、火の粉が飛んでくる恐れがある。
■すべては公開の入札なしに進んだ
順を追っていく。
2001年、当時、国防大臣であったSPDのルドルフ・シャーピングが、無人偵察機の開発を提唱した。高度20キロを飛び、地上の無線やレーダー通信をキャッチする。
機体はアメリカのノースロップ・グラマン(Northrop Grumman)社に、そして、諜報テクニックはEADS(European Aeronautic Defence and Space)社に発注という案だった。ノースロップ・グラマン社というのは、世界4番目の軍需メーカー。EADS社は、ヨーロッパの航空・宇宙テクニックのコンツェルンで、ボーイング社に次ぐ、世界第2の規模。航空機メーカー、エアバスの親会社でもある。
2003年、シャーピングの後を継いだSPDのペーター・シュトゥルック大臣のとき、ノースロップ・グラマン社の無人偵察機、グローバル・ホーク(Global Hawk)が、試験飛行で初めてドイツへ飛んできた。このグローバル・ホークをさらに改良し、ドイツ仕様の「ユーロ・ホーク」(Euro Hawk)を作ろうという案が固まり始めた。国防省も、もちろん乗り気。
2004年、国防省は前述の2社に、「ユーロ・ホーク」の開発、製造、納品の見積もりを依頼した。ただ、このときすでにEADS社は、同プロジェクトの問題点を国防省に対して指摘していたという。その内容については後述する。
2005年11月、前述の2社が「ユーロ・ホーク有限会社」を設立し、12月に最初の見積もりが提出された。この時、政権はCDUとSPDの大連立に変わっている。国防大臣は、CDUのフランツ・ヨゼフ・ユング。すべては、公開の入札なしに進んだ。
2007年、国防省とユーロ・ホーク有限会社は、無人偵察機「ユーロ・ホーク」プロジェクトを契約。発注は5機で、合計金額は12億ユーロ。
■正規の飛行許可取得にはさらに6億ユーロが必要
さて、今、大騒ぎになっているユーロ・ホーク問題というのは、飛行許可に関するものだ。ニュース週刊誌『シュピーゲル』によれば、すでに2009年夏、国防軍の一部の関係者は、ユーロ・ホークはヨーロッパでの飛行許可が取れない恐れがあると警告していたという。
まず第一に、飛行許可の申請に必要な膨大な書類を、メーカーであるノースロップ・グラマン社が出し渋っていたこと。おそらく軍事上の機密が漏れるのを嫌っていたのだろう。そのうえユーロ・ホークには、ヨーロッパの規制に見合う衝突防止装置が装備されていなかった。このままでヨーロッパ上空の飛行許可が下りることは絶対に考えられない。つまり、すでにこの時点で、飛行許可という根本的な問題は認識されていたわけだ。
この秋、大連立は終わり、CDU(+CSU+FDP)の政権となり、国防大臣はカール=テオドール・ツー・グッテンベルクに変わった。そして、彼の主導で、ユーロ・ホークはとりあえず、仮の飛行許可の取得に向かった。
2011年、ユーロ・ホークの試作機が完成し、22時間かけてドイツへ飛んできた。しかし、あとで報道されたところによると、同機はアメリカの上空ではなく、カナダの上空を飛んで大西洋に抜けた。アメリカ当局が、ユーロ・ホークのアメリカ上空の飛行を認めなかったからだという。それだけではない。大西洋上空では、信号が2度途切れて、制御できなくなり、既定のコースからはずれていたこともわかった。
それ以来、ユーロ・ホークは南ドイツに駐機しているが、仮の飛行許可を有しているのみだ。つまり、一定の封鎖された地域以外では離陸も着陸も許されない。また、1度の飛行は最高800時間までしか認められていない。国防軍は当初、1回で9000時間飛ばすつもりでいたのにだ。
正規の飛行許可を取得するためには、まだまだ多くのハードルがあり、それをすべて解決するためには(仮に、解決できたとして)、さらに5〜6億ユーロが掛かることも判明した。すでにノースロップ・グラマン社とEADS社に支払われた金額は、5億を超えていた。
しかし、警告にもかかわらず、なぜか、プロジェクトにはブレーキが掛からなかった。さらに不思議なことに、2011年にツー・グッテンベルクの後を継いだ国防大臣デ・メジエールは、それらの問題についての報告さえ受けていなかったと言われている。
■経費の負担だけ押し付けられているドイツ国民
今年、ユーロ・ホークは初めて6時間、ドイツの上空を飛行した。そして5月になって、デ・メジエール大臣は突然、ユーロ・ホークのプロジェクトの中止を発表した。今まで使った莫大なお金は、露と消えてしまうことになる。当然のことながら、「問題をもっと早くに察知していれば、被害額はここまで膨らまなかったのに、国防省は何をしていたのだ!?」という非難が巻き起こった。
窮地に陥ったデ・メジエール大臣は、これまでの経過についての情報すべてを連邦会計検査院に提出した。それにより、プロジェクト進行中の数々の壊滅的な失策が白日の下に晒され、たちまち罪の擦り付け合いが始まった。
ノースロップ・グラマン社とEADS社は、「メディアの報道は正しくない。ユーロ・ホーク機の完ぺきな出来は試験飛行で証明されている」と主張している。インタビューを読むと、性能も飛行許可も何の問題もない、悪いのは誰かほかの人だと言わんがばかりの勢いだ。
一方、連邦会計検査院は、国防省がこれまで情報を出し渋っていたことを非難。なるほど、ユーロ・ホークのプロジェクトが暗礁に乗り上げる可能性を知りながら、それを国防省が長いあいだ無視し続けていたことは、事実のようだ。
デ・メジエール大臣は、自分がこれらの報告を受けたのは、大臣就任の1年後だったと主張している。これが事実だとすれば、もちろん彼の責任はかなり軽減されるが、彼は国防省の最高責任者である。考えようによれば、その最高責任者に大切な事柄が上がってこないなら、それこそが問題ではないか。国防省は一種の無法地帯になっているともとれる。
そのうち、EADS社の開発した傍聴システムを、ユーロ・ホークではなく、違う飛行機に搭載するという案が出はじめた。奮い立ったのは、EADSの子会社のCassidianAir Systems社らしい。こうなってくると、結局すべては利権争いのようにも思える。バカを見ているのは、何も知らされず、経費の負担だけ押し付けられている国民だ。
ドイツ国民は、今回の一件は、アメリカ人が何食わぬ顔で、ヨーロッパで飛行許可を取れないことがわかっているポンコツ商品を売りつけた、と感じて怒っている。そして、ドイツの税金を湯水のように無駄にした、国防省の無責任ぶりに対しても怒っている。
たっぷり儲けたのはアメリカの兵器産業だが、国防省もグルになっているのだろうと疑ってもいる。そして、国民のその不信感を野党が利用し、総選挙前の攻撃材料の一つにしているので、ユーロ・ホーク問題は、現在、めらめらと燃え盛っている。
■戦争のリモコン化はどんどん進む
一方、ドイツのユーロ・ホーク断念を受け、NATOは違った意味で慌てている。というのもNATOは、加盟国が共同でグローバル・ホーク(ユーロ・ホークの前身)を5機注文しているからだ。納期は2018年。
グローバル・ホークは、すでにアメリカ軍によりアフガニスタンやアフリカに投入されているとはいえ、いざヨーロッパに持ってくるとなると、ユーロ・ホークのように法制上の問題が出てくる可能性が、無いわけではない。飛行許可は大丈夫か? ユーロ・ホークの二の舞になってしまっては大変だと、確認を急いでいるらしい。
さらにドイツ国民が心配しているのは、無人偵察機の導入計画が、将来の無人戦闘機への前奏曲になるのではないかということだ。それどころか、現在、すでに各国が、ロボット兵士の開発に躍起になっている。ロボットが地上戦で戦ってくれるなら、それは夢のようなことだ、貴重な兵隊の命を危険に晒さずに済むと、私が将軍でも、そう思うだろう。
ドイツがユーロ・ホークで躓こうが、どうしようがお構いなしに、戦争のリモコン化、殺人兵器の無人化はどんどん進んでいく。未来戦争では、安全なところにいる人が、モニターを見ながらボタンを押せば、何千キロの彼方で多くの敵が死ぬわけだ。つまり、そういう技術を持てる国だけが、戦争に勝てるようになるのだろう。
冷戦後、各国が核廃絶を叫び、あたかも平和を希求しているような雰囲気を醸し出していたのは、何だったのだろう。その後の技術の進歩は、自分たちが安全地帯にいながら人を殺せる方法を模索するために費やされている。
というわけで、ドイツのユーロ・ホークの夢は潰えたが、軍拡は止まらない。兵器産業は、世界の紛争地が増えることを願い、その期待は現在まったく裏切られていない。ドイツも、武器の輸出では、アメリカとロシアに次いで3番目の軍需大国だ。そんなことを考えていると、なんだか、そろそろ地球も終わりだという気分になる。
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